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14話 銀の弾丸

 夜の闇が迫るなか、化野樹は交差点でじっとトラックが来るのを待っていた。

 その片手にはスマホが握られている。ストラップもカバーも何もない、壁紙も通知音も初期状態から手を付けられていない、飾り気というものに圧倒的に欠けた黒いスマホだ。


「交差点で起きた人身事故……」


 スマホから繋いだインターネットのページには、県警の情報提供のお願いが書かれている。そこに、武藤大雅の名前と顔が刻まれていた。


「ハマニシ運送のムトウタイガ。まったく、今は便利な時代になったもんだなァ、おい?」


 自分が高校生だった時には考えられない。

 高校生といっても今から三十年くらい前の出来事だが、その間にずいぶんと世界は変わったものだ。


「――さて」


 今度は紙の資料を見る。


「二十三歳。ハマニシ運送の若手トラック運転手……」


 事件が起きたのは三ヶ月前。

 この交差点で起きた人身事故だった。


 青信号を渡っていた若い女がトラックに撥ねられた。即死だった。トラックは明らかな信号無視とスピード違反を犯していて、誰が見てもトラック側に非があった。だが、トラックは止まりもせずに走り去ってしまった。それは多くの人間が目撃している。

 都市伝説でも集団幻覚でもない、ただの事実だ。

 あっという間にトラックの情報が集まり、捜査が始まった。


 早いうちに、犯人はハマニシ運送の人間であると断定された。

 特徴とナンバー、加えてトラックの使用状況やルートなどを照合した結果、犯人として浮上したのが武藤大雅だった。

 だが、武藤大雅は運送会社に戻るどころか、事件後から行方をくらましていた。運んでいるはずの荷物も届いていない。会社側も、こちらとしても困惑しているし怒りを隠せない、と語った。

 その後の捜査でも武藤は見つかっていない。

 新聞やテレビの地元ニュースで、行方を捜していると告げるのみで、有力な情報は入ってこなかった。


 武藤はどこへ行ってしまったのか。


 そんな折、再びこの交差点で事故が起こるようになった。

 ところが存在するのは目撃者だけで、被害者も加害者もいなかったようにすっかり消えてしまう。

 最初のうちは悪戯かと思われたが、通報は面識の無い善意の人々によって行われていた。事故があったという記録だけは残るが、やがてその事実は人々の記憶から消え去ってしまう。


 同時期、入れ替わるように浮上したのが――異世界トラックの都市伝説だ。


 そうなるともう、普通の警察官では手に負えない。

 事件はしかるべき管轄と、しかるべき人間たちの手に引き渡された。


 化野は前を見据えた。夕闇の向こうに、ランプが迫る。

 霧の向こうにいるかのように、ぼんやりとした灯りが近づいてくる。トラックの音が次第に大きくなった。


「俺は警官じゃあないがな」


 懐から取り出した右手には、鈍く黒光りする銃が握られていた。ゆっくりと腕を伸ばし、迫り来るトラックに銃口を向ける。トリガーに指をかけ、トラックのフロントガラスに照準を合わせる。

 銃刀法違反ではあるが、どうせ向ける相手は人間ではない。

 吸血鬼をも殺す、対怪異用の聖別された特製の銃だ。


「お前みてェなのを狩る為に居るんだよッ!」


 迫り来るトラックに向けて、銀の弾丸がまっすぐに跳んだ。

 弾丸は空気を切り裂き、フロントガラスに激突する。

 途端、地震のような鈍い音が響いた。それどころかフロントガラスの弾丸を中心に、道路を含めた空間そのものがガラスのように割れていく。甲高い叫び声が響く。

 これが、異世界トラックが「向こう側」へと人間を放り込んでいた穴だ。


「トラック一台と、道路まで含めた入り口か。でかいわけだ」


 割れた空間からは「向こう側」――異界が見えた。

 夜の迫った世界に、異界の赤が蘇る。

 夕焼けに支配された、永遠の黄昏。

 聖別された穴を恐れてか、黒い影のような人影たちがやや後ずさった。


「……なぁにが異世界だ。こいつは……」


 この世界と地続きの場所。背中合わせの場所。

 誰もが一歩間違えれば脚を踏み入れてしまう、あちらとこちらの狭間の世界。

 そして、道反之大神の目をかいくぐって開けられた穴。

 化野は一瞬言葉を詰まらせてから、ゲートの中へと踏み込んだ。

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