27.本入班
なぜか、とても不思議なのだがキーラの召喚陣がうまく起動するため、キーラの起動練習の問題はクリア出来た。ただ、なんだかんだ言って召喚陣の手書きには少々時間を取られるので、召喚石があるうちは、1日1回くらいにして、後は召喚石での練習を行っていく。
飛行班の中で、俺達が召喚陣を手書きで行っている噂が流れたのだろう。昼休みにシュウも飛行班の中で「ゴレ班が召喚陣から書いている」と言う話があったと言っていた。例の2年の嫌な奴……名前はハーマンと言うらしいが、アイツは「貧乏人のやることだぜ」と馬鹿にする感じだったらしいが、キーラに手厳しく言われたのが凝りたのだろう、体育館で一緒になっても何も言ってくる事はなかった。
シュウも自分たちも出来るかなと興味を持っているようだけど第2世代ならともかく、第3世代の少し複雑になった召喚陣の見本を見せると、ちょっと自分たちで書くのは厳しいと感じてるようだ。俺が失敗したんだ。それは難しいに決まっているが。
そんな中、いよいよ一ヶ月が過ぎ、俺たち1年も本入班となる。うん。長かった。これでいよいよケーニヒに例のアレを教えてもらえる。俺はワクワクしながら班室に向かった。
「先輩! 今日から僕らも本入班ですよっ!」
「おお、そうか。うん。これからもよろしくな」
「はい。……それで……」
「ん? どうした?」
どうしたって……。あの約束覚えていないのだろうか。俺はケーニヒにエライサ式の第3世代への転用方法を教えてくれるって言っていたのに。思わずジト目でケーニヒを見つめる。
「ははは。覚えていたの?」
「忘れないですよ」
ケーニヒはしばらく思案していたが、やがて一冊のノートを持ってきて開く。そしてペンを俺に渡しニヤリと笑う。
「それじゃあ、まずエライサ式の基本形を書いてみて」
「え? 僕がですか?」
「うん。出来たら教えてあげるよ」
くそ。エライサ式は補助としては3行分のスペースを使う長文術式だ。アンドリュー次式の倍くらいはある。しかし「書けない人に教えるのはなあ」なんてはぐらかされる気がする。
……いけるか? しばらくエライサ式の勉強はしていない。うろ覚えだが……見てろよ。
俺は必死に記憶を手繰り寄せ、ノートに術式を書き始める。
「ほお……」
俺が術式をノートに書き始めると、ケーニヒは興味深そうにそれを覗き込む。
その様子に気になったのか、ホイスも近づいてきた。
「な、なんやこれ……アンドリュー?……いや違うか……しかし」
他の班員達も気になったのか、周りに集まっているが。今はそれどころじゃない。気を緩めると記憶が飛びそうだ。あやふやなところは俺の知識を総動員して正しいと思われる形状で繋ぎ……なんとか書き上げる。
パチパチパチパチ
拍手をしながら心底驚いた顔でケーニヒが俺を見ている。
「少し、記憶が怪しいところは少しアレンジしてしまいましたが、おおよそこれで起動すると思います」
「うんうん。いやあ。驚いたよ。本当にここまで理解できているとはね」
「じゃあ、教えてもらってもいいですか?」
「……うん。そうだね。これは断れないなあ」
そう言いながら、ケーニヒは俺からペンを受け取る。やっぱり出来なかったら断るつもりだったのか? 俺は座っていた椅子から立ち上がり場所を譲りながらも、ケーニヒの動きから目を離さずにいる。
「エライサ式が第3世代に乗らない理由はシンプルなんだよ。その必要魔力量が第3世代の物より大きすぎるという事。だからね。僕は無駄に魔力を使用する部分をカットしていった。時として術式には足し算より引き算が大事になってくる」
そう言いながら、俺の書いたエライサ式にペンでシュッシュと訂正線を引いていく。
――訂正されたところは使わないっていう事か?
ケーニヒは見ている間に次々と使わないと思われる術式言語に線を引いていく。やはりケーニヒもちゃんとエライサ式を理解しているようだ。確かに消された箇所を使わなくても術式構成は崩れない。ちゃんと術式として成り立つようになっている……。
――すごい……いやでも、これってエライサの意味は残るのか???
ん?
あれ???
いや、ちょっとまて!!!
「ちょっと、先輩!」
「ん? っとよし。こんな感じだな。これでエライサ式も第3世代に乗るようになった」
……。
「これって……」
「ん?」
「ほぼアンドリュー次式をアレンジしただけの形じゃないですかっ!」
「え? そうなの? 良くわからないなあ」
「うわっ。騙したんですか???」
「いやぁ。人聞き悪いなあ。別に嘘じゃないだろ? エライサ式をちゃんとアレンジして第3世代に乗るようにしたんだよ?」
「そ、そうですが。だけどっ。え??? マジっすか???」
「はっはっは。この術式を代々後輩に伝えていってくれ。ゴレ班の秘伝だ」
「……」
や、やられた……。
一ヶ月、ずっとこの術式を教えてもらうのを楽しみにしていたのに。
俺は体の力が抜けたように椅子に座り込む。
その様子を見ていたケーニヒがちょっと困ったように言う。
「まあ、ほら。皆を見てご覧。アレだけの術式をそらで書き上げたんだ。これは凄いことだよ。皆にもゴレ班の仲間としてより一層受け入れられるんじゃないかな」
「はあ……」
「そうやで。なんとなくお前は只者やないって思っとったが。すごいやないか。見直したで」
「うん、なんか良くわからないけど、リュート君凄いって感じしたよっ」
「うんうん、使える後輩が入ってきたみたいだな」
ケーニヒが底抜けに爽やかな笑顔で、俺に向けて手を伸ばしてきた。
「これでいよいよリュートも我がゴレ班の一員だ。よろしくなっ!」
みんな……。
俺も思わず手を伸ばし、ケーニヒの手を取りそうになる。
って
チクショー!
騙されないぞ! いや。騙されたけど!