24.週末のゴーレムショップ 2
パメラ達は俺が会計を済ますまで待っていた。これは……続きがあるって事なのか。なんて仄かに期待の火が灯る。ドキドキしながらもパメラだけじゃなく横にいる友達にも目線を向け必死に何でもなさそうに演じる。
「飛行班って班費が潤ってるって聞いていたけど、自前で買うんだ」
「うん。班員が多いから、召喚石も殆どが2年3年の先輩たちが使う感じなの」
「ああ、お金が多い分、人も多いのか」
なるほど。シュウも1年はあまり召喚させてもらえないって言ってたしな。自主練みたいなものなのかな。
「そうなの、1年生でも召喚師が3人居るのよ。私も頑張らないとって。早く第4世代を使えるようにならなくちゃね」
「でも、うちの飛行班だと第4世代にこだわらなくても良いでしょ?」
「え?」
「え?」
あ……
やばい、またやっちゃったかも……。
実はゴーレムは世代ごとに魔力の消費量が変わる。単純に世代が上がる毎に消費魔力が多くなるんだ。第3世代と第4世代では、消費魔力はそこまで大きい違いがあるわけでは無いが、鳥ゴーレムコンテストでは、限られた魔力量での競技であるため、あえて第4世代ではなく第3世代で挑戦する学院も多い。特に強豪と言われる学院では優秀な補助士が居ることが多いため、魔力消費の少ない第3世代を使いガチガチの補助式で出場するケースが多い。
それでも第4世代でもそれなりに優秀な成績を残せるのだが、世代差はあまりないと俺は考えている。現に去年優勝したゴーレムは第3世代だった記憶がある。
うん……だがこれも部外者の俺がズケズケと話して良いものなのだろうか。
「どういう事なの?」
また失言しちまったと悩んでいる俺に、パメラが更に追求してくる。
「えっと。ほら。そういうのって先輩たちがじっくり教――」
「リュート君、この後時間ある?」
「え?」
パメラ達は、今日は召喚石を買ったら、最近近くに首都で若者に大ブームに成っているというパフェ店がオープンしたということでそこに行く予定だったようだ。PJの言っていたあの店か。そこに付いて来いって、事か。
「いやでも、ほら、友達もいるし迷惑かけちゃうよ」
「ステーシーよ。私も飛行班だから、大丈夫よ。気にしないで」
「いや、そういう事じゃなくて……」
「こうなったパムは誰にも止められないの。付き合いの長い私が言うんだからホントよ」
「マジですか……」
なおも悩んでいると、突然パメラが俺の手をとり引っ張る。
「さ、行きましょ」
やややややばい。全神経がパメラと繋がった手のひらに集まる。
――なんだこれ。女の子の手ってこんなに……。
意識が飛びそうになるのを必死で耐えながら、俺は店まで連れて行かれた。
「リュートくんは何を頼むの?」
オープンテラスの小洒落た店で、俺は手に残っている感触に浸っているとパメラが聞いてくる。俺は慌ててメニューに目を通すが……。
――げ、高い。
一気に素に戻る。それでも財布の残金を計算しながら、なんとかなりそうなハーフサイズのプレーンのパフェを頼んだ。
店の四人がけのテーブルにパメラとステーシーの2人が並んで座り、向かいに1人で座った俺をジッと見ている構図だ。なんか、面接でもされてる感じになる。ステーシーはパメラの幼馴染という事だ。中等院時代にパメラに誘われて一緒にゴレ班に所属していたという話で、飛行班もパメラが入るということでそのままノリで入ってしまった感じらしい。
2人の会話を聞いていてもパメラの事をパム。ステーシーの事はシーちゃん。そんなあだ名で呼び合っている。仲の良さがよく分かる。
「で、さっきの話。どういう事なの?」
「えっと……?」
「第4世代は覚えなくてもって言ってた話」
「あ、ああ……」
もはや逃げ道は残っていない。観念した俺は、世代ごとの魔力消費量の話とともに、鳥ゴーレムコンテストの話をする。聞いていた2人は、全く知らなかったようで驚いたように相づちを打つ。
「……という事なんだよ。ただ、大学院の部だと人を機乗させるから逆に世代が高くないとコントロール系とかの設定が厳しくなるんだけどね」
そして、ゴーレムの話になると妙に語りすぎてしまう自分に気が付き、大丈夫かと2人の顔色を伺う。
「……ね?」
「……うん、たしかに」
ん? 何の話だ? 2人でしか分からないような事を言っているのを見て、急に不安になる。(ね、前言ったみたいに気持ち悪いでしょ?)(うんうん、たしかにゴレヲタだわ)なんて感じだったりしないだろうか。
気まずい気分で、再びオドオドと2人と対峙する。
「でも、リュート君が飛行班じゃなくてゴレ班に入った理由もなんとなく分かったわ」
「そ、そう?」
話が終わるとパメラは納得したようだ。俺の倍くらいあるパフェを美味そうに食べている。俺は……全く味がわからない。パフェの感想でも言わないとと必死に味を求めるが、「美味しい」くらいしか言えない自分にがっかりだ。
すると、ステーシーが話を変えてきた。
「そう言えば、さっき買っていたブイブイゴレカーってどういうのなの?」
「えっと……なんだっけ」
「えー。お店の人が袋に入れてたじゃない」
「う……」
女子2人の圧力に負け、俺はパッケージを取り出し2人に見せる。すると今度は起動を見てみたいと言わる。ステーシーが店員さんに聞くと、「玩具レベルなら問題ないですよ」と言われたため起動を見せることに成った。
子供向けと言っても、ちゃんとやらないと起動は出来ない。細かい召喚陣が彫られた版画板に魔力泥を均等に塗り、その上に紙を乗せ丁寧に印記させる。出来た召喚陣の前にゴレカーを置き、魔力を流していく……。
ポッ。
仄かな灯りとともに、勇者号が浮かび上がってくる。おお、良い感じじゃないか。
「きゃっ。なにこれ! 可愛い~」
「すごーい。これって本当に適性のない私でも起動させられるの?」
お? なんとなくゴレヲタを冷たい目で見られちゃうのかとかなり不安だったのだが、予想以上に2人の反応は良い感じだ。少しホッとする。
「私もこれ欲しい! まだ売ってるのかな?」
「えっと。この勇者号は限定モデルだから無いかもしれないけど、ゴレカー自体は他の種類ならまだ売ってると思うよ」
「ホント? ねえパム。私達も買いに行かない?」
「うんうん。私も1つ欲しいかも」
こうして、再び3人でゴーレムショップに行き、2人とも一台づつ購入していた。オヤジが何やらニヤニヤと俺のところを見ているのが気になってしょうが無い。くそ。
店の外に出るといよいよ、俺の出番が終了してしまう。せっかくパメラと学校外で出会えるという神がかったチャンスに恵まれたのに……。連絡先とか……いや、急ぎ過ぎは全てを失うかもしれない。まずは外堀から……。
「ねえ、パム。リュート君と連絡先交換しないの?」
「え? シーちゃん何言ってるのよ。そんな……ねえ? 迷惑よ」
突然のステーシーの振りに、パメラが顔を真赤にして拒絶の意を見せる。俺は展開についていけず、固まってしまう。
「リュート君はどうなの? 迷惑?」
「へっ? いやいやいやいや。迷惑なんて、とんでもないよ。うん。ただ、まだ外堀が……」
「外堀? なにそれ」
「な、なんでも無いよ……」
おおお。ごめんなさいステーシー。ちょっと邪魔とか思っちゃって。ほんと。女神だ。神々しいじゃないか!
なんとなく、モジモジしながらカバンから端末を出す。そしてそのままLINKを開きパメラに見せる。パメラもなんとなく恥ずかしそうにしながら、同じ様に端末を近づけ、LINKの友達登録をする。
「よろしくね」
「う、うん」