44.缶詰 3
次の日、大食堂で朝食を食べた後、再び男子部屋に集まる。
食堂では、無地のTシャツにGパンという地味な姿の率が高い中、キーラの臍の見えるようなTシャツにホットパンツというギャル度マシマシの姿が、食堂のウブな文系男子の度肝をぶち抜く。食事中はチラチラと俺たちのテーブルに視線が集まっていた。俺だってあんな生足を組んで横で食事なんてされたら、なかなか集中出来ない。妙に見まいと意識をしてしまって、逆にドキドキしてしまうんだ。
「キーラ。それはエロすぎるんちゃうんか?」
お? 文系男子が集まる中、ホイスはブローヴァ人の強心を生かして突っ込んでくる。
「えー? そう? 普段からこんな感じだよ?」
「ゴーコン参加者ちゅうのは女慣れしてない内向的なやつが多いんやぞ。そんな格好して歩いてたら我を失った童貞共に襲われるっちゅうねん」
おいおい、ホイス。言い過ぎじゃないか? 高等院生なんて……みんな普通童貞だろ? ……え? まさか? ホイスは違うとでも言うのか???
そんな事を考えているとケーニヒが2人の間に割って入ってくる。
「ははは。まあまあキーラもなかなか策士じゃないか。確かにそんな格好で食堂を歩けば他院の選手たちはみんな悩殺されて悶々として集中出来なくなるってところだね」
「キャッ。悩殺だなんて~。先輩のハートもドキュンですかぁ?」
「ははは。キーラはいつだって可憐だよ」
お。おう。さすがはケーニヒ先輩だ。全然びくともしていない。
しかしキーラは更に嬉しそうにしている。
今日の打ち合わせを終えると、キーラは女子部屋で1人で集中すると言って補助器へ刻むセットを抱えて出ていこうとする。
「ああ、じゃあ社長一応ついていって書いてるのチェックしてあげて」
「あいよ」
社長は答えると、キーラの荷物を少し持ち、2人で出ていった。
残されたメンバーで術式の整理を始める。
……
……
みなで集中していると、館内放送で食事の準備が出来た事が知らされる。どの学院も術式の仕上げやチェックをしているので時間になったからすぐに食事を、という訳には行かないのだろう2時間ほどの昼飯時間が設けられているようで、キリのいいところで食べに行けばいい感じだ。
ヴィルが空腹に耐えられなくなり、ゴロンと横になって「まだかなあ」なんて言っているとようやくキーラたちが帰ってくる。
「おお、どうやできたか?」
ホイスが聞くと、社長とキーラは満足そうに出来上がった白補助器を見せる。ようやくこれで食事が取れるとヴィルは補助器のチェックも程々に大食堂へ行こうと皆を促す。流石に皆も少しお腹が減り始めていたようで、すぐに食堂へ行くことになった。
食事をすると、午後は召喚練習だ。さっそく大ホールに行き受付をすると使えるブースの番号を書いたカードと召喚石を渡され中に通される。その際の説明だとブース内に土が敷かれているので、練習では耕す作業と、種植の作業のみになっているという。ゴーレムに指示を与えるモニターも設置してあるのでそれで指示を出し、必要有ればブース内にある種やジョウロの水など好きに使っていいと言われた。
どこの学院もまず白補助器への刻みを行っているようで午前中の利用は殆ど無かったようだ。俺たちの後から受付に来る学院もあったがまだそんな多くは出来上がっている状況では無いのだろう。
大ホール内を不可視カーテンで囲って細かく仕切りがされており、お互いのゴーレム召喚を見えないようにしている。壁際に歩きながら自分たちの指定されたブースを見つけ中に入った。
「ホンマに土だけやな……」
ブースの中を覗いてホイスが呟く。中にはただの土が敷かれ、手前に自分たちで文字を打ち込めるモニターが設置してあった。周りには作業に使う道具など置いてある。
とりあえず、畑を耕す作業だけさせてみることにする。それが問題なければ耕した後に種を蒔く。それも行けそうなら、その後更に水をまく。そんな予定で始める。
「少し脚が沈むな。もうちょっと軽く出来ないか?」
「少しなら出来ますが、金属部分が多いから……足の幅を少し広くしてみましょうか?」
「あまり変わらなそうだなあ、だけどやってみようか」
「軽い素材だとチタン素材とかに変えられたら良いんだけど、辞書でそこまで行けるかな……」
キーラの刻んだ補助器は問題なく稼働した。だがやってみて分かったのが、ゴーレムの重さで土の中に少し沈み込むのが気になった。何度か召喚練習を繰り返した後に少し調べてみることになった。
ちなみに施設には術式の本なども持ち込めないのだが、チームごとに術式に使われる魔術言語の辞書は配布されるのでそれで調べられる部分は調べて出来る限りの調節をすることにする。
素材に関しては盲点だった。二足歩行か四足歩行かで悩んだりしていたが、それより軽くて硬い素材を見るべきだったのは失態だ。一冊しか無い魔術語辞書で必死に調べる。
超硬カーボン等も候補としては出てきたが調べても普通のカーボン素材しか出てこない。最先端素材に関してはまだ魔術語への変換がなされていない物も多いのだろう。やはりチタンの方向で術式を見直し始めた。
みんなが悩んでいる中、ヴィルが売店で買ってきたらしいアイスを幸せそうに食べている。ヴィルは元々そこまでゴーレムへの入れ込みが無い。かと言って嫌いなわけでもなくあてがわれた術式はきっちり組んでくる。そんな感じでヴィルは癒やし系キャラとして成り立っているためそんな姿にも誰も気にしては居なかった。
「あっ!」
そんなヴィルが突然声を上げれば、なにか思いついたのかとみんなそちらの方を見る。
「あ、ごめん。ちょっとこのアイス固くてさ、木のスプーンが折れちゃったんだよ。あ~あ。プラのスプーンにしてくれればいいのに……」
……まあ、木のスプーンが折れたことはあると言えばあるか。ん? プラのスプーンの方が硬いか?
プラ……。
「あ」
「今度はリュートか。どうした?」
「いや。今のヴィル先輩見てて思いついたんですが。ポリカーボネートとかってどうですかね?」
「いや、プラスティックは流石に……どうなんだろう」
「競技の時間内なら全然保ちそうじゃないですか? 雪かきとかにもポリカの素材のって結構強くて優秀かなって」
「……なるほど。あれは意外と昔からある素材だよな。ちょっと調べてみるか」




