ドライヤーガン戦士シリーズ①アキラ前編
イラストは私に知的所有権がある様に高価払いました。だからイラストレーターの名前は公表できません。
また「ドライヤーガン戦士シリーズ③タカラ前編後編」「ドライヤーガン戦士シリーズ④キヨラ前編後編」は合作するかもしれませんが、既に出来上がっているイラストには作 宝希☆としてもらっています。そこはよろしくお願いいたします。
001
ある日現代日本のある所に魔法のgunがありました。それはドライヤーの形をしてました。目的は「悪者退治」のgunです。コードレスで充電式なので、決着は速くつけなければなりません。それは彼女が母親になる前の幼い日の想い出、小3の時の話ですから、その衣装には悪者を退治した免疫が染み込んでおり、大きな守護力を持っていました。亡き彼女からそれを受け継ぐ実の娘の少女ももうちょうど小3です。初めての闘いが待ち受けています。
002
「変な夢みた」夢を見たくないのに見てしまう不幸の小3紀眞アキラ。性別形態は少女。顔やスタイルは可愛いに部類。小3だが、匕背ヒロシという許嫁が居る。如何にも「女の子の部屋」という白や桜色で統一された部屋のベットで「ウーン」と背伸びをして欠伸をする。2つの鐘が大きい置時計を手に何時か調べる。まだ6時だ。後30分は寝てられると判断して、布団の中に潜り込む。この微睡みがなかなか気持ち良い。
003
時間は過ぎて、置時計は7時30分を指している。「いけない、また寝坊した。最後の気持ち悪い夢マジで死ね」肩に当たるくらいのシャギーだが、癖っ毛もろくに直せないまま、真新しい学生服をとり、ブラウスとニットの上に羽織る。
それでも外は寒そうだが。走り込み決定なので、急いで階段を転ばない様に降り、ダイニングキッチンの祖夫母に「朝ごはん要らないから」今日もと声をかけて、家のドアをあけ体を外に踊り出した。
004
最寄のバス停に望みを託すも、バスは無情にドアを閉め、アキラがドアを叩くのも無視して発車する。次のバスまで待っていたら一時間目は確実にとぶ。どうするか走るかと考えが固まった時、後ろから声をかけられた。今売り出し中で将来が明るいアイドルユニットのサブリーダー的存在の匕背ヒロシ君だ。
「校門まで後ろ乗ってけ」と声をかけられた。「助かる」ありがとうと言って後部席にまたがる。
005
高1のヒロシは自分の学校もあるから、平らな道をびゅんびゅんとばす。アキラは広い背中にぎゅっと抱きついて振り落とされない様に走る景色を見た。すりる満点で、相変わらず怖い。でもこれで遅刻は間逃れた。
ふふっと笑みと吐息を浮かべると「くすぐってぇ」とヒロシ。
「ごめんごめん」頑張ってと、アキラは反省する。
そして最後の下り坂をびゅんととばしヒロシはアキラを校門の前で降ろした。
「ありがとう」とアキラ。
006
声をかけるアキラに片手を上げて了解の意味を伝えヒロシの乗る自転車は見えなくなった。
あと数分で予鈴がなるので、真新しいアキラの靴箱で、ばたばたと靴を履き替え、まだ転校して日が浅い教室にダッシュした。
もう廊下には誰も居ない。走ったら教室にたどり着いた。
「ぎりセーフ」と隣の席の女子が言う。その後ろの席の女子が「アキラちゃん、間に合って良かったね」と微笑む。「ありがとう」と声をかけアキラは席についた。
007
そして今は授業中。
苦手な英語。
元々、悪者退治の家系の紀眞の家と匕背の家は微妙な障害を補う許嫁の仲にあり。紀眞の家は聴覚がおかしく、測定出来ない超音波?が五月蝿く聞こえる体質。匕背の家は極度の視覚障害の乳児性乱視だ。アキラは小3でヒロシは高1と年の差が離れているが、紀眞と匕背の仲では許嫁の年の差が二桁に及ぶ事も多いから、アキラとヒロシは家同士に言わせるとお似合いの許嫁という事になる。
008
ネィティブティーチャーの発音ひとつひとつに心臓が動悸を覚えるアキラ。清音の日本語でも湿り具合が激しい相手の声は暴力を受けた並みに辛いのに、破裂音だらけの英語は、その比ではない。ガクガクぶるぶる震えながら授業の終わりを待つアキラ。でもそう上手く問屋はおろさない。ネィティブティーチャーが?と想い『おのれいま』今の所、訳してと言った。
「紀眞」までは聞けた。後は何を言っているのかさえわからないアキラ。
009
起立したまま、全身が震えてるアキラ。隣の席の女子が気がついて、保健委員の、その後ろの女子が『紀眞アキラは今、動悸が激しいです』保健室に連れて行く許可を『ください』と英語でネィティブティーチャーに訴えた。『了解です。よろしくね』とネィティブティーチャーは保健委員にアキラの事を任せた。
ばくばく激しい動悸に、ふらふらなアキラの腕を自分の肩に回して立ち上がる。そして二人で教室をぬけた。廊下を進む。
010
教室から離れて、体育の授業の声が聞こえる様になると、アキラの動悸は一気に治まった。保健委員の女子が安堵するも、保健室に連れていく事を止めなかった。二人でお互いの事を気づかいながら、少しお話。
「紀眞の遺伝で許嫁が現れる頃から自覚する子が」多いらしいと。「小3なのにもう許嫁が居るの?」ビックリして保健委員が足を止めてマジマジと顔を見る。
011
「紀眞さんが可愛いっていた男子達可哀想」速攻失恋だね。大勢。って笑った。人気の無い保健室にたどり着く二人。保健室には保健医が居なかったので、勝手に空いていた部屋に入り、ベットに連れられた。
「ありがとう」本当はもう平気なのだけど、保健委員の女の子に「英語」が終わったら迎えに来るから、「安静にしていてね」と念を推された。もう動悸は無い。そう言えば自分の話ばっかしで、あの子の名前まだ、覚えてなかったな。
012
此れからは全ての英語の授業を此処で休むんだ。と想いながら私にはヒロシという許嫁が居るから卒業に支障をきたしても、まぁいぃっかとか安堵していた。
二人が消えた教室では英語の授業が続けられ、到着した保健委員の女の子は『紀眞さんは遺伝で耳が悪く、此れからの授業も保健室で休ませてあげてほしい』とネィティブティーチャーに伝えた。「校長に許可を貰ってくるよ」とも伝え、保健委員の女子を安堵させた。
013
英語の授業が終ると保健委員の女子が迎えに来てくれた。
頭がさっぱりしていたので安心して、アキラ達は教室に向かった。おりに「全英語の授業の安静事案」がネィティブティーチャーと保健委員の女の子と結ばれて居たから、アキラは更に安堵した。
「よう全英語の授業サボりだな」と教室の男子の何人かが言うから、「ズルじゃないよ」と一言言って無視をした。
014
それからしばらく一部の男子達からの苛めが続いた。
『全英語の授業を保健室で安静にしていて良いことになった(中学入試はおいといて)』からだ。
気がついた女子が「何で止めたげないの」と何度も何度も怒ってくれていたから、まだこの程度だったのだと想う。毎日、悪者退治の訓練を怠らないアキラにとっては苛めの様な敵視される事は比ではない為に、苦しみではないのだが、面倒くさいことになって居る。女子と男子が対立して居た。
015
ある日の給食の配膳の時、アキラはかやくご飯をよそっていた。
その時、普通に隣で味噌汁をよそっていた女子とお喋りをしていた。
そんな中、いつもは「おかわり」の声が止まない人気のかやくご飯が、なぜだか返却されだした。大勢の男子達からだったので、アキラは「何で」と驚いていた。女子の活発的な子達が「どうして男子達はかやくご飯返却したの?」と教卓から教室を見下ろし言った。だって紀眞の唾が入ったんだぜ。と誰かが言うと、
016
「きたねーだろ」と野次が何個かとぶ。「紀眞さんがお喋りしてたのは」悪い事だけど「お鍋をつつく様なモノじゃない」と男子達を叱って席についた。「終わりの会で先生に言うからね」と女子達が言ってくれた。それで一旦騒ぎは終息したかに見えたのだが、何人かの男子達が廊下でひそひそ話をしてる。戻ってくると別の男子達が廊下でひそひそ話をしてるの繰り返しに、流石にアキラは気がついた。「私の悪口を言ってるんだ」と。
017
その日の終わりの会で早速女子が先生に申し出た。「紀眞さんが男子達から苛めにあってます」と。苛め、それは良くないと言った担任は「詳細を知ってる子みんな」発言してね。と言った。アキラは挙手して発言権利を獲得すると以下の様に言った。「私がかやくご飯を配膳していた時に」少し大きな声でお話しをしてたからと言ったら、男子に野次られた。「唾きがだらだら」かやくご飯にと悪意を見せる。
018
だいたい、アイドルの匕背ヒロシの下敷きなんか学校に持ってくるか?
アイドルヲタだ、きしょーと関係ない事まで悪意を剥き出し。担任は「挙手して発言権利を獲得してからで、悪口はいわないの」と嗜めたが。 それまで庇ってくれていた女子の一部が匕背ヒロシの下敷きに反応した。「プレミアじゃん」どうして持ってるの?やだ私も欲しいとか終わりの会がぐちゃぐちゃになった。先生に「もう、脱線しない。唾がかやくご飯に入った件はどちらも悪いから両方謝る」
019
「かやくご飯に唾入れてごめんなさい」「バイ菌」とアキラと主犯格の男子達。担任が謝りなさいと男子達に言ったが、男子達は謝らなかった。アイツ匕背ヒロシに操捧げてるし、小3のクセにエロくて、不衛生なんだよなとか。ブツブツ。無理矢理終わりの会を終わらした担任が去った教室では一部の女子が匕背ヒロシの下敷きに興味をもっていた。それは悪者退治屋の紀眞家特別の御守りで、アキラには命に関わる重要物。
020
終わりの会で先生に男子達の事を怒ってくれた活発な女子達が、いいな匕背ヒロシのプレミアム下敷きと見にやって来た。匕背ヒロシはアイドルユニットのサブリーダーなので、女子にも人気が高い。ただ、許嫁の紀眞アキラの命を守る宿命の相手なので、これは困ったとアキラは想った。ヒロシ君グッズ作らないで有名な事務所のカリスマだからな(汗)
021
詰め寄ってくる女子にアキラは下敷きを顔の前に掲げ「これは御守りで」グッズとかレア物とかじゃないからと伝えると、保健委員の女子が「紀眞さんには生まれた時からの許嫁が居るから」ヤキモチ妬かないであげてと言ってしまった。どうしようアキラは絶好のタイミングで匕背ヒロシと許嫁の関係にあると伝え損ねてしまった。女の子達は匕背ヒロシのプレミアが自分達には手にはいらないことを残念がりながら帰宅した。保健委員の子が一緒に帰ろうと声をかけるも、アキラの隣の席の女子がアキラの異変に気づき「今日はやめときな」と一人で帰らせてくれた。
022
男子達には「エロバイ菌」扱いされるし活発な女子達には「匕背ヒロシと無関係」と誤解されるし、散々な1日だった。最寄バス停でバスから降りると、解決案が見つからない出来事に、アキラは憂鬱に夕日を見ながら、徒歩で帰宅した。
祖父母に帰宅の挨拶をして階段をかけ上がる。机の写真立ての匕背ヒロシの笑顔を見ながら「どーしよ」とうるうるする。
023
ばーちゃんの「アキラちゃん夕飯ですよ」の声に併せて、制服から室内着に着替えて「今行く」と声をかけた。
階段を降り、テレビのある居間を通過して、キッチンにつくとばーちゃんが筑前煮とご飯を各々のお皿によそってくれていた。美味しい臭いに少し浮上する。父と母を亡くしたアキラは祖父母と一緒に生活をしている。「ばーちゃんあのね今日は」はと促され、「エロバイ菌」扱いされた事と匕背ヒロシとは無関係と誤解された事を話した。
024
アキラは物心ついた時から匕背ヒロシに嫁ぐと躾られていた為、当たり前の様に想っている気持ちが、今日脅かされた。その事に嫌な想いを抱いてる。【私のお婿さん取らないで。誰にもあげないからね】と想う気持ちをばーちゃんとじーちゃんに話した。筑前煮を食べる。夕飯は今日も美味しいのに気持ちがクリアじゃない。その時じーちゃんが言った。「ヒロシは匕背の子だから安心おし。じーちゃんが匕背から紀眞の家に婿入りしてるから」
025
大丈夫とニカッと笑ってくれた。
ばーちゃんも「アキラは可愛いさけんヒロシもうれしかとね」と笑う。ちょっとだけルックスに自信のあったアキラは「そうだといいんだけど」とお茶を両手で包み体を温めた。「苛めはうけとるんやね」と、ばーちゃんが「どうしようじーさん」と会話をつなぐ。じーちゃんは「男子は悪いわ。でも難しいのは女子やな」と言った。先生に怒られるとええと男子達には言うが、ヒロシはアイドルやしなと頷く。
026
じーちゃんが言う。「匕背の家に電話してみるかの」
「ヒロシ君に直接言うの」とアキラ。「こう言ったことは連絡しといた方がええ」とばーちゃんもお茶を両手で包む。学業に仕事に忙しいヒロシに、なんか余計な心配をかけるのが嫌な感じがして、じーちゃんに、もう少し待ってと言おうとするアキラにじーちゃんは匕背に電話をかけていた。
「もしもし紀眞のジジイや。ヒロシの事で話があるんや」誰かにつないでくれやと言った。
027
「お久しぶりです。匕背ヒロシの父です」何かありましたか?と電話越しの紳士は聞く。「ワシの孫娘の紀眞アキラが学校で苛めにあってな」匕背ヒロシ以外の誰かの許嫁と勘違いされとる。じーちゃんは言う。可能ならヒロシの会社から婚約発表して欲しいと。暫く電話越しに考えていたヒロシの父は「苛めは止めようキャンペーンの方が良いのでは」と言った。もどかしいなとアキラは想うモノの大人の事情も子供の納得する方法も考えてるのだと。
028
「苛めの撲滅キャンペーンか」じーちゃんが悩む。女子に苛めにあったら、先生だけでは頼りないので、お巡りさんにも動いてもらわなと考えていたじーちゃん。「撲滅キャンペーンの方が世間のアキラに対する風当たりが」良いのかのう?穏やかな口調で従ってみるかと考えていたじーちゃんに「もしそれで上手く行かない場合は」婚約発表ですねとヒロシの父が言った。ばーちゃんは「大人の事情よりアキラの健康の方が」大切だでよと言った。
029
「苛めの撲滅キャンペーン」かと、アキラはベットの中で寝返りをうつ。「上手くいくといいんだけど」と心細げ。もう一回寝返りをうつと、想像が悪い為か、体が冷えたような気がして上布団の中で体をくるむ。ヒロシの許嫁として少し切ない身の上で。味方と想っていたアキラが女子の裏切りものとして男女からハブにあう。それでも【苛めの撲滅キャンペーン】の方がアキラに優しいのだろうか?悩ましい。アキラはきゅっと両手を握った
030
翌朝は眠れなかったアキラが正しい時刻より早い時刻に朝食を終え、学校に向かう。生徒が普通に遅刻しない時間帯だったのでこみ合うバスに潰されない様に捕まり、学校の最寄バス停に着く。アキラはぜいはあ言いながら、なんとかバスを降りれた。校門の所で、保健委員の女子に見つかり、挨拶をして一緒に教室へと向かう。くつ箱の中にゴム製の蜥蜴のおもちゃが入っていた事を担任に話さなければと想うアキラだった。
031
「本物かと想いました」朝の会でアキラは担任や犯人じゃない生徒に訴える。ゴムの手触りがつるつるして、リアルな触感だと担任も想う。アキラは泣かずに「苛めを止めて」と生徒達に言えた。教室がざわざわするも担任が「その気があるのだったら」ラブレター(勿論リターンアドレス付きの)にすれば良いじゃないかと「皮肉」ったが生徒にはスルーされる。仕方がないので職員会議でとりあげます、と担任は話をしめくくった。
032
担任が礼をして教室からでてゆくと生徒達はざわついた。「苛めを止めてください」お願いって一部の男子が裏声で話してるのを聞こえよがす。「やめたれ」という誰かの小声を無視して「あたし怖くって」先生助けてって言うと、他の生徒がそこ匕背ヒロシだろってゲラゲラ。
「ヒロシ君はふぁん皆のモノ」だから、ウザい噂を流さない。って活発な女子達が男子達をたたみかける。一時間目が英語だったので、アキラは無視して保健室に向かった。
033
耳の遺伝でネイティブティーチャーの発する言葉で、気絶する旨を伝えると、校長が言っていた子か?
ルックスは可愛いのにね。と保健医に言われた。可愛かろうが無かろうがネイティブティーチャーの側には居れないアキラはしゅんとする。一部以外の男子達に苛めにあってるのは全英語授業安静の許可済みだからでもあるのだから。そりゃ、かやくご飯を配膳中に元気良くお喋りしてたアキラが悪いのだけど。
034
「苛めにあってるんです」アキラは正直に言った。ゴムのおもちゃの蜥蜴は薄暗い中では本物と間違うレベルで、蜥蜴の死体が上履きの上に捨てられていたという感じの苛めに悔しい想いをしてると。保健医は「だから今日は1日安静にしたいのか?」と答えた。「授業をうけれないと損するよ」と保健医。担当の先生に伝えてるのなら「私が協力しようか?」例えば、アキラちゃんがこんなに酷い病状で苦しんでるというのを終りの会に間に合うように担任に言おうか?終りの会で注意できる様に、と。
035
好意が嬉しいアキラは「ありがとうございます」と答えベットに体を入れた。保健医が温かな梅昆布茶を注いでくれたので、アキラはありがたく体内を温めた。
不安はある。でも一人じゃないから、一番最低(自殺)な目にはあわないと安堵し、眠れなかった昨夜の睡眠を取り返すが如く、沢山眠り込んだ。
放課後、目覚めたのは二時間目の後の休み時間にも来てた保健委員の女子の気配を感じたから。
036
「なんか大変だったみたいだね」と言いながらお昼の給食を持ってきてくれたので、アキラは空腹な事に気がついた。「ありがとう。重かったでしょう?」素直に謝意を伝え、「良いよ」と言われていたので、給食をベットの上に乗せて、少しずつ口に入れる。冷めてはいるモノの美味しい給食をゆっくりゆっくり、お米の一粒も残さない様にいただいた。 嗚呼美味しかった。アキラは保健委員の女子に感謝の念を伝えた。
037
どういたしましてと言われて、幸せだったので、苛めにあっている事を忘れかけていた。「あのね、先生が終りの会で言っていたんだけど」と、アキラが精神的にまいっていて苦しそうに寝言を言っている。「止めて、苛めないで」と頬には涙の筋が付いていた。だから苛めにあった今日は保健室で安静にさせていた。でも毎日毎日そんなわけにはいかないだろう?と担任が言うと、手を上げた男子が、みんなに言われて、蜥蜴の玩具を仕込みました。机の中には牛乳を拭いた雑巾も入れました。
038
先生に言われなければ、靴を隠そうとも計画してました。「ごめんなさい」と。担任は「連携プレイなら仲間を名指しなさい」と言ったが、今日は終りの時間に間に合わないから明日の朝の会で言う様にという事で、お話しを終えたよ。と教えてくれた。「歩いて帰れる?」じゃなきゃ、担任が車で送るよと言っていた、と。ありがたくて嬉し泣きを禁じ得ないアキラだった。「歩いて帰れるって担任の先生に言ってくるね」
039
と気づいたアキラは保健委員に「ありがとう」とまた頭を下げた。
「一緒に行こう」と保健委員の女子が言ってくれたので、仲良く職員室に向かった。もう廊下を走る生徒もいない夕暮れ、夕日が綺麗だねと二人で微笑んだ。職員室のドアをスライドする。入口から見えた担任のもとに足を進める。「紀眞大丈夫か?」先生が気遣う。「これから苛めの主犯格を探すから、もうしばらく」待っててなと言ってくれた。
「多分、吐いた男子は紀眞が好きなんだと想う」
040
アキラは可愛いからな、と担任と話し合いバスで帰宅する事にした。
保健委員の女子に別れをつげ、一人寒いバス停に向かう。その時、クラスメートの男子が、声をかけようとして、止めて帰った。苛めの反省のかな ?と想いながらもアキラはバスに乗り込んだ。
外の空気と反して温かい。今日は1日安静にしてたけど、なんか疲れた。祖父母に今日の話をしたら、更に怒るかなと反省しつつも、苛めが悪いと開き直る。
041
家に帰り、夕食までの間、しんどいアキラはヒロシの写真立てを見ながら机に頬を付け「どうしよう」と情けない声を漏らしていた。「ヒロシ君のお仕事も上手くいかないかな」とりあえず室内着に着替える。それで、苛めの尻尾切りって、実行加害者が最後に苛めにあうのかな?と不穏な空気に嫌だと想う。
もしかしたら、さっき声をかけようとしてかけれなかった男子が実行犯で次の苛めの生け贄かもしれない。
042
可哀想だけど、それでいいのかな?でも牛乳を拭いた雑巾を机の中に入れられたり、靴を隠そうとも計画してたなんて、アキラはとても嫌な想いをした。室内着に着替え終えたアキラはまた机に頬を付け写真立てのヒロシを見る。爽やかな笑顔にエナジーをもらうアキラだった。
その後で、ヒロシからスマホにメッセージがあった。
ヒロシ[クラスメートに苛めにあったのか?]
アキラ[うん。男子が実行犯で生け贄みたいなんだけど、本当に怖いのは]
043
アキラ[ヒロシ君と私の仲を知った女子達]と想うとメッセージ。
みんな厭うだろうな。私がアイドル匕背ヒロシの相手で転入生。更に、全英語の授業を免除されるという「苛めのターゲット」にふさわしいアキラの状態を想いだし、数滴涙を落とした。
アキラ[怖いけどどうすれば良いか解らない]
044
ヒロシ[オヤジが会社の偉いさんに懇願していたよ「本当なら婚約発表」してでも守らなければならない血筋の仲を、ヒロシの仕事やファンの事をかんがえると、そんな可哀想な目にあわせれない]だから、ヒロシ達のユニットが「苛め撲滅キャンペーン」を行って陰ながら守ってやれないか?ダメなら「婚約発表」ですと言っていたよとヒロシが教えてくれた。
アキラ[ヒロシ君はどう想う?]私との婚約発表。
ヒロシ[どのみち紀眞と結婚するって決まっているから、可愛くて優しい]アキラが良いよと答えてくれた。
045
ヒロシ[ただ、俺等のファンやギャラリーがアキラの事、金づるや苛めのターゲットにするのは嫌だし、オヤジの提案が無難だと]俺も想うとヒロシは言った。
ヒロシに言われてるだけなのに胸がぽかぽか暖かくなってきた。
アキラ[ありがとうヒロシ君。おやすみなさい]
ヒロシ[未来の為のよい睡眠を]
と記されてメッセージのやり取りが終わった。
ばーちゃんが「アキラちゃん夕食ですよ」と暖かく美味しそうな湯気を感じさせる声で夕食の知らせ。
「今行く」と答えた。
046
じーちゃんが「今日はどうやった?」と聞くからアキラは「蜥蜴の死骸玩具が」靴箱に入っていた。保健医さんに終りの会が終わるまで今日は安静にしなよと言われたので、ベットで熟睡していた。クラスの保健委員の女子が取っておいた給食を保健室に運んでくれたので、冷めていたけれど、美味しくいただけた。終りの会で実行犯で生け贄みたいな男子が蜥蜴の玩具を入れた事、牛乳を拭いた雑巾を机の中に入れ様とした事に靴を隠そうともしていた事を話した。
047
ばーちゃんが「可哀想にのぅ」と言って肉じゃがを配膳してくれた。今日は肉じゃがとお味噌汁とご飯で、給食を食べた時間が遅かったから、後で食べるよと肉じゃがをラップしてもらった。
「ヒロシ君とメッセージの交換をして判ったけど」ヒロシ君にはファンやライバルの他にギャラリーが居るらしくて、あることないこと書いたかと想えば、陰口を匿名でネットに書きこみ炎上させる輩でもあるから「婚約発表」はまだ、我慢した方がいいと教わった事をアキラは話した。
048
「仕方がないのぅ」とじーちゃんは呟くし、ばーちゃんが「後で肉じゃがもたべるんだよ」美味しいんだからと付け加えた。アキラは蜥蜴の死骸みたいな玩具でめげていた気持ちを癒すかの様にお味噌汁とご飯を美味しく食べた。じーちゃんが仕切り直しと「ばーさん。紀眞アキラ戦士デビューの為のバトルコスチューム」できたかの?
049
それはドライヤー戦士として闘う為に身に纏う衣装の事だが、ばーちゃんが「ふりふりのふりるがゴージャスで可愛くなる様に作っている最中さね」と言った。
ははは
「ありがとう」オバアちゃんと言い、アイドルじゃないんやしと、渋い顔したじーちゃんを残して居間のテレビを見る為につけた。
ヒロシの連続ドラマが始まる前に、新聞を読んでなかったので、報道番組を見ようとチャンネルを合わした。
ヒロシのドラマの共演相手との恋の噂から、アスリートのメダルをとった話題を見終えようとした時、アキラは見てしまった。
うちの小3の男子が死んだと。
050
緊急速報だった。
まだ顔も名前も覚えていない生徒に囲まれているアキラだが、そんなアキラでも見覚えがある顔だった。もしかしたら蜥蜴の死骸みたいな玩具をアキラの靴箱に入れて、終りの会で自首した子かもしれないと空想していた男子だ。何か話しかけようとしていた事を思い出した。そんな、明日で男子の苛めは終了じゃ?
051
友達がまだ出来てないアキラは誰に相談すれば良いか判らなかった。保健委員の子に明日聴くとして。苛めの生贄が変わったってゆーの?私が我慢してたら「その子」は自殺しなかったってゆうの?
どうしてまだ小学生なのに、簡単に命を捨てるの?お父さんやお母さんに「ごめんなさい」って想えないの?どうして・・・
ぽろぽろ泣き出すアキラをばーちゃんが抱きしめ背中をさすってくれた。
052
ばーちゃんが「アキラ、気分転換に」亡くなったお母さんの形見で作ったコスチュームでも、試し着しない?と言われ、泣き止んだアキラはコスチュームを試着してみる事にした。ハイウェストのスカートの中から溢れんばかりのフリルが綺麗に映えていて、「可愛い」とアキラは想った。これはのう「アキラの母ちゃんの体に纏われていた時に」アキラを守る能力を授かったコスチュームなんやと、しみじみ教えてくれた。
053
「ドライヤーガン」は使い慣れたか?と微笑むじーちゃんが聴く。ばーちゃんから着せてもらったコスチュームの可愛いらしさに「どきどき」するアキラ。
アキラは悪者を退治するドライヤーガン戦士になるので、毎日寝る前まで、特訓を行っている。じーちゃんやばーちゃんでは体がもたないので、匕背の家の格闘家達が操るマネキンと練習してる。アキラはのみこみが良いので、狙ったマネキンははずさない。こくっとアキラは頷いた。
054
美少女戦士の事をしてたら、同級生が自殺した事件を忘れる束の間だった。夢中になって、日頃誰にも話すことのない戦闘練習に耳を傾けてくれるじーちゃんとばーちゃん。アキラはまだ実戦が無いから、ドライヤーガンで撃たれた標的がマネキンの様に行動停止しかしないものだと想っている。もし悪者に乗っ取られた引き剥がすことの出来ない人間はどうなるのだろう?と考えたことも無かった。 ただ充電がもつ間だけのドライヤーガン戦士。
055
闘いの酷さをまだ知らないアキラだった。
苛めの終わらない教室に行くのは怖いアキラが深呼吸をして匕背ヒロシの事を想う。どんなに境遇が変わろうとも笑って受け止めてくれる。だから、アキラは小学3年生だが、ヒロシの妻になる覚悟をしている。未来の夫の今日の連絡は無かった。 それは匕背の家において紀眞の家に問題が発生してないととるべきなのだろう。クラスメートの自殺は怖かったが、アキラは守られてると穏やかに眠りについた。
056
悪夢をみるアキラ。
苛めを自首した男の子が怨めしそうな顔をしながら、近寄ってくる。目の前で、ざしゅっと手首を切る。溢れる大量の血液がアキラの制服を塗らし、彼の命を奪った。その後、屋上に居る彼とアキラを隔てる透明の壁のせいで、アキラは男の子を飛び降りるのから救うことが出来なかった。アキラは戦士だろうと己の無力さに大声で喚くも、誰にもその声は届かなかった。ヒロシ君怖いよ。助けて。
057
顔がぐちゃぐちゃになるくらい夢の中でアキラは泣いた。
陽光が窓からベットの中のアキラの顔を差す。紫外線対策を考えるとお肌に悪いのだが、アキラはまだ、このままで良かった。時計を見ると何時もより30分も早い時刻だったが、マゾじゃないので、悪夢を再び見るのは止めた。
今日は苛めを受けるだろうか?それとも別の誰かが苛めにあってるのだろうか?紀眞のアキラ、ドライヤーガン戦士として、初仕事がそう遠くない予感がした。
058
ばーちゃんが朝ごはんを作ってくれてるのを待つのは何年ぶりだろう?アキラは幼少から父と母を亡くしていたので、じーちゃんとばーちゃんが数少ない血縁だが、ばーちゃんの仕度を待つのは初めてかもしれなかった。
薄焼きの卵焼きを挟んだケチャップとマヨネーズの愛称の良い組合わせのサンドイッチができた。アキラはスクランブルエッグも好きだが、この味つけもかなりお気に入りだ。 アメリカンを飲みながら、サンドイッチをかぶりついた。
059
時間がたっぷりあるので、早めに家を出たアキラは周りの景色を見ながら学校へと向かった。そのうち「雪がふるかもしれない」と、アキラは寒空の中、遠くに見える山の頂きに積もる雪を見つけながら転ばない様に徒歩の道を歩いた。 今朝の新聞の見出しに匕背ヒロシ君達のグループらによる「苛め撲滅キャンペーン」について書かれた記事があったとも知れずに。
アキラは怖い気持ちをぎゅっと握って一生懸命学校へと向かった。
060
「おはようアキラちゃん」保健委員の子に声をかけられ俯いていた顔をアキラは上げた。
予習も課題も出来てるアキラは、何もする気が起きず、俯いて座っていたのだった。「匕背ヒロシ君達の記事」見た?と彼女は声をかけてくれた。「なに」と想ったので、アキラは聴いてみた。 「苛めは全員で止めよう」キャンペーンだよと彼女は言った。新聞記者らをまいて来た彼女は「蜥蜴のおもちゃの子」自殺したんだってと、いきなり本題にはしった。
061
あの子だけなのかな?アキラちゃんを苛めてた男子って?かやくご飯の時の苛めのリーダーは、もっと活発な男子達って想ったのだけど。と保健委員の彼女が不思議そうな顔をしている。アキラも想った。昨日、保健室を覗いた彼だけの責任じゃなくて、生贄なのではと想ったから。誰の?勿論、真犯人達の。担任の先生はどうするだろう?皆でお葬式に参加して泣きわめく男子達をあやすだけなのだろうか?真犯人の究明には及ばないのだろうか?
062
真犯人がつかまらなければ、自殺した男子も浮かばれないねと保健委員の彼女と話した。悪くいうマスコミが有るなら、彼の自殺の責任は私にあるって書かれるかもしれない。まだ匕背ヒロシの許嫁と公表してないから、ヒロシ君に迷惑がかからないけど、未来にその事をほじくりだす記者がいれば厄介だ。 私を苛めなければ「自殺」しなかったかもしれない男子って悶々と想っていたら保健委員の彼女が、水面下に潜んでいた苛めかもしれないし、かやくご飯の事は気にしなくて良いと言ってくれた。
063
自分のせいだと悪夢で傷ついていたアキラは彼女の言葉にホッと息を漏らした。そんな早朝、担任の先生が来て、皆で男の子のお葬式に参加する旨をのべた貼り紙をきょうしつの入口と出口に貼っていた。「二人ともはやいな。彼の事が気になるのか」と声をかけられる。「怖い気持ちを慰めあってました」と彼女が答えてくれた。「皆で命の大切さを考えような」と言って先生は職員室に戻った。
064
男女少しずつ当校してくる。皆、沈痛な面持ちだ。彼もメンバーだったグループのリーダーの男の子が登校した時、アキラは自分が罵られるのではないかと、怖い気持ちを必死で隠したが、幸い今の休み時間に用はない様だった。 いつもなら賑やかな朝の時間が、誰も笑ったりしない、寒々とした外気みたいな空間だった。学校の制服は喪服に使えそうなかっちりしたデザインなので、クラス全員がお葬式に参加できた。
065
友達だった子は静かにしくしくと泣いていた。まだ「罵られて」いない。でも大切な友達を奪われたと勘違いされようモノなら、罵声やそれに準ずる言葉を覚悟しなくてはいけない。初仕事もまだの紀眞の戦士は常人の様に震えた。命が奪われた事。その事に少しでも関与した事。
複数の悪意を身に受けている事。また苛められるのだろうか?全科目保健室で待機なら、学校なんて来る意味もない。なのに苛めを行っていた子達は本音をひた隠しにしている。
066
ホームルームの時間が来た。担任の先生が、男の子の家の許可をもらい、クラス全員でお葬式に参加する事になった。家族は苛めがあった事実を知らないらしい。何れマスコミにかぎつかれるだろうと、1日もその日が遅くなる様に、また永久に来ない様に指導を受けた。学校はマスコミ対策は校長が行うので「何も知らない」と答える様にと先生は伝えた。すると誰かが「本当に苛めを苦にしての自殺じゃないんですか?」と先生の対応を責めた。
067
「妄執」が形となったモノ。或いは妄執に取り付かれた人間が紀眞の倒さねばならない敵。人間を敵にするという事を紀眞は数少ない許された血脈だった。それでも葬儀に向かう特別バスの中で、この自殺の犯人が人間で「妄執」に取り付かれた人間がアキラの対戦相手だと知る。対戦相手が人間だった場合、ドライヤーガンはその命を奪うのか?なら嫌な想いをする筈で、テレビの様に悪者が人間でなければ良いのにと想うアキラだった。
068
バスから降りて皆で2列になって男の子の祭壇に向かう。遺影が眩しい笑顔だ。飛び降り自殺なので死顔との面会は許可されなかった。お父さんもお母さんも泣いていた。それを見て鼻をかむ男子がちらほら居た。先生の両目も充血していた。不謹慎な事を考えない様にアキラは自ら裁かれし死者に「安らかに」と祈った。今朝の新聞の匕背ヒロシ等の活動がもう少し早かったらという女子の泣きそうな声を聞いて、お母さんが「うちの息子は苛めにあっていたの?」 と攻めてきた。
069
先生は急いで女子とお母さんの間に入り、「加害者だと、被害者に謝りたい」と、告げてくれました。とお母さんに誠心誠意を込めて伝えた。お母さんは興奮して「うちの子は」とっても良い子ですと訴えたが。お父さんに「後でゆっくり」聴こう。今は息子のお別れを尊ぼうと胸に抱き泣くのを許した。 最後のお別れをが済んだクラスメート達はバスに向かったが、アキラは一人柩を火葬場に乗せていくのを先頭する車に乗り込んだ。
070
骨拾いをしたかったのだ。人が人で無くなる形をしっかりと焼きつけ様としたのだ。不信に想った両親に「彼に告白されて」返事がまだだったからと半分嘘をつく。アキラは知りたかった。死んだ命がどうなるのかを。告白は苛めをしてごめんなさいだと想うけど、お父さんやお母さんは「好きです」と、良い意味にとってくれた様だ。「一緒に骨を拾ってね」とお母さんに言われお父さんに頭をなでられた。
071
火葬場は簡素な佇まいだった。家族葬位しか行えないスペースで、アキラ達は、坊主の唱えるお経をBGMに故人を偲んだ。いよいよ柩が火葬の釜に入れられる前に花で彩られた息子の顔がみたいというお母さんの為「ぐちゃぐちゃ」になってますよと注意されるのも聞かず、顔の蓋を開けた。顔が清められていたのでお母さんは泣いた。皆、沈痛な面持ちで頭がい骨を砕く様なモノが柩に入ってないか確認をして、柩を火の中にくべた。
072
柩が燃えている間にお父さんやお母さんと、少し話をした。聴覚障害の為に保健室で休んで居たら、彼が来て「話がある」と小さな声で告げられた事。私は(本当は苛めの謝罪と想うのだが)告白を意識したから、時間が欲しいと言った。そんな話をした。お母さんは「あの子がねぇ?」と嬉しそうだった。私は絶体バレない様にしなくてはと想った。
やがて骨拾いの段階になった。体や骨は粉々になったり、かろうじて形を保っている所があった。
073
アキラは身体全部を骨壺に入れるのだと勘違いしていたが、喉の骨や親族が骨拾いをした箇所だけの骨壺に、全てを入れれないという事実に、深く悲しみをおぼえた。灰が全部、骨壺に入れば良いのにとアキラは悲しくなった。意志はどうなったか解らないが、形は灰として残るからだ。でも、愛する両親は、それで満足したのだから、アキラに口を挟む余地は無かった。
極楽の人達が使う様な長い箸で両親は骨を拾って居た。勿論、骨が熱いからだ。
074
彼は苛めを行って居たが、誰かから命令されて生き地獄とお別れをしたのだろうか?とアキラは悲しく想った。
彼の煙で曇った空を悲しげに見ていたら、アキラは泣いていた。苛めの相手でも死んで欲しくない。ドライヤーガンは妄執だけを退治出来るのだろうか?と選ばれた正義のアキラは怖く悲しく想った。もし知らない誰かが妄執に取り付かれて対峙するも、その人には、この様に愛する人が居る。悲しむ人を助ける為の新たな悲しみを産む闘いにネガティブになるアキラだった。
075
一緒に卒塔婆に水をかけてお経をBGMに冥福を祈る。今はただ、安らかに眠ってくださいと祈るばかりだった。愛するお父さんやお母さんは卒塔婆の側に泣き崩れた。可愛いさかりの愛息子を亡くしたのだから当たり前だ。アキラも何滴かの涙で頬を濡らした。遅くなったので、アキラは直帰する事にした。車が彼の家の前で止まると、丁寧に挨拶をしてアキラは自宅へ帰る為にバス停に向かった。
076
アキラは自宅に着くと「お葬式に行ってきた」遅くなっから、学校へは行かなかったと、玄関でばーちゃんに言った。「疲れたからもう眠る」と言って、階段を上り部屋のノブをひねった。鞄は机に向かって投げ出し、身体はベットにダイブした。「疲れた」と呟く。仰向けになって、足の両膝を交互に動かしてみた。 落ちつかなかったので、クローゼットに昨日から仲間入りしたドライヤーガン戦士のコスチュームを取り出して見てみた。
077
かあさまの渾身の能力秘めたコスチューム。昭和のアイドルみたいなフリフリが可愛いコスチューム。機能性にとんでないどころか、戦闘向けとは言えない。ソレを見て何故か、命懸けでアキラを救うかあさまの愛情を感じた。そしてアノコのお母さんを想い出すと、ドライヤーガン戦士の宿命から逃げ出したくなった。妄執をヒットすると人体にも苦痛が及ぶのかもしれないと想うと、匕背家の人達とのマネキン訓練をサボりたくなった。
078
匕背ヒロシにラインでもしようか?と考えてた時に窓の外から小石がガラス窓に当たった。ヒロシ君、と想ったアキラは窓を両面に開いて外の来訪者を確認する。それはヒロシではなくヒロシと年の近い匕背家の訓練相手もしてくれる男子大学生だった。声や面立ちがヒロシ君に似てるので、時折どきりとするのは内緒。「訓練休んでいい」喪中だからとアキラは声をかけるが男子は「いくぞ。おらっ」ていう人の意見を無視する態度だ。
079
「お邪魔します」と男子が玄関から入って来て、階段を登る音が近づく。「待って」まだ着替え中なのと嘘をつきながらコスチュームをクローゼットに直した。仕方がないから訓練用のレオタードに着替える。ブラック一色のレオタードに。 もう良いだろうという案配に男子がノブをかちゃりと回した。 ギり着替え終えたアキラは今日はいつものアキラじゃないよと付け加えた。「クラスメートの自殺の件か?」ヒロシ君と違って歯に衣を着せない。
080
言い様に、ガックリと肩を落とすアキラ。性格悪と想ったヒロシ君との差に、そう言えばドライヤーガン戦士の訓練以外の話をした事が無い事に気がついたが『アキラにはヒロシ一筋でいてもらわな困るわ』というじーちゃんの言葉を想い出し、世間話をするのを止めた。 「自殺したんだってな」その情報は涙を誘うから止めてと言おうとすると「いよいよ紀眞アキラのデビュー戦かもな」と微笑んだ。何故、その台詞で微笑むとアキラはつっこんだが。
081
匕背家の所有地の山林の中、ヒロシに似た男子と、何時もの場所で別れたアキラは、ドライヤーガンの充電加減を確かめる。数人潜む匕背達とのマネキン訓練の始まりだ。素早くマネキンの懐に入って、渾身の力でドライヤーガンを急所に打ち続ける。ドライヤーガンは脳みそや両目や足に有効だが、心臓が一番的確だ。コードが無い為、動きやすいのだが、戦法は限られてくる。いち速く敵をシュートしたら勝ちなのだ。
082
マネキンは体温や鼓動がない代わりに、マネキンをあやつって居る匕背達の臭いがする。どうやってモーター音や発熱も無しにマネキンを操っているのかは未だ不明だが、アキラは最初の頃に比べればとても強くなっていた。「ほら三体目」遅いよ。もっと本気で来なきゃ「ほら五体目」と次々とドライヤーガンでアキラはマネキンを駆逐して。全部で十体だから後半分。小型充電器にガンをチャージさせ、アキラは新たなる敵も駆逐した。
083
三十分ジャストで全標的を駆逐成功。後は「妄執は人間に取り付くから」マネキンの様に非情になれよと匕背家の男子に言われた。「妄執に囚われた人」って殺さなきゃならないの?アキラが想いきって聴く。と男子は「実戦はお前の母ちゃんがお前を産んでしばらくたってからのが最後だったから」わかんねーと言われてしまった。
平和だったのか人間が妄執に泣き寝入りしてたのかも解らないが、アキラの周りの大人達はアキラの養育に熱心だった。
084
家に着くまでの間、匕背の男子と二人で今日のイメージトレーニングを行った。充電器は小型だから持ち運び可能なのだが、念の為、更にスピードアップする事を課題にあげられていた。汗だくのアキラは「まだスピードアップしなきゃいけないの?」とたまげてるが、匕背の男子はマネキンより人体の方が体力有るかもしれないし、ためらい傷をつけて凶暴化さすのがアキラらしいと、ネガティブな発言をされて「くぅう」とアキラは呻いた。
085
スピードアップの為の特訓は「考えてから動く」では遅すぎるので「感じた瞬間に仕止める」というモノだから、今の速度ではまだ修行が足りない事になる。人体の速度の限界を考えると杞憂にも想えるのだが、匕背達は本気だ。「そんなに人体への攻撃がマネキンより遅くなると?」とアキラは何度目かの質問をする。その時、今日は何故、授業を受けていないかを、想い出して、涙ではなく吐き気をおぼえた。 だが妄執は仕止めると誓った。
086
帰宅して自室に戻り、スマホをチェックするとヒロシからラインが入って居た。
ヒロシ[大丈夫か?アキラ][友達が亡くなったんだってな][悲しみと怖さで授業を受けなかったんだって?]とあったので[違うよ]とタップしかけて止めた。
アキラ[ヒロシ君は新しい仕事どんな感じ?]と聴いたら、ヒロシ[本当に苛めや生贄が居なくなる事を願ってるよ]と、誰にでも優しい自慢の解答が帰って来た。
アキラ[じーちゃん達が心配するから]
087
食卓に行くねと明るく答えたら、ヒロシ[お疲れ様]とラインを切った。
ばーちゃんは今日はカレーを作っていた。中辛のカレーをアキラはルーだけ食べる。ご飯は別に食べる。「美味しいかい?」とばーちゃんが聴くから「美味しいよ。ばーちゃん」とアキラは言った。「匕背家の訓練でまた課題が出たよ」とアキラ。今日は紀眞の家ではドライヤーガン戦士の事を忘れて泣いてあげて良いよとじーちゃん達が交互に言う。アキラは「食べるね」全部と言って、少しづつカレーを食べ出した。
088
無言で食事を終えたアキラは軽くシャワーを浴びて汗を流し、寝間着に着替えた。ベットに寝転がって、灰になってしまった苛めの男子と匕背家の男子と話したアキラの課題の事を話し合った事を想い出した。例えば優しい保健委員の子が、たよりに成る担任の先生が、そして旦那様になる予定のヒロシ君が、妄執に囚われたらどうすれば良いのだろう?
089
と最悪のシュミレーションをして泣いた。だから速度アップが必要なのだと解った。マネキンに情は移らないけれど、何人かの特別な人達やそうでない人達にも、情がうつり、同じ様に闘う事が出来ないから。だから、気配だけで仕止めれる速さを必要とするのだと。それならば情に気に囚われる事なく、最高のコンディションで、闘えるから。枕を抱き枕の様に抱きしめる。ぎゅーっとして、自分がこの世に存在している事を想い知らしめた。
090
その晩もアキラは悪夢にうなされた。
倒した筈のマネキンの顔がパカッと開いて、本当の人間の顔が見える。意気揚々と倒した自慢をしようとした時に、気がつくのだが、それはヒロシ君だったり、保健委員の子だったり、担任の先生だったり、苛めを苦にして自殺したアノコだったりして、アキラを苦しめた。「死にたくない」「死にたくない」と彼等は顔の表情だけで訴えてくる。アキラは「ごめんなさい」「ごめんなさい」と何度も呻いた。
091
両頬には涙が伝う。
そしてアキラは目を覚ました。本気で嫌な夢を見た。でも睡眠下における夢は現実じゃないから安心だよねと、起き上がって、伸びをしたが。横になる。
アキラが預言者なのか?妄執がアキラを監視してるのかは解らないが、一番大切なモノ(匕背ヒロシ等)が失われるのを知らないアキラだった。
悪夢を恐れてアキラは暗闇の中、ぎゅーっと枕を抱き枕の様に抱きしめた。
092
殆ど安眠出来なかったアキラは、体調が悪いから学校を休ませてもらった。保健室で眠る案もあったが、通学中に事故でも起こしかねないので、学校を休んだ。その間、応接間のテレビで自殺した男の子のニュースを見た。「苛められての苦による」と解説してる人は言ってたが、司会者が「むしろ苛めを実行してたのでは」と、まとめた。どちらも反対意見ではなく、アノコの中では、起こって居たのではと、アキラは気がついた。
093
苛めのパシリのアノコを牛耳る誰か達が居るのではないかと・・・
かやくご飯の件で一致団結した男子の誰かかもしれないし、注意をした匕背ヒロシのファンの女子かもしれなかった。クラスに通うのが怖くなるアキラをばあちゃんが予備の衣装もつくろうかねと、安心させた。 お母さんの布はもう使い尽くしたので、ばあちゃんが良い念がこもっているし可愛らしいからと集めていたはぎれでパッチワークをしたモノを使う事にした。
094
またアイドルみたいな、ふりふりか?と脱力してたアキラに別にミニパンツの衣装でも良いよとばーちゃん。あんまり熱心に成れなかったアキラは「任す」といって台所に行き冷蔵庫の牛乳を飲んだ。牛乳は美味しい。けど牛乳を吹いた雑巾は臭い。それをアノコはアキラの机の中に入れ様とした。死んでお詫びをしたアノコは責められないが、とても嫌な気持ち。誰が司令塔なんだろう?それとも男子の民意とカースト最下位の関係だろうか?
095
匕背家の男子が見舞いに来た。「悪夢で二日寝てないんだってな」と、子守唄でも歌ってやろうかとギャグをとばす。ははははははとアキラは笑った。
「ヒロシに安心させてもらうのが」筋ではとアキラに言う。「ヒロシ君は今、『苛め撲滅キャンペーン』が忙しいから」無理言えないよと続ける。それに「お前ら伴侶になる仲なんだろう?」ヒロシが仕事に夢中の時、もしアキラに万が一の事があったら、そんなの遠慮する方が、おかしいと想うとアキラは言われた。
096
でもヒロシ君はお金を稼ぐ仕事をしてるんだよと言い返すアキラ。お前ん家のじーちゃんとばーちゃんが幸せそうに活きてるだろう。それをヒロシとアキラは継承しなきゃなんない訳。だからお互いに元気な身心をしてる内に、もっと楽しい生き方にシフトチェンジしなきゃいけないと想うよと彼は言った。ドライヤーガン戦士が、あったかホーム?とクエスチョンをつけるアキラに「お前が死んで得する人間は」腐るほど居る。
097
だから、見返してやれ。幸せになってやれ。それが最高の復讐だと彼は言った。
今日はマネキンの実戦は止めて、精神論の話なと彼は言った。「大学は」どうしたの?と聴くアキラに「自主休講」と笑った。多数の人間と少数の人間が地球には居る。彼等は意見が合わないからって暴力や戦争を犯してはならない。少数派の人間達とも折りあわなければならない。だから少数の人間に取り付く妄執は殲滅させなくてはならない。
098
妄執に取り付かれた人間は破壊のマシン化するから、アキラは全ての人間を守る為に、自信を持って妄執を殺せ。本人はつけこまれる隙があったから妄執に取り付かれているのであって、本人にも責任がある。それも巨大なヤツだ。そうして退治してやってから、一生胸に刻んでやれと彼は言った。妄執は恐怖宗教の生贄じゃないの?とアキラが聴くと、自業自得だから「ちがうよ」と彼は言った。恐怖宗教の生贄を私は殺したくないと、涙がでてくるアキラに背を向け、彼は大丈夫だ。「俺達が居る」と言った。
099
「名前なんだっけ?」そろそろ教えてくれると聴くアキラに彼は「実践で好成績を残したらな」それまでは匕背かヒロシの兄って呼べって言ったろうと、笑った。
仕方なく「ヒロシ君のお兄さん」と呼びかけるが、美しい闇色の目を、間のあたりにすると、考えていたさりげない質問が無くなってしまってた。ヒロシ君はアイドルユニットのメンバーだからルックスが良い。
100
だから血縁の『お兄さん』もイカしている。私はヒロシ君の許嫁だから、この安心感を男女の好意と誤解してはいけない。アキラは心を戒めた。
怖い気持ちを慰めてくれて、傷心を癒してくれて「ありがとう」とアキラは素直に言えた。そこへ調度ばーちゃんが買い物から帰って来たので、お茶にする事にした。四人で、おとっときの煎餅を食べ熱いお茶をゆっくりと頬張る。至福を感じているアキラにじーちゃんとばーちゃんが、気持ちは落ち着いたか?と聴いてくる。
101
匕背さんが「妄執退治の意義を呑込み」穏やかに成りましたよ。なぁッと言った。「ヒロシ君忙しいんだろうな」と呟くアキラに「アキラもドライヤーガン戦士の初仕事がもうじきくるじゃてぇ」とじーちゃん、ばーちゃん。「自殺した子が灰になるのを見たよ」とアキラが言う。ドライヤーガンはやっぱり命を奪うんだろうなと、自嘲気味になるアキラ。「解った解った」ヒロシに連絡する様に伝えたると彼は言った。
102
「ヒロシ君は忙しくたってラインくれる紳士なんだから」とアキラがぶーたれる。そしたら皆で大笑い。昼食の時間になり彼は彼女の待つ部屋へと帰っていった。今日の訓練はメンタルの学習なので「おしまい」と言って。
ばーちゃんが夕飯様に仕込んでいた関東炊き(おでん)を昼飯に振る舞ってくれた。柔らかいモノは味が染み込んでいるから、夕飯の大根や蒟蒻が楽しみだ。白米に染み渡らせた関東炊きの汁を合わせて食べる。美味しい。
103
「正当防衛と解っての狼藉だな?」とヒーローが言う。「だから先に手をださなったんだな」卑怯ものという罵声の後で、ヒーローが刀を一閃させて「任務完了」とキメポーズ。そして爆発する悪の手下。という絵で、そのドラマは続いた。見ていたアキラは「先手必勝」と習っているから、ドラマはドラマだよねと呟く。正義の味方として罪悪感はどうしているのだろう?という問いに後だし正当防衛かっと、ありえない戦闘にアキラは疲れた。
104
関東炊きの良い臭いがする。お腹を空かせたアキラは夕飯の準備を手伝った。ほろほろな大根やぴちんとした蒟蒻に長い竹輪や茹で卵もある。黄身を汁とご飯で食べるのって犬飯みたいだけど、最高に美味しいんだ!☆
コンビニは薄味のおでんが主流だけども、アキラは関東炊きの方が、好き。だいすき。
ダイエットをしてる(食べ過ぎるとコスチュームが着れなくなっちゃう)ので、山盛りは食べれないけれど、美味しいとこ取りしてやるんだから♡
105
沢山関東炊きを食べて、お手伝いをした後で、ばーちゃんがコスチュームのデザイン画を見せてくれた。昭和のアイドル感満載で、ひきつったモノの、一番派手じゃないデザインのを推した。ばーちゃんは、また立体にするに当たって細かいデザインするから意見頂戴なと笑ってデザイン画帳をしまった。
王子様の様なふりるがふりふりな上着は回避できたとガッツポーズをとるアキラ。そろそろ部屋で
106
予習でもしようと階段を上がった。
机の上に置いていたスマホが点滅しているので、何かと確かめてみると、ヒロシ君からラインが入っていた。見るとニュースでアキラが葬儀所から火葬場についていった現場を、たまたま流しており、涙ぐんだアキラを見て心配したらしい。
ヒロシ[大丈夫。あんまり泣かないで。僕が居るから]と気持ちのこもったメッセージにアキラは感動した。
アキラ[ありがとう。謝罪をしたそうにしていたのを相手してあげれなかったから]と送信するとヒロシ[悪い事されたの?]と詰問。
107
アキラ[実は苛めにあってる。その子が自首しに来たの]と送信。
ヒロシ[アキラに酷い事するヤツは許せない]と[アキラも、その事忘れないで]と云うメッセージで、ラインが終わった。怒ったヒロシは初めての対応だった為、アキラは「家族愛」を感じた。そうヒロシにとってはアキラは大切なお嫁さんに成る人なのだ。怖さの奥に潜む愛情にアキラは照れてしまった。
108
シャワーを浴びて、歯磨きをしてパジャマで部屋へと戻る。辛い事があっても、学校に行かなくてはならない。まだ、引きこもりをしないといけない酷い目にはあって無いから、アキラは悪夢を見ない様に、母さんに祈って何とか眠り入った。
だけど夢を見た。虚ろに足って居る保健委員の子と担任の先生とヒロシ君の両目が真っ白で、怖くってガバッと起き上がった。そうして、ビクビクしていたら疲れと緊張の為、今度は本当に熟睡出来た。
109
何時もより早い早朝、二度寝したアキラは、遅刻寸前の時間に起きる。ヤバい。アキラはトーストを頬張って急いで通学路を走った。バスバスバス。まだよ待っててお願い。してたら、遠くでバスが発進する音が聞こえた。一時間目遅刻だと泣いていたら「乗って」とヒロシ君が自転車で出迎えてくれた。助かったと想ったのも束の間で、なんとアキラの通う小学校ではなく、ヒロシ君の職場に連れてこられた。
110
へぇ~と驚くアキラを楽屋の椅子に座らせてヒロシ君がマネージャーさんに見学の許可をもらう。腕章を借りれたので、制服の袖に付け自由に出入りできる様にしてもらった。
『苛めは止めよう』キャンペーンの仕事は、「どうして苛めるの」「どうして我慢するの」「どうして手伝ってあげないの」とユニットの一人一人が問いかける様になって居て、ファンの子でも「ほぉーっ」とため息が出るくらいカッコいい。
111
ヒロシ君は「死なないで、君は大切な地球号の仲間だから」と目がはーとになる様な事を見つめながら言うから、トイレに逃げ込む。
一員なんだ。苛める子も苛められるアキラも、ヒロシ君達の仲間なんだ。と想うと、あの目から出てるセクシービームは反則だよ♡とメロメロになる。
アキラは苛めにあってる純な小学生なので、普通の人より何倍も彼等がカッコよく見えた。此で、素直に受け止めてくれる人間しか居なかったらなと想いながらも、次の手も楽しみになるアキラだった。
112
練習と収録が終わったヒロシが、アキラを探す。マネージャーさんにトイレを見てもらい、其処に居ることが判明。「なんで僕らの仕事を見ないんだよ」とアキラに大声で言う。「だってぇっ」と恥じらいながら明確な答えを出さないアキラに「今日はアキラの事を想って演じた」とヒロシが、なんで解らないんだよと吐く。トイレの鍵を開けアキラはトイレ室から出てヒロシの目の前に立った。「私の顔変じゃない?」と言うアキラをマジマジと見たヒロシは「赤いね」と言った。
113
だから見られたくなかったのに。というアキラに「誰がアキラにそんな顔をさせる?」ときつく聴かれたから、アキラは目の前のヒロシを指差した。予想外だったヒロシは照れながら「僕の為なら、アキラのそんな知らない顔をもっと見たい」としゃがんで、鼻がくっつくかの距離で言うと、右手を握りしめて行こうと促した。 手汗が気になるアキラをお構い無視にヒロシは仕事場に入っていった。
114
アキラは同じ席で見学まで待機だ。
ヒロシが自分の台詞以外もためし取りして欲しいとカメラマンに言いトライする。「どうして苛めるの」「どうして我慢するの」「どうして手伝ってあげないの」と言うヒロシに、爽やかな暖かさを感じていた元のメンバーより、更に切実な切なさを感じた。カメラマンは「これは情がこもり過ぎて」使えんわと言われるのを、えへへと笑いながら「どうだった」と、此方に時折顔を見せるヒロシだった。
115
お昼ご飯は控え室でユニットが食べる事になって居るが「今日は彼女の接客があるから」と言うことで、ヒロシはアキラが座っている所まで、二人分のお弁当とお茶を持ってきた。「一緒に食べよう」という言葉は抗いを許さず、ただ夢見心地なアキラだった。今日のお弁当は三元豚のトンカツ定食だった。踊って歌って演技をして、くたくたな彼等には調度良いボリュームだが、見学だけしていたアキラには多すぎた。残りを持ち帰る話をしたら「流石自慢の許嫁殿」と、からかわれた。
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ばーちゃんが作る薄味の本格的に美味しい香味に負けず劣らずトンカツは丁寧に調理されていた。不味くても捨てないアキラは夕飯の楽しみにとっておいた。午後からは収録ではなく自主トレなので、普段なら高校にとんぼ返りするところ、折角アキラが居るのだから、一緒に見学しようと提案され、うけるアキラだった。二人が見学したのは、ある密教の開祖「そらうみ」と「もっともすみ」の生贄の永久に独鈷杵で壊される鬼のヒロインまきが健気に生きて行く様を描いたドラマだった。
117
クラスでも前評判が良く、ヒロシはでないが、ミーハーな女子達の話題の的だった。 「なんで「そらうみ」と「もっともすみ」は生贄の鬼を作ったのかな?」アキラがぼそぼそ喋る。ヒロシは「恐怖宗教しか人民掌握術は無いと」想い込んでいたのだろう。と言った。「皆同じ価値の命だから、本当は誰も苛めにあってはいけないんだよ」とヒロシに微笑まれた。
118
アキラは赤面した。
ヒロシは同情はしていない。素直に好意をぶつけてくる。会社の方針で、学校では恋愛禁止になって居るが、小学生のアキラは血族でもあり紀眞と匕背の世界に与える役割からアキラとヒロシの仲は、事務所では公認並だった。そらそうだろう。アキラが苛めにあったから『苛め撲滅キャンペーン』が始まったのだから。アキラはヒロシに好意をよせてるが、ヒロシはどうなんだろう?血筋に縛られて嫌々良い未来の伴侶を演じている訳では無さそうだし。相思相愛で良いのかな?とたまに不安になるアキラだった。
119
ヒロシはカッコいいし、将来有望だし、凄くモテる。比べて、アキラは、英語が出来ない、特殊な耳をしている。月とすっぽんか豚に真珠かなと悩むアキラは、どうして可愛い美少女な事を自覚していない。年の差なんて気にならないくらいお似合いなのに。現にヒロシのユニットの何人かは、アキラの事を新人のモデルかな?と想っていたから。
120
「そらうみ」と「もっともすみ」に負けるなというドラマを見学していて想い出した事をアキラはヒロシに聴いた。「紀眞の家系ってそらうみの配下じゃなかったっけ?」そんな気がするアキラに、ふふふと笑うヒロシは次の様に答えた。「紀眞は世話係に任命された、そらうみの生贄の鬼に同情し、生け贄をかわるんだ」そして「そらうみ」と「もっともすみ」の残虐非道さに異義をとなえ、今では「そらうみ」と「もっともすみ」と敵対しているんだと。
121
成程と安心したアキラは安心して作られてゆくドラマを観察した。
「人類皆に説法するより、一人だけを徹底的に破壊していたら、楽に人民掌握ができるからって」生け贄の子供を、育てるとも知らずに、熱心に信仰している、母親の教育もしているなんて「酷過ぎるんだよ」という台詞で、アキラは現実に戻ってきた。生贄の鬼のまきちゃん。このドラマでは救われるのだろうか?ドラマだけど心配になってしまった。
122
「まきちゃんは、とても優しいね」とヒロシとアキラは同意した。そろそろヒロシが退出したがっていたので、ついてゆくアキラ。「どうしたの?」と聴くアキラに「あの後、そらうみとお稚児さんのセックスのシーンがあるから」アキラには、まだ見せたくなかったんだ。とヒロシは微笑んだ。セックスシーンとの言葉を聴いて赤面するアキラ。Jpopのラブソングでは、それを匂わす歌詞も平気できけるのだが、視覚はまだ無理ーなアキラだった。
123
何時かヒロシ君とそういう関係になって赤さんを宿して産み落として養育して行き、育った子供達とは別にヒロシ君と二人で余生を過ごすのか?とじーちゃん達の事を想い出した。かあ様と父様の記憶が無いアキラはじーちゃん達のイメージしか出来ず、もっとどきりとする内容を老成したかの様に受け止めていた。するとヒロシ君が「アキラにキスしたくなったんだ。本当は」
124
と照れ笑いを眩しい笑顔でしたので「いいよ」とアキラは言ってしまった。じゃあ許可がおりたから「うーんとロマンチックなシュチュエーションで」頂きます。と頬を赤らめながらヒロシは言った。「うん」と頷いたアキラも照れて背中を見せてしまった。 どんな味がするんだろう?今日はトンカツだったから、今日なら、トンカツの味かなと、うっとりするアキラにヒロシは微笑んだ。だが、それを後悔するする日が来る事を二人はまだ知らない。
125
今日はタレントさん達の見学が出来て良かった。特にヒロシ君の真剣に仕事をする姿が印象深かった。真面目にお金を稼ぐ為に妥協を許さない。そんなカッコいい姿に「私の将来の旦那さんなんだよ」と威張りたくもなったが、迷惑をかけるので、止めた。帰りはヒロシ君が遅くなるとの事で、タクシーを用意された。帰りの車中アキラは幸せを反芻していた。アキラの自宅に着いたタクシーは「お代は頂いているので」と立ち去った。
126
ばーちゃんには、お昼の残りがあるから、食べられないかもしれないよと、伝えてトンカツを電子レンジで、チンした。脂ののった三元豚の香りがする。ばーちゃんがわけて欲しいと言ったので、じーちゃんも習った。そしたら、アキラもばーちゃんの夕食が食べれた。今日はキムチ鍋だった。白身魚や葱や豆腐が大好きなアキラは沢山葱をよそおった。じーちゃんもばーちゃんもトンカツを美味しそうに食べる。嬉しくなるアキラだった。
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ヒロシ君がアキラを、職場でエスコートした事を話すと、ばーちゃんは「ヒロシは王子さまたい」と笑った。じーちゃんも「流石匕背の男」と、ニカッと笑った。
だけど、流石に明日は、学校に行かなくてはならない。3日欠席は大きいなとアキラも想った。保健委員の子にノートを見せてもらおうと、コピー機もあるしと、逸る自分を安堵させた。そして、シャワーを浴びて、寝間着に着替えながら、今日こそ悪夢をみません様にと、誰かに祈った。
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この事件が終わるまで、アキラは悪夢を見続ける事に成るのだが、アキラはまだ知らない。
保健委員の子と担任の先生とヒロシ君がネィティブ並みの発音でアキラの聴覚から脳髄を犯す。アキラには好意の対象が悪意を伝えられるグループになって居るかの如くだ。悪意の中で気絶しそうになるのを耐えて、必死で「やめて」と懇願する。保健委員の子が甲高い声でこう言った。「紀眞アキラ、お前が悪者退治を止めて、匕背ヒロシと別れたらな」
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考えてやるよと、保健委員の子に言われる。
「嫌いやぁ」と絶叫してガバッと目覚める。まだ起きるには早い。
仕方がなく台所に向かう。危ないので、丁寧に階段を降りた。すると台所から灯りが漏れている。「誰?」と声をかけるとばーちゃんが養命酒をちびちびやっていた。「ばーちゃん私も欲しい」養命酒がというと「大丈夫かい?最近うなされてばかり居るだろう?」心配げに少しの養命酒をくれた。「ありがとう」って受けとり、ちびちびとやる。
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苛めにあってから「悪夢が収まらないの」とアキラは言う。「大丈夫。夢は現実じゃないさかい」安心して過ごし。その内何もみえなくなるさねとばーちゃんは言った。でも、もし妄執に見つかったり、妄執の仕業だったりしたら?と怯えるアキラを抱きしめて「大切な人が居るアキラを」責める人は誰も居ないよと慰めてくれた。妄執はドライヤーガン戦士がやっつけておしまい。とばーちゃんが顔をくしゃくしゃとして笑った。
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アキラは二度寝する為にベットに潜り込んだ。養命酒が手伝ってか?ぽかぽかで良い気分のまま眠る事が出来た。悪夢を見ていたとしても、認知出来ないくらい養命酒に微睡んでいた。
良く目が覚めた朝、二度寝をする事もなく、身だしなみを整えて「おはよう」と二人に声をかけた。ばーちゃんが温かい味噌汁をよそおってくれた。「ありがとう」と受けとり、味噌の香りを楽しむ。豆腐より麩が好きなアキラは「どっちも入ってるー」と喜んでいる。
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白米を噛み締め、味噌汁を味わい、焼き青身魚を味わう。
「おいしー」幸せを満喫して、その意を伝える。家を出る時間になったので、ピースをするじーちゃんに笑いながら玄関から外に飛び出した。
今日は余裕があるのでゆっくり辺りの冬の花を咲かせる樹木を観察しながら登校した。バスはぎゅーぎゅーだったけど、アキラは嬉しかった。3日も休んだ学校に、引きこもりに成る事もなく、行くのを楽しみにしてるなんて、私は幸福者だなと笑うアキラを待ち受けているのはまだ終わらぬ苛めとも知らずに。
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教室に1番に着いた。机の中やロッカーに下駄箱同様苛めがされてないか確めて安堵して座る。宿題は正直に休んで居たので、わからず、やってません。と答える事にした。
やがてぽつぽつと生徒が入室してくる。男子や男子連れが多かったので誰とも挨拶出来なかった。とりあえず保健委員の子が登校するのを待つ。心配をかけたから、もう大丈夫だのアピールをしたいのだ。
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だけど予想は裏切られた。保健委員の子はクラスで1番に権力のある男の子とはなしながら入室した。驚いたアキラは、つい声をかけそびれる。その男子がアキラの机の前に来ると、コピー用紙をアキラにつきだした。「昨日は婚前旅行ですか?」と笑いながら授業のノートのヤツだからと置いて保健委員の子の机でくっちゃべる。「婚前旅行」誰が、嗚呼さぼりまの紀眞か?誰と?許嫁だよな?固っくるしいってか、時代錯誤も良いところと、誰ともなく声をあげる。
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嗚呼そっか匕背か?タレントなんかに入れ込んでたら、中学入学出来ないよ(笑)と、いい加減にして欲しい。「ヒロシ君の事は悪く言わないで」と席を立ち大声で言う。「ヒロシ君?誰それ?嗚呼、匕背か」仲良いねーとゲラゲラ笑われる。空想して1日を過ごしたんだ。って罵られても他言無用だからシカトするしか無い。
だから、あの勘違いを利用する事にした。「私は許嫁のお見舞いに行ってました」と嘘をついた。
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もう、ヒロシ君の悪口を聴きたくなかったからだ。庇ってくれる筈の活発な女子達も別の事をしている。アキラはいきなり一人ぼっちなんだと、悟った。
散らばったコピー用紙を拾い集め整理整頓する。授業内容が解るありがたさだけではなく、ブスとかハゲとか赤ペンで書かれていた。男子達は『大人の紀眞』は要求不満の時、誰に欲情するんだろうね?と迷惑だけど、遊びまくりたいのかな?とセクハラだ。
なんで、このクラスは攻撃的になってる。アキラは俯いた。
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どうしたら良いのか解らない?
先生の前では猫を被るか?又は先生も懐柔してるかもと想ったら、殺されたアノコの事を想い出した。こうやって、苛めのパシりにされて、自殺に追い込まれるんだ。この邪悪な関係に妄執は絡んでない?本当に?アキラは考えを巡らせた。
「苛めなんかに負けないんだから」私には匕背達が居る。ヒロシ君もじーちゃんにばーちゃんが居る。
いい加減にしろよとアキラは興奮した。
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妄執が居る筈。誰が取り付かれたの?殺してやる一人残らず妄執をと想ったアキラはチャイムの音を聴いた。ホームルームの為に、担任がクラスに入室した。そこで苛めは何処吹く風というルームメート達に、妄執に取り付かれる理由は本人の弱さ故と言う教えも聴いたアキラは、クラスメートに軽蔑の意を記した。匕背ヒロシの許嫁だからって、こんな目にあってたまるか(怒)
と、アキラは当てられるまで想って居た。「紀眞、昨日はどうした?」
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一昨日は納骨の儀に参列したんだってな?「苛めの事は気にするなよ」と言う担任に「昨日は親類のお見舞いに行ってました」連絡が遅れてごめんなさい。と謝る。なら、今日は学業を頑張りなさい。と言って返事をもらうと、教室を出ていった。まるでクラスの雰囲気を理解してないそぶりから、あれは演技ではないか?生徒とぐるになってるんだ。と、怒る想いしか想えない自分を初めて感じた。こんなの匕背家のマネキンにすら抱いた事は無い。
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ドライヤーガンで倒してやる。血走った目で授業を受けながら、アキラはそう念じ続けた。緊急用のラインをタップする。匕背家のマネキンを操る大学生に繋がる。
アキラ[緊急の用]
匕背兄[何?訓練に今日も来れないのか?]
アキラ[違う。妄執の見分け方教えて、私今狙われているの]
匕背兄[一旦家に戻れよ]
アキラ[ダメ。それじゃあ自殺したアノコの二の舞に成る。それは嫌]
匕背兄[仕方がないな。俺が着くまでは冷静で居ろ。見分けてやる]
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アキラ[ありがとうとごめんなさい授業中に]
匕背兄[気張れよ]で
ラインは終わった。
皆が見守る中、アキラは堂々とスマホを触った。
ホームルーム前と違って、ひそひそ話が続く。バカなのかとアキラは想いながら、匕背の兄さんが来るのを待った。
私がショックを受けるのは妄執が取り付いた人間が保健委員の子と担任の先生とヒロシ君だけだったけども、もうヒロシ君だけにしないとヤバいのかな?
数日前に仲良くしてくれた彼女と先生を名残惜しそうに想っていた。
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彼女はクラスのリーダーと休み時間は常に一緒に居る。楽しそうなので、少し寂しかった。
仲良くしてくれた想い出を「ありがとう」の気持ちに代えて卒業しなければならない。ただ、気になるのは保健委員の子はクラスで目立たない。そんな子をクラスのリーダーがずっと相手にして居るのだから、快く想わない女子や男子が居る筈。
だから、二人が仲良くしているのを観察していた。苛めに成らないと良いけど。
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今はアキラが見張られてる。
だから大丈夫かな?と緊迫感が抜けた。
ガンとばすヤツにはやり返し、妄執取り付きリストにチェックを入れてる。
これなら匕背さんに役に立ててもらえるかもしれないと想うと、よっしゃーやったると、いう気持ちに浮上した。ノートのコピーのお礼をするのも止めた。それぐらいいちゃいちゃしてる。昨日「キス」を求められた時に、感じた甘酸っぱい気持ちを想い出すと、引き離す事は無いかと照れながら想った。
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匕背さんが着いた。
丁度ボッチ飯中だったので、救われた気持ちで、給食ごと移動する。埃は舞い寒さが感じられるけれど、屋上で二人は対面する事にした。「妄執居るわ。やっぱ」と開口一番に言われ「やっぱり」と想う。
この付近では強い気配が二つと微量な気配が一つ有ると教えてくれた。妄執の気配探知機を貰い隠れる様に安全ピンで留める。匕背さんはベランダで居るからラインのメッセージに気を付けてと言われ作戦を実行する。
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妄執を退治すれば、苛めもマシになるかもしれない。給食皿を直してアキラはクラスの隅々を見渡した。勿論、靴箱、机の中、ロッカーはチェック済みだ。まだ今日は何もされて居ない。良かったと想いながら妄執チェックリストを机の脇に備えた。さー来いライン。紀眞の名に懸けて必ず成敗してやるもんね。と、力むアキラだった。体育の時間が有るけど、アキラは授業の名の元に、仲間に入れてくれない
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苛めに合いたくなかったので、見学する事にした。保健室に行くと匕背の兄さんの役に立てないからソレは止めた。
女子はバスケ、男子はサッカーをして居る。
とりあえず女子に集中してみた。バッチに声が大きく聴こえる様に何とか工夫をしてみる。保健委員の子がシュートをした3Pシュートというヤツだ。凄いと拍手した。今日の彼女は何時もとは違い、生き生きと体育の時間を過ごしてる。ドリブルして突破口を開くと、ゴール下の仲間
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にパスをした。受け取った彼女は鮮やかなシュートを決め、二回も得点にも貢献した。再び拍手した。苛めに合わなければ良いけど。と想った時にスマホが震えた。匕背兄[見つけた。今ガッツポーズを決めた子が一人居たろう。髪の毛の長い子が妄執に取り付かれている]
その情報を見てアキラは絶句した。何故なら、それは保健委員の子を指していたから。
「嘘」って悲鳴をあげそうになった。
少しの間だが、とても親切にしてくれた地味な彼女に何かあったのかしらとアキラは頭をかかえた。
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匕背兄[始末の仕方は解っていると想うが、くれぐれも用心して][単独で戦闘に持ち込むのは止めよう]と、俺が居る時に一緒に行動だからなと強く推しきられた。
ショックは更に続く。
匕背兄[後二人は一人が男性教師だからアキラの担任かも知れないし、微量な気配はお前を送るヒロシかも知れないぞ]と言われた。
アキラは最高潮に不幸を感じた。ヒロシ君を相手にマネキンの様に壊すの?
死ぬよ。なんでだろー
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悪夢のラインナップのまんまなので、アキラは知らず知らずの内に泣いていた。悪夢は予知夢なの?それとも妄執に悪夢を見られ利用されているの?
兎も角誰も殺したくない。しかもヒロシ君はもっともっと特別だ。
鼻水が出てもバスケの試合を見てるふりをする為に、涙を拭かなかった。
トイレに行って顔を洗うも、涙等が溢れてやまない。おじいちゃんになったヒロシ君ってどんなにロマンスグレーだろうと、にひゃにひゃしていた自分が、そうであれと強く推す。
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だけど紀眞の宿命は悪者退治で、ヒロシ君が悪者に取り付かれてしまったなんて、他の二人も大切だが、精神のコアを殺られたアキラだった。私の使命は大切な未来の旦那様をこの手で葬る事。「そらうみ」や「もっともすみ」の恐怖宗教が「悪い」と言える「生贄」を作ってはいけないんだ。との温かい彼が開祖達並に悪いと教える紀眞と匕背の家訓。体操服に涙がぽたぽた落ちた。汗です。と言い訳しよう。
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その日の夕暮れ。教室の掃除を終えた保健委員の子は最後にとの事でゴミ箱を焼却炉に入れようとしていた。その時、クラスのリーダーと仲が良い女子達が体当たりをして、ゴミを辺りに散乱させた。地味な彼女は、どうしようとオロオロしている。派手な女子が言った。「日陰の癖にイイ気にならないで」「彼が今日付きまとっていたのは」アンタが好きだからじゃなくって、紀眞にひと泡ふかすためなんだからね。昨日の晩にライン
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もらったんだから。と、畳み掛ける。「これって苛め」なのと聞く彼女に「当たり前だろう。自惚れやが」って冷静さを欠いた少女が叫んだ。「彼に言われても良いんだ」と脅す様に保健委員の子は言う。いつも優しげな彼女と違い、怖い人のオーラが漂ってる。「何なら此処に彼を呼んでも良いんだけど」と怖さからひきつりながらも、許さないと言う彼女は見てしまった。保健委員の子の瞳が白色化しているのを。怖かったのでギャーと喚いた。
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匕背兄とアキラは一旦家に戻り、コスチュームを着た闘い方を話し込んで居た。その時、匕背兄とアキラは苛めっ子の悲鳴を聴いた。こんな離れた家にまで妄執の気配が感じられる。アキラが急いでコスチュームに着替え、充電満タンのドライヤーガンを装備する。充電器も忘れない。タクシーを呼んだ匕背兄に「アキラを宜しく頼む」とじーちゃん達が祈り、アキラは匕背兄と一緒に学校へと向かった。
アキラは先手必勝と呟いていた。
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「お客さんふりふりだね」演劇部かなんかなのかい?と陽気なドライバーに黙ってとアキラが制す。意識を集中して、妄執に乗っ取られた保健委員の子がまだ手を出してないかを探り祈る。匕背兄が、真冬だから俺に考えが有るって言って、学校に着いてからは別行動を行った。じーちゃんにごめんなさいと謝って。匕背兄は調理室に向かった。アキラは耳をすまして意識を研ぎ澄まして、妄執が居ると想われるごみ焼却炉の方へ急いで向かった。
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アキラはマネキンへのすざまじい破壊力を、想い出し、震えるも、先手必勝と唱えて、道を進んだ。もう暗くなった辺りに、派手な女子達が転がっていた。妄執はと踏まない様に避けながら焼却炉の入口まで来ると保健委員の子を認識した。誰かが「アイツ瞳がまっ白なの」と言って気絶した。どうやらアキラを認識せずに気絶したらしい。良かったと想うと保健委員の子に向き直った。吐息がしゅーしゅーしていて、人らしさを感じない。
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「食べる気だったの?」とアキラは怒鳴った。職員室に聴こえようが、眠らせられている先生達には届かない。アキラはドライヤーガンの準備をした。狙うは心臓直撃の瞬殺。でないと苦しみが深くなるとアキラなりに想ったからだ。向き直った保健委員の子はアキラを受け止めるかの様に両手を開いた。
挫かれる意識に白濁化した瞳の恐怖を想い出す。頭をふったアキラは懐に飛び込む形で、迫った。
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保健委員の子の心臓に当てたドライヤーガンが超電力をふるうも、彼女のダメージは高くない。うすら気味の悪い笑顔で次の事を言った。「正夢にする気」アキラちゃんと保健委員の子は言った。嗚呼と頭をかかえたアキラを彼女は蹴り飛ばす。マネキン相手には許さない腕前のアキラが情にほだされ殺されかけた時「喰らえ」と匕背兄が沢山の氷水を真冬の彼女にぶっかけた。「アキラ、クールボタンをコールドのイメージでいけ」と叫ぶとするべき事は言ったと座り込んだ。眠気がするのだ。
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アキラは両目を光らせて「クールでコールド」と叫んで彼女の心臓にドライヤーガンをあてた。すると冬なので妄執へのダメージは大量の氷水のおかげか「きぇぇぇい」と叫んで倒れた。ぜいはーするアキラは保健委員の子を抱きしめて、妄執でないモノを生き返らせ様とした。だが、不思議な事に彼女の体は、きらきら光りながら空気に溶けて消えてしまった。制服だけがはらりと落ちる。「そんなの」嫌だッてアキラは絶叫した。
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彼女が消滅して残されたアキラと匕背兄は人目につかない様に学校を去った。正確に言うと横抱えされたアキラは地面が跳ぶのを泣きながら「嫌だょぅ」と呟いていた。
家に着いたアキラは匕背兄とじーちゃん達に説明を求められ、泣きながら答えた。「素敵な良い子だったのに」どうして妄執に取り付かれるの? アキラの問いに皆首を横にふる。後、頼りになる担任の先生も同じくらい感じる妄執だし、ヒロシ君は微量な気配とは言え匕背の跡取りなんだよと、アキラが嫌々しながら泣きわめいた。
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「ヒロシがのぅ?」とじーちゃんが項垂れる。大切な孫の許嫁で匕背の血をひくじーちゃんの血縁なのだから。匕背兄は言う「失踪事件で」警察沙汰にはならないと。だから「ドライヤーガン戦士が育成されるのか?」と怒気を放った。ドライヤーガン戦士に関わる者として、深く己を戒める。アキラは言った。「正夢にする気?」って聴かれたと。 ヒロシ君を助けて、どうか、お願い。
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その後、ニュースを四人で見ていた。「行方不明の少女は目立たない為に、衣服を着替えさせられたもよう」と実況アナウンサーが伝える。これは長期化するかもしれませんねとテレビのアナウンサー。それに「迷宮入り事件」だっつーのと匕背兄。人間だったモノを私が気化させてしまったんだど落ち込むアキラにじーちゃんが、アキラはその子の人喰いも救ったのだろう? と言いしっかりお聴きと前置きをした上で「アキラは苛めっ子の身体も苛められッ子の大切なモノを」守れたんじゃよと。じーちゃんが教えてくれた。
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うわーんとアキラは泣きわめいた。それを摩るばーちゃん。アキラに生きている人間の温もりを与えてくれた。
大切なじーちゃん達にアキラは癒されたが、ヒロシ君の事はまだ話してなかった。それが後の後悔に繋がるとしても、アキラはまだ、ヒロシ君を消滅させる気がなかった。
今夜ラインしようと想うアキラだった。
妄執は何を基準に取り付いているのだろう?
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「正夢にする気」と聴かれた事を反芻した。
じゃああの悪夢は警告ではなくて攻撃だ。選ばれた人が沢山好意を持ってる人なのは彼等のせいでは無く、アキラを戦闘不能にする為の作戦だ。だったらヒロシ君を外す様に涙が止まらないけれど、彼を生涯、無視すれば良いのだろうか?「チガウ」と心が叫ぶ。人付きあいが無くなったくらいで、妄執は容赦はしないだろう。じーちゃん達が標的に成るかもしれないし、匕背兄が標的になるかもしれない。
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匕背兄によると、冬場はクールコールドを使えるから、次の妄執の攻撃はそれが使えない真夏の可能性が高い。その時はストロングホットで撃退してやれと匕背兄は言った。「『苛めを止めよう』キャンペーンを行っているヒロシ君も退治しなきゃいけないの?」アキラの悲痛な問いに、わからんけど、気配が薄かったから、癒せるかもしれないから、普通に接して、妄執の話もしていいからと答えた。アキラは今日の惨劇をラインすることにした。
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アキラ[今日は初めて妄執をドライヤーガンで倒したよ]
ヒロシ[とりつかれた人はどうなった?]
アキラ[「きぇぇぇい」と叫んで倒れた。][それから、きらきら光りながら空気に溶けて消えてしまった。][制服だけがはらりと落ちた。]とアキラ。ヒロシ[そっか殺人に成らないんだ。良かったよ]とアキラを安心させてくれる。
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アキラ[ヒロシ君にも妄執が取り付いているらしいよ]と泣きながらアキラがラインを打つ。アキラ[そっか。アキラが可愛いから独り占めしたくって神様の罰があたったのかな?]マジかよと言いたげなライン。アキラ[私への攻撃の一貫として私の大事な人達に取り付くらしい]
ヒロシ[匕背でもそうなると、かなり厄介な敵だな]アキラ[ヒロシ君の気配は少なかったと匕背兄に言われたから離れた方が良いのかな?]
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ヒロシ[僕は嫌だ。例えアキラに倒される事に成っても、最後までアキラの伴侶で居たい。]
アキラはまた涙した。
ラインを終えるとアキラは自己嫌悪した。悪夢は妄執が取り付く相手を調査してたのだろう?なら、もっと毅然とした態度で撃破してやれば、彼等がターゲットになる事も無かったかもしれない。 ヒロシ君も先生もよき理解者だ。だから保健委員の子みたいにしたくない。と此処で彼女の名前を知らない事に気が付いた。「ごめんなさい」と泣きながらコスチュームを脱いだ。
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覚えていないお母さんのオーラがコスチュームをまとう。だから蹴られた痕が身体には無かった。「ありがとう。お母さん」と泣く。とりあえずは喪にふくして明日の学校を休む事にした。ホームルームで保健委員の子に張り付いていたリーダーや、ごみ焼却所で倒れていた派手な女子の理由が解るかも知れないが、アノコを悼む方が大切打倒想ったからだ。姿を消した彼女は依然として行方不明とされて居る。
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翌日、薬で悪夢を避ける努力をしたからか?、泣き続けていたからか?悪夢は覚えていなかった。ただ、部屋に一輪花を飾ろうと想った。そしてそれに安らかに眠れと祈ろうとした。アノコは未遂で終わったけれど、ヒロシ君達も人喰いなんてさせてはいけない。しっかりしなきゃと想うも、涙が止まらないアキラだった。匕背兄が次の襲来は真夏だろうと予測しているのを鵜呑みにするアキラは、今日くらいは喪にふくそうと想った。
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そうして季節はめぐる。桜の花が満開で美しい。今年の桜は何か謎めいた能力を秘めていそうだ。あんなに、コチコチに、凍っていた水道の蛇口からは、勢いよく水が出るくらい、温かな季節に成った。冬から春に成った。匕背ヒロシ達の『苛め撲滅キャンペーン』は板に付いてきた。幼い子供から年老いた老人まで『ヒロシ君』とコールが熱い。その許嫁のアキラと言えば、新学年の新学期、少し髪とせが伸びた。新しいクラスを楽しみにしていた。
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アキラは新しいクラスでボッチと決めた。妄執の生贄を出してはいけないと想ったから。相変わらず匕背兄とは戦闘訓練をしている。真夏に対峙した妄執との闘い方がメインだ。一方、匕背ヒロシ等の『苛め撲滅キャンペーン』学生がカラオケではしゃいじゃうくらいブレイクして居る。おめでたい。去年の苛めで二人学生が命を落とした事を知らないのだ。そんな事を考えていたら、ヒロシ君にキスのおねだりをされて居る事を想い出した。
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新しいクラスは同じ担任で、生徒内容が半分ほど変わって居た。保健委員の子の最後の日に付きまとっていたリーダーも同じクラスだった。許嫁が居る紀眞と噂されるも去年より近寄りがたい空気をまとうアキラに神秘を感じた余所のクラスの男子からラブレターが届く。アキラは溜め息を漏らした。アキラはリーダーの子に『何故、保健委員の子に』付きまとって居たのか?聴けていない。失踪前の異常行動を警察は調べたが何も公表しなかった。
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小学4年生になるアキラ達には知る権利があると想ったアキラは、どうやって苛めに合わないで、リーダーの子が話せるムードを作れるか悩んだ。そして春なのだ。匕背兄とのマネキン訓練も匕背ヒロシとのラブラブラインも、学校の勉強も、じーちゃん家の食卓での団欒も亡くなった二人を偲ぶ事も大切な時間だとアキラは考えたからだ。特にヒロシの事をアキラは気にしていた。キスはして欲しいけど、ロマンチックなヤツと言われてたからX'masやvalentinedayやwhitedayを期待したのだが、コンサートで飛び回っている。
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ハロウィンもイースターも、そうなんだろう。今をときめくユニットの許嫁は切ない。しかも、数か月たって、まだ妄執の攻撃が無い様だから、ひりひりする毎日を送るアキラは時間が経つのが早いなと想う。
その度に『ヒロシ君が無事で良かった』と祈っているのだ。妄執のターゲットは、担任の先生もだが、恋する乙女の相手ではない。
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ヒロシ君の事を出汁にリーダーの子に聴いてみることにした。「恋愛相談にのってもらえる?」なんて馬鹿な理由だと想いながらも、それくらいしか想いつかなかったので、実践した。「紀眞の許嫁って」モテるの何歳ぐらいと聴かれ、人が聴いてない所で話をしようと提案し、受け入れられた。理科室の誰も居ないのを確認した後で、二人で入って教卓の側に座る。「彼は若いけど接客の仕事を」してるの。というアキラに「匕背ヒロシ」だったりして(笑)と茶化された。事実なのだが伏せておいて「キスしたい」と言われて数ヶ月放置だよ。と笑う。「浮気はされてねーのか?」と聴かれるも、それは「大丈夫みたい」と答えた。