39.図書館
それから何日か文字の読解術式を調べるが、実は文字の読解術式はそこまで難しいものでは無い事が分かる。と言っても簡単な物では無いのだが。
ゴーレムの基本性能は世代の性能に左右される部分が多いのだが、ゴーレムの性質として召喚師の性格的なモノや、記憶などをある程度投影されると言うのだ。その為術者の使用言語であれば外国語などを扱うような辞書術式まで必要なく、ある程度の理解はさせられるだろうと言うのだ。
俺は今まで文字の判別等は高等技術というより緻密な辞書術式等が必要なのかと手を出さないで居たのだが、盲点だったな。
会話をするとなるとさらに音声認識術式や構音術式などを組み合わせる必要があるが、今回はモニタに映し出された文字を解読するだけと言えばだけなのだ。
確かに、高等院生のコンテストで辞書術式はやりすぎだと思っていたが、こういうことだったのか。確かにこれならなんとかなるが……気が付かないで諦めちゃう様な学院も出てきてしまわないかが不安になる。
とにかく、それが分かると術式の方向性も変わってくる。1から仕切り直しだが。まあこういうのは良くあることらしく、再び図書室で調べ物をしまくったりする。図書班にも社長が掛け合って取り寄せなども頼んだりして、資料の補充をはかる。
そんな俺は6曜日の夜に、パメラと少しLINKのやり取りをする。
>>明日は、お昼くらいに図書館に行こうと思っています。ホントに邪魔にならない?
>>大丈夫だよ。むしろ楽しみにしてるから。お昼どこかで一緒に食べようよ。
午前中にびっちり調べ物をしているから、もしなんなら午後は少し一緒に街をブラブラしても良いかもしれない。1曜日にまた図書館に行ってもいいし。流石に州都程色々あるわけじゃないが。ううん。どこかいい所無いかなあ。
そんな事を考えていると、パメラからのメッセージが届く。
>>もしよかったらお弁当作っていっても良い? 図書館のまわりの公園の芝生とかで一緒にお昼食べようよ
ぶっ……お、お、お、お弁当??? マジか。パメラの……手製弁当!!!
>>ホント??? 凄い食べたい。うん。もし大変じゃなかったらお願いしたいっす!
>>ふふふ。じゃあ、午前中に気合い入れて作って持っていきます。でも美味しいかは、保証しないよ?
やべえ。今日は……ちゃんと寝るぞ。起きて昼過ぎだったらシャレにならないからな。パメラとのやり取りを終えると、俺は早々に電気を消して目を閉じた。
次の日。無事に目を覚ました俺は。朝から着ていく服を悩みまくる。デートに耐えうる服は前回買った物があるくらいだが。それでもなんとか比較的新しいくたびれていない服を選び出した。
母親が「お昼どうするの?」と聞かれたので、適当に外で食べてくると返事をしてMボードに乗り図書館に向かった。
うんうん。今日は天気もバッチシだ。街の公園や市民会館などがある公営の敷地内に目当ての図書館がある。ゴーレム関連の資料は2階部分にあるのも知っている。俺はまっすぐに2階に上がり、書籍を探し始めた。
やはり学院の図書室とは違って専門書なども揃っている。しばらく棚の前をウロウロして、目当ての書籍を見つけると机の上で中身をチェックし始める。
パメラの事を考えると気もそぞろになり、集中できるか不安だったがゴーレムについて調べ始めると自然に集中し始め、気がつくとあっという間に正午になっていた。ふと時計を見るとそろそろパメラが来ていてもおかしくない時間だ。
そこで一旦本を棚の方に戻して1階に降りようとすると、丁度階段を登ってくるパメラをみつけた。
「あ、ごめんね。ちょっと遅くなった?」
「ううん。大丈夫だよ。今丁度読んでいた本を戻したところだから」
「そっか、必死に本を読んでるリュート君を見れると思ったのに。やっぱりちょっと遅刻かな?」
「ははは。そんな見せられるもんじゃないよ」
パメラは今日はジーンズを履いていた。公園の芝生で食事でもと言っていたのでそういうチョイスになったのだろうか。細身のジーンズで脚のラインがとても綺麗だ。ただ、隣で歩くと俺の脚の長さより、身長の低いパメラの脚の長さのほうが長い気がしてしまって少し気後れする。
大きなバスケットを持つパメラについて公園で良さそうな場所を探す。パメラはピクニックシートまで持ってきていたので、木陰でそれを広げ2人で並んで腰掛けた。
「ちょっと作りすぎちゃったから、無理して全部食べないでいいからね」
そう言うと、恥ずかしそうにバスケットの中から食べ物を取り出す。アンドリッチだ。
アンドリッチとは2枚のパンに具材を挟んで食べると言うシンプルな料理なのだが……その昔アンドリュー次式を生み出したアンドリュー伯爵が研究の時間が惜しくて薄いパンにハムやチーズ等を挟んだ物を作らせ研究しながら食事をしたという故事からついた料理名だ。きっとゴーレムマニアの俺のために、この故事を思い出してパメラがチョイスしてくれたのだろうと、勝手に俺は考え悦に浸る。
他にも、唐揚げやソーセージなどピクニックらしい料理もたくさん用意してあった。そして水筒からお茶を注いでくれる。まさにいたれりつくせりだ。
「美味しいっ! 美味しいですよ!」
なんとも言えない幸せのスパイスが足された料理の数々はどれを食べても絶品だった。俺はムシャムシャと夢中で食べる。
「ほんと? 良かった」
パメラもその姿にホッとしたように一緒に食べ始める。
暖かい陽気な気候の中、昼間の少し時間がゆったりと進む時間。たまに吹くそよ風がまた心地いい。横を見ればにこやかに微笑むパメラが居る。俺は最高の休日を実感していた。
「この後、どこか行く?」
「ん~。私も飛行班でコンテストの準備が始まっているから図書館で調べ物しようかな」
「あ、そうするか」
そっか、飛行班もそろそろ本格的にコンテストに向けて煮詰めてそうだもんな。
鳥ゴーレムコンテストは去年から少し流れが変わりそうな感じがある。以前のコンテストでは参加学生がみんなで後ろから押して飛行台から飛び立たせるのが風物詩であったのだが、去年の優勝チームはカタパルトの様にゴーレムから伸ばした伸縮性のあるアームを飛行台の端に引っ掛けてそれで一気に初速を出しての優勝だった。
元々カタパルト式を試すチームはあったのだが、魔力消費の観点から人力を選ぶチームが多く、たまに見かけるものの上位に食い込む成績を残すことは無かったのだが、いよいよ実用的なカタパルト処理が出てきたおかげで、今年はカタパルト式のスタートをトライしたいような話らしい。
「じゃあ、弾性材料の資料を集めたりするの?」
「うん、そこらへんを中心に調べようかなって思って」
なるほど。じゃあそこは断るわけにはいかないな。
「なんかリュート君、そういうので良いの知ってる? あとなんか他にアイデアとか無い?」
「うーん。弾性材料はゴムとかしか分からないけど、材料の編み込みとかで弾性を付けられないかな? あとは……飛行ゴーレムって車輪付けたゴーレムを押していくのが基本だけど、氷とかみたく摩擦係数の少ない材料で底を覆っても車輪がぶら下がっているより飛行時の抵抗は少ないかなってたまに考えていたんだよね」
「へえ。なるほど……そこら辺も含めて調べてみようかな」
こうして閉館時間まで2人で向かい合い。書籍とにらめっこをした。




