33.初デート 2
「ホントにごめん!」
シアターから出て、俺は必死に謝っていた。だけどパメラは気にしていないよと言う。でも自分がオススメしたムービーを見に行って、隣で寝られたらやっぱ嫌だと思うんだ。
「大丈夫だってば。……でも昨日も遅かったの?」
「え? うん。ちょっと今日のデートが楽しみだったのかな、なかなか眠れなくて。なんか、遠足の前の日の子供みたいで恥ずかしいよね」
「……ううん。私も、昨日はなかなか眠れかったから。ホントはね、途中ちょっと眠くて必死に起きていたの。だから、気にしないで」
「あ、ありがとう」
なんだって? パメラも? 楽しみで眠れなかったのだろうか、それとも不安で? ちょっと聞いてみたい気もするが、触れちゃいけない気もする。でも、楽しみにしてくれていたらちょっとうれしいかもしれない。
ムービーが終わると時間も良い感じでパメラがお昼を食べようと誘ってくる。なんでも学生向けで安くて美味しい店があるらしい。
店に向けて歩いていくと、途中のブロックに建物を壊しているような工事現場が有った。
「あれ? ここってウエストデパートが有った所じゃなかったっけ?」
「うん、かなり老朽化が進んでいたらしくて建て直すみたい」
「へえ」
工事現場の横を歩いていくと、工事用車両の通る場所がある。通り過ぎながらチラリと中に目を通す。
ん?
え? まさか……。
足を止めて、車両の出入り口まで戻る。
「リュート君? どうしたの?」
「あ、いや。ちょっと気になるのがあって」
「気になるの?」
パメラも気になったのか俺の隣に来て中を覗く。中では作業用ゴーレムの召喚ユニットを組み立てている人たちが居た。
工事現場で使うような重機タイプの作業用ゴーレムは、起動術式や補助術式を全てメーカーの技術者が設計して作られている。なので玩具のゴレカーのように召喚師が魔力を通せば誰でも同じゴーレムを召喚することが出来るのだが、それを全て詰め込んだ物が召喚ユニットとか起動ユニットなどと呼ばれる。
ただ、誰でも召喚できると言っても召喚師の魔力で起動術式から補助式までを動かすために相当な魔力量が必要となる。こういったユニットの担当召喚師はエリートと言っても良いだろう。
「ほら、あそこ見て。DATのマークが付いているユニット。あれ新しいでしょ?」
「うーん……まだあまり使っていなそうだね」
「うん。ちょっとここからだと型番の表記が見えないんだけど、多分BK-6601だと思うんだよね。流石州都は都会だね。地元じゃぜったい見れないよ。……あ、起動始めそうだよっ!」
「う、うん」
DATのBK-6601は今年出たばかりの最新式重機ゴーレムだ。ユニットによって色んな作業をすることが出来るが、おそらく今日のはビルを壊すタイプのだろう。MATUKOと言うライバルメーカーと比べデザインもおしゃれで人気がある機種だ。目の前で見れるならこれを見逃す手はない。
召喚師らしき人がユニットの前に立ち、魔導回路に手を置く。しばらくするとユニットから光が漏れ始める。これも術式をコピーされないようにユニット内で魔法陣が発生して見えないようにしているのだろう。ユニットの継ぎ目から強い光が漏れているさまはなんとも幻想的でいかしている。
ゴゴゴゴゴゴ……。
「おおおお!」
光とともに大型の作業ゴーレムが出現する。やべえ。めっちゃかっこいい!
「みて、あのスタイル。デザインといい良くできているよねっ。数年前からきっと良い技術者が入ったんだと思うんだよ、BK--6001辺りからぐぐっとデザインが良くなってね」
「う、うん」
「ベースは第5世代だからね、補助式まで召喚師の魔力を分割して使うからかなりの消費魔力だと――――あ……。ごめん……」
いかんいかん。何をやっているんだ俺は。今はパメラファーストだろ? ゴーレムなんかにうつつを抜かしているんじゃないよ。
「え? 全然だいじょうぶだよ。うん。かっこいいね」
「そ、そうだよね……うん。ご飯行こうか。ごめん。夢中になっちゃって」
パメラは気分を害した感じは見えないが……俺は慌てて謝り、レストランに向かう。なんか、今日は謝ってばかりだ。
パメラが連れてきてくれた店は工事現場から10分ほど歩いた所にあった。雑居ビルの二階部分にあるということで、ビルの正面脇から弧を描くような階段を登っていく。店の看板や幟を見ると見慣れた国旗のカラーが描かれている。
「あ、もしかしてビタリー料理?」
「うん、リュート君、ビタリー料理は好き? あまり好き嫌いのなさそうなのを選んだんだけど……」
「あ、うん。僕も大好きだよ」
これは本当だ。というか若者でビタリー料理が苦手だと言う話は聞いたことが無い。母親も定期的に作ったりもする。
店員に案内され、角の二人がけのテーブルを案内される。渡されたメニューを見ると……うん、ちょっと高い。パメラは学生向けのやすいお店と言っていたのだが。安いやつでもパスタが1500Gとかするのか。やっぱりパメラの生活レベルはちょっと高そうだな。でも、臨時予算を貰っている今ならなんとかなる。
「この店の料理は一皿2人前位あるの。ほら。だから2人で一皿頼んでシェアする感じなんだけど……リュート君は何か食べたいものある?」
え??? な、なんだって? 確かに言われてみればメニューの上にそういう但し書きがある。それで計算すれば、値段的には問題なさそうじゃないか。むしろ学生向けに良いかもしれない。でもシェアか……なんかカップルみたいじゃないか。うんうん。良い。良いぞ!
「あ……でもシェアしなくても小盛りで頼めば500G引きの値段に成るからそれでも良いけど……」
「いや。シェアしよう。うん。それが良いと思う。せっかくだし」
「ほんと? うん。そうだね。じゃあ……どれが良いかな?」
言った後に、何が「せっかく」なんだろうと発言にちょっと後悔したが、パメラは気にしている様子が無かったのでホッと会話を続ける。
家でパスタといえば、ほぼほぼトマト系の物に成るため、外で食べるときって割とクリーム系のパスタを食べたく成るんだけど。聞くとパメラもクリーム系は好きだということで2人で一皿を注文した。「サラダはどうしよう?」とパメラは聞いてくる。なるほど、女の子はヤサイも食べるのが普通なのか。外食なんて数えるくらいしかしたことがないが、サラダなんて頼んだ経験はない。そのサラダも大皿っぽいので来るらしく、パメラに決めてもらう。
メニューが運ばれてくると、パメラが俺の分も取皿に取ってくれる。「いっぱい食べてね」と、自分の皿より多めに盛ってくれるパメラを見ているとなんとも言えない幸福感に包まれる。
――女の子って良いなあ……。
女の子が良いのか、パメラが良いのか。そんなことよりやばいよ。幸せすぎて涙が出そうだ。今日だけでも失態を繰り返してしまったのに。この子は相変わらず優しい笑顔を俺に向けてくれる。
向かい合って、一緒に御飯を食べて、ただ話をしているだけなのに。今まで経験したことのない日常に感じてしまう。
「そう言えば、この前言っていたスィーツってここのお店にあるの?」
「え? ああ、あれは違うお店なの。3時のおやつにどうかなって思って」
「そうなんだ、イイね~。楽しみにしているよ」
「ほんと? 良かった。じゃあそれまでどうしようか。リュート君は行きたいお店とかあるの?」
ん。行きたいお店か……。
格闘ゴーレムの競技場は確かに州都にはあるけど、あれは未成年は入れないしなあ。ゴーレムショップも大手の大きい店はあるんだけど……いやいやいや。ゴーレムは無しで。だ。PJが何かアクセサリー的なものを買ってあげるのが良いって言っていた気がするが、そんな店は知らないしなあ。
「パメラさんは、何か行きたい所とかあるの? 僕はあまり州都解らなくて。有れば付き合うよ」
「ん~。駅前のプラッツなら若者向けのお店が多いから行ってみようか」
プラッツは、全国的に展開している若者向けのファッションなどが充実してるデパートだ。確かにあそこならパメラも洋服を見たり出来るし、ちょっとしたアクセサリーもあるのかもしれない。
食事を終えると再び2人で駅前に向けて歩いていった。
駅前に行くと何やら今朝と来た時と比べ多くの人で賑わっていた。それにしてもなんだろう。結構な人が駅前の広場で上を見上げ、駅前の巨大モニターの方を見ている。俺も釣られてモニターに目を向けると、ニュースが映されていた。
『本日、ゴーレム召喚術式の第8世代が発表されました。今後、国際召喚式委員会で正式に承認されれば、我が国初の新世代術式の開発の成功となります。ゴーレム科学研究所のカーティス・スターン博士は――』
――え? マジで本当に完成させたのか……親父。
「凄い。……第8世代にまでなると私には良くわからないんだけど。これって凄いニュースだよね? ふふふ。リュート君、興味あるでしょ?」
「え? ああ……うん」
ゴーレム関係のニュースにパメラは、俺が興味あるんだろうと嬉しそうに話しかけてくる。そんな中、俺は速報を伝えるモニターから目を離せずにいた。父親が多くの記者に囲まれコメントを求められている姿だった。動く父の画像を見るのは何年ぶりだろう。
『カーティス・スターン博士、おめでとうございます! 何か一言お願いします』
『この召喚術式により世界のゴーレム技術の底上され、これが平和につながることを期待しています。開発に携わってくれた仲間たち。仕事に理解をしてくれ支えてくれた妻に感謝を捧げたいと思います』
……え? ……なに?
ドクン。
……はい? 妻? 親父……何を言っているんだ? 嘘だろう? 母さんは1人で苦労しているっていうのに。……どういうことだ?
確かに、あの時。父親の浮気で両親が離婚した事を考えれば、父親の再婚はありえない話じゃない。だが……そんな話全く聞いていない。
――そんな……もしかして自分だけ……家族も、名声も? そんなのありえないだろ!
俺は、どうしようもない感覚の中。ただただパニックに成っていた。
「リュート君。大丈夫?」
「パメラさん……ごめん。帰らないと……」
思わずつぶやいた言葉にパメラが驚いているのがわかる。だけど……。
「え? ……うん。そうだね。大丈夫? リュート君……すごい顔色よ?」
「うん。大丈夫。ごめんね。せっかくのデートなのに」
「全然。気にしないで」
俺はフラフラした足取りで駅に向かっていく。
――母さんが、このニュースを見たらやばいかも。早く帰らないと……。