48.コンテスト(地方予選)3
2回戦が終了すると、昼飯の時間になる。
大食堂では、負けた学院も昼食を食べているため、あまり大声で喜んだり出来るような状況じゃない。中には予選で敗退するつもりだった学院がうまく準決勝にコマを進められたようで、ソワソワと「このまま行けちゃうんじゃね?」なんて話している所もあるのだが。
「やるじゃないかケーニヒ。2回戦一位通過か」
先日ケーニヒと話しをしていたグリュエン学院の男がケーニヒに話しかけてきた。
「言っただろ。今年は強いぞって」
「今年は荒れているからな。俺たちもだいぶ楽になったぜ。お前のところと当たるのは決勝だ。ちゃんと上がってこいよ」
「え? なんだ。お前の所は落ちなかったのか」
「落ちねえよっ!」
「今回のあれは後々問題が出てきそうだよな。でもまあ条件はみんな同じなんだ。胸張って優勝させてもらうよ」
「ははは。楽しみにしてるぜ」
食事が終わると、準決勝の試合が行われるフィールドまで行く。受付の前にはもうすでに他の学院が集まり始めていた。一回戦でのゴタゴタの為少し例年よりレベルの低い学院が多いとは言え、ここまで上がってきた学院だ。きっちりとやらないと足元をすくわれる。
準決勝は予選を勝ち抜いた8チームからの2チーム勝ち抜きになる。ここからはアンドリュー次式を使っていくということで、キーラもブツブツとメモした術式を見ながら術式を反復している。
「次の場所って一回戦で使ったフィールドですよね?」
「ん? そうだな」
「やっぱ果樹園フィールドですか。何か調整しておいたほうが良いことってありますかねえ」
「そうだなあ……」
まだ受付が開始されていない中、芝生で座り込んでまったりしているケーニヒに尋ねる。
「2回戦の様子を見る限り、モニターの課題を読み取るスピードは問題ないと思う。動き出しも他の学院より早いくらいだったしな。後はキーラの術式で稼働のスムーズさがよりブーストされればそこまで危惧はしなくても良いと思うんだ」
「そう……ですね」
「ただ、まあ後気になると言えば、……リュートのこだわりかもしれないんだけど。頭の角? あれは……木の枝に引っかかる恐れがあるから無くても良いと思うんだ」
「え? あ、ああ……カッコいいかなって。でもそうですね……」
確かに俺の召喚するゴーレムには角がついている。なんとなく角付きってグレードが高いイメージが有ったから付けてしまっていた。
「あと同じ意味で、肩についてる飾りも……無いほうが良いかな?」
「え? あ、ああ……カッコいいかなって。でもそうですね……」
「まあ、ゴーレムはロマンの塊だからね、思い入れでイメージが良くなるのならどうしてもって訳でもないんだけど……」
「いや。大丈夫です。無くします」
「……なんか、色々言ってゴメンな」
「い、いえ。とんでもないです」
それから手のサイズの適正化等、思ったより色々と修正を指示された。
ゴーコンは、召喚時に全てが決まる。事前準備は出来る限りしたほうが良い。一回戦のフィールドは公平性を出すため全て公開されている。今回戦うチームで予選の時にこの果樹フィールドを使っていないチームもあるためだ。周りでは果樹フィールドに対応した術式を相談している姿がアチラコチラで見えた。
昼休みが終わると、受付が開始され再びフィールドの中に入っていく。
ふと、班員の皆を見渡すと、キーラが真っ青になってる。
「ん? キーラ? 大丈夫?」
「あ、あたし……どうしよう。アンドリュー次式無理かもしれない……」
「え? いや、でも最近結構成功率上がってきてるし、そんな心配しなくても良いんじゃない?」
「あ~。もう無理っ! きっと失敗する!」
「えええ~」
ここに来て、ようやく温存していたアンドリュー次式を使おうと言う話だったが……。キーラが緊張でやばいことに成っていた。周りの先輩たちもそれに気がついて慌て始める。
キーラの魔力を温存しようとアンドリュー次式を使わないで居たのが裏目に出たのか。そもそもギャル友と遊んでばかりだったキーラにはこういうコンテスト的な競技会の経験が無いのかもしれない。場馴れ的にも使わせたほうが良かったのか……。
召喚石を持ってきたスタッフの人も、俺達がパニックに成っているのをみて苦笑いをしていた。その時俺の後ろにいた社長がボソッと呟く。
「……これは気付けに班長のキスでもしてあげなくちゃ駄目かな」
「は? おれ?」
突然の振りにケーニヒも困ったような顔をしている。流石にキスまではしなかったが「あたし、お腹痛いかも、見学でいいですか?」なんて言ってるキーラの手を取り「とりあえず失敗してもいいから、やってみようよ」と説得をする。
「先輩離してっ! 無理ですっ!」
抵抗するキーラに慌てふためく中、無情にも試合開始前のアナウンスが鳴り響く。
ブザーの音と共に不可視カーテンが消えると、俺たちは必死にキーラをなだめながら、それでもやるだけやってくれとばかりに召喚台のところまで引っ張る。さすがにここまで来るとキーラも観念したのか、真っ青な顔で補助の位置で立ちすくんでいた。
「リュートやってくれ」
ケーニヒの合図で俺は召喚術式を構築し始める。魔法陣が可視化すると皆補助式を構築し始める。ふと横目でキーラを確認すると、キーラもなんとか必死の形相で術式を書き込みし始める……が。横目で見てもキーラが転写する2行目の術式が怪しい。
――まずい。
しかし、タイムを競うゴーコンでやり直しは致命的だ。それでも第4世代できっちり先輩たちの補助式が支えてくれれば、アンドリュー次式がなくても、勝負は出来る。
先輩たちの術式の転写が終わるのを確認すると俺は召喚式をフィニッシュさせる。
いつものようにゴーレムが召喚されてくる。やはりアンドリュー次式は乗ってなさそうだな。
皆の願望の眼差しを受けて、……飾り気のない地味なゴーレムが起動した。




