54.先輩会議、後輩会議。
その後、エマさんは当たり障りのない質問をして、俺がそれに答えていく。
「うん。以上で質問は終わりです。大会前の忙しい時期にごめんなさいね」
「いえ。大丈夫です」
「そう言えば、今回のゴーコンで賢者が出るって聞いたんやが、全国大会へ出てくるんですか?」
質問が終わった段階で、ホイスがゴーレムショップのオヤジから聞いた話を質問する。そう言えばそうだ。ゴーコン雑誌の記者ならそういうのは詳しいかもしれない。
聞かれたエマさんは、すぐに答えてくれる。
「ええ。第5世代を召喚してのぶっちぎりの優勝だったわ。もし、皆が優勝を狙うなら一番の壁になるのがジュール君だと思うわ」
「マジか……第5世代か……」
ホイスは呟きながらチラッと俺の方を見る。
「リュート。お前も第5世代やったらええで」
「え? ちょっとホイス何言ってるんだよ!」
第5世代になると、補助士にも召喚スキルが必要になる。スキルのないマルクとヴィルが補助士として立ち会えなく成れば、補助式の数も厳しくなるし、先輩がチームから弾かれる事になる。とてもじゃないが使えるわけはない。
「リュート君は第5世代も出来るの? でも……そうね初等院の4年生で第3世代を召喚していたあなたなら……でも……」
それを聞いてエマさんが反応する。「でも」と言いかけたのはおそらく補助士の人員の問題を考慮してだろう。
「ごめんなさい。エマさん。そこは僕らの大会の戦略の部分なので記事にしないでくださいね」
ケーニヒがその話はここまで、とばかりに話を中断させる。
「そうね。でも。皆のやる気は感じられたわ。いいチームね。応援しているから」
「はい。ありがとうございます」
「こういうのは本当はダメなんだけど。ゴーコンをずっと見てきた私達としては、賢者なんかより、ゴーレム召喚師に頑張ってほしいなって気持ちはあるのよ」
「ははは。そうですね。がんばります」
そうして。取材を終えると、エマさんは再度「頑張ってね」と言いながら班室から出ていった。
……。
「さて……。今日は時間が中途半端だけど。1年生は帰っていいよ。ちょっと今後の方針について、先輩会議を行おうかなと思ってね」
「先輩会議ですか?」
「まあ、人数がいれば3年だけでやってたんだけどね。僕とマルクしか居ないから2年生にも参加してもらおうかなと」
「はあ……」
「まあ、そういうことだから。明日からまた全国大会に向けてきっちりやるからね。よく寝てくれ」
そう言われて、俺達1年3人は班室から追い出される。まあ、ゴレ班の風習なら仕方ないけど。それに取材で結構時間を食ったので、もう1時間もせずに班活の時間が終わる。
「じゃあさ、3人でご飯食べてかない?」
「ん? どこでや?」
「商店街のファミレスとかで、あたしたちも後輩会議しようぜ~」
「まあ、ええけどな。リュートはいけるか?」
「ああ、親に夕食要らないってLINK送っておくよ」
ファミレスと言いつつ、駅前の商店街に入ってるハンバーガーチェーンの店に入る。ファミレスへ向かう途中に季節限定のハンバーガーの幟が立っているのを見てキーラがこれ食べたいと言い張ったのだが。ハンバーガー嫌いっていう学生なんて聞いたこと無い。二つ返事で俺とホイスもついて中へ入っていく。
「欲張りチーズバーガーの納得セットですね。お飲み物をお選び下さい」
「えーと。Dr.ジンジャーで」
注文を終えると、一人一人トレーを持ち2階に上がっていき、適当なテーブルで座って食べ始める。
「でさ。リュート君のお父さんって有名なの? 皆知ってたみたいだけど」
「マジかよ。キーラ、カーティス博士知らんのか? こないだ第8世代の発表しておったやんけ」
「え? ああ~。確かそんなニュースやってたかも。へえ~。じゃあリュート君は血統証付きのゴーレムマニアなんだね」
「マニアって……まあ。マニアだけどさ」
キーラの疑問がクリアになると、今度は先輩会議って何を話しているんだろうと言う流れになる。ホイスは「俺とリュートのどっちを将来の班長にするか悩んでるんやないか」なんておかしな事を言い始めていたが。
「やっぱ、賢者の話かな?」
「ああ~。あれはヤバいな。少し調べたが。どの属性の魔法を使わせても超一流らしいやん。しらんけど」
「ジュール君、カッコいいよね~」
「お、珍しくキーラが知ってたんな」
「なにそれっ。珍しく、って。ゴーレムショップのおじさんの話聞いてさ、なんとなくテレスペースで調べたんだよ。そしたらすんごいイケメン」
「ははは」
そう言えばこういやって3人で食事をしたりとかは無かったな。ゴレ班の1年はこの3人しか居ないんだから仲良くはして行きたいしな。
後輩会議とは言いながら、基本単なる雑談だ。俺たちはホイスのブローヴァ時代の話を2人で聞きまくる。向こうの友達で今回のゴーコンで全国大会に出てくるやつは居るのか、など。
中等院時代に一緒にレギュラーをやっていた友達が、ブローヴァの強豪の高等院に何人か入り、全国大会を決めたらしいが、うちの学院の様に1年の時からレギュラーで。と言う同級生は居ないらしい。大会のときには現地で会う約束もしているという。
「で、ホイスは中等院の部では全国大会は出れなかったの?」
「う……まあ、ほら。ブローヴァはレベルが高いんやで。首都の次に人口多いんやし。最後は勝ちきれんかったんや。せやから。今回の出場はちょっと信じられん気もするんやけど。嬉しかったんやで」
「まあ、全国には賢者が居るからなあ。全国制覇は厳しそうだけど」
「ん? そういや。賢者は第5世代使うんやろ? お前も使ったらええがな」
「だって、マルク先輩もヴィル先輩もスキル無いでしょ?」
「あ~そうやった、スキルが必要やったな。忘れてたわ。まあ先輩たちにそこで見てて下さいなんて言えんわな」
キーラは第5世代についても殆ど知らないのだろう。ポテトをパクパクと食べながら首を傾げてる。
「もしかして第5世代って補助式にもスキル必要なの?」
「そうなんや。だから賢者の居るところみたく層が厚い所やないと厳しいわな。まあウチみたいに四人しか居ないチームだと、補助士の何人かは2行を担当することになるわな」
「あたしは今まで通りアンドリュー次式使えば良いんでしょ?」
「アンドリュー次式は元々、第3世代向けのブースト術式やからな。第4世代もある程度ブーストするが、第5世代になると殆ど意味なくなるんや。せやからキーラも他の補助式覚えんとな」
「えー。そんなんなら第4世代で良いね」
「まあ、うちの班はそうするんやないかな」
まあ、キーラもせっかくアンドリュー次式が形になってきたんだ。いきなり次の補助式覚えて、なんて言われてもつまんないんだろうな。
「あ、もしかしてそういう会議してるのかな? 先輩たち」
「あー。もしかしたらそうかもしれんな」
いずれにしても俺たちは先輩たちの方針に従う感じなんだろうし。




