11.大掃除 2
「さて、リュート。これも頼む。後は……あのダンボールの山か……」
「はあ……」
まだあいつら外に居るのか? 顔を合わせたく無いなあ。ケーニヒ先輩がそんな俺が躊躇しているのを見て聞いてくる。
「ん? どうした?」
「えっと……。なんか、からかってくる上級生が居て」
「からかって? ああ。飛行班か? たくっ。じゃあ、ちょっとしたら一緒に運ぶから、先にダンボール見るか」
すると、話を聞いていたホイスが絡んできた。
「なんや? そんなん腑抜けた顔をしてるからからかわれるんやで」
「そんな腑抜けた顔のつもりは無いんだけど」
「はっ。たまには自分の顔、鏡で見たほうがええで」
「……」
やはりホイスは俺の存在が気に入らないらしい。あまり突っぱねてもしょうが無いしな。俺は黙ってケーニヒ先輩が山積みのダンボールを下ろすのを手伝う。ホイスもそれ以上絡むつもりは無いようで、再びキーラに術式の講義を始める。
開けたダンボールには古いテストや、訳のわからないノートなどが積み込まれていた。ケーニヒ先輩とノートの中をチェックしながらゴーレムに関係ないものをゴミ袋に突っ込んでいく。 と言っても必要そうなものは全く無い。
「おおお!」
もう1つのダンボールを漁ってたケーニヒ先輩が突然声を上げる。
「どうしました?」
「いや、リュート。これはとても貴重なものだぞ」
「何なんですか?」
そう答えると、ケーニヒが仰々しい仕草で1枚の紙を渡してきた。これは。便箋?
「ラブレターだな。いやいや……まだまだあるぜ。筆跡は同じだから皆同じ人間が書いたものだろう……興味深いことに、宛先が全部違う」
「え?」
他にも何枚ものラブレターを出しては見せてくる。そして文面は全部変えてある。
コレは……渡せなかったのか? よくわからないが、意味もわからない。
ケーニヒは、ラブレターの山を丁寧にまとめ、残すつもりなのかダンボールに戻していた。
積まれたダンボールには、歴代のゴレ班の思い出なのかゴミなのか不明な物が大量に積み込まれて居たが、順次ゴミ箱行きになっていく。初めはゴミ袋に入れていたが、殆どが破棄するような物だったのでダンボールごと捨てる方向にチェンジする。
それでも中にはまだ未使用の召喚石などもあり、全部がゴミという訳ではなかった。特に召喚石はそれなりの値段がするため、飛行班と比べ班費の少ないゴレ班にはかなりの貴重品だという。そう言えばキーラも練習で第2世代でも良いからどんどん召喚した方がスキルレベルも上がるしと思っていたのだが、その召喚石がゴレ班には貴重な物というのが悲しい。
捨てるものも増えてきた。ある程度時間も経っていたので、そろそろ大丈夫だろうとゴミを運び始める。ヴィルは今日もムシャムシャと何かを食べながら、社長がマジコンをいじっているのを後ろから見ていたが、ケーニヒに頼まれて運ぶのを手伝い始める。さっきケーニヒは、自分がついていくような話をしていたが、ダンボールを調べるのに夢中になってしまっているようだ。
「重いなあ。こんな重労働したらせっかく摂取したカロリーを消費しちゃうよ」
「えっと。すいません」
「ん? ああ。気にするな。先輩に言われたら動くのが班員の仕事だしさ」
ブツクサと文句を言いつつ、ヴィルはちゃんと手伝ってくれる。ダンボールいっぱいの紙類はかなり重量もある。
必死に運んでるとヴィルがちょっと待ってろと、どこからか台車を持ってきてくれた。
「うん。コレでだいぶ捗りそうだな」
「おお、助かります。どうしたんです? これ」
「どうしたって。学院の備品だろ? そこら辺に転がってたよ」
うん、文明の利器というやつだ。台車にダンボールを乗せ一気に班室に溜まったゴミが減る。もう1回運べば終わりそうだ。
重い台車を2人で押しながら外に出てゴミ捨て場に置いていく。よかった今日中には終わりそうだ。
「おい。誰に断ってその台車使ってるんだ?」
げ。
聞きたくなかった声が聞こえる。声の方を向くと案の定さっきの飛行班の連中がこっちをみていた。ヴィルは怯むことなく答える。流石先輩だ。
「これは学院の備品だろ? 学院生が使うには問題ないはずじゃないのか?」
「おい。デブ。それは飛行班が班活で資材を運ぶのに借りてきたんだ。勝手に使うんじゃねえよ」
「いや。だけどそこらへんに放置してあっただろ? ちょっと借りるくらい良いじゃないか」
「いや。ダメだな。うちの班員がワザワザ労力を使って持ってきたんだ。それにお前は少し運動したほうが痩せるんじゃないか? 優しいよな、俺って」
「わかったよ……すぐ荷物下ろすからちょっとまっててよ」
うわ……。ほんと嫌な奴だなこいつ。俺とヴィルは慌てて荷物をおろしていく。それを飛行班の3人はニヤニヤしながらみていた。
「あーあ。こんなゴミを乗せた台車に飛行班の資材を乗せるわけにはいかねえな」
「大丈夫だよ。紙ゴミなんだから汚れたりはしてないよ」
「おいおい。勝手に使って更に口答えか? ほんとゴレ班はろくな奴いねえな」
「口答えって……」
「せっ先輩。俺洗ってきますから……」
俺は慌てて口を出す。すると飛行班の奴はニヤニヤとしながら「ちゃんと洗って返せよ」と満足げな顔をする。くそっ。殴ってやりたい。
「何をやってるんだ?」
その時、1人の男が班室棟の階段を降りてきてこちらに近づいてきた。たしか、飛行班オリエンテーションの時に班長の横に居た男だ。大柄でごつい感じの飛行班の班長と違って細身の優しそうな人だが、口調は体育会系の様に厳し目だ。
「いえ、ゴレ班の奴らが俺たちが借りてきた台車を使っていたんですよ」
「ふむ……まあ俺たちが使っていない時なら良いじゃないか」
「え? しかし……」
「それにもう今日は使わないから、彼らに返却してもらえばいいじゃないか?」
「は、はい」
おおお。この上級生は割とちゃんとしてそうか。やり取りを見て少しホッとする。あの嫌なやつも少し悔しげに班室棟の方へ戻っていった。それを見て少し溜飲が下がる。
「悪いな。あいつは少し扱いに困っててな」
「いえ……」
「君は、ゴレ班に入った1年か?」
「はい」
「そうか……良い召喚師が入ったようだな」
「え?」
「ケーニヒを頼むな」
そう言うと、飛行班の3年生も班室棟の方へ戻っていった。頼むって、どういうことだ? ケーニヒのウルリッヒ症候群の事でも知っているのか? ていうか、なんで俺が召喚師の適性があるって分かったの??? ヴィルの方を向くとヴィルは不思議そうな物を見るように俺を見ていた。
「リュートは、召喚師なのか?」
「いえ……え? まあ……」
「……まあ、いいか」
なんとなく召喚師の特性が有るのを話さないで居たから、なんとなくそう言われると言うタイミングを逃していたのに気がつく。キーラも頑張ってるしな……なんか出しゃばる感じで気が引ける。
だがヴィルは俺の反応に特に何も突っ込まず、日が暮れる前にゴミを運んじゃおうと班室に向かって歩き出す。
俺も慌ててゴロゴロと台車を押してついて行った。
ヴィルに聞くと、あの人は飛行班の副班長らしい。やっぱ召喚も出来たりするのだろうか。
びっくりするほど食いつき悪いw




