50.コンテスト(地方予選)5
『それでは、準備は良いでしょうか。いよいよ決勝戦です! 今回も同じ様にブザーの音とともに不可視カーテンが消えますのでそれと同時に皆さん召喚を初めて下さい。さあ、優勝目指して頑張ってください!』
気合の入ったアナウンスがされ、俺達はカーテンの方を向きスタンバる。そして、ブザーの音とともにカーテンが消えると召喚台に足をすすめる。
「これは……」
「トウモロコシか?」
「だね、高枝切り鋏は要らないね。手だけでも行けそう」
フィールドの真ん中には青々としたトウモロコシ畑が広がる。トウモロコシは遠目でも2~3mの高さに生っている感じがする。かなり背丈が高いな。
「先輩、少し背を高くします」
「……いやちょっと待て。……単純すぎないか?」
ケーニヒが険しい顔で畑の方を見る。確かに、準決勝は一回戦と同じフィールドで複数の果樹を取るミッションだった。トウモロコシを取るだけの簡単なミッションで終わるのだろうか。だが、他の学院は既に召喚を始めている。焦る俺はケーニヒに再び尋ねる。
「どうしますか? 急ぎましょう」
「背の高さは同じでいい。その代わり手を長めにしてみよう」
「了解です。」
「例えば関節を増やせるか? 一つでも良いんだが無理しないで行けるのなら……」
「はい! それならいけます!」
多関節のアームは個人的に何度も召喚師たことがある。一つ増やすだけならアドリブで問題なく行ける。
俺は召喚台に設置された召喚石に向かって手をのばす。焦りつつも失敗しないよう、必死に心を落ち着かせて腕の長さの修正を加えながら術式を構成していく。起動術式が召喚石を介して可視化が始まる。よし。皆も落ち着いて……。
チラリとキーラの方を見るが、先程までも酷い状態は落ち着いている。真面目な顔で転写されるキーラの術式に目をやる。……よし。大丈夫そうだ。
「オッケー」
補助式を終えた皆の合図とともに、ゴーレムを起動させる。ゴーレムが起動すると指示を出すモニターに文字が浮かぶ。
「え?」
「やはり……ひっかけか」
モニターには、スイカの収穫と枝豆の収穫を指示する文字が出ている。
「コンパニオンプランツとは意地が悪い……だがこれで上手く行けば……」
ケーニヒがニヤリとする。そのコンパニオンプランツと言うのは解らないが、低いところの作物を収穫するなら背の高いトウモロコシを軽く取れる身長に調節をしていたら、かなりのタイムロスが出ていたかもしれない。隣のチームは四足歩行の、かなり足の長いゴーレムがミッションを読み取り畑に向かって移動を始めていた。あれは、低い作物の収穫には向いていなそうだ。
ゴーレムは置いてあるカゴを背負うと、トウモロコシ畑の方に向かう。見る限りスタートは遅れ気味だ。ここから作業でどこまで挽回できるか……。
向こう正面のチームは見えないが、俺達のゴーレムは他のより少し遅れて作業に入る。だがキーラのアンドリュー次式も完璧に乗ってる。俺達のゴーレムは予選のそれと比べてもスピーディーでよどみの無い作業で収穫を始めていた。
「うんっ!」
実際収穫のスピードは、他と比べても確実に早い。他のゴーレムがもたついている間にもスイカの収穫を終え、枝豆の収穫に取り掛かる。
「……」
「……」
固唾を飲んで見つめる中、収穫を終えたゴーレムがこちらに戻ってくる。両側のゴーレムはまだ収穫を終えてない。すべてが上手く行く流れに見守る俺達の表情も明るい。
あとは、向こう正面のミュラー達のスピードがどうなっているかだ。上空の大型モニターにはまだ着順が出ていない。このまま行けば……。
ゴーレムが帰ってきて、カゴを召喚台に乗せた時も、モニターに変化はない。
高台の審判が手を挙げる。
……。
『ショパール学院 4:32 1着』
お。
おおおお。
「おおおおおおおおおお!」
思わず雄叫びを上げる。その直後に、グリュエン学院の2着のタイムが表示された。かなりの僅差だった。だが。勝ったのは俺達だ。
「リュート! やったぜ!」
叫ぶホイスと激しいハイタッチを交わす。先輩たちも飛び上がって喜び無茶苦茶に抱き合っている。周りでは、コンテストの実行委員のスタッフたちも笑顔で拍手をしてくれていた。
――やったんだ……。
一通り喜びを発散し終わり、皆が少し落ち着きを見せた頃。ケーニヒが俺の所に来て手を差し出してくる。俺はその手をガッチリと握りしめた。
「な? ゴレ班に入ってよかっただろ?」
「はい……はい! ありがとうございます」
「ふふふ。こちらこそお礼を言いたい気分だよ」
薄っすらと涙を貯めているケーニヒが俺の手を更に強く握りしめた。
その後、小ホールで表彰式と閉会式が行われた。
予選で敗退した学院などは既に帰ってしまっていたのもあり、少し参加する人数は少なかったが。壇上で優勝トロフィーをケーニヒが受け取り、約一ヶ月後に行われる全国大会の課題が書かれている書類などを受け取った。
全国大会でも基本の課題は変わらず農作業ゴーレムに成るのだが、白補助器に書き込む使われる単語などが少し変わるらしい。
閉会式が終わると、ニヤニヤしたジョジョが俺たちに近づいてきて、全国大会頑張ってくれと激励をしてくれる。ハイランド州の代表チームが全国大会で優勝したことが無いらしく。優勝は悲願だと熱く語ってきた。コンテストが終わり開放された気分の俺たちは気さくなジョジョに「任せておけ」などと無責任に答える。
でも、出来るなら全国大会でも勝ちたいよな。
ようやくゴーコンが終わった。俺達は缶詰に使った施設に戻り帰りの準備をし、学院のチャーターしてくれたMキャリッジに乗り込む。なんだろう、皆自然とニヤニヤしてしまう。優勝の余韻に浸ったまま、意気揚々と帰路につく。
「それにしても、決勝。良くひっかけやってわかりましたね」
「ふふ。トウモロコシは害虫が付きやすいからね、コンパニオンプランツと言って違う害虫が付く作物を一緒に植えたりするんだよ。そうすることで害虫同士がお互い牽制し合うのか近寄ってこないって性質があるのさ。決勝にしてはトウモロコシだけじゃ単純すぎるなって思ったんだ」
「マジっすか。班長のマニアックな趣味が功を奏したってわけですやね」
「マニアックな趣味じゃないけどね」
確かに、あの時に俺がそのまま長足のタイプのゴーレムを召喚していたら、足元の作業がもっと手間取り、結果が変わっていたかもしれない。ゴーレム技術の差では無いと言えば無いのだが、してやったりと言った所だ。
缶詰に入る前に受付で預けておいた端末を返却してもらっていたのを思い出し、着信などを確認する。お、パメラからの連絡が入っている。慌ててLINKを開いてメッセージを確認する。
>>先程コンテストが終了して、今は帰り道です。リュート君たちはまだコンテスト頑張っているかな? 飛行班は優勝しましたよ!
……え?
ちょうどMキャリッジ内では、決勝前のケーニヒの掛け声について盛り上がっており、マルクが「ざまみろ飛行班!」などと叫んでいる。
……俺は、そんな先輩たちに、飛行班も優勝したようだ、なんて事を言えぬまま微妙な顔でキャリッジに揺られていた。