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水滸前伝  作者: 橋邑 鴻
第一回  鄭郎君 元宵節に夢幻を伽し 王矮虎 小路に想錯を詰らるること
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爆発しろっ!!

 鄭天寿が銀細工を覚えたのは、鄭家村に住んでいた職人に可愛がられ、その家を遊び場にするようになったのが切っ掛けだ。


 工房を覗いて興味を惹かれ、見よう見まねで手伝う内に、いつしか手ほどきを受けるようになっていた。

 鄭天寿自身にほとんど記憶はないのだが、蘇州の生家でささやかながら銀を商っていた事も、興味を惹かれる素地としてあったのかもしれない。


 その内、節句や祭りなどでその職人が露店を出す際にも手伝うようになり、そうして彼女達とは出会った。一番長い付き合いでかれこれ7、8年にはなるだろうか。

 今はその職人も引っ越してしまったが、鄭天寿は自己流で腕を磨き、今でもこうして露店の真似事を続けている。


 無論、一朝一夕で本職同然の技術が身に付く訳もないが、周囲の評判はなかなかいい。

 少なくとも、ただ会って話すだけではなく、気に入った物があれば買ってもらえるくらいには、彼女達にも腕前を認められているようだ。


 当然、最初の頃は、鄭天寿が職人の露店を手伝う中で偶然顔を合わせる、単なる顔見知り程度の関係だった。

 だが、それなりの年月を経て何度も顔を合わせる内に、挨拶程度の会話から当たり障りのない世間話へ、そしてお互いの恋バナなど、会話の中身もより濃密なものへと変わっていく。


 ただ、あの夢の話はしていない。


 鄭天寿自身は、特にトラウマ的なものを負っているとは思っていない。

 いや、確かにあの洪という男に抱いた憎悪にも似た感情は、今、思い返しても気恥ずかしい限りではある。ではあるのだが、空想か現実としての過去かも判然としない夢の内容を思えば、それも「しょうがなくね?」と開き直ってしまえなくもない。


 その内容こそが問題なのだ。

 そして最後の最後、あの夢の核心と呼べる部分の直前で鄭天寿の肉体が覚醒してしまい、結末を見届けていないという点こそが、彼の口をつぐませている最大の理由と言える。


 今も尚、脳裏に残る、現実に引き戻された瞬間の画。

 もし、そこで目覚めていなければ、果たしてその先にどのような続きを見たのだろうか、と鄭天寿は今でも時折思い返す。



【ホント、勘弁してもらいたいよ…


 あんなのそのまま話したら、蘇州の家か、祖母と思われる女性か、そのお腹の子か、或いは──まあ、とにかく「ウチの家系には妖魔が憑いてる…かもしれませんよ」って宣伝するようなもんじゃん。


 そりゃあさ、荒唐無稽な夢の話として、いくらでも面白おかしく話す事は出来るよ?出来るけどさ、ぶっちゃけこの話したから何なの、って話じゃね?

 別にこの()達だって悪意で言い触らしたりはしない…と思うし、言うにしたって、ちゃんと「夢の話だよ」って伝えてくれるとは思うけどさ。


 けど、良くも悪くも、人の噂ってのは広まり易いからなぁ。


 そうやって人の口を伝わる間に尾鰭が付いて、どんどん話がデカくなってっちゃうじゃん?噂なんてホントだろうが嘘だろうが、現実だろうが夢だろうが、面白けりゃ何だっていいんだから。で、何だかんだ話が盛られてく内に、人を貶すトコだけが膨らんでくって訳だ。

 人の長所より、欠点をネタにした笑い話の方が聞く側のウケはいいし、他人を笑い者にすれば優越感も満たされるしね。


 で、いつの間にかその噂は「真実」であり「事実」になっちゃいますよ、と。


 アレ(・・)をネタにしてキャッキャウフフなひと時を過ごすのは簡単だけど、代わりに家や家族、俺に妖魔が憑いてる的な噂が広まって、挙げ句の果ては中傷されまくり…


 ないわー。

 いくら何でも「お釣り」がデカ過ぎるっしょ。


 いや、俺だけがそんな目で見られるのはまだいいよ。あの夢の中身を正確に話せば、そりゃ認めたくはないけど、俺が妖魔を宿してる可能性だって無くはないんだしさ。

 けど、周りの人達──特に柳蝉はこれまで散々迷惑を掛けたし、絶対そんな目に遭わす訳にはいかないんだよなー。


 柳蝉ならきっと「そんな夢の話なんて」って笑い飛ばすんだろうけど。

 で、周りの視線なんか何処吹く風で、変わらず側にいてくれるとは思うけどさ。


 つっても、たかが夢の話で、下世話な連中にあーだこーだ言われんのは、やっぱムカつくしな。

 ま、そもそもそこまでウケそうなネタでもないし、俺が心にしまって墓まで持ってけばいいだけの話か。


 それにしても…】



 長い黙考に一息ついた鄭天寿は、我が身の事でありながら、と改めて感心する。



【こんだけダラダラ考えてたのに、持ってきた細工はとっくに売っ払っちゃったし、彼女達を飽きさせないで、普通に喋り続けてる俺ってどーよ。結構ヤバくね?細工作りの才能なんかより、よっぽど商才の方があんじゃね?】



 いや、そんな「商人」なんてお上品なモンに例えるんじゃない。精々「ケチな詐欺師の端くれ」くらいがいいトコだろ。


「あっ、忘れてた。ねえ、阿哥(鄭天寿)。今日ね、阿哥に渡したい物があるんだけど、貰ってくれる?」


 妹ちゃんがちょっと照れながら尋ねた。


「ん?何かな?」


 鄭天寿が笑みと共に応じると、妹ちゃんが巾着袋から何やら取り出して…


「いつも仲良くしてくれるから、これはそのお礼の気持ちなの。はい、どうぞ…わぁ、可愛い!」


 鄭天寿の(びん)(※1)に挿されたのは、肌に合わせたような白い造花。


「あー…うん、えーっと…」


 色白で中性的な見た目も残りつつ、男性的な精悍さも併せ持つようになっていた鄭天寿は、やや微妙な御様子。


「…どうかな?」


 まあ、残る女性陣が否定的な意見を出してくれれば外せるか、と反応を窺う。


「あっはっは、似合い過ぎて引くわー」

「尊み…尊みが…」

「ちょっと自信なくしますわ」


「絶賛かよ…」と、鄭天寿は一人淋しげに心中でツッコむが、とはいえ、さすがにコレはなー、と──


「…嫌だった?」


 不安そうな表情を浮かべつつ、妹ちゃんの会心の一撃。


 鄭天寿よ、諦めれww


「…そんな事ないよ。ありがと」

「うんっ!!」


 妹ちゃんの顔がパッと綻んだ。


 なけなしの小遣いから買ってきたのだろう。

 ここでコレを面と向かって外すのはさすがに気が引ける、と諦めた鄭天寿は妹ちゃんの頭を優しく撫でた。


「ふふっ…そういえば鄭郎は最近、鎮(清風鎮)に来ないわね」


 ちょっと吹き出しつつ話題を変えたのは妖艶なお姉さん。


「そういえば最近行ってないなぁ。何か変わった事でもあった?」

「んー…最近、何処から来てるのか知らないけど、態度のデカい役人がちょくちょく顔を出すのよねー」

「あ、知ってる!貧乏臭い上に感じ悪い奴でしょ?何て言ったかしらね、そいつ。確か姓は…劉とかナントカ」


 普通のお姉さんが追随。


「まぁ、別に姓名(なまえ)なんてどうでもいいんだけどさ。んで、クソ知寨(ちさい)がそいつと結託して、結構あくどい事やってるらしいわよ?」

「『クソ知寨』って…まあ、確かにあんまりいい噂は聞かないけど」


 妖艶なお姉さんの毒舌に、鄭天寿は苦笑いで応える。


「知寨」の「知」は行政の長を表し、つまり「知寨」とは清風鎮の長官の事だ。


 では、なぜ清風()の長が知()と呼ばれるのかというと、清風鎮は青州の要衝に置かれ、州から派遣された兵が常駐しているため、時に「清風寨(せいふうさい)」とも呼ばれる事に由来する。

 つまり、清風鎮は「(まち)」であると同時に、清風寨という「(とりで)」でもある訳だ。


「ちょっと!こんな所でそんな言い方──」

「大丈夫よ。真っ当な人間でアイツの事を良く言う奴なんていないんだから」

「真っ当じゃない人だって、ここには居るかもしれないでしょう?」

「真っ当じゃない人間は、それこそアイツの御機嫌取りに忙しくて、ここで祭りを楽しんでる暇なんて無いわよ」


 姉妹のお姉さんが周囲を見回しながら小声で指摘するが、妖艶なお姉さんは気にする素振りもない。


「何でもあのクソ知寨、何かにつけて商家や行商人に難癖付けては、金を巻き上げてんだって」

「私も聞いた事あるわ。商売がやりにくくなったって、行商の人がぼやいてたわね」

「そういえば、ウチのお父さまもそんな事を零してましたわね…」


 姉妹の家は商家であるため、なかなか苦労しているようだが、一人、妹ちゃんは事情がよく分かっていないのか、或いはそもそも興味がないのか、(むしろ)に胡坐をかく鄭天寿の横で甘えている。


「ああ、俺も色々聞いてるぜ。あのクソ知寨、マジで(ろく)でもねぇ」


 口を挟んだのは隣の露店商。

 どうやら「クソ知寨」という単語は市民権を得ているようだ。


 それからしばらくの間は、露店商も交えて「クソ知寨」に対する愚痴合戦の様相を呈し、最近の事情に疎い鄭天寿は、程々に相槌を打ちながら聞き役に回った。


「武知寨閣下が色々とお骨折りして下さってるようなんですけど、改善する気配は一向に表れないんです」

「私も小将軍(しょうしょうぐん)が憤懣やる方ない様子で歩いてるのを見掛けた事があるわね」


 清風鎮には二人の知寨が置かれている。一人は文知寨、もう一人は武知寨。

「重文軽武」という言葉が示す通り、基本的に武官よりも文官の方が地位が高いため、文知寨が正知寨、武知寨が副知寨とされる。


 当然、ここで「クソ知寨」と揶揄されているのは正知寨の方だ。

 そもそもが「好色で金に汚い」と噂され、何かと悪名高い男ではあるのだが、ここへきてその名声は、いよいよ救いようがないほど地に落ちたようである。


 一方、武勇に優れ、清廉の士と評判の武知寨であるが、最近、(とみ)に名声を集めているのが「小将軍」、つまりその息子の方だ。

 父の武知寨に勝る武を誇り、鎗を持たせれば古今無双、また弓術に関しても右に出る者がない、と専らの噂である。


 ただ、噂は耳に届くものの、鄭天寿は未だお目に掛かった事がない。

 何と言っても相手は武知寨の御子息、そうそうお目見えする機会がないのも、まあ必然ではある。


 さて、その小将軍の名は何と言ったか、と鄭天寿は小首を傾げた。

 姓は「()」と聞いた記憶があるのだが、直接の面識がない事もあり、名の方が咄嗟に出てこない。

 その弓の腕を讃えて付けられた「神箭(しんせん)(※2)将軍」という異名の方は、風の噂によく聞いているのだが。


「おまけに、鎮で偶然クソ知寨とすれ違った時なんか、上から下まで舐め回すように、ジロジロ見られちゃってさぁ。気持ち悪いったらないわよ。いっそアイツなんて、誰か心置きなく殺…アレしてくれればいいのに」


 …うん、妖艶なお姉さんや。今、間違いなく「殺してくれれば」って言い掛けたよね?


「まあ何にしても、今はあんまり鎮での商いはしない方がいいかもね。目を付けられたら碌な事にならないわよ?」

「そんなに酷いんだ…」


 妹ちゃんを除く女性陣は揃って頷いた。


「分かった。当分、鎮では細工を売ったりしないようにするよ」

「そうね。あ、でも、ただ遊びに来るだけならいつでも大歓迎よ?なんなら泊まり掛けで来てくれれば、宿なんか取らなくたって、好きなだけ(ウチ)に泊まってくれればいいんだし」

「またそうやって鄭郎を誘惑して。それを言うなら私だって…ゴニョゴニョ」

「鄭郎君。鎮にお越しの際は是非、私の店にお立ち寄り下さいませ。お父さまもお会いしてみたいと申しておりましたわ」

「あら?貴女の家、商売してるのに、正式なお婿さんじゃなくてもいいの?鄭郎は許嫁ちゃんを捨ててまで、婿入りして跡取りになったりしないんだし、貴女の家って確か兄弟がいないんだから、貴女に婿を取って欲しいと思ってるんじゃないの?」

「う…い、妹がいますわ!」

「ひどっ!!聞いた、妹さん?お姉さんたら──」

「あーーっ、い、いえ、そういう意味ではなく、妹共々おもてなし致しますという事で…」

「あらぁ~?姉妹で『おもてなし』だなんて…そういえば、さっきも『姉妹共々お世話になります』とか言ってたわねぇ。それはさすがに私一人でいくら頑張っても、太刀打ち出来ないかしら?」


 …何だろう。含みがあるのは分かるが、妖艶なお姉さんの口を通すと、殊更いかがわしく聞こえるんだが。


「で?『丼』でも出すのかしら?」


 いや、悪戯っぽく笑みを浮かべられてもですね…


 デデーン!「妖艶なお姉さん、アウトー!」


 いかがわしく聞こえるんじゃなくて、純粋にいかがわしかった。


「そんな事は致しませんっ!!」


 姉妹のお姉さんは顔を真っ赤にして反論。


 …ああ、通じちゃったのね。


 二人組のお姉さん方がニヤニヤしている。


「…なんだ残念」


 テメエもアウトだ、このクソ閨閣公子が!


「「鄭郎!?」」

「えっ?あ、いえ、あの…もし鄭郎君がどうしてもと仰るのであれば…」


 …いや、あの、お姉さん?


「くっ、藪蛇だったわ。その手が使えるなら私達だって…ねぇ?」

「…えぇ!?!?」


 妖艶なお姉さんや。貴女は張り合わなくていいですから。


「『丼』?」


 あどけない顔で繰り出された妹ちゃんの質問に、残る四人は慌てて誤魔化す。


 あのね、妹ちゃん。

 世の中には知らなくてもいい事ってのがあるんだよ?

 一度知ってしまったら、知らなかったあの頃にはもう戻れないんだよ??


 だから…まあ、チミはもう何も聞かず、大人しく鄭天寿に甘えてなさい。


「ま、いっか。ねえ、阿哥。私お腹空いちゃった」


 妹ちゃんが会話の流れを断ち切った。

 鄭天寿の右腕に抱きつき、下から覗き込むように…


「あー、うん、そうだね。みんなで湯圓(とうえん)(※3)でも食べようか」

「ホント?いいの?」


 妹ちゃんが再びパッと顔を綻ばせる。


「いいの?」も何もないよね?明らかに強請(ねだ)ってたよね??


 妖艶なお姉さんや。貴女は間違っていなかった。

 妹ちゃんはあざとい。


「湯圓」は、もち米粉の団子を茹でた物で、元宵節定番の食べ物だ。

 餡には胡麻や小豆を用いて甘く味付けたり、肉や野菜を用いて塩辛く味付けされる。


 取りあえず莚などはそのままに、盗まれては困るような金目の物だけ身に付けて、五人は揃って屋台へ向かった。

 小腹を満たし、その後も女性陣の為すがままに袖を引っ張り回される鄭天寿へ、周囲の露店商達からは引っ切りなしに冷やかしの声が飛ぶ。五人がそれらを適当に(あしら)いながら広場の露店を見て回っていると、


「あっ…!!」


 嬉しそうに声を上げたのは妹ちゃん。


 いつしか日も傾いて、空にはまだ明るさが残るものの、林に囲まれた広場はだいぶ薄暗くなってきた。その頃合いを見計らって灯籠に灯が点されたのだ。

 灯籠の灯りで広場が照らされ、参道に並ぶ灯籠にも順次、火が点けられていく。


 …ん!?日も傾いて??


 ……


「ヤバっ!!ゴメン、俺ちょっと用事思い出した!」


 鄭天寿は急いで荷物の元に戻ると、すぐに莚を畳んで帰り支度を始める。

 突然の事に驚いた女性陣は、鄭天寿の側に歩み寄って口々に理由を尋ねるが、鄭天寿の方はそれどころではない。

 その内、あからさまに不満顔の妹ちゃんが、鄭天寿の腕に(すが)り付いて甘え出す。


「ねぇ~、阿哥ぁ。もうちょっと一緒に観ていきましょうよぉ」


 うん、文句なしに可愛い…じゃねーよ!デレデレしてる場合じゃないぞ、鄭天寿よ。


「ごめん、また今度ね」


 さすがにコレはまずいな。去年からの約束だし、おまけに村を出る時、念を押されてるしな。


 挨拶もソコソコに、鄭天寿は慌ただしく広場を去ろうとする。

 そこへ妖艶なお姉さんが、すっと近付いてその袖を引き、広場の入口へと視線を促した。


 釣られて鄭天寿も広場の入口に視線を移すと──


 そこには鬼が立っていた。


 李柳蝉という姓名()の鬼が…


「兄・長(お・に・い・さ・ま)。随分と楽しそうで何よりですわね」


 顔は笑っている。

 だが、身体から(ほとばし)る怒気は隠しようもない。

 むしろ隠す理由がない。

 当然、隠す必要もない。


「いやっ、あの、コレはホラ…いや、違くてその…そう、丁度ホラ、今から帰ろうと思ってたトコで…だから、その…ねえ、皆?」


 わたわたと両手を動かし、目を泳がせて女性陣に助けを求める鄭天寿。

 片や、一瞬で「参道の鬼」に分があると見抜いた女性陣。早くも二人組は目を背け、妹ちゃんはお姉さんの背に隠れ、お姉さんは何食わぬ顔で明後日の方を向いている。


 うん、知ってた。

 誰もこんな修羅場に好き好んで首突っ込まないよね、と一人諦めの境地に至った鄭天寿は、参道へと視線を戻す。


 すると「参道の鬼」の右手がゆらりと動く。


 固く握り締められた拳に、一本だけ突き立てた親指を左の首筋へ。

 そこからすーっと右へ動かすと、天に向かってゆるりと拳を掲げ、動きを止めた次の瞬間、親指を地に向けながら一気に振り下ろした。


 満面に怒気を湛えた笑みを浮かべながら。


「爆発しろっ!!!!」


 そう吐き捨てると鬼は…いや、李柳蝉は参道を戻っていった。


 五人の間に流れる沈黙。

 先ほどまでの和気藹々とした雰囲気は嘘のように消し飛び、もはやまるでお葬式のようだ。


「え、っと…『爆発しろ』は酷くない?」


 鄭天寿は精一杯の虚勢で作り笑いを浮かべ、努めて明るく同意を求めた。


 何と声を掛けたものかと女性陣は逡巡し、暫し時間が凍りつく。

 ややあって、妖艶なお姉さんが鄭天寿に歩み寄り、そっと一言、耳元で囁いた。


「御愁傷さま」


 はい、御愁傷さま。

※1「鬢」

側頭部、耳の近くの髪。

※2「神箭」

「箭」は「矢」の意で、直訳すれば「神の矢」。弓術に優れるという事。

※3「湯圓」

元宵節にもち米の団子を茹でて食べる習慣の起源は唐代のようです。実際には本文中の頃(宋代)は「乳糖円子」と呼称されていたらしく、現在でも地域によって様々な呼称や味付けがあるようです。


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