52.放課後デート
飛行班は地方予選後の今週は2.3.4曜日と三日間の休みをもらえているらしい。一ヶ月後には同じ様に全国大会があるため、レギュラー有志は班活に出ているらしいが。LINKでパメラとやり取りをしていると、明日ゴレ班も休みになるということで帰りに一緒に駅前のパフェを食べに行こうと誘われた。
朝、学院に行くがまだ垂れ幕は無い。しかしゴレ班が全国大会へ出場したという情報は少し出始めているようで、あまり話したことのないクラスメイトからも声をかけられたりした。うちの学院じゃ弱小のイメージが有ったようだが、ゴーコン自体は国に昔から認知され、視聴率も高いイベントだ。その全国大会へクラスメイトが出場すると成れば気になるものだろう。
宝くじが当たると親戚が増えるとか言うのと似ているのかもしれない。特に飛行班の様に1年がレギュラーになるなんて事が無い班と違って、俺は実際召喚師として出場しての優勝だ。人見知りが強めの俺はかなりタジタジの状態で応じる感じになってしまう。
凄い凄いと言われれば嬉しいのであるが、ストレスもかなりのものだ。
それでも久しぶりのパメラとのプチデートにウキウキしながら一日を過ごした。そして放課後、待ち合わせ場所の駅前の本屋へ向かう。なんとなく学校で待ち合わせて一緒に店まで行くと色々な奴らに見られて面倒くさい気がして俺が提案したんだが……。パメラもそれで了承してくれた。
それにしても学校帰りはお互い制服なので何を着ていくなどと悩まなくて済むのがたすかる。本屋に行くと、まだパメラの姿が見えない。おれはパメラが来るまでゴーコン雑誌を手に取り中を覗いて時間をつぶすことにした。
……
まだ地方予選が終わったばかりなので、全国大会の情報が載る雑誌などは無かったが、今年の注目チーム等が紹介されているものは有った。こんな雑誌もあるならちゃんと見ておいても良かったかもしれない。
――これか。
『ブラッシュ国立高等院。国のトップレベルの頭脳を育成する学院にて。二年生の「賢者」ジュール・オーギュストがいよいよ召喚師として出場予定。世界から注目される天才少年が全国制覇に向けて始動。今年のゴーコンの注目株だ』
全国制覇に向けて始動か……。今回のゴーコンのモニター問題。各地で起こっているとしたら、意外とコケてたりするのかもしれないな。なんとなく召喚師の適性を持つものとしては、賢者と言うよそ者にゴーコンが荒らされるような気もしてしまい、こいつには負けたくないと思ってしまう。
「ごめん。おまたせっ!」
もう地方予選は終わっているが、その他注目の学院等が載っていたのでちゃんと読もうとレジで会計をしているとパメラがやってきた。
「ううん。そんな待ってないよ」
「ありがとう。ちょっと先輩に声を掛けられちゃってね」
「飛行班も休みだもんね」
会計を済ますと、店を出て以前にも行ったパフェの店に向かう。パメラに何の本を買ったの? と尋ねられ、ゴーコン雑誌を買った話をする。
「いよいよ次は全国大会だものね。どんなチームが出てくるかさっそくリサーチね」
「ははは、大会前に出た雑誌だから注目の学院が載っているけど、実際地方大会を勝ち上がれたかは分からないんだよ」
そんな話をしていた時、前からあまり会いたくなかった男が歩いてくるのに気がつく。
向こうもパメラの顔を見て「おっ」と一瞬ニヤけ顔を見せるが、隣の俺を見るととたんに不機嫌な顔に成る。
「ん? 友達と用事があるって言ってたが……友達ってそいつかよ」
いつもゴレ班に嫌がらせをしてくる飛行班のあいつだった。それにしても友達と用事? そうか。先輩に声を掛けられたってこいつの事か。
「はい。リュート君と約束をしていたので……」
「おいおい。そいつはゴレ班だろ? マジかよ」
そいつは胡散臭そうに俺の方を見る。ほんとに性格の悪そうな顔をしている。だけど、俺は何も言い返すことが出来ない。パメラの先輩なだけに無視していくわけにもいかないし、どうしようもない気分に陥る。
「どの班でも友達は友達ですっ!」
「先輩の誘いを断るほどの相手かよっ。ゴレ班なんて飛行班に入れないカスが集まるような班だぞ?」
「そんなっ! 言い過ぎです。それにこないだの州大会だって優勝したんですよ!」
どうして良いか解らない俺とは対称的に、パメラは果敢に先輩の暴言に立ち向かってくれる。俺は思わずジーンと感動するとともにそれじゃいけないと更に焦りを募らせる。
「す、すいません。ぼ、僕ら予定があるので、し、失礼します」
「あ? ぼ、ぼ、僕ら?……何だそれ。はっ。聞いてるぞ。運営のミスで強豪校が一回戦で脱落しまくったらしいじゃねえか。たまたま優勝したくらいで意気がるんじゃねえよ」
「ちょっ! たまたまってなんですかっ!」
「おい、1年が口答えしてるんじゃねえよっ!」
「くっ」
駄目だ……超嫌な奴だ。俺はこいつの勢いに何も言えなくなってしまう。
ぎゅっ。
その時、パメラが自分の腕を俺の腕に絡ませぎゅっと掴む。
「先輩。あまり彼をいじめないで下さい」
そいつはギョッと俺達の絡んだ腕を見て頬をピクピクと引きつらせる。
「か、彼だあ?」
「はい。いくら先輩でも、それは許せません!」
パメラは怒ったような顔で、キッとそいつの目を見つめる。奴は……口をパクパクとさせ、言葉をなくしていた。
「それでは失礼します」
パメラはそのまま、俺の腕を引っ張るように、その場から立ち去る。俺は、ぐっと絡んだ腕と押し付けられた胸の感触に朦朧としながらそのままパメラと歩き続けた。
……。
店の前まで来ると、パメラはチラッと後ろを確認して絡めていた腕を解く。
「ごめんね、リュート君」
「あ……いや。なんていうか……幸せでした」
「え?」
「あ、いや。なんでもないよ。うん。じゃあ、気を取り直してパフェ食べようか」
「うん」
店に入り、2人で向かい合ってパフェを食べながら。少しだけ気まずい空気が漂いながらも、俺は幸せを噛み締めていた。
そして鳥ゴーレムコンテストの話を聞いたり、ゴーコンの話を俺がしたりして、パメラの電車の時間に合わせて帰るまで2人で会話を楽しんだ。




