31.パメラ 2
――パメラ目線――
図書館でリュート君に教わった事は、まさしく飛行班でこれからやっていく私達に取ってはとても重要なことだった。鳥ゴーレムコンテストでは、基本的に術式は開示されないため放送を観ていてもそこまでのことを考えたことはなかった。
飛行力学を応用すること。
レポートの内容も急遽変え、結果、私達の発表は先輩たちを満足させるに足りるものと成った。それだけにグループの仲間たちに良く気がついたなと礼を言われるのが少し後ろめたく、シュウ君はリュート君の友達ということでこっそり打ち明けることにした。
「……それをリュートが?」
「うん、何の本を探しているのかって聞かれて、浮遊魔法の本って答えたら、飛行班は浮遊魔法を使わないでしょ? って」
「あいつ……あまり俺にもゴーレムの話はしてこないんだよ。なんか始めゴレ班とか避けていたから嫌いなのかなって思った時もあったけど。話しているとゴーレムは結構好きそうな感じはあるんだよな」
「きっとリュート君は、ゴーレムが大好きでたまらないんだと思うのよ。なんか不思議な人だよね」
「ん~。毎日話していると不思議なやつって感じはしないんだけどね」
発表の後、私はリュート君にお礼をしようと図書室へ向かった。
案の定、リュート君は図書室で、また少し難しそうな本を熱心に読んでいた。私がリュート君の前に座っても、全く気がつくこと無くひたすら本に熱中している。声をかけようかとも思ったけど。邪魔をしたくなかった私は少しその様子を眺めて待つことにした。
リュート君は、茶色の少しウェーブのかかった髪の毛をしきりにガシガシとイジりながらブツブツと何かをつぶやいている。魔法言語だろうか。きっと楽しいんだろうな。少し困ったような顔をしたと思えば、次の瞬間には何か嬉しいことでも気がついたのかニヤリとしてノートに乱雑にメモを取り始める。
ノートの字は妙に癖のある特徴的な字だった。走り書きというのもあり、正直何を書いているのか私には分からなかったが、なんとなく補助式であるのは分かった。ゴーレムが大好きなのは飛行力学の話を聞いたときに分かっては居たが、ゴーレム馬鹿である私の兄でもここまで楽しそうにゴーレムの事を調べたりはしないだろう。私は集中している彼を飽きずに眺めていた。
図書館の閉まる時間が近づいてきた。リュート君はようやく本から目を離し体を伸ばした時。とうとう私に気がつく。時計を見ると、おそらく30分以上はこうして居たと思う。
「あ。あ」
リュート君はまるで魚のように口をパクパクさせて固まってしまった。その後何度か会話をしたけど。少し人見知りなのかもしれない。なんとなく悪いことをしてしまったような気がしてしまったが、男の子とこうやって学校から帰る事なんてしたことがなかった私には少し刺激的で楽しかった。
……
「へえ、パムがねえ。恋をしたわけか」
「もー。シーちゃん。なに言ってるのよ。別に恋をしたって話じゃないでしょ?」
「でも私の経験の中で、そんな感じの話をするパムは初めてよ。これは地震でもくるんじゃないの?」
「大げさなんだから。そんなんじゃないんだから」
「で、で。どういう子なの? その、リュート君?」
次の日、幼馴染のステーシーにリュート君の話をすると、妙に食いついてくる。確かに私がステーシーに男の子の話なんてしたことはあまり無いかもしれないけど。……いや。あるわよ。中等院の頃にとある役者さんに入れ込んだことがあったじゃない。
それ以来、たまにシーちゃんがリュート君の事を聞いてきたりしたが、レポートの調べで図書館に行ってもリュート君を見かけることはなくなってしまった。もしかしたら避けられているのかもしれない。少しそんな事も考える。
リュート君に再び出会えたのは、シーちゃんとゴーレムショップに行った時だった。
レポートを何度かこなしては居たが、私達一年生は飛行班に入って一度も召喚をしたことがなかった。同じように不安を持った人が先輩に聞いた所、自分たちで召喚石を用意して召喚練習をすることは全然構わないと言う話だったため、シーちゃんと一緒に練習をしようと買いに来たのだ。
「おお。リュートじゃないか。久しぶりだなあ!」
2人で召喚石を決め、会計しようとしたときだった。店のおじさんが大声で私達の方に向かって声を掛けてきた。リュート君? もしかしてって思って振り返ると、そこにリュート君が白い顔をして立っていた。
「お前の欲しがっていたBUI BUI ゴレカーの勇者号が再販になったから一応抑えておいたぞ。買ってくだろ?」
なにやら、リュート君はこの店の常連さんの様な感じだ。中等院の頃から班活の関係で何度か来たことはあったが、この店のおじさんは少し気難しそうな人で、私達は全く馴染みな感じには成れなかったんだけど……。
ブイブイゴレカーは、シーちゃんが言うには子供向けのアニメらしい。リュート君は普段からゴーレム玩具で遊んでいるのだろうか。本当に根っからのゴーレム好きなんだなって分かる。
リュート君と話をすると飛行班は班費が多く召喚石も使い放題のように思っていたらしい。一年生は自分たちで用意して自主練をする話をした。そしたら、また変なことを言われた。
「そうなの、1年生でも召喚師が3人居るのよ。私も頑張らないとって。早く第4世代を使えるようにならなくちゃね」
「でも、うちの飛行班だと第4世代にこだわらなくても良いでしょ?」
「え?」
「え?」
作業ゴーレムだろうが、飛行ゴーレムだろうが、ゴーレムをやるなら世代の上の起動式を使えるように成ったほうが良いのは常識だ。
それをどういう意味で、そんな事を言ったのだろう。一瞬からかわれているのかと思ったが、たぶんリュート君はそんな事を言う人じゃないと思うの。
「どういう事なの?」
そう聞くと、再びリュート君はしどろもどろになる。
そう言えば……この後シーちゃんと新しく出来たパフェのお店に行くのを約束していたのを思い出す。シーちゃんも大丈夫だと言っているし。私はリュート君が逃げてしまう気がして、思わず手を取って店まで連れてきてしまった。今思うと、少しやり過ぎてしまった気もする。どうしてそんな事をしたのだろう。
始めはオドオドと私達2人を気にしていたが、ゴーレムの話になると以前のように饒舌に話し始める。そしてそんな時のリュート君はなんだかとても楽しそうだ。以前シーちゃんに話した通りの現象が目の前で起こっている。そしてふと素に戻り、また失敗した様な困った顔に成る。
「……ね?」
「……うん、たしかに」
シーちゃんも興味深そうにリュート君を見ていた。
帰り際に、シーちゃんが突然変なことを言い出す。リュート君と連絡先を交換しないの? と。私は思わず慌ててしまったが、リュート君はちゃんと連絡先を教えてくれた。
でも、夜に今日のお礼を送ったけど、全然既読にならない。
もしかしたら、パフェとかあまり好きじゃなかったのかな。少し面倒くさい女だと思われたりしてないかしら……。次の日に返事が来るまで、私はなんとなく悶々とした気持ちでいた。
その後、シーちゃんが妙にリュート君の連絡が来ているかを気にしているのだけど……リュート君からは連絡をくれることはなく、シーちゃんはそれを聞いて勝手に怒っている。
でも、その割にシーちゃんはたまにおせっかい病が出て、一緒に食べていたスイーツの写真を勝手に送りつけたりしちゃうのだが。その後はちゃんとリュート君は返事をしてくれるし、その時に少し会話が進むので悪くはないなと思っていた。
でも、せっかく連絡先を教えあったのに、なんで連絡くれないんだろう。気がつくとそれを気にしている自分がいる。自意識過剰過ぎかしら。
だからだろうか。初めてリュート君から連絡をくれた夜。思わず2人で出かけようとお誘いをしてしまった。
何が楽しいのだろうか、シーちゃんは今度のお出かけの為の洋服や、今上映しているムービーの情報、昼ごはんも一緒に食べてこないとと、食事をするお店まで考えてくれる。特に洋服にはうるさかった。私がこんな感じはどう? と言うと首を横に振る。
「こないだのリュート君の私服覚えていないの? たぶんそこまで服装にこだわらないタイプの男の子よ。そんな格好していったら、お嬢様と召使いみたいに成っちゃうわよ。ほら。もっと可愛い系で行かないと」
なんとも酷い言い草だ。
そう言えば以前シーちゃんとお揃いで買った服は、私の好みと言うよりシーちゃんの好みの可愛らしいパンツだったな。シーちゃんのOKも出て、服装も段々と決まっていく。帽子は、あざとすぎだから駄目って言われた。
約束の日が近づいてくると、なんとなく私もシーちゃんもソワソワし始める。
まるでそれじゃあデートじゃない。
……デート。なのかな?
リュート君はどう思っているんだろう。




