29.社長の肩書
パメラは今週末は予定があるということで、来週末の7曜日に出かけることになった。この国では一週間は7日。週末は週の最後の7曜日と週の始めの1曜日の2日が休日となる。思わぬ展開に俺はテンションを上げつつパニックにもなっていた。
――今月のお小遣いは貰ったけど、足りないかもしれない。どうしよう。
うちは母子家庭で必死に母親が毎日働いている。そこまで裕福な感じではないんだ。それでもお小遣いは毎月1万Gを貰ってる。多分学生のお小遣いの平均額くらいじゃないのか? それを考えると気軽にお金の無心などは出来ない。
でも、お金が足りなくてパメラの前で恥をかくわけにはいかない。
昼休みにPJとシュウに報告すると、良くやったとひたすら持ち上げられはしたが、着ていく服はあるのか? と聞かれ、再び不安になる。
学校には制服を着てくれば良いので何も悩まないのだが。服に関しても今まで無頓着で地味な似たような服が数着あるだけだ。考えれば考えるほど不安が募る。
「もしあれなら、今週の7曜日空いてるから、服でも見に行くか?」
「か、金が無いんだよ。うちはそんな裕福じゃないし……」
「ああ~。まあ、ほら。等身大のお前を見てもらえば良いんじゃないのか? あまり気取った格好しても後から辛いからな。シンプルできれいな格好していけば、それでも問題ないと思うぜ」
「う、うん……」
情報として、シュウが言うには、パメラの家はそれなりに裕福な家庭のようだ。パメラからの情報というより班長の情報ではあるのだが。兄妹だからな。そこは共通の情報だ。以前ゴーレムショップで選んでいた召喚石も、後からステーシーと半分ずつ出し合っていたのは知っていたが、良いものを買っていたのも思い出される。
そんな感じに。段々と俺の気持ちは沈んでいった。
それでも授業が終わりるといつものように班室に向かう。ドアの前で取っ手に手をかけた時。何やら中で盛り上がっている声がするのに気がつく。
――なんだ?
そう思いながら俺はそっとドアを開けた。
「ヴィル。あんた最高だよっ!」
「あざっす! 社長のご指導のおかげでありますっ!」
なんだなんだ? 班室の中では、マルクと社長とヴィルの3人がジュースで乾杯をしていた。俺が入ってきて一瞬こっちを見るも、なんか嬉しさが止まらないようですぐに3人の世界に戻っていく。
「マルク先輩にも感謝ですっ!」
「ふふふ。持つべきものはコネクションを持つ優秀な先輩って訳だな」
何やらマルクも珍しく役に立っているようで、自慢気にしている。
「な、何が有ったんですか? 社長」
「ん? そうだなあ……」
社長が答えようとしたタイミングで、今度はホイスとキーラが班室へ入ってきた。
「ん? えらい盛り上がってるやないか。どないしたんや?」
「パーティー??? なんでえ?」
「いや、俺も来たばかりでよくわからないんだよ」
1年3人で戸惑っていると、今度はケーニヒがやってくる。
「お、交渉が上手く行ったみたいだね。珍しくマルクも役に立っているじゃないか」
「め、珍しくって言うなよっ!」
どうやら、ケーニヒは事情を知っているようだ。なんとなく取り残された気分に1年3人はボーッと盛り上がっている先輩たちを眺めていた。
「ああ、ごめんね。いや。ちょっといい商談がまとまってね」
流石に放置は可愛そうだと思ったのか社長が説明をしてくれる。
話的には、社長とヴィル。そして社長のクラスメイトのマジコン班に所属している生徒の3人で学生起業をしているという事だった。その起業というのが……。
「お、お悔やみスペース??? なんですか? それ」
随分縁起の悪そうな会社じゃないか。ん? 会社じゃないのか? マジックスペースで何か商業的なスペースを開設しているという事なのか? だけど、お悔やみって……。
「簡単に言うとさ、割とどこの家庭でもニュースペーパーは取ってるでしょ? 家も同じ様に取っているんだけど、ウチの親ってその割にあまりニュースを見ていないのよ。それが凄い無駄だなあって思っていてね……」
中等院時代の社長が気になって、何故それを毎月のお金を払って購入しているのかと親に聞いてみると。ニュースペーパーに毎日載る「訃報」を見るためと言うのが一つの理由として答えが帰ってきた。知り合いのお葬式とかを見逃さない為というわけだ。
そこで思いついたのが、訃報をマジックスペース上で共有すればニュースペーパーを買わなくても無料で情報が得られるんじゃないかと言う考えだった。考えを進めていくと、登録者数が増えてスペース上で確認する人が増えれば広告収入も得られるように成るんじゃないかとビジネスの形として成り立つような気がしてくる。そして社長は1人で中等院時代から計画を練り続けていたらしい。
高等院に入院し、部活で一緒になったヴィルにその話をするとヴィルの幼馴染にマジコンオタクの男が居て、そいつならマジックスペース上でそれを実現できるんじゃないかという話になり。丁度そいつは社長のクラスメイトでも有ったため、話が一気に進み計画が始動したというのだ。
そんな中どうにかスペースを開設するも、なかなか登録者数は増えない。登録者数を増やすというサイトの経営に限界を感じた社長が「SCS」つまりソーシャルコネクティングサービスと言われる、人と人とを繋ぎ交流するためのスペースとの連携を考えたらしい。
たまたまマルクの近所に住んでいる人で中堅のSCSの会社に努めている人が居たため、その繋ぎをマルクがしてくれたというのだ。
運のいいことにマルクの紹介してくれた「ワールドノート」と言うそのSCSは、自分の通った学院や年度を登録する事でいろんな人達を繋ぐことをメインとしたSCSで有ったため、そことの連携を取ることで、自然に自分の同級生などの訃報情報を得られる様になる見込みがあった。
そして先週末。マルクとヴィルが、州都にあるハイランド州本社に赴き提携の契約を取ったというのだ。
「おおお。ワールドノートって言えば僕だってアカウント持ってますよ」
「まあ、学生起業ということで向こうの担当さんも比較的好意的に対応してくれたしね。一応ちゃんと学生起業システムには登録しているし」
学生起業システムは、国が若者の新鮮なアイデアを募って起業をバックアップすると言う方策の1つだ。システムに加入を許されれば国からの融資も受けられる。一般企業との提携でも、国からの後ろ盾があると見られるのも強みだ。
「すごいやないすか。じゃあ社長さん、その売上で召喚石もドドーンと――」
「それは駄目なの。国の学生起業システムに入っちゃうと、大学院を卒業するまで稼いだお金も受け取れないのよ」
「へ?」
「起業に必要な経費を受け取れるだけなのよね。恩恵がある代わりちゃんと学業もこなさないとって話なのよ。勿論生活に困っている起業者なら生活費くらいの受け取りは出来るみたいだけど」
「マジか……」
それでも、お悔やみスペースがそれで成功すれば、広告収入もそれなりに見込めるんじゃないか? 大学院を卒業した瞬間にかなりのまとまったお金が入るのかもしれない。
すぐにでもデート資金としてのお金が欲しい俺には、かなり羨ましいような、厳しいような……。
ようやく社長のあだ名の由来が分かったが……。
ゴレ班だよね? ここ。