乾道
「乾道」
男性の道士。
泰山の麓を抜け、花栄は鄆州(※1)に入った。
青州から見て南西にあたるこの鄆州は、治所を須城県というが、その須城県から更に南西へ向かえば、花栄の目指す目的地へは最も近い。
しかし、須城県を過ぎたところで、花栄は一旦西へと向かった。
須城県とその目的地を結ぶ直線上には、巨大な湖沼が広がっているからだ。
その湖沼は、古くは大野澤、或いは付近の地名から採ったものか巨野澤などと呼ばれていたのだが、およそ160年ほど前、遥か西で発生した黄河の氾濫が、遠路遥々この地まで大量の濁流を送り届け、湖沼を丸ごと飲み込んで余りあるほどの広大な土地が水没、付近の水が引いた後も、元は湖沼の北に在ったはずの小高い山が、以前より遥かに肥大した湖面の北ほどに取り残されたままになってしまい、以来、その山の名を冠して梁山泊と呼ばれるようになったと伝わっている。
花栄が宿を取った寿張県はその梁山泊の北西に在り、そこから南に進めば目指す済州・鄆城県までは後どれほどもない。
鄆城県には義兄弟の契りを交わした花栄の義兄がいる。
元々、父親同士の交流を機に意気投合して義を結んだものだが、お互い官に仕える身となってからは纏まった休暇もそうそう取れず、手紙でのやり取りだけとなっていた。
数年ぶりの対面に逸る気持ちを抑えられない花栄は、早くも日の出前には朝食を摂って身支度を終え、開門と共に一路南へと馬を歩ませる。
済州との境を越え、日も高くなり掛けた頃。
いよいよ鄆城県の城壁も遠く霞んで見えようかという辺りで、花栄は街道の少し先、左手に聳え立つ大樹が生み出した木陰の中に、一際濃い暗黒色の塊を見た。
【荷物でも置いてあるのか?しかし、周りには人影もない。不用心な事だ…】
そんな他愛ない事を思いながら大樹の前に差し掛かる。
不意に──
花栄は何者かからの視線を感じた。
全身を舐られるかのようでもあり、また刺し貫かれるかのようでもある、不快極まりない感覚。
不覚にも身震いするほどの怖気を覚え、花栄は咄嗟に手綱を引いて馬を止める。が、それはほんの一瞬の出来事で、何事かとすぐに周囲を見渡した時には、すでに視線の気配は嘘のように霧散していた。
【何だったんだ、今のは…
…ん?】
花栄の視線を釘付けにしたのは、大樹の根本に置かれていた黒い物体である。
人だった。
黒衣の背に剣を負った、男とも女とも分からぬ者が腰を下ろし、風帽で覆われた頭を、抱かれた両膝の間に埋めるように項垂れている。
【今の視線は、もしやこの者か…?
しかし、俺が気付いた時にはもう、こうして頭を垂れてたぞ?地に腰を下ろしたまま騎上の俺を見上げたなら、一度大きく縦に首を振った事になるが…大して注意を払ってなかったのは確かだが、だからってそれなりに目立つ筈のその仕草に、全く気付けないなんて事があるか?
周囲に怪しい気配はない。といって、さっきの気配は決して気の所為なんかじゃない。となると、やはり…】
黒衣の人物は花栄を前に項垂れたまま、身動ぎ一つない。
「もし…如何されたか?」
「…貧道(道士の自称)にお尋ねですかな?」
明らかに老齢と分かる、嗄れた男の声。
その黒衣の男は尚も顔を上げる事なく答えた。
「無論だ…やはり道士であったか」
「『やはり』?…何故『やはり道士』であると?」
馬上の花栄を見上げ、老道士は問う。
風帽の中に覗くその顔には、老道士が送った長い人生をありありと映し出す、幾筋もの深い皺が刻まれていた。が、その面差しとは対照的に、目だけは衰えを知らぬかのように、異常なまでの生気を宿している。
「何故」と問われた花栄は、僅かに面を喰らった。
この時代、道士など珍しくも何ともない。現に清風鎮の外れにも道観はあるし、道観があればそこには必ず道士がいる。
確かに道衣に付けられた風帽など珍しい事この上ないが、それを除けば他の道士の纏う道衣と大差はない。
何よりも──
「何故も何も…自らの事を『貧道』と言われたではないか」
「…ああ、なるほど。これは迂闊でしたな」
風帽の中で老道士は僅かに相好を崩す。その様子に、花栄も僅かに笑みを返す。
「一つ尋ねるが…」
「何でございましょう」
「つい先ほど、手前に視線を向けられたか?」
「はて…貧道はずっと俯いておりましたがな」
見下ろす花栄の視線を真っ向から受け止めるよう、老道士は騎上の人を見上げる。
暫し視線を交錯させた後、花栄は馬を下りた。
「左様ですか…して、師傅(※2)はこちらで何を?」
「何、旅の途中、息が切れましたので、御覧の通り木陰で涼を取りながら休息していたところです」
「お一人で旅を?」
「いやいや、弟子と二人旅ですがな。若い者の足には敵いませんので、後で追い付くからと、弟子だけを先に行かせたという訳です」
「左様でしたか。しかし、その弟子の方も真に受けて一人、先を急ぐとは…何とも薄情な事だ」
「貴方様には貴方様の理屈がありましょうが、弟子はただ貧道の言葉に従っただけです。何も貧道を見捨てて先を急いだ訳ではない。それを悪く言われるのは心外ですな」
「ああ、いや…これは失礼しました」
風帽の中で僅かに気色ばんだ老道士は、話を打ち切るように立ち上がる。
「失礼ついでに伺いますが…師傅はこれからどちらへ?」
「鄆城城外の村を訪ねる途中ですが…それが何か?」
「ああ、丁度良かった。手前もこれから鄆城に向かうところです。もし宜しければ馬の背をお貸ししますが、如何ですか?」
「有り難いお言葉ですが、さすがに畏れ多いですな。一介の道士がお役人様に馬を曳かせる姿など、傍目にあまり見栄えの良いものでもありますまい」
「それは、まあ…しかし、お疲れの様子である師傅を捨て置いたとあっては、こちらも寝覚めが悪い。手前は県城に用向きがあるので、最後までお送りする事は出来ませんが、せめて城門が見えるところまででも…」
花栄の勧めに、老道士は僅かに何かを考えた風の素振りを見せると、
「それほど仰っていただけるのであれば…お心遣い、有り難く賜りましょう」
「ああ、いやいや、そう畏まられても却って面映ゆい。さあ」
拝礼する老道士の手を取り、背を抱いて、花栄は馬へ誘う。
背後から甲斐甲斐しく世話を焼かれながら馬の背に上る老道士の口元には、うっすらと笑みが浮かんでいた。
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老道士と他愛ない会話をしつつ、花栄は後悔していた。
なぜ、こんな得体の知れない道士と連れ立ってしまったのか、と。
いくら急ぎの旅でないとはいえ、花栄がわざわざ馬の背を貸してまで同道する理由はない。老道士の方でも一度は申し出を辞退したのだから、そこで「では、これで…」と話を切り上げる事もできたはずである。
その上、老道士の言った通り、見た目が甚だよろしくない。
花栄に老体を労わる気持ちがないではないし、むしろ他と比べても強い方であろう、と自負するくらいではあるのだが、だからといってさすがにコレはない。こうして馬を譲り、轡を取って歩く姿は、傍目に見れば完全に老道士の従僕である。
実際に花栄が師と仰ぐ者であれば、それも何ら恥じ入る事ではないが、相手はつい先ほど知り合ったばかりの、海のものとも山のものともつかぬ者である。
青州に在れば禁軍兵馬提轄として名を馳せる身としては、いかに旅先で見知った者の目がないとはいえ、どうにも体裁の悪い話だ。
そして、それらにも増して花栄に後悔を抱かせている理由がある。
老道士と話せば話すほど不快が募っていく。
先ほどのような身震いを覚えるものではない。そして老道士の何が、という事でもない。強いて挙げれば「会話をする事が」である。
言葉遣いも丁寧で、高圧的でなく、会話の内容も他愛ない。
にも拘らずなぜか、しかし明らかに、花栄の胸には老道士に対する嫌悪感が満ちていく。
【何なんだ、この男は…
そもそも俺は何故あの時、話が纏まってもない内から馬を下りた?同道すると決まってから下馬したならまだしも…
まあ、いい。馬を譲ってしまった以上、城までは連れ立つしかない。
それにもう、城門まであと僅かという所まで来た。当たり障りのない話でもして我慢するしかない。
そういえば…】
花栄は胸の不快を押して老道士を見上げた。
「師傅、つかぬ事を伺うが…何故、手前が役人だと分かった?」
「ああ、それは…それこそ『何故も何も』というものでございましょう。禁軍の、それも武に秀で、軍中に広くその名を知られるお方とお見受け致しましたが?」
「いや、手前の武名など大した事はないが…」
「これはまた御謙遜を…腰に佩く剣といい、弓袋から覗く弓といい、背に負う矢筒といい、素人目にも一目で逸品と分かる物ばかりではありませんか。およそ一介の武芸者などが持ち得るような代物ではございますまい。よもやそのお身形で、土弄りや商いに携わるお方とも思えませんし」
「…なるほど、な。師傅が背に負う剣も、素晴らしい業物のようだが」
「何、お役人様の得物とは比ぶべくもありません」
【目、か…】
花栄は不快の原因を悟った。
会話のために視線を向け、二言三言を交わして、また視線を戻す。それを繰り返しながら二人はここに至った。ただそれだけの事である。
見下されている訳でも、蔑まれている訳でも、侮られている訳でもない。しかし、花栄ははっきりと、老道士が自らに向ける視線に不快を覚え、嫌悪しているのだと確信した。
「失礼を承知の上で尋ねるが…先ほどから髄分とキツい視線を手前に向けられるな」
「…誤解でございますよ。この通り歳を重ね、目が衰えてまいりましてな。よくよく物を見ようとすると、どうしても目付きが悪くなってしまうのです。つい先頃も、とあるお方からお叱りを受けたばかりでして…御気分を害されたのでしたら平に御容赦を」
「左様か」
そう呟いて、花栄は視線を戻した。
【いよいよ視線を交わすのも限界だ。
未だかつて、こんな事は経験がない。
この世にこんな底知れぬ目を持つ者がいようとは…】
「ところで…」
花栄と行き合って後、初めて老道士の方から声を掛けた。
花栄は視線も返さずにそれを聞く。
「お役人様は類い稀なる英傑の相をお持ちですな」
「…左様か」
「おや?信じておられませんかな?しかし、貧道の観相(人相見)はよく当たると評判でしてな。それなりに長い間、生を貪ってまいりましたが、お役人様のように稀有な相を持たれたお方には、未だかつてお目に掛かった事がない」
「止めろ。何だ急に」
「感じた事を申し上げているまでですよ。いずれ分かります。貧道の言葉はやはり正しかったのだ、と。貴方様は将来、必ずやこの国の万民から建国の英雄と崇められ──」
花栄は轡を取る腕に力を込め、馬の歩みを止めた。そして意を決して振り返り、胸に抱く嫌悪を隠す事もなく老道士を睨み付ける。
「下りてくれ」
「……」
「聞こえなかったか?」
「何か御気分を害すような事を申しましたかな?」
「戯れ言を吐かしておきながら何を白々しい。貴様のような軽々と妄言を吐く輩に馬を貸した、先刻の己を張り倒してやりたいくらいだ。もう一度だけ言ってやる。下りろ」
何かを諦めたように、ふっと小さな溜め息を一つ零して、老道士は無言で馬を下りた。
言うまでもなく、花栄は武官として国家の禄を食む。当然、老道士はそれを知る。
具体的に何を知っているという事ではない。花栄を「お役人」と呼んだ以上──なかんずく「武官であろう」と問い掛けた以上、老道士の中では花栄を「国家の禄を食む者」と認識していなければおかしい、という事だ。
それでいて花栄はこの先、この国の民から「建国の英雄」と讃えられるのだと言う。
花栄がどれほど国家に忠節を尽くそうと、どれほど戦場で敵を屠ろうと、それをもって「建国の英雄」などと称される事は絶対にあり得ない。
花栄の仕えるこの宋という国は、すでに建っているのだから。
それはつまり──
「お斬り捨てになられますかな?」
「…何?」
ただでさえ不快なところに不愉快も重なり、再び騎上の人となれば視線はおろか、言葉すら交わさぬままに馬を駆ろうと思っていた花栄は、しかし、地上から投げ掛けられた思いもよらぬ声に戸惑い、思わず馬上から老道士を見下ろした。
「大層、御立腹の御様子ですからな。余程、忠義に篤く、強い信念をお持ちと見える」
「それを承知で尚、嬲ろうというのなら、遠慮なくこの場で斬って捨ててやるが、それが望みか?」
「まさか…この老いぼれにもまだ為すべき事がある。こんな所で命を捨てるつもりは毛頭ない」
命を取ると言われながら、風帽の中には僅かな恐怖も動揺もない。ただ静かに、しかし妖しげに笑みを浮かべ、花栄を見据えている。
「妖言を用いて人心を惑わし、この国を乱そうとでも言うつもりか?」
「フッ、若いな。貴方様はもう少し世間を知られた方が良い」
「何だと?」
老道士と花毅。
似ても似つかない二人の口から出た同じ忠告が花栄をこの場に押し留め、その視線を惹き付ける。
「人心など疾うにこの国から離れておる。今更、貧道が何を吹聴するまでもない」
「……」
「現に江南(長江の南)には民の怨嗟が渦巻き、いつその怒りが暴発してもおかしくはない。一度民の怒りに火が点けば、その火は瞬く間に天をも焦がす烈火となり、忽ちの内に全土へ広がる事だろう。この国には最早それを抑えるだけの力も術もない。しかし、民だけでは足りん。民衆には象徴が必要なのだ。民の信奉を一身に集める、憤怒と怨嗟の代弁者たる象徴が。そして、その者に付き従い、民の希望を背負うに足る武で敵を討ち果たす、軍神の如き象徴が、な。貴方様は十分にその力を──」
「黙れ。これ以上、妄言を並べ立てれば、ただでは済まさん」
腰から抜き放たれた剣を首元に突き付けられて尚、老道士はその表情を崩さず、じっと花栄の目を見つめる。
「貴方様は常人には及びもつかぬほどに数奇な宿命を背負い、この世に生を受けられた。努々、進むべき道を過たれ、命を粗末にするような真似はなされませんよう…」
「誰を信じ、どの道を進み、何に命を懸けるかは俺が決める。貴様の知った事ではない」
「貧道は軽く背を押し、その手助けをしたまでの事。ただ、それでも尚、進むべき道を違えようものなら──」
「くどい!」
老道士に突き付けた剣を鞘に収め、花栄は一瞥をくれる事もなく馬の腹を蹴り、県城に向けて駆り出す。
「御身、どうぞ御自愛を…」
拝礼し、頭を垂れた老道士の口から漏れたその言葉は、風と蹄の音に掻き消され、花栄の耳に届く事はなかった。
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季節によって刻限の違いはあれど、鄆城県に限らず、およそ全ての都市は日付が変わる前に城門が閉じられ、特段の理由がない限り、日の出まで城内外の往来は禁止される。
基本、瓦市(繫華街)などは城内に在るものだが、城外にも宿や酒家(居酒屋)がなければ、都市の外に置かれた農村の住人は不便であるし、そうでなくとも漸う都市に辿り着きながら、僅かの差で閉門に間に合わなかった旅人などは堪らない。
鄆城県の東門から少し離れた場所に建つ宿も、酒家を兼ねたそんな手合のものである。
付近の農夫達が昼食がてらに呑んだくれ、思い思いに昼の一時を楽しむ中、風帽を被った老道士が簾をまくって店内に入った。そして風帽の内からチラと店内を見回すと、隅の卓で精進料理を肴にちびちびと酒を呷っていた道士の向かいに、躊躇なく腰を下ろす。
元から居た道士も黒い道衣に頭はすっぽりと風帽で覆われ、パッと見は老道士と瓜二つ、違いといえば風帽から覗く面立ちが幾分若いくらいである。
青年、とまではいかずとも、中年の域といったところであろうか。
「如何でございましたか?」
注文を受けに来た給仕を適当に遇いつつ、声を掛けたのは中年の道士。老道士は俯いたまま、フッと自虐気味に鼻を鳴らした。
「アレは思い通りに動くまい。憑いたモノの気質もあろうが…持って生まれた性の部分が大きいな」
「天師のお力を以てしても、でございますか?」
「何、捨て置けば良い。種は蒔いた。あとは彼の者の心身次第だ。希望通りの芽が出ぬとなれば用はない」
「左様でございますか」
「アレは物のついでだ。天魁の宿星を持つ者さえ意のままに操る事が出来れば、残りの者など路傍の石塊も同然。どれほど図体が大きかろうと、所詮、蛇の尾は頭に逆らって動く事は出来ん」
「なるほど。では、いよいよ──」
「待て」
立ち上がろうとする中年の道士を老道士が制す。
「風の噂でこの山東に道士崩れの小悪党が一人いると聞いた。お前は先に鄆城を出て、その男を捜せ」
「天魁の者は天師お一人で相対されるのですか?」
「…儂一人では心許ない、と?」
「いえ、そのような…滅相もございません」
「機が熟し、いざという時に、宋という大虎の身中を食い破らんとする虫は、多ければ多い方が良い。有能であるに越した事はないが、たとえそれが有象無象の寄せ集めになったとしても、な。二龍山然り、その小悪党然り…殊にあの保正(村の顔役、村長)は、妖魔こそ宿さぬとはいえ人望篤く、上手く事が運べば存外の働きを見せるやもしれぬ。いずれにせよ、蒔ける種は蒔いておくに限る」
「は。差し出がましい事を申しました」
「良い。こちらが済めば儂も向かう。それと…」
老道士は背の剣を外し、差し出した。
「持っていけ」
「宜しいのですか?噂には彼の者も棒を嗜むと聞きますが…」
「所詮、胥吏の道楽であろう。寧ろ懐に潜り込むに大仰な得物は無用だ。護身用に短刀の一本もあれば良い。その間、宿に置いておく訳にもいかん」
「畏まりました」
剣を受け取り、立ち上がった中年の道士は深々と拝礼し、どこへともなく旅立っていく。
卓に残った老道士は、周囲の喧騒などまるで意に介さぬ様子で、一人物静かに酒を呷り続けていた。
※1「鄆州」
およそ現在の山東省泰安市西部から同済寧市北西部、同聊城市南東部に亘る一帯。また同済南市南西部の一部と河南省濮陽市北東部の一部も含まれます。「鄆州」については、機会があればいつか閑話休題で取り上げようと思います。
※2「師傅」
道士に限らず、仏僧なども含めた僧侶に対する敬称、尊称。道士さん。日本で言うところの和尚さん。一般的にはほとんど同義の「師父」が用いられるようで、どちらかというと「師傅」は石工や木工、芸事などの、特殊な技能を持つ人に対する敬称として用いられるようです。日本で言うと、例えば芸歴の長い芸人さんや落語家さんを「師匠」と呼ぶような感覚でしょうか。ただ、どちらの言葉をどちらに対して使っても間違いではないみたいです。『水滸伝』作中では道士に対する敬称として、主に「先生」や「師父」が用いられていますが、(今回の場合など特に)自分の師匠でもない人に対する敬称として用いるのは、日本語の語意と字面的にちょっと違和感が強いような気がしたので、あえて「師傅」を使用しました。といって、日本語としての「師傅」が道士や仏僧に対する敬称のような意味合いを持つ訳でもないんですが。




