35.謝罪
端末の向こうでは、何やらパメラとステーシーで端末を取り合うような音がゴソゴソと続き、しばらくするとパメラが通話口に出てきた。
「あの、リュート君。ごめんね」
「とんでもないよ。むしろ謝るのは僕の方なんだから」
「ううん。そんな事無いよ。それで……どう? 少し良くなった?」
「うん。もう大丈夫」
「良かった……」
チラリと横を見ると、母親が必死に2人の通話を聞こうと耳を近づけようとしている。俺は必死に目で向こうに行くように訴える。しかし母親は俺のそんな素振りを気にせずに、口をパクパクして、「行ってきな!」と何度も俺に伝えようとしていた。
――そうだよな……。
「ねえ。パメラさん。今から少し時間あるかな」
「え?」
「今からそっちに行っていい? 家とか分からないから駅までしか行けないけど……」
「リュート君はもう大丈夫なの?」
「うん。もしよかったら駅で待っててもらえる?」
「……うん」
よし。ちゃんと話してこよう。
俺は端末を切ると、そのまま家を出た。出かけに母親の「しっかりやりなさいよっ!」と言う声が聞こえた。
再び駅まで行くと、チケットを買い、パメラの家の方向に向かうホームに向かう。うん。気持ちはだいぶスッキリしてきた。母親のあんな、無邪気に子供の恋路を覗き見しようとする姿を見てだいぶ毒気も抜けてしまったのもあるかもしれないが。
うん。もう父親の事は気にしない。完全には無理かもしれないけど……今の自分の状況からまずキチンとさせ無いと。それにはまずパメラにちゃんと謝らなくちゃ。
うちの最寄りのショパール駅からパメラの家の近くの駅までは、二駅だ。トレインが来るまでは少し時間がかかったが、乗ってしまえばすぐに着く。快速の止まらない少し小さめな駅につくと俺は駆け足で改札口へ向かった。
――いたっ!
パメラは改札の向こうで待っていてくれた。俺の姿を見ると少し緊張しているのか、ちょっと硬めの笑顔をみせる。
「ごめん、待たせちゃった?」
「ううん。私も今来た所」
流石にじゃあパメラの家に。など言えるほど俺の心はぶっとくない。どこか、喫茶店のような所でも無いか聞くと、パメラは、この街にそんな気の利いた店はないんだと自嘲気味に答える。近くにちょっとした公園があるからそこに行こうかと言われ、向かった。
公園でカップルが話をするならブランコで。そんなイメージで居たが、公園では子どもたちが遊んでいたため、隅のベンチに2人で腰掛ける。
「でも、顔色も良くなったね。良かった……」
ホントにパメラはいい子だ。こんな俺にも優しさを向けてくれる。それだけに再び申し訳ない気持ちを強く感じてしまう。
「せっかくお勧めのスイーツに連れて行ってもらうハズだったのに。本当にごめん」
「もう。謝るのはもう終わり。あの時のリュート君本当にすぐにでも倒れちゃいそうな感じだったんだもん。気にしないで」
「うん。ありがとう」
「もしかして。第8世代のニュースが関係有った?」
「そう……だね。やっぱり分かるよね」
「でも理由までは、色々考えたんだけど。もしかして、リュートくんも第8世代を開発していて、先を取られちゃったのがショックだったのかなとか?」
「え? いやいやいや。まさかそんなレベルでゴーレムやってないよ」
「ふふふ。でもリュート君ならって少し考えちゃった」
もうパメラに対して自分のことを隠そうとかは考えていなかった。出来るのならこれからもパメラと……一緒に色々な所に行ったりしたいんだ。
俺は父親のこと。両親の話。そして俺の気持ち。順にパメラに話していく。
流石に、俺の父親があのカーティスだと聞くと驚きの表情を見せたが、話を進めていくと俺の事を気遣うような素振りをみせる。俺も心の整理がついたつもりだったが、話をしていると少し気持ちがまた揺れて、言葉に詰まったりしてしまう。
上手く話せたか分からないが。パメラは最後まで俺の話を聞いてくれた。それだけでも気持ちは少し楽になった。
「ステーシーも怒らせちゃったな……」
「今回のデート……うん。私達はデートのつもりで、ステーシーも一緒に色々考えてもらってたから」
「そっか。僕もデートのつもりだったんだよ。友達に洋服選んでもらったり」
「ふふふ。一緒だね」
「ゴーレムの話は絶対するなって言われていたんだけどね。失敗しちゃった」
「失敗じゃないよ。私はリュート君がゴーレムに夢中になっている姿に惹かれたんだもん」
「え?」
「あ……ごめん。今の無し」
まじか……惹かれた? パメラが? 俺に? ホントに???
「駄目だよ。無しにしないでっ! 今の墓場まで持っていくから」
「もう……」
「ごめん。僕はパメラの事、まだ全然分からなくて」
「そ、それはそうよ。まだ出会ってからそんな経ってないし」
「完全に一目惚れだったんだ」
「え?」
「あ……ごめん。今のも無しで」
俺は、ちょっと調子に乗ってしまっていたかもしれない。パメラの方をみると、パメラは少し顔を赤くして、それでもじっと俺の目を見つめてくる。
「駄目よ。無しにしません。でも墓場までは持っていくかわからないけどね。ふふふ」
「ははは……」
か、可愛い……。
それから俺たちは、空が夕焼け色に染まるまでベンチに腰掛けて話をした。
「今日の話、ステーシーには話しても大丈夫だけど。あまり他の人には言わないでね。恥ずかしいし」
「うん。多分シーちゃんも家でイライラしながら待っていると思うの」
「そうだね。もう遅いしステーシーの所に行って。俺も帰るよ」
「じゃあ、駅まで送るね」
パメラに駅で見送られ駅に向かう。また日を改めてスィーツを食べに行く約束をし、俺は充実した気持ちで家にむかった。
うん。色々あったけど、今日は良い日だ。最高の一日だったな。




