25.召喚陣 1
家に帰って、何度も何度も端末をチェックし何かメッセージが入っていないかと確認する。期待をしないようにと考えるのだが、どうしても野暮なことを考えてしまう。
夕飯の時も机に端末を置いて、チラチラと見ていたら母親に叱られた。
「もう、ご飯の時くらいそんなの見ないでよ。片手で食べて片手で端末だなんて」
「あ、うん。ごめん」
「あまり端末ばっかりいじってると、禁止にしますよ」
「分かったよ。大丈夫。ちゃんとご飯食べるから」
やばい。あまり端末を気にしてばっかり居ると何かを感付かれそうだ。気をつけないと。
食事も終わり、自室に戻り再び端末をチェックするが、何の通知も入っていない。
……
いや。そんなのを気にしていてもしょうがない。自分から送れない小心者の俺が悪いんだ。そう言い聞かせて、今日買ってきた『BUI BUI ゴレカー』を取り出し、召喚陣の印記をする。この面倒な作業が実はなかなか楽しいんだ。ちゃんと均等に出来ればそれなりにキチンと起動もできる。
ポッ
起動したゴレカーを悦に浸りながら眺めている。
――あれ? そう言えば……。
ゴーレムの召喚には今は召喚陣等を使わないで、召喚石を使うのが普通だ。しかし立体召喚陣が発明され今あるような召喚石が開発される以前は、召喚師が丁寧に召喚陣を描きゴーレムを召喚していたんだ。召喚陣を描くには魔石粉末を特定の溶剤で溶かした魔力泥を使うのだが、これはそんなに高価な物ではない。
これを使えば、結構格安でキーラも起動練習が出来るんじゃないのか?
勿論、こんな玩具に入っている物だと、せいぜい第1世代がやっとだが。ちゃんと調べて描ければ……。
突然の思いつきだが、悪くないかもしれない。
これを描く時間が結構掛かりそうだが、慣れれば部活の時間に毎日1回くらいは出来そうじゃないか。 召喚陣から自分で描いてのゴーレム召喚。考えれば考えるほどワクワクしてくる。やってみたいかも。やばい。これはゴーレムが召喚されたときの感動も相当なものになりそうだ。
その夜。俺はテレスペースの中をひたすら巡り。召喚陣の情報を集めた。第2世代くらいまでの物なら画像つきで説明してあるものが有ったが、なかなか上の世代の物だと見つからない。しかも、流派的な物があるため、スペース毎に召喚陣の書式も微妙に異なる。
ピロン。
そんな端末の通知音にも気が付かないまま。俺は情報収集にのめり込み。やがて寝落ちするまでその作業を続けた。
「リュート。そろそろ起きなさい! もうお昼よっ!」
うう……昨日はだいぶ遅くまで起きてたからなあ。いつもの事だが。もうちょっと眠りたい気持ちを堪える。大きくあくびをして、1階のリビングまで降りていく。
「もう、昨日は何時まで起きてたの? またゴーレムやっていたんでしょ?」
「何時だろう、よく分からない。気がついたら寝てたから」
「それが勉強なら褒めてあげたいんだけどねぇ……」
朝食兼の昼飯を食べると、シャワーを浴びて自室に戻る、部屋で着替えているとチカチカと端末が点滅しているのに気がつく。
!!!
慌ててベッドの上の端末を手に取り開く。……来た!
>>今日はありがとうございました。パフェも美味しかったですね。それではまた学校で。
おおおおお。感触としては悪くないかもしれない。ちょっと硬めの文章だが、あの子のキャラを考えればきっと他人行儀というわけでも無いに違いない。だが問題は、メッセージの着信が昨夜だったということだ。既読した訳じゃないが、次の日の昼に返信って……ちょっとイメージ悪かったか? 何故気が付かなかったんだ。
うん? ……。なんて返事したら良いんだろう。
やっぱり、ちゃんと返事が遅れたのは謝ったほうがイメージは良いのだろうか。誤魔化さないほうが良い気がする……。
>>返事遅くなってごめんなさい。LINKに気が付かないまま作業をして、そのまま寝てしまいました。ゴレカーは起動してみましたか?
よし……。パフェの事書いたほうが良かったかな? 緊張して殆ど味が解らなかったしな。まあ良いだろう。
メッセージを送ると少し安心する、端末をベッドの上に放り投げ再び着替えていると、端末からメッセージの通知を知らせる音がなった。
ピロン。
再びメッセージの通知が入る。お? 早いなあ。いそいそと端末をチェックする。
>>ゴーレムのお勉強ですか? ちゃんと寝てくださいね。ゴレカーはとても可愛かったです。あんな玩具があるなんて知りませんでした。
ゴレカー気に入ってもらえたみたいだな。俺は少し嬉しくなる。
>>ゴーレムの勉強というか、班活でやりたいことが有ったので調べていました。ゴーレム玩具は他にも種類があるので、またお店でチェックしてみても良いですね。
うんうん。面と向かってじゃないと割と話せるじゃないか。これで少しでもパメラに慣れれば実際会ってももう少しまともに話せるかもしれないな。
その後、なんだかんだでかなりの時間メッセージのやり取りをした。今日は街の図書館に行って召喚陣の資料を探そうと思っていたのだが。メッセージのやり取りを終えた後もなんとなく気持ちがフワフワしてしまい調べ物をする気分になかなか成れなかった。
夕方、母親に駅前の商店街でお肉を買ってきてくれと頼まれ、ついでにゴーレムショップで魔石泥と、召喚陣を描くための筆を買ってくることにした。
「なるほど、面白えこと考えるな。確かにちゃんと召喚陣を書けるなら魔石泥で十分だからな。それに俺が子供の頃は召喚石が出たばかりで高かったから、皆描いたもんだぜ」
筆は余計な魔力放出を避けるために魔力伝導の少ないものを買い、魔石泥を大瓶で購入する。魔石泥は、屑魔石などを砕いて作られるため値段は確かに安いのだが、学生の俺には痛い出費になる。今月は買い食いなどは出来なそうだ。毎朝水筒持って学校にいかないと。
「スペースで調べても大したの出てこないんじゃないのか?」
「はあ、第2世代の物はなんとかなるんですけどね、図書館にでも行こうと思っていたんですが、ちょっと時間無くて」
「ちょっとまってろ」
そう言うとオヤジは店の奥に行ってしまう。なんだろうと待っていると、しばらくして一冊の本を持ってきた。かなり古い本で、ところどころ傷んでる箇所もある。何度も読んだのも伺える状態だった。
「これ貸してやる。返すのはいつでも良いぞ」
見ると、召喚陣についての本だった。召喚陣まで学校の図書室には無いだろうと思っていただけにこれは嬉しい。俺は礼を言って店を後にした。




