55.第5世代
次の日。班室に皆が集まると再び視聴覚室に向かうという。昨日の先輩会議とやらで何か方針が変わったのだろうか……。
「全国大会でのウチの班の方向として、一つ聞きたいことがあるのだけど。リュートは第5世代を使えるのか?」
「え? ……やったことは無いですが……」
「ふむ。無いけど、出来ると言う感じか?」
「ど、どうでしょう……え? でもたとえ僕が第5世代を使えたとしても補助士が揃ってないじゃないですか」
「それについて昨日相談したんだが、もし第5世代をリュートが使えるのなら、マルクとヴィルはサポートに回ろうという話になったんだ」
「で、でもそれって……」
「ふふふ。リュートが先輩の事を思ってくれているのは分かるけどね。せっかく全国大会に出るんだ。うちの班の最高のゴーレムで戦いたいと言うのが皆の結論だ」
うう。でも第5世代を使うにはそれ以外にも問題はある。話を聞いていたホイスが手を挙げる。
「せやけど、二人減った補助士の分はどうするんです?」
「州大会でも、社長が2行担当していたが、今回はホイスにも2行担当してもらおうかと思っている。あと、第5世代に成ればアンドリュー次式があまり意味なくなるのでキーラにはマルクかヴィルが担当していた補助式をやってもらおうと思っている」
「あ、あたしが? 覚えられますか?」
「うん。キーラはあの期間でアンドリュー次式を覚えたくらいだ。イケルと思っているよ。一応ヴィルの補助式の方が簡単なんだけど、ホイスが2行担当しないといけないからそっちはホイスに任せたほうが良いと思って」
「俺は、なんだってやります」
確かに話を聞いていると、なんとかなりそうな感じはするんだが……ケーニヒの実力なら2行行けると思うんだけど、病気的に難しいのだろうか……。
でも、それ以外にも問題はあるんだよな。
「すいません。補助式は行けるとして、練習用の召喚石はどうするんですか? 第5世代対応だとそんなにポンポンと買えるものじゃないですよね?」
「そこは、学院側から補助をもらうつもりだ。後はOB会から寄付品の希望を打診されたので、第5世代対応の召喚石を揃えられるだけ揃えてほしいと頼んだ」
……そうか。全国大会に出場と成れば学院からもある程度は出してもらえるのか。OB会だってオヤジの伝で安めに買えるかもしれない。
「とりあえず、今ある班費で第5世代対応の召喚石を購入してきた。3つしか買えなかったけどね。まずはリュートが第5世代を召喚できるかを試したいんだが、すぐに行けるか? リュート」
「術式は頭の中に入っています。イジってないスタンダードなものですが」
「そうか……じゃあ、後は州大会用の術式のままだけど、以前刻んだ術式がそのままの補助器があるからそれを同時に動かせるかも、みさせてもらいたい」
「はい……」
急な話だが、良く考えればずっとやってみたかった第5世代を試せるのか。なんだかんだ言ってウキウキしている自分に気がつく。そんな俺の内心を察してか、ケーニヒが俺の顔をみてニヤリと笑う。
「まあ、物は試しだ。気楽にやってみよう」
第2体育館に行くと、今日も数人の飛行班の連中が練習していた。班長等の姿は見えないのでレギュラーメンバーじゃないのだろうが、先日も揉めたあいつも居た。俺の顔をすごい顔で睨みつけてきていた。
それでも3年の先輩たちと一緒にいると何事もなく、飛行班の横を素通りし、奥へ向かう。
「リュートのタイミングで良いからな」
召喚石を置いたケーニヒが言う。そして社長とホイスに乗せる補助式の指示をする。キーラは練習も兼ねてアンドリュー次式を乗せるように言う。
ふう。第5世代か。頭の中にはきっちりと入っている。俺は目を閉じて一度頭の中で術式を確認していく。第4世代から第5世代に上がるとその術式文字数は一気に増える。魔力の温存やタイムトライアル的な競技の事を考えれば出来るだけ早い構築をする必要がある。だが今はスピードより確実性だな。
――よし。
いつもの練習用の召喚石より大きめな召喚石が目の前にあった。思えば大会で使った召喚石も第5世代に対応できるものだったのだろう。ほぼ同じ大きさだ。
召喚石に向かって手をのばす。
スー。ハー。スー。ハー。
深く深呼吸をして気持ちを沈ませる。それと同時に術式の構築を始める。流れる魔力も大きくなるため、魔法陣が可視化する前から召喚石は仄かに光を発し、俺の術式を受け入れ始める。
「お、おおお」
見ていた先輩たちの声が漏れる。そして召喚石が一気に複雑な魔法陣を可視化させる。
それに合わせて補助に付く4人が補助術式を始動し始める。俺はそのまま白補助器への魔力の供給を始めた。補助器からの術式の転写の抵抗感が、第4世代のそれとは違う。皆も同じなのだろう、補助式を刻む班員達の顔も少し力が入っている。
補助式の転写を確認し、召喚式をフィニッシュさせる。
「行けっ!」
思わず声が漏れる中。第5世代のゴーレムが魔法陣から召喚されてきた。
行けた……初めての召喚だが問題なかった。
第4世代のそれと比べ明らかに存在感の増したゴーレムが見事に起動していた。何ていうのだろう、まとってる魔力の密度の様なものが違うのだろうか、近くにいるだけでビンビンと存在感を感じられる。
「……やったな」
「はい」
ケーニヒが嬉しそうに俺に向けて親指を立てる。ゴーレムは特に指示を出すモニター等を用意してなかったため、ただ突っ立っているだけではあるのだが。完璧に召喚できた感覚もある。そうなると、後はホイスとキーラが補助式の訓練を頑張らないといけないな。
「第5世代の補助式の転写ってこんな抵抗強いんか?」
ホイスが俺に聞くが、そこらへんはどうなんだろう。ケーニヒが答える。
「召喚式の魔力濃度が上がる分、補助式にかかる魔力が引っかかるようになるんだよ。だから僕が2行やるのは厳しいんだ。ホイス。この魔圧で2行いけそうか?」
「任せて下さいな。1ヶ月できっちり仕上げますわ」
「……うそだろ? あの魔法陣、もしかして第5世代か?」
「まさか……あいつ1年だろ? ホントかよ」
気がつくと、俺達の召喚を見ていたらしい飛行班の班員たちが驚きの顔でこちらを見ていた。あの嫌なやつも口をあんぐりと開けて見ている。
俺は、ちょっぴりしてやった気分に浸る。
「よし、じゃあ、この方向で全国大会まで皆頑張ろう」
そして俺達の方向性が決まった。




