41.ゴーコン準備 4
コンテスト前という事で週末の休日も班活を行っていた。朝からゴレ班のメンバー全員が集まりゴーコンに向けての追い込みをかけていた。
午前中、キーラは白補助器への術式の刻印を始める。これはかなり集中して行わないといけない。召喚陣のように図形的なものが入らないが、わかりやすくくっきりと正確に刻んでいく必要がある。刻めるスペースにも限界はあるので文字の大きさなども小さめに成るため作業としても細かくなる。
白補助器の大きさは小さめのMボードくらいはある。60cm程度だろうか。上面が黒板のような黒い板に成っている。これは表面に黒色の魔力絶縁塗料が塗ってあり、鉄筆でガリガリと上から文字を彫っていく感じだ。
鉄筆で削られた部分の塗料が剥がれ下地の色が浮き上がる。そのむき出しになった部分に魔力が流れ、魔道具に組み込まれた機構が術式を読み取る具合で発動させる。そのため失敗しても、もう一度塗料を塗れば再び再トライは出来るのだが、下地も少しづつすり減るためそこまで削れてしまうと、メーカーに下地の貼り直しをお願いしなくてはいけなくなる。
魔法言語を彫り込む前に、同じ大きさの紙で術式を書いて文字の大きさなどを丁度いい感じに調整していく。
「うっわ。超字が細かいじゃん。面倒くさいよ~」
「そ、そう? もし大変だったら言ってね」
「ん? ……はは~ん。リュート君もやってみたいんでしょ?」
「え? いや。そんなんじゃないけどさ。こういうのは集中してきっちり彫らないと駄目だからさ」
「ふふふ。これはあたしのゴレ班での居場所なのよ。渡さないからねっ!」
「わ、わかってるって」
皆もこういう作業は珍しいのか、興味深そうに覗いてみてる。視線の集まる中キーラは何度か紙に術式を書き込みサイズなどを決めていく。
「うん。こんな感じでいいかな? どう?」
「ええやないか。やっぱキーラは手先が器用やな。来年もこの作業が入るかわからんけど、しばらくはキーラの仕事になりそうやな」
「お、ホイス君も見直してくれた?」
「おおう、こういうのもやっぱ上手い下手があるしな」
いよいよ清書をしようというところでケーニヒから待ったかがかかる。なんだ? と思ったが集中していたせいかもう昼の時間だ。一度昼休みを取り頭を休めてから清書をすることになった。
皆弁当を持ってきていたので、それを食べながら雑談に興じる。
「今年は結構上に行ける気がするんだよな」
ケーニヒが嬉しそうに言う、マルクがそれを聞いてウンウンとうなずく。
「確かに、リュートが第4世代を使えればな、あとはキーラのアンドリュー次式が成功するように成ればかなり上を狙えそうだよな」
「まあ、それもあるんだけどな。白補助器を今年は導入しただろ?」
「ん? 他所はキチンと仕上げれないってことか?」
「いや、そっちの術式は事前に準備して持ち込めるからさ、ちゃんと刻めれば問題ないと思うんだけど、補助式の魔道具は召喚師の魔力で立ち上げるだろ?」
「……なるほど。第4世代を起動させつつ補助器を立ち上げられない所が増えるわけか」
「そういう事、だからたとえ第4世代を使えても魔圧や魔力がギリギリの召喚師は、おそらく第4世代を起動させられない。という事は最終的に第3世代で出てくるチームが多くなると思うんだ」
なるほど。ゴーコンのコンテスト期間中のマジックポーションの使用は禁止されている。地方大会の1日でも4回の起動が必要に成れば、もしかしたら予選を抜けるために無理に第4世代を召喚して、決勝で魔力が枯れている事もありえるって話か。魔力が十分でも召喚式と補助器へ一気に魔力を送るような魔圧が足りないケースも出てくるんだろう。
初等院の頃からひたすら毎日のように召喚をしていた俺は、スキルレベルも魔力量も正直大人のゴーレム技術者にも負けない自信はある。確かにかなり有利なのは間違いない。そこはあれだけの召喚石を置いていった父親のおかげと言う訳か。
うん。燃えてきた。
「全国制覇もしちゃいましょうよ!」
「その前に地方大会を勝たないとだめだろ?」
マルクは、何を言っているんだという目でこっちを見る。いやだけど。そこまでの気持ちでやらないとって思うんだよな。
午後になり、キーラが白補助器への清書を始める。邪魔をしないようにと皆が黙って見つめる中、ガリガリと術式を刻む音だけが響く。流石に紙にササッと書くのと違い、少しだけだが筆に魔力を込めながら刻む必要もあり時間もかかる。確かに……キーラは上手い。認めよう。全くミスらしいミスが無いまま刻みが終了した。刻んだ術式を壊さないようにそっと保護シールドをかけたら完成だ。
「よし。キーラ魔力は大丈夫か?」
「結構ギリギリっす。マジックポーション下さい!」
「冷えてないけど良いか?」
そう言うとケーニヒはマジックポーションを取り出し、キーラに渡す。キーラはそれをぐびっと一息に飲み干す。
その後大事に補助器を抱え、第2体育館へ向かった。
体育館では、どこから持ってきたのか小さいトマトがなっている鉢植えをケーニヒが設置している。そして社長が自分のマジコンを開き、指示を書き込んだ画面を開く。
「班長、モニターはこんな感じでいいですか?」
「うん、いいね。あとは、カゴを……どうしようか? トマトの横に置いておくか? それとも召喚する場所に置いておくか」
さも当然のように設置場所を考えているケーニヒに、たまらず尋ねる。
「先輩、こんな野菜どないしたんすか?」
「ああ、僕はマンション住まいだからね、こうやってベランダでプランターで育てるのが好きなんだよ」
「え? これ先輩が育てているんですか?」
「そうだよ、まあベランダ栽培だから何個かやってるだけだけどね」
野菜を育てる趣味か……なんかホント、ケーニヒ先輩は不思議な人だ。
「じゃあ、あんま数は出来なそうやないすか」
「まあ、実働させるのは大会前の実地練習できっちりやるしか無いな、でも白補助器の稼働だけでも確認できればと思ってね」
そしていよいよ召喚をする。俺がベースのゴーレムを召喚し、補助式で数本のハンドユニットを足す予定だ。農作業にはハサミだったり鍬だったりシャベルだったり、何が必要になるかわからないため、足されるユニットの先に農作業パーツを組み込んでいく感じだ。
「じゃあ、リュート頼む」
ケーニヒの合図で召喚をスタートさせる。そして可視化した起動陣に順に補助式が組み込まれていく。
ふぁああああ。
お。
起動したゴーレムには6本の手がちゃんと付いている。補助式も無事に成功だな。
ゴーレムはモニタに映し出された指示を見るとプランターのトマトに近づき、赤くなってる実を順に切り取っていく。そして収穫した野菜をカゴの中に入れていく。
「おお、いいじゃん。完璧じゃないか?」
ヴィルが嬉しそうに言う。だが……。
「いや、アンドリュー次式が死んでるな。これはこれで作業は出来るかもしれないが、やはり明日からアンドリュー次式の稼働をメインに数をこなさないとな」
ケーニヒの言葉にキーラがしょんぼりする。
「ごめんなさい……」
「ま、気にするな。とりあえず白補助器の刻みは完璧だ。それだけでも褒められて良いんだぞ。コンテストまでみっちりアンドリュー次式を詰めていこう、あとは簡単な補助式も一応覚えておこうか」
「うん、先輩教えて下さいね」
それから当日までキーラの術式練習を中心に行い、俺達は必死にまとめた術式理論の候補を頭の中に詰め込んでいった。