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水滸前伝  作者: 橋邑 鴻
第九回  小将軍 神臂もて妖邪を排し 宋保義 宿魔の性を萌芽せしこと
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おんぶに抱っこは常にさせる派

「東渓村の晁保正(ほせい)(村の顔役、村長。晁蓋)がお見えになられましたが」

「んん!?何でまた急に…?」


 客を迎えた作男からそう告げられ、宋江は合点のいかぬまま、とにもかくにもと出迎えに向かった。


「久しぶりだな、宋弟(宋江)」

「え、ええ、御無沙汰しております。今日はどうしてこちらに?」


 挨拶もそこそこに、晁蓋は不安気な面持ちで続ける。


「昨夜、朱・雷両都頭が俺の屋敷に泊まってな。俺も宋弟に頼みがあって、二人と衙門まで連れ立ったんだが…宋弟、昨日の夕刻、衙門の前で介抱した老人は、何処を目指してるとか、誰か宛てがあるとか、そんなような事を何か言ってなかったか?」

「な、何ですか急に!?それに、何でその老人の事を知っているんです?」

「茶屋の給仕から、宋弟がその老人を屋敷に招いたようだ、と聞いてな」

「あ、ああ、それで…でも、その老人なら今朝早くに屋敷を発ってしまって、もうここには居ませんよ?これがまた礼もなければ挨拶の一つも無く、黙って出て行くような恩知らずで」

「ああ、それはもうここに向かう途中、四郎(宋清)から聞いた。それより──」

「宋哥兒(宋江)、大丈夫ですか!?」

「哥兒、生きてるかぁ?」


 そこへ朱仝、雷横の二人が飛び込んできた。


「お、おぉ、二人も来たのか。というか──」

「おい、翅虎(雷横)。『生きてるか』とは何だ、縁起でもない」

「縁起もへったくれもねえわ。寧ろテメエの『大丈夫ですか』ってなぁ何だ?四郎に聞いて、哥兒が無事なのは分かってんじゃねえか」

「本心から聞いただけだ。何が悪い」

「あー、そうかよ。何だ、物事の裏を読まなきゃ気が済まねえ病でも患ってんのか?」

「止めないか、二人共。今はそんな時じゃないだろう?」


 ──…パカラッパカラッ、パカラッパカラッ──


「あ…」と短く零した二人は、気まずい素振りを見せつつも互いに視線を逸らす。

 何ともまあ、仲のよろしい事で。


「おぉ、これは両都頭。それに晁保正まで。お揃いでどうされました?」


 ──パカラッ、パカラッ、パッカパッカ、パッカパッカ──


 遅れて出迎えた宋忠に三人が返礼するや、


「これは太公(宋忠)、朝からお騒がせして申し訳ない。少し宋弟に尋ねたい事がありまして。突然の訪問、お許し下さい」

「何、それは構いませんが…して、保正。尋ねたい事というのは?」

「あの、父上。ここでの立ち話もなんですから…」

「…ああ、これは(わし)とした事が。お三方、まずは広間へお越し下さい。すぐに席を用意しますから」


 ──パカパカ、パカ、パカ…──


 太公が作男へ指示を出すため先を歩き、続けて宋江が三人を案内して奥へと続く。


 だいぶアピってやったんだけどなぁ。

 可哀想に…


「いやぁ、皆さん速いっすねー。馬に乗るのなんて久しぶりなもんで、皆さんに置いてかれるわ、ケツは痛いわで…って、誰もいねぇ!」



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



「いやぁ、皆さんっ速いすねー。馬に乗るのなんて久しぶりなもんで、皆さんに置いてかれるわ、ケツは痛いわで──」

「四郎、お前には衙門へ使いを頼んだだろうが。何で皆と一緒に帰って来たんだ!?」

「ああ、それなら──」

「哥兒、四郎から用件を聞いて、私の部下を衙門に向かわせましたから。御心配には及びません」

「そうか、すまないな朱小哥(朱仝)。従卒の方には宜しく伝えておいてくれ…そしたら四郎、皆の馬を(うまや)に繋いで世話をしてこい」

「えぇ~…それくらいなら作男に頼めば──」

「皆、もてなしの支度で忙しいんだよ」


 可哀想に…


 晁蓋や両都頭からも「スマンな」と揃って声を掛けられては、さすがに宋清も断る訳にはいかず、四人に届かない程度に「大体、兄さんの為に慣れない馬を飛ばしてきたっていうのに、あの第一声はないんじゃない?」とかブツブツと愚痴を零しながら、入ってきたばかりの広間を出ていった。


「それで、何があったんですか?朱小哥も随分と私の身を案じていたようだし…あの老人がどうかしたんですか?」

「いや、その老人が絶対にそうだ、って事でもないんだがな…」


 晁蓋と朱仝は順を追って昨日の出来事を話し始めたのだが、晁蓋が朱仝の制止を振り切って石塔を運んだ、というところまで話が進むと、


「晁哥(晁蓋)、何て無茶な事を!」

「ん、んん。それは散々、朱小哥に怒られたから。それでな──」

「晁哥、続きはまた今度にしましょう。何処か身体に変わりはありませんか?すぐに道観なり仏寺なりに行ってお祓いを──」

「哥兒、ちょっと落ち着いて。取りあえず一通り話を聞いて下さい」

「これが落ち着いていられるか!寧ろ皆はよくそんな落ち着いていられるな!?」

「宋弟、いいから落ち着け」


 三人が苦笑を交わす中、一人、宋江だけが(いき)り立つ。


「ほら、この通り俺は何ともないから。まあ、そんな訳でな、今回の件にその道士風情の男達が関わってるのは間違いなさそうだし、これで事故が収まるかどうかは、もう少し様子を見てみなけりゃ分からんが、少なくともこれまでの経緯については上奏し、知県閣下の判断を仰ごうって話になった。その相談を宋弟としたくて衙門を訪ねたんだ」

「そうでしたか…」

「その際、少し早く衙門に着いてしまいましてね。茶屋で一息()いてる時に五郎(給仕)から話を聞き、もしやと思って先にこちらの様子を見に来た、という訳です」

「随分と物騒な話ですな」


 細々とした指示を出し終え、宋忠が宋江の隣へ腰を掛けると、作男らが食事と酒を運び入れてきた。


「おっ♪太公、申し訳ねえっす」

「雷都頭(雷横)にはやはり(これ)だろう?」

「太公、我らも職務として来ていますから、あまりお気を遣わずに。お前も当たり前のように飲み始めるんじゃない。少しくらい遠慮したらどうだ?」

「うるせえな、テメエこそ当たり前みてえな顔して堅苦しい事言ってんじゃねえ。大体、この程度の酒なんてなぁ、俺にとっちゃ水みてえなモンなんだよ!」

「水で酔えるとは、また随分と安上がりな臓腑を持ってるな?」

「そういうテメエの頭は、芯まで鋼か何かで出来ててカッチカチやぞ、ってか?」

「まあまあ、二人共。仲が良いのも程々に」


 にこやかに宥める宋忠に気まずげな二人が矛を収めると、晁蓋と宋江は顔を見合わせ苦笑を交わす。


「それで、皆さんはその道士を目当てに我が家へ来られたという訳ですか」

「いやぁ、この辺りにゃもう居ねえんじゃねえっすか?西渓村に現れたのだって、かれこれもう半月近くは前の話ですし、今頃ぁとっくに他州へずらかってますよ。今日お邪魔したのは、そこの髯面(朱仝)がまた大袈裟に騒ぐもんだから」

「西渓村の老人が流民を装って宋哥に近付いた可能性だってあるだろうが。大体、そこのとは何だ、そこのとは!?」

「いい加減にしろ、二人共。まあ、朱小哥の言うように『その可能性もあるから念の為』という程度の事です。特に根拠があった訳じゃありません。実際のところ、東渓村(ウチ)の住人に怪我人が出てますから上奏はしますがね。何しろ相手が見るからに道士風情とあっては、知県閣下も本腰を入れて対処して下さるかどうか」

「それは…まあ、この御時世ですからなぁ。しかし、それでは保正も住人も収まりが付かないでしょう?」

「ええ。ですから上奏の前に、失礼を承知でお邪魔させてもらいました。万が一、双方の老人が同じ人物となれば捜す手間も省けますし、何より宋家村(こちら)に災いが及んでないかも心配でしたから」

「我々としても、そんな得体の知れない輩を放置したくはありませんが、正式に上奏した後では、閣下からどんなお達しが出るか分かりません。しかし、今ならまだ誰に気兼ねする必要もありませんからね」

「ああ、それで晁哥が『こちらの老人の行く宛てを聞いていないか』と」


 面こそ冷静を保ちながら、宋江は内心で「しまった!」と繰り返していた。

 聞けば聞くほど、今朝の老人が話題に上っている西渓村の老人ではないかと不安が募ってくる。


 と、卓の下でそっと足を踏まれた。前の三人に気付かれぬようチラと相手に視線を送れば、横に座る宋忠は何食わぬ顔で、視線を返しもしない。が、すぐに宋江はその意図を察した。


 姿を消した老人の話をしろ、と言うのだ。

 しかし、すでに後の祭りである。


「そういう事だ。しかしまあ、夜が明けた時には居なかったんじゃ仕方ないか」

「そうですね。理想を言えば、ここで直接、問い糺せれば良かったんですが…しかし、また随分と非常識ですね、その老人も。一晩、世話になりながら、一言の挨拶も無く屋敷を出て行くなんて」

「まあ、面の皮の厚い爺さんもいたもんだが、ただここで晩メシ食って、寝て、出てったってだけだろ。特に何があった訳でもねえみてえだし、西渓村の件とは関係ねえんじゃねえか?」


 ホラね。

 宋清におんぶに抱っこばっかさせて、なーんも考えずに適当な嘘をつくから、何かあったどころの騒ぎじゃない、今朝の事まで言い出せなくなるんだよ。

 おまけに、聞かれてもないのに「今朝は顔も合わせてない」なんてダメまで押して。


 だから、嘘をつくなら準備万端に整えろ、とあれほど…


 宋江としては、晁蓋の身に危険が及ぶような術を施した道士など、とても放置できるものではない。晁蓋が上奏を出すのであれば、宋江も全力で知県に掛け合い、可能な限りの対処を勧めるつもりでもいる。

 だが、やはり知県が腰を上げなければ、押司たる宋江一人の力など何ほどの事もない。せめて今朝の事を「自分が質に取られて命の危機に晒され、花栄の威嚇で怯んだ老人が逃げた」くらいに言っておけば、それも立派な事件となって、誰憚る事なく宋家村の老人は捜す事ができたのに…


 或いは宋忠の言う通り、突飛を承知で「花栄が老人を射殺した上で、その遺体が消えた」と正直に話していれば、同様に奇怪極まりない術を用いた西渓村の老人を、同一人物と見做してしまう事もできた──つまりは、西渓村の件も「両浙の流民の仕業である」として清々上奏できたのだ。

 それならば、しがらみや軋轢を気にした知県に、事件をうやむやにされる心配もない。


 たかが流民にそんな術が使えるはずもない、と言われれば確かにその通りだろうし、西渓村に現れた老人の、風情は(・・・)道士のようだったかもしれないが、宋家の面々は老人の口から直接「両浙の流民である」と聞いたのだから、それをそのまま口を揃えて証言すれば済む話だ。

 表向きの正体が断定される以上、実際のところがどうであろうと、流民の(・・・)風情が何であろうと、そんなものは関係ないに決まっている。


 その機会を自分の所為で潰してしまった、と察した宋江の狼狽も分からなくはない。が、はっきり言って自業自得である。

 いくら「花栄を思っての事」という言い分があったにせよ、そもそもが嘘をつく必要などなかったのだから。


 机の下では宋忠から足を踏まれ続けながらも、嘘をついた舌の根も乾かぬ内から「さっきのは嘘でしたごめんなさい」はさすがに体裁が悪く、さりとてその嘘を貫けば、怪しげな老人を放置する羽目になりそうだし──と、涼しい顔だけは一丁前のヘッポコ押司には、この場をどうしたものやら、答えを導き出せそうな気配すらない。

 情けないと言うか何と言うか…これのどこが「深慮」とやらなのか、どこぞの小将軍にとっくりとお教えいただきたいものだ。


「まあ、結果的に何事も無くて良かった。それはそうと…宋弟、今日はどうした?勤めを休むなんて」

「おぉ、そうそう。途中で哥兒と行き会うかと思ってたんだが、四郎と会ったから驚いちまったぜ」

「あ?ああ、えーっと、それはだな…」


 はい、御愁傷さま。話題が変わって、もう完全にタイミング逃しちゃったね。


「いや、アレだ。昨日は久しぶりの勤めだったからな。少し疲れが出ただけだ」

「…?疲れも何も10日ほど花栄殿をもてなしてただけだろ?客を招いて勤めを休むのは、いつもの事じゃないか」

「いや、まあそれはそうなんですが。ところで、それを誰から…!…雷小哥か」

「別に隠すような事でもねえだろ?いつもの事なんだから。それより、その噂の『小李広』殿はどうしたよ。まだ起き上がれねえのか?」

「ん!?あ、あーっと、それはだな…」


 はい、こっちも忘れてやがりましたね。

 イキって花栄を送り出したのはいいものの、雷横と会わせる約束してたのをすっかりと。


「はー、疲れたぁ。兄さん、繋いできたよー…ん、どしたの?何の話??」


 救いの神が来たとばかりに宋江は視線を送るが、その神は花栄の話と分かると、雷横との約束を思い出し、炊事と酒の支度を手伝うとか何とか、体のいい理由を並べて、そそくさと広間から逃げて行った。


 ま、花栄を帰らせると言い出したのは宋江だし、その言い出しっぺの尻拭いに、いつまでもおんぶに抱っこしてやる筋合いもないしな。


 と、宋江は再び足を踏まれた。

 逃したはずの機会がもう一度来たぞ──と。


「いや、実はだな。賢弟(花栄)は用事があって、今朝、青州に戻った」

「はあっ!?!?何だよ、そりゃ!?『調子が戻ったら会わせてやる』って言ってたじゃねーか!」

「いや、うん、勿論それは覚えているんだが、どうしても外せない用でな…」

「落ち着け、翅虎。そういう事もあるだろ。今日を逃せば二度と会えないって訳じゃないんだから、そう騒ぐな」


 忠告をガン無視された挙げ句、全くの別件でオロオロする宋江に呆れたものか、宋忠は軽く溜め息を一つ零すと、席を立って奥の様子を見に行ってしまった。

 そこへ入れ替わるように、燗をつけた酒を盆に乗せた救いの神が再臨する。


「雷哥兒(雷横)。実は今朝、清風鎮から『至急、戻るように』と知らせる使者が見えましてね。お役目のようでしたから、無理に引き留める訳にもいかなかったんですよ」

「…!!!そ、そうなんだ!賢弟の滞在は元々、青州からの使者が来るまでの予定でな。小哥の事もあったから心苦しかったんだが、務めを疎かにさせる訳にもいかなかったから…」


 はい、やっぱり忘れてやがりましたね。


「…?宋弟、役目の事でここを発ったなら、別に『どうしても外せない用』なんて言わず、そう言えば良かったじゃないか」

「いえ、まあそうなんですが、急に小哥から責められたので、ちょっと驚いてしまって…」

「まあまあ、晁哥兒。突然、面と向かって怒鳴り散らされれば、誰だって驚きますよ。翅虎、花栄殿の事は理由があったんだから、宋哥兒を責めても仕方ないだろ」

「すまんな、小哥」

「あー、いや、まあ務めの所為ならしょうがねえけどよ…」


 馬で発ったというのを今から追い掛ける訳にもいかず、それが公務と聞かされては尚更ケチをつけても仕方がないにせよ、口を尖らせ、渋々ながらも思いの外すんなり雷横が引き下がると、卓の話題は自然、今後の事へと移っていく。


 話がトントンと進む中、一人、晁蓋だけはどこか上の空といった様子で相槌を打っていた。


「…正?晁保正?どうされました?」


 最初に気付いたのは宋清。


「…ん?ああ、いや、何でもない」

「晁哥、もしや…体調が思わしくないんではありませんか?」


 遅れて、気付かなくていい男まで気付いた。


「皆、今日のところはこれまでとしよう。晁哥、すぐにお祓いに──」

「あーっ、待て待て、別に何でもない!ちょっと考え事してただけだ」


 先ほどまでの狼狽はどこへやら、晁蓋が宥めるのもどこ吹く風で、ここぞとばかりにあーでもないこーでもないと騒ぎ立てる宋江に、周りもすでに諦め顔──っていうか、もう完全に匙を投げてしまっていて、宋清はその様子を生暖かい目で冷ややかに眺め、我関せずと酒を(あお)る雷横を朱仝が窘め、と早い話が「どうせ晁蓋が宥めるのだから、気の済むまで騒がせておけ」といった按排である。が、投げる方はそれで良くても、投げられた方は堪らない。


 それでも「自分の身を案じてくれているのだから」と愛想笑いを浮かべ、晁蓋が一人お祭り騒ぎの宋江をどうにか宥めたところで、それを見計らったように朱仝が、


「さて、それじゃあ我々は少し村の近隣を見て回ります。西渓村の事もありますから」

「お、おお、そうだな。万が一、あんな得体の知れんモノがこの辺りにも置かれてたら、どんな災いがあるか分からん。早速、探しに行こう」

「いや、我々だけで行きますから、晁哥兒はここで待ってて下さい」

「…何!?」


「まさか厄介者のお守りを押し付け、自分達だけそそくさ逃げ出そうと言うんじゃあるまいな?」と恨みがましい視線を送る晁蓋であったが、当の朱仝は至って冷静な表情のままだ。

 というか、朱仝はそんなみみっちい事を考える男ではない。


「まさか昨日の事をお忘れになったんじゃないでしょうね?」

「昨日?…はて、俺が何かしたか??」


 空とぼける晁蓋に、朱仝は溜め息と共にじっとりとした視線を投げ掛けると、


「昨日、言ったでしょう?宋哥兒にこってり搾られて下さいね、って」

「あ…冗談じゃなかったのか、アレ」

「違います。というか、ちゃんと覚えてるじゃないですか」

「あ…クソっ、ハメられた!」

「ハメてませんよ!人聞きの悪い…大体、先に惚けたのは哥兒の方じゃありませんか。これから昨日と似たような事をしようというのに、人の制止を振り切って好き勝手するような人を連れては行けません。ですよね?宋哥兒」


 さすが、この面々と付き合いの長い朱仝は、どうすれば効果的なのかをよく分かってらっしゃる。

 無論、昨日の反省もある。


「そうです!この上また無茶をされては、次こそどんな障りがあってもおかしくはないんですから。晁哥はもう少し、保正という御自分の立場を弁えて下さい!」

「いや、宋弟の言う事も(もっと)もだがな。これから上奏も出さなきゃならん事だし──」

「何も晁哥兒を置いて、我々だけで衙門に戻ったりはしませんよ。周囲を確認してまた戻ってきますから、それまでここで大人しく待ってて下さい」

「ん、んん…」


 お守りを押し付けられたと思っていたら、まさかのお守りを「される側」だったと知った、晁蓋のむくれっ面といったらない。が、それもまた自業自得である。


「心配要らねっすよ、保正。何にもありゃしませんって。宋哥兒と会うのも久しぶりなんでしょ?すぐに戻ってきますから、ゆっくり()ってて下さい」

「またお前はそうやって根拠も無いのに決め付けて…もっと注意深く物事を見る癖をつけ、普段との僅かな違いも見落とすまいと意識して職務に臨まなければ、巡捕都頭は務まらんぞ」

「っせえなぁ、全く。それで他人のやる事なす事、何でもケチをつけなきゃ気が済まねえ性分に仕上がっちまってたら世話ぁねえわ」

「『他人のやる事なす事』じゃない。お前の、そのいい加減な性格を改めろ、と言ってるだけだ」

「んだとぉ!?そこまで言うなら、テメエも大人しくここで待ってやがれ!俺がきっちり村を回って、テメエの取り越し苦労だってのを証明してきてやらぁ!」

「お前に任せたら、村のド真ん中に石塔が置かれてても『異常なし』で済まされるわ」

「んな訳ねーだろうが!寧ろテメエみてえに犬が吠えても、猫が鳴いても怪しんでるような奴に任せてたら、死ぬまでこの村から出らんねえわ!」

「あー、分かった分かった!二人の言う事は尤もだ。続きは表に出てから巡察の中で思う存分やってくれ。晁哥の方は二人が戻るまで無茶をしないよう、私が側についているから」


 フンスと鼻息も荒く顔を背ける両都頭に、残りの面々はほとほと呆れ顔だ。


 ひとまず──


 午後一番には衙門へ入れるように宋家村を発つと決め、両都頭は皆の見送りを受けて巡回に向かった。


 門を出た端から「右に行く」「いや、左が先だ」と、どうでもいい事を仲良くやり合いながら。

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