43.缶詰 2
放送が終わると、俺達はさっそく大食堂に向かう。
大食堂の入り口に張り紙があり、そこに各テーブルの振り分けが書いてあるようだった。色んな学院の生徒達がそれを見ている。列の後ろに並んでいると社長とキーラもやってきた。
「あれ? みんな中に入らないの?」
「なんかそこの紙に自分たちの座る場所が書いてあるんですよ」
「ん~。もっと大きく書いてくれればいいのにね、全く見えないじゃん」
生徒たちは、自分たちの席を確認してどんどん食堂の中に入っていく。やがて掲示が見える場所まで来ると、テーブルの番号を覚え俺たちも食堂の中に入っていった。その際、周りを見るとどうしても他院の生徒たちが名うてのゴーレムメイトの様に思えてしかたない。少し弱気な気分で、俺は小さくなって先輩のあとについていった。
隣りに座ったキーラが小さな声で話しかけてくる。
「なんか、皆ベテランみたいに見えちゃうよ。ドキドキするね」
ああ、やっぱりキーラも同じか。キーラはゴーコン自体が初めてだしな。今までゴーコンとは縁のない生活をしてきただろうし。この雰囲気に飲まれちゃうんだろうな。 ……まあ、俺もいっしょだけど。見ると社長も少しいつもより小さくなっているように見える。ケーニヒとホイスは、あまり気にしている感じでは無いんだが。
あれだけ食事を楽しみにしていたヴィルでさえ、少し緊張した面持ちで料理を眺めている。
やがで全てのテーブルが埋まり、ザワザワとした雰囲気の中、コンテストの実行委員の少しチャラい感じでキザな縦縞のスーツを着た男がマイクを片手に出てきた。それを見た学生たちは雑談をやめ静かに喋り始めるのを待つ。
「こんばんは。みなさんようこそ! 今年もゴーコンの季節がやってきました。大会実行委員のジョニー・ジョーンズです。みんな気軽にジョジョって呼んでもらっていいからね」
受けでも狙っているのだろうか。少し軽い感じで男は話し始める。会場内では乾いた笑いが少しだけ沸いてはいた。先輩たちにはおなじみの人なのだろうか。俺は少し困惑した顔を隣のキーラに向ける。キーラもなんとも言えない顔でこちらを見た。
「さて、どんどん話を進めちゃおうかとも思ったんだけどね。せっかく皆の前に料理も出来ていることだし、覚める前にまずは食事を楽しんでもらおうかな」
そう言うと、男は目の前のテーブル座ってる生徒に向かって軽くウィンクをする。ウィンクを向けられた生徒は引きつったように笑いを返す。
どうやら少し食事が進んでからゴーコンの説明が始まるようだ。男は何故か1人満足したように手を振りながら隅の方に消えていった。
「まあ、そうだよな。まずは食おう。ヴィルも待ちきれないようだからな」
ケーニヒが少し軽い口調で食事を促す。緊張してる皆の心をほぐそうとしているのだろうか。俺たちも食事を取り始めた。
食事が一段落すると、食べ終わった食器を片付けるのを手伝うように指示される。食堂の横には学食のように広い厨房があり、皆そこに空になった食器を持っていく。マルクに「じゃあ1年よろしくな」と言われ俺とホイスとキーラで先輩たちの食器を集めて片付ける。なんか班活っぽくて良いなぁ。
「最近ATAから色々と注文が多くてね。そのうちの一つがゴーコンの事前缶詰の3泊が他の班活の大会と比べ授業を休む時間が多くて減らせないかというやつでね。今回色々変わっているのは、その対応の試験的導入なんだけど、参加者の君たちには色々混乱させて申し訳ないとは思ってるんだ」
先程の実行委員の男が再び出てくると、軽い感じで説明を始める。確かにこういった3泊の缶詰があるのはゴレ班だけだろう。キックボールなどの時間のかかる試合をする班もあるがあれも週末を利用して行われているし、それ以外でもしょうが無い部分はあるのだが。
元々ゴーコンの缶詰は一部の学院がプロの技師等のOBが術式を考えたりしてそのまま使用する等の不正行為を防止するためのやり方だったのだが、そこら変を参加者のモラルに頼るような感じになってしまうのだろうか。
ケーニヒが先程予想したように、白補助器の方で候補の単語があったように作業自体の細かい設定の公開は殆ど無かった。やはり補助器への刻みなどでの優劣を作りコンテストの成績に反映する形のようで、実行委員の人の言う拘束期間の短縮などのための試験運用なのだろう。
その後も実行委員の説明は続く。やはり会場は外にある野外での実施になるということだった。前日に各学院1時間の持ち時間で一回野外の農場スペースでの実地訓練を出来る。その前の日、つまり明日は前年度までのコンテスト会場に成っていた広いイベントホールとそれより少し狭い小ホールを使っての召喚練習等が許されている。そちらの方はホール前で好きな時間に行って申請すれば許可が降りるらしい。
それから提出していた補助器に刻む予定の術式を書いた紙が変換され、その際にチームごとに白補助器と鉄筆などの道具を渡され、説明会は終了した。
「お、ケーニヒじゃないか」
説明会が解散になりバラバラと参加者たちが部屋から出ていく中、1人の男がケーニヒに話しかけてきた。
「ミュラーじゃないか。元気にしてたか?」
「ああ、俺はな。……今年は1年が割と入ったのか?」
「新入生は3人入ったよ」
「そうか、召喚師もか?」
「ふふふ。今年はなんと召喚師が2人だ。お前の所にだって負けないつもりだよ」
「ほう。そうか。だけどまあ。なんにしろよかったな。お互いがんばろうぜ」
そう言うと男は仲間と合流して食堂から出ていった。
「知り合いですか?」
「うん。中等院時代に一緒にやってた仲間だよ。今はグリュエン学院でやってるんだ」
「私立ですか。たしか、結構メンバー集めてるって話ですね」
「優勝候補の一角ではあるんだろうな。でも。負けるつもりはないからな。頼んだよリュート」
「え? あ、はい。がんばりましょう」
説明会が終わると、男子部屋に皆集まり、今後の予定を決める。
とりあえず、明日は朝からキーラは補助器への刻みを行い。それが出来次第にホールに行き、召喚の練習をする。ようやくアンドリュー次式の成功率も上がってきたが、それでもまだ100%じゃなく、そこが一番の不安要素とも言える。
元々ゴーレム形状に関して、畑の足元が緩いことを考えてホイスなどは四足歩行のタイプを押してくるが、そこは二足歩行の人間タイプのゴーレムを召喚したい俺とは意見がぶつかる。
正直四足歩行にロマンを感じることが出来ない俺は必死に抵抗をする。
「まあ、そこは召喚師の気持ちの乗り方が変わっちゃうからね。二足で良いんじゃないかな」
「まあ、最終的にはそうやけど……前日の召喚でバランス悪そうやったら考えてもらわんと」
ホイスも引き下がるが、とりあえず前日の状態を見てやっぱり二足ではバランスが厳しかったら俺も引き下がる約束をした。