51.コンテストを終えて
夕方には学院に到着して、皆各々自宅へ帰っていく。缶詰中に着ていた服も帰りは持ち帰らなければならないため、皆なかなかの大荷物だ。それでも、優勝でテンションが上った気分の中、まったく苦にしないで家まで帰宅する。
「おかえりなさい。で、どうだったの? 端末あるのになんで連絡くれないの?」
帰宅すると母親の質問攻めに合う。優勝したことを継げると「やるじゃない」と上機嫌に笑顔を見せる。やはり班活に入ってよかったな。
しばらく泊まりで家に居なかった分、今日はいつもよりちょっと豪華な夕食が出てきた。
2曜日になり、いつものようにMボードに乗って学院に向かう。正門をくぐると少しザワザワと人があつまり院舎にデカデカと垂れ幕が2本下がっているのを見ている生徒たちが居た。
――お、垂れ幕だ。
ゴレ班の優勝が学院からも祝われているのかと、垂れ幕に目をやる。
……あれ?
『飛行班 全国大会出場おめでとう!』
『放送班 全国大会出場おめでとう!』
うん……どこを見渡してもゴレ班の優勝を祝う垂れ幕が見当たらない。ていうか、放送班って何を競うんだ? 俺は戸惑いながら昇降口に入っていった。
教室に入ると、シュウや、他の飛行班の同級生たちがクラスメイトたちに囲まれていた。それを横目に自分の席につくと、PJが寄ってきた。
「おつかれさん。ゴーコンどうだった?」
「ん? 優勝したよ」
「そうか、まあまだリュートは1年だからな来年も再来年も……へ?」
「ひっひっひ。優勝したよ。ちゃんと」
「マジか……いやでも。そんな情報無いぜ? 垂れ幕だってかかってなかったじゃん」
「ん~。それが不思議なんだよな。夢だったのかって思っちゃうよ」
「でも、そうか。1年で召喚師やって優勝かあ。すげえな。有名になっちゃうんじゃね?」
「全国大会で優勝でもすればそうだけどね」
なんとなく、悶々と授業を受ける。なんで俺達の優勝を誰もしらないんだ?
昼飯時に、シュウがいつものように弁当を持ってやってきたので、「おめでとう」と声をかけるが、やはりシュウもゴレ班が全国大会に出場した話は知らなかった。
ぬう。
「ごめん! なんか、コンテストが終わったら成績を学院に連絡しないといけなかったみたいなんだ。今日先生に伝えたから」
「頼みますわ。もっとチヤホヤされるやと思って登院したら、全然スルーされるから夢かと思いましたやん」
放課後、班室に行くとケーニヒが皆に謝っている。ホイスもプリプリと文句を言う。しかも垂れ幕の依頼を出して、すぐに出来るかは微妙らしい。飛行班も放送班も以前に州大会で優勝しているため元々垂れ幕が用意されていたという話だ。
班員の皆が集まると、以前のようにケーニヒが映写室に行くと言い出す。全国大会の要項についての説明をするのだろう。皆黙ってついていく。
「えー。今日集まってもらったのは他でもない」
やはりこの始まりでやらないと駄目なのだろうか。ケーニヒはキリッと顔を引き締めて話を始める。
全国大会もテーマは引き続き「農作業ゴーレム」だ。全国大会に際して変わってくるのは白補助器に刻む、使われる単語等だ。話を聞く限り作業の競技が今までの時間を競うものから、同一時間内にどれだけの収穫をするのか。などの要素が混じるようだ。
これからは方向性として、まずはその白補助器に刻む術式を構成し直すこと。それとメインのゴーレムについて材質等を再び考え直すこと。そこらへんだろうか。キーラのアンドリュー次式の精度も上げる必要もあるだろう。
地方予選を挟んで班員達の結束はかなり強くなっている。きっと良いところまで行けると皆自信を持ち始めていた。
一ヶ月後の大会は遠くシーグラス州で行われる。トレインで州都まで行き、そこから飛行ゴーレムに乗って行く。地方大会と違い、缶詰は1日少ない2泊だ。宿泊料金はかからないものの、交通費は各自負担と成る。飛行ゴーレムのチケットなどは学院で取ってくれるらしいので正式な金額はわからないのだが、ケーニヒがおおよその交通費を計算してきたようで、各々親にそれを伝えて了承をもらうように言われた。
うちの母親はおそらく問題なく交通費を出してくれるのだろうとは思うが、確かに事前にちゃんと説明してお願いしておかないといけないな。
細々とした説明を終えると、今日の班活は終了となる。昨日まで3泊の缶詰をして皆疲れいているだろうということで、明日の班活もお休みにしようと言われ解散した。
帰りにホイスと一緒に駅前のゴーレムショップに行く。州大会で優勝したら寄付金集めをしてくれるって言ってたから言いに行こうぜとホイスに誘われたのだ。俺もちゃんとオヤジに自慢したいところだったので了承した。
話を聞いていたキーラも付いてくるという。キーラはトレイン通学の為どうせ駅には行くしという事で結果3人でゴーレムショップに向かった。
ゴーレムショップで、オヤジに優勝したことを伝えるが、オヤジは流石にゴーレム界の人間だけあって結果は知っていたようだ。だがそれでも嬉しそうに俺たちを祝ってくれる。早速OB会の方にも声をかけ始めてくれているようだ。
「召喚師はリュートがやったのか?」
「ああ。こいつなかなかやりおるんや。このまま三連覇の伝説を作る男やで」
「おい、ホイス。何言ってるんだ」
「ん~。いや。そうだな。リュートは中等院の頃から遊ぶ友達がいなかったのか、ウチに豆に通っていたんだ。ゴレ班に入っても居ないのにゴーレムの事しか興味のないようなやつだからな。友達もいねえし。話を聞いていても只者じゃねえ知識を持ってるだよな。友達居ねえけど」
「ちょっと、オヤジさんやめてよ」
何故友達が居ないことを強調する……。
その後も何やら妙に2人で持ち上げるような話をするものだからこそばゆい。しかし友達のことは放っといて欲しい。キーラまで絡み段々と俺のオタク性を掘り下げるような話になると、放置できなくなる。
「ちょっと。ホントストップ! ストップ!」
「良いやないか。ゴーレムメイトとしては喜ぶところやで。なあ、おっちゃん。しかもこいつのステータス見たんやけど、やばいで。第5世代余裕で行けるスキルレベルや」
「もう! ホイスも辞めてって!」
俺のプライバシーだって言ったのに。ホイスのやつ。
「むう。そこまでか……。そう言えば高等院の部と言えば気になる話があるんだ」
「ん? 気になるってどんな話です?」
「なんでも今年のゴーコンに賢者が出てきたらしい」
「賢者???」
この世界の人間には生まれつきの適性などが存在する。召喚師というのもゴーレムに関する適性を有するもので、他にも四元素を扱う魔法師などもあるのだが……。レアな物で「賢者」や「勇者」、「聖女」など数百年に一度現れるような希少な適性を持って生まれてくる者がいる。
その中で「賢者」と呼ばれる適性は、すべての魔法、四元素は元より、聖魔法や召喚魔法、そういった物全てに適性を持つ人間の事を指す。過去に第3世代を開発したゴーレム技師は「賢者」だったという伝説も残っている。
確かに俺達の世代で「賢者」が誕生したという話がニュースなどで見たことはあったが……まさか。そいつがゴーコンに出てきているのか? その賢者は事前予想で地方大会をぶっちぎりで勝ち抜き全国大会に出てくるだろうという噂があるらしい。
賢者か……よりによってゴーコンに出てきたのかあ。