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14.一目惚れ

 なんとなく、毎日部活でゴーレムの召喚を出来るのだろうと思っていたが、次の日はまたホイスとキーラはベンチでゴーレム理論の勉強をしていた。ゴミ山の中から召喚石が何個か発掘されたとはいえ、ゴレ班の予算では毎日召喚練習をするほどの石を準備できないようだ。


「大会の約1ヶ月前に、その年のゴーコンの課題の概要が発表されるんだ。それからはそれに向けて準備を始めると、毎日のように召喚石を使いたくなるからな。それまでは一週間に1回くらいで勘弁してくれ」


 ケーニヒが班の台所事情を苦しげに伝える。

 ホイスも、まだまだキーラは覚えることが多いし、今日は実習で少し魔力を消費したから全然構わないと答えていた。


 さて、そうなると俺は何をするか……。


「先輩。じゃあ、僕は図書室で調べ物とかしに言っても良いですか?」

「ああ、構わないよ。大会の1ヶ月前までは基本的に自習期間だからね。色々勉強してくるといいよ」

「ありがとうございます」



 図書室に行くと、受付には以前入班を断られた上級生が座っていた。ちょっとだけ気まずい気分になるが、当の先輩は、あら?、といった感じでニッコリと笑いかけてくる。とりあえず黙ったまま会釈をして受付の前を通り過ぎようとすると、声を掛けられる。


「リュート君だったかしら? こんにちは」

「あ、はい。リュートです。こんにちわ」

「それで、どう? どこか班には入れたの?」

「はあ、ゴレ班に……」

「ゴレ班に? そう。ケーニヒ君の所ね」

「え? 知ってるんですか?」

「うん、クラスが一緒なのよ」


 なるほど、まあ3年ならそういう事も普通にあるか。特にケーニヒはなんとも捉えにくいところはあるが、見た目だけはイケメンだ。女子にも人気があるのかもしれない。そんな事を考えながら「じゃあ」と図書班の先輩に挨拶をして俺はまっすぐにゴーレム関連の資料の有る棚に向かった。


 それにしてもこの資料の量は素晴らしい。俺はワクワクしながら棚の書籍を見ていくが、やがて以前ケーニヒに会った時に見ていた「エライサ式の基礎理論と応用理論」が気になり手に取る。


 そう言えばまだ、あの話聞いてなかったなあ。


 そんな事を考えながら、本を持って机に向かう。

 図書室は書籍の日焼けを考えてなのか、窓際に机と椅子が並んでいて、本棚は壁側の方に並んで配置されている。机で本を読む人もまばらで、放課後の利用者はそこまで多い感じではない。


 周りに人の居ない場所を選んで椅子に座ると、俺は本を開いた。


 ……


 ……


 しばらく書籍に集中していると、すこしガヤガヤと騒がしくなる。何気なく顔を上げるとどこかの班なのか、一年生らしき集団が図書室に入ってきていた。しかし本の先が気になる俺は、気にすること無く再び文字の迷宮に入り込んで行く。



「あれ? リュート?」


 そう声を掛けられて見ると、シュウが何冊かの本を手にこっちに向かってきた。あれ? そうか、入ってきたのって飛行班の集団だったのか。


「なんだシュウか。どうしたの?」

「うん。飛行班のレポートをやっててね。調べ物をしに来たんだよ。そっちは?」

「ああ、こっちはあまり班活らしい事をしてないからね、ちょっとゴーレムの勉強でもとね」

「そっか、あでも。昨日は召喚してたじゃん。良いよな。うちは召喚させてもらえるのって基本2年かららしいから、僕たちは1年はなかなか召喚まではさせてもらえないんだよ」

「まあ、そっちは人数も多いからね。強豪班の辛いところだね」


 と言っても、強豪班ならではの育成も充実しているようで、召喚師の期待のホープなどはある程度したらスキル上げの目的も兼ねて召喚練習には参加させてもらえるらしい。



 シュウと話をしていると、他の班員も各々手に本を抱えて机の方にやってきた。

 なんとなくやってくる班員の方を見ると、その中に一際目を引く女性が居る。目を引くと言うか、単純に凄い美人なんだ。

 ストレートに伸ばした瑠璃色の髪によく似合う、深海を覗くような紺青の目。背筋のピンと伸びたスラリとしたスタイルで。間違いなくとびきりの美少女だった。こんな子が同じ学年に居たんだと、思わず見入ってしまう俺をよそに彼女は俺と話していたシュウに声を掛ける。


「シュウ君? お友達?」

「同じ中等院の出身なんだ。今はクラスメイトだよ」


 俺は固まったまま2人のやり取りをただ眺めていた。

 すると、興味を持ったのか俺の読んでいた本に目をやり、しばらく見つめている。

 な、なんだ?


「へぇ、難しそう。……でもこれ……分かるの?」

「え? あ、ああ……どうかな」


 初対面の美少女を目の前に俺はドギマギしながら横目でシュウを見る。

 シュウはそんな俺の気持ちを察してか、何か面白いものでも見たような顔で笑っていた。


「ふうん」

「な、何笑ってるんだよ」

「いや。別に」

「……」


 飛行班の連中は何個かのグループに別れて班ごとにレポートを提出するようだ。やってきたシュウのグループはそのまま隣の机に陣取り、レポートについて相談を始める。俺はそんな声を聞きながら、1人図書室で孤独を強く感じてしまう。


「……」


 なんだ? なぜか頭の中が隣の机から聞こえる声でいっぱいになってしまう。目は必死に文字を追うものの全く頭の中に入ってこない。


 チラッ。


 目線を上げ、隣の机をみる。隣ではレポートの方向性がある程度定まったのか、皆手元の本でなにか調べ物をしていた。あの子も……真面目な顔をして本に目を通している。俺はその俯いている顔から目が離せないでいた。


 「……」


 まずい。まずい。まずい。


 くそっ。なんだこれ。


 なんとも言えない不安のような、今まで経験したことのない変な気持ちに俺は耐えられなくなり、本をたたむとそれを持ってそっと受付に向かう。俺が立ったのに気がついたシュウが何か言いかけるが、俺は足早にその場を立ち去った。


「これ、借りたいんですが……」

「はい、院生カードはありますか?」

「あ、はい」


 院生カードを差し出すと、先程の上級生がそれを端末に通し、手続きをしてくれる。

 学院の図書の貸出期間は一週間との事だった。初めての利用ということで簡単に説明を受けると俺は礼を言って図書室から出ていった。


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