12.ユニフォーム
昨日で終わると思っていたのだが、翌日も、俺とケーニヒはダンボールの中身の仕分けをしていた。それでもダンボールはあと少しだ。今日中には片付けは終わりそうな気がする。そうすればようやくゴーレムに向き合えるか。
「おおお!」
昨日に引き続き、ダンボールを漁っていたケーニヒが声を上げる。今度はなんだ?
見ると、ある箱の中に何枚も同じ様なシャツがビニールの袋に入って突っ込まれていた。その中の1枚を取り出しケーニヒが広げる。
シャツはエンジ一色の半袖の開襟シャツで、後ろには両側にプリーツがある、プリーツの間にはデカデカと『ショパール州立高等学院 ゴーレム班』と灰色の糸で刺繍されていた。
「ユニフォーム……ですか?」
「そうだねえ。こんなのが有るなんて聞いたことが無かったよ」
「え? 今まではどうしていたんですか?」
「皆私服で出てたよ?」
なんでも、他の学院はお揃いのTシャツなどで決めてくる所も多いらしいが、うちはケーニヒが在籍している期間、そんな物を用意したことが無かったらしい。いつもは私服で皆それぞれ好きな格好で出場していたとの事だった。
見ていると、ヴィルも興味をそそられたのか覗き込む。
「XLはあるかな?」
「ん? どうだろう……お、あるよ。かなり一杯あるから皆の分は大丈夫なんじゃないかな」
「女性用はあるかしら?」
社長もマジコンから目を外し、ちょっとうれしそうにユニフォームを見ていた。
「ほぉ。こりゃ盛り上がってきたやん。これ着てババっと州予選突破やな」
「なんか渋いねぇ。でも、もっとピンクっぽい奴が良かったなあ。まあでもSSも有るから女子も着れそうだね!」
キーラのセンスがわからない。ピンク色は俺たち男が着るのに躊躇しそうだが……。それでもホイスもキーラもユニフォームの登場に心を踊らせているようだった。
ようやく不要物を整理すると、班室の中はだいぶ広くなったような感じがする。うん。最初はどうなるのやらと思ったが、やっとスッキリしたな。ケーニヒも満足そうに「掃除をはじめて良かったな」なんて言っている。
興味なさそうにお互い好きなことをしていた他の班員達も、ちょっと綺麗になった班室にやはり気持ちよさを感じるんだろう、机などの配置を少しいじり始めたりする。
◇◇◇
「で、入班して3日間ただ大掃除をしてたのか?」
「うん。でもこれで終わったからね、ようやくゴレ班らしい活動が出来ると……いいけど」
次の日、いつものように俺の席の周りで弁当を広げるシュウとPJがゴレ班の活動について聞いてくる。シュウが言うには飛行班は班室棟の2階の1番広い部屋が充てがわれているようだが、それでも班員数が多いため1年は班室に入ることは殆どないらしい。人数の少ない班だけにそこら辺は自由に班室に居られるだけ良い点でもあるのかもしれない。
「いいけどって、なんか不安そうだね?」
「うーん。先輩たちもマジコンで何かずっとやってたり、漫画を読んでたり、ご飯食べてたり……結構自由に時間つぶしてる感じなんだよね。ほら前にシュウを誘いに来たブローヴァ訛りのやつ居たじゃん? あいつがゴーレム始めたばかりの召喚師の女子に色々教えているくらいなんだよね。ゴーレムやってるの」
「へえ。でも召喚師入ったんだ。よかったじゃん」
「まあ、それはそうなんだけどね」
飛行班の1年は、班室での活動はしていないで空いている教室や図書室で調べ物をしてレポートなどを作らされているらしい。
そうか、ホイスとかに邪険にされてるしなあ。やることなかったら図書室で本を読んでいるのもありかもしれないな。この学院の図書室のゴーレムの資料は結構レベルの高いのもあって、またちゃんと見に行きたかったんだ。
「で、PJはどうなの? マリサとは仲良くなれた?」
「ん? マリサちゃんとは良好ですよ。たださ、生徒会って言っても三役とかは毎日生徒会室に来ているみたいだけど、1年の俺たちは週に一度定例会に顔出すだけで良いみたいだからなあ。毎日一緒にって訳にはいかないなあ」
「まあ、毎日だと飽きられるのもすぐだから丁度いいんじゃない?」
「おーい。飽きられるってなんだよ」
「ははは。まあ頑張れよ」
放課後、班室に行くといつものような状態になる。どこから持ってきたのか教室で使うのと同じ机が窓側に並べられて、そこに向かって何個かの椅子が配置されているのだが。ケーニヒが黙々と何かを書いている。
「それは、何をやってるんです?」
覗き込むと、ケーニヒはゲンナリとした顔で答える。
「宿題さあ。今年は受験生だからね、ちょっと課題が増えてきて困るよ」
「はあ……」
やっぱ、ゴレ班らしい活動をしているのは1年の2人だけか。しょうが無い。
俺はベンチで向かい合ってゴーレムの勉強をしている2人に近づく。うう。女子の隣に普通に座るのもあれか? かと言ってホイスの隣に行くのも気が引ける……。少し躊躇しているとホイスが気がついて眉間にシワを寄せながら聞いてくる。
「なんや?」
「え? いや。ゴレ班っぽい活動しているの2人だけだから……」
「俺はなんも教えんよ」
「わ、わかってるよ」
そこに、俺たちのやり取りを見ていたケーニヒが声をかけてきた。
「そう言えばキーラはそろそろ第2世代の召喚は出来そうか?」
「一応教えたから行ける思いますよ、そろそろ第3世代も教えようと思ってますんで」
「そうか、少しは召喚の練習をしないと召喚レベルも上がらないしな、質の悪い安物だけど、コレで召喚の練習もしてきたらどうだ?」
そう言いながら何個かの召喚石が入った箱を差し出してきた。見るとあまり聞いたことのない海外製のブランドのようだ。ただ。確かに第3世代などをやっていくにはキーラも召喚を繰り返してスキルレベルを上げたほうがいいのは確かだ。
「おおお。コレはありがたい。良いんすか使わせてもろうて」
「昨日の大掃除で少し召喚石が出てきたしね。構わないから練習しておいで」
「あざっす。ありがたく使わせてもらいますわ」
「ただ、1年3人でやるんだぞ。リュートにも補助式の練習をしてもらわないと」
「は? せやけどこいつそんなん出来るんですか? 足引っ張られたらよう敵いませんわ」
ホイスが迷惑そうな顔で俺の方を見る。
「簡単な補助式くらい出来るよっ」
「補助式くらい? くらい。やと? やっぱこいつはダメやな。なんも分かっとらん」
「分かってるよ。キーラだってまだ第2世代の召喚だろ? そこまでの補助式は乗せられないだろ?」
「……ほう。少しはゴレの勉強しとるやんな。その偉そうな口、いつまで叩けるか見ちゃるわ」
「ははは。良いじゃないか、チームメイトっぽく成ってきたじゃん」
バチバチと火花を散らす俺たちをよそに、ケーニヒは能天気に笑い、第二体育館ならゴーレムの召喚を許されているから行ってくるように促す。俺たちは召喚石を受け取り、第2体育館に向かった。
※ユニフォームはボウリングシャツをイメージしていただけると良いと思います。
ありがとうございます、




