61.全国大会、缶詰 1
シーグラス州は州としてはあまり大きくない。というより片田舎の州と言うイメージはある。ゴーコン会場の施設もハイランド州の物と比べてもそこまで変わりはない。缶詰で人数が解らないというのもありベッドの宿泊施設というのを期待するのは酷なのかもしれないが、やはり同じ様な雑魚部屋になる。
ただ、ハイランド州の施設と比べ格段に魅力的なのは、窓からの景色だ。
「おい、ヴィル海だぞ! そんなどこにでも売ってるようなアイスばかり食ってないでこの大海原の景色を堪能しようぜ!」
「マルク先輩。良いですか? どこにでも売っているということは、万人に愛される味って事なんですよ。だけどコレは……シーグラス州限定の激アツご当地味なんですよ。ハイランド州じゃ見たこともない」
「そ、そうか……」
限定の味かあ。俺も後で少し売店を見てみようかな。
ゴーコンの施設は各州に設けられており、それをゴーコンの実行委員会で管理している。かなり大きい組織なのは分かるが、いかんせん地方の施設は若干古い。歴史ある組織なだけに建物自体の建設も割と昔なのだろう。
館内放送で、小ホールに集合するように言われる。俺たちはそのまま小ホールに向かい、入口前で社長とキーラと合流して中に入っていく。
「ねえねえ、今ジュール君が通ったの! 超かっこよかった~。色彩兼備とはあの事ね」
「……才色兼備じゃない?」
「良いのよ! どっちだって」
そこに社長がチクリと小言を言う。
「それで、この子。頑張ってください! 応援しています! なんて言うのよ。もしかしたら戦うかもしれない相手に……」
「へへへ……」
「おーい」
キーラは悪びれる感じもなく、テヘヘと下を出している。……まあ、この子はこんな感じで良いんだろうなって少し思うが。
という事はもう既に賢者はホールの中に入っているようだ。キーラの話だと普通に仲間と談笑しながら歩いていたらしい。なんだかんだ言って俺も気になる。皆でホールの中に入りながらチラチラとあたりを見渡すが、良くわからない。
事前説明会は開会式の予行も兼ねているらしく、床に各学院の名前が貼られておりそこに一列に並んでいく。ほとんどの学院は10人揃えて来ているのだろう、うちのように少し少なめの学院はあまりないようだ。
今日は小ホールを使っているが、開会式は大ホールで行う。当日は2階の観客席にプラスして、ホールの周りに席が設置され一般客も来ているらしい。
ケーニヒを先頭に学年順に並んでいく。なんとなく俺は一番うしろに立つ……が、どうもうちの班はだらしなく感じてしまう。ギャル風でスカートも短くしているキーラをはじめ、短パンを履いて裸足にビーチサンダルというマルク、シャツの第二ボタンまで外しズボンからだらしなく出しているホイス。しかも中に真っ赤なTシャツとか着てるし。ヴィルだって、ここに来る途中で売店でお菓子を補充してビニール袋を下げている……コンテスト前でキリリとした空気の中、うちの学院は明らかに浮いている気がする。
選手たちが整列し終わると、前のステージの中央にあるマイクの前に1人の男性が立つ。男はニコニコとした笑顔で選手たちを見渡す。
「――――」
ん? なんとなく「こんにちは!」と言っているのは分かるのだがマイクのスイッチが入っていない。会場も少しざわつくが男は全く気がついていないのか更に言葉を続けている……「声が小さいなあ、もっと元気よく。こんにちは!」って言っているのが何となく分かる。前の方のちゃんと声が聞こえている生徒たちはちゃんと「こんにちは」と返していたが。俺のように後ろにいると反応に困るだろう。
すぐにスタッフが慌てたように近づいてきて、マイクのスイッチを入れる。マイクの音が入っていないのに気がついた男性は、恥ずかしそうに「ああ……マイク入ってなかったみたいだね」とつぶやく。ちょっと勢いよく行った分、空振りのダメージが強そうだ。
……
……
実行委員の男性が気を取り直して、ゴーコンの説明をするが。基本的には州大会とはあまり変わらない。ただ、缶詰の日程が1日少ない分、出来ることはそこまで無さそうな感じだ。
「今年もスペシャルゲストを呼んでいるからね。楽しみにしていてね!」
そう締めくくり、男は壇上から降りる。
帰りにスタッフが配布する白補助器と書き込む道具などを受け取り、俺たちは一度部屋に帰る。
「今年のゲストって誰だ? 毎年ゴーコン好きのタレントが来ているけど…… レンレンとか来てくれないかなあ~」
夢見る乙女のような顔でマルクが呟く。そのレンレンと言うのが誰か解らないが、確かに毎年全国放送をするのもあり、解説席などに様々なタレントを呼んで放送を彩っている。おそらく野外の不可視フィールドじゃない別の場所で放送席を設けているのだろうけど……正直流行りのタレントとかまったく知らないからなあ。どうでもいいや。
今度は男子部屋に社長とキーラもやってきて、食事の時間まで術式のおさらいなどして待つ。流石に食事前なのでヴィルもおやつは食べてない。だが、シーグラス州の郷土料理等を楽しみにしているようで、ニコニコと社長に何が出るんだろうと話していた。
やがて食事の時間になり、皆で食堂に行くが、食堂のデザインも州大会の時とあまり代わり映えはしない。広いホールにテーブルが何列も並び、隅にオープンキッチンがあり長いカウンターとその奥に広い厨房がある感じだ。
学院毎にテーブルが設定されているのも同じで、食堂の入り口に各学院の場所が書かれた紙が貼られていた。料理は大皿に盛られていてその周りに取皿がある。こっちの地方の料理なのだろうか、少し見慣れない物もある。ちょっと美味しそうだ。
「え~皆さんお席に着いたでしょうか。シーグラス州実行委員のマッド・ローズと申します。今日は遠くから来た学院も多数居ます。長旅の後に説明会も受けていただき、だいぶお疲れでしょう。今晩は州の地産の食材でテーブルを埋めさせていただきました。コンテストで観光などはあまり考えられないとは思いますが、食事だけでもシーグラス州の雰囲気を味わって頂けたらと思います――」
皆が料理を目の前にし、ヨダレを垂らさんとする中、実行委員の演説が続く。ヴィルも死んだ目で早く終われと呪でも飛ばしそうな勢いだ。
ようやく演説が終わり、俺達1年が先輩たちの皿に盛り付けを行う。ハイランド州ではあまり見かけない魚介料理の数々を俺達は堪能した。




