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ゴーコン!   作者: 逆霧@ファンタジア文庫よりデビューしました。
第2章 ゴーレムコンテスト(地方予選)
45/76

45.缶詰 4

 魔術言語の辞書にばっちりポリカーボネートが載っていた。


 考えてみれば、BUIBUIゴレカーだって、召喚して出てくるのはポリカーボネートで出来たゴーレムカーだ。かなり一般的に使われていると言えばそうだ。だが、術式はかなり複雑になる。

 今までは鉄を使った、いわゆるアイアンゴーレムと呼ばれるそれこそ太古からある素材のゴーレムなのだが、ポリカーボネートは、カーボネート基をつなげるという化学物質のため複雑な構成の術式で成り立つ。流石にマルクやヴィルは「ムリムリ~」と匙を投げている。それなら鉄と同じ様に元素をシンプルに構成させたチタンの方がシンプルで扱える。


 どうするか相談する中で、やはり明後日の大会にあまり無理なことはしないほうが良いという流れに成る。ただ、俺はなんとなく気になり、チタンの術式を皆で頭に刷り込んだあとで、メモったポリカーボネートの術式をひたすら眺めていた。


「ほんま、リュートは頑固やな」


 そんな姿の俺をみてホイスが声を掛けてくる。


「え? チタンで良いとは思ってるよ。かなり軽量化は出来るし術式自体は鉄と比べそこまで複雑になるわけじゃないから」

「じゃあ、なんでまだポリカの術式見てるんや?」

「いざという時にさ。召喚術式にこれを固定させて、補助式の方で素材指定をしないで良い具合に成れば、もしポリカが良いってなっても対応出来るかなって」

「おいおい、それって……第4世代の術式だけでも相当負担あるやん……マジで出来るんか?」

「このくらいなら……たぶん第5世代にだって載せれると思うんだ」

「第5世代って……お前、出来るんか?」

「え? いや。まあ試したことはないけど。多分」

「まじか……」


 実際、高等院での第5世代の召喚は記録が無いわけじゃない。と言っても数件で、しかも召喚師は3年だ。中等院から上がったばっかりの1年での召喚は、おそらく記録は無いと思うのだが。第5世代には補助士にもスキルが必要だ。もしかしたらスキルを持った補助士が少なく召喚師は第5世代を召喚できたとしても、ゴーコンで使えなかったという事もあるんだと思うんだ。



 夕食の時間に、明日行われる野外に設置された畑での最終的な召喚練習の時間割を知らされる。俺たちは午後の一番の組みになる。午前中にホールでチタンゴーレムの召喚実験を行えるので良い時間割りなのだろう。


 夕食後も寝るまで俺はポリカーボネートの術式を頭に叩き込んでいた。スタンドプレーはするつもりはないが、昔からこういう作業は好きだったので。楽しむ物のない缶詰生活には良い時間つぶしに成る。




 缶詰最終日の朝、キーラはホットパンツじゃなかったがピチピチで穴だらけのGパンを履いていた。それでも所々に白い生足が見えるのは、高等院生には刺激が強めだ。カウンターに並んで食事を受け取る時も、なんとなく他院の学生の視線が気になる。つくづく、良くこんな子がゴーレムをやろうと思ったなって思う。それでいて召喚陣を書かせればプロ顔負けの出来の物を書き上げるんだ。不思議だ。


 ホールでの召喚練習では、みなきっちり仕上げてきていた。キーラのアンドリュー次式もきっちり乗る。


「いい感じじゃないか、土への沈み込みもだいぶ軽減されたじゃないか」

「これくらいなら足を取られることなく作業も出来そうですね」


 実際、だいぶ軽量化は成功している。その他鎧甲部分も薄くし、脚も若干幅広にする事で懸念された部分はクリアに成る。後は午後の現場での最終チェックだ。



 野外の不可視フィールドの中は、完全な農場となっていた。それでもホールと同じ様に不可視のカーテン術式で仕切られており、ここでは実際に野菜なども育てられていて、収穫動作等もきっちり確認できた。


「ポリカーボネートまでは要らなかったな」

「そう……ですね。もしかしたらポリカだと重さが逆に足りなくて力作業などは不安定になったかもしれませんね」


 段々と手応えを感じたのか、皆の顔も明るい。野外の農場では1時間半という時間設定が設けられていたため、支給された召喚石をきっちり使い込み、俺たちは施設に戻った。



「それにしても、この感じの競技スタイルだと気持ちも余裕があって良いな」


 満足そうに言うマルクに、なんとなく去年の雰囲気はどうだったか聞いてみた。


「去年はさ、そりゃ缶詰の初日に詳細の課題がしらさせるもんだから、みんな必死こいて術式を組み立てていくんだよ。学院によっては寝る時間も惜しんで徹夜で仕上げるもんだから大会の時に寝不足でフラフラの奴らだって居たんだぜ」


 まじか……確かにそういう仕組の大会ではあるんだもんな。このシステムが来年も継続に成るなら確かにソッチのほうが学生の体は楽になるだろう。ATAの運営からの指導もそういう部分にクレーム的なものも混じっていたのかもしれない。



 この日の夕食は、コンテストの前夜祭的にかなり豪華な料理が並ぶ。何チームかはまだ術式が固まっていないのか、食事を早く終わらせて自分たちの部屋に戻っていっていたが、多くのチームはある程度余裕があるのか、ゆっくりと食事を楽しんでいた。


 今年は州内から35院が参加しているという。一回戦は4つのブロックに別れ、8~9のチームで競い、各ブロックから上位4チームが2回戦に進出する。2回戦は16チームを2つに分け、各ブロックの上位4チーム。つまり8チームに絞られる。3回戦が準決勝となり、4チーム毎のブロック戦で、上位2チームが勝ち上がり、決勝は4チームでの戦いとなる。そこで優勝が決まれば、全国大会へと進むことが出来る。


 ブロックの組み合わせは、明日の朝に食堂の前に張り出されるという。


 いよいよ明日はゴーコンだ。初等院の頃に一度参加しただけだがなんとなくその時の気持ちを思い出す。




 その夜、俺はワクワクなのかドキドキなのか、なかなか寝れないでいた。周りでは徐々に寝息が聞こえはじめ、寝れない自分に焦りを感じていた。


 ――あれ?


 ふと窓側を見ると、窓際に置かれた椅子にケーニヒが座りボーッと外を眺めている。寝ている班員を起こさないようにと、そっとケーニヒに近づく。気がついたケーニヒは少し困ったように笑う。


「リュートも寝れないのか?」

「少し、緊張してしまってます」

「ふふふ。僕はねこんなリラックスした気分でコンテストの前日を迎えたのは、高等院じゃ初めてかもしれないな」

「先輩はあまり緊張していないですか?」

「ああ。1年のときは期待されてゴレ班に入ったものの、病気で召喚が出来なくなってね。それでも補助士としての参加はしたが申し訳ない気持ちが強かったな」

「……」

「去年は、召喚師が僕しか居なかったからね。医者に内緒で多めに抑制剤を飲んで参加したんだが。やはり前日は不安だったな。結局2回戦で第4世代を召喚師た瞬間に意識を失っちゃったんだけどね」

「病気は……どうしようも無いじゃないですか」

「そうなんだけどね。今年はリュートが入ってくれて感謝してるよ。キーラもアンドリューの成功率が上がってるし。ホイスも補助士としては一流だ。自信を持ってコンテストを迎えられる」

「……明日は。頑張りましょう」

「そうだね。うん。寝不足で術式が怪しくなったら元も子もない。ちゃんと寝ないとね」

「はい」


 ケーニヒに促され、俺は再び布団に戻り。目を閉じた。


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