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水滸前伝  作者: 橋邑 鴻
楔子  美童 雲霞の龍虎山に迷い 妖魔 雄飛し蘇州に巣食うこと
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閑話休題「『水滸伝』」

「閑話休題」では物語上の設定や、史実との関わりなどを書いてみたいと思います。

『水滸伝』に馴染みの深い方や、中国の歴史に詳しい方は読み飛ばしていただいてもいいかもしれません。

史実については、あくまで素人が調べられる範囲のざっくりした感じです。

かなりメタいので、苦手な方は予め御了承下さい。


 少年(以下「少」):楔子(せっし)をお読みいただき、有り難うございます。


 ??(以下「?」):ちょっと待って。呼ばれたのはいいけど、何であたしの名前は「??」なのよ。


 少:いや、だって「??」はまだ本文に登場してないし…


 ?:ああ、そういう事。あたしの名前はいつになったらちゃんと表示されるのかしらね。


 少:ま、たぶん次回辺りの「閑話休題」じゃ、ちゃんと名前付きで登場するんじゃない?


 ?:だといいけど。っていうか、サブタイ間違ってない?この小説のタイトルは「水滸前伝」よ?


 少:もちろん分かってるよ。ほら、この「水滸前伝」は『水滸伝』をモチーフにして書かれてるじゃん?そうすると『水滸伝』を読んだ事ある人には、わざわざ説明するまでもないような事でも、全く縁がなかった人達から見ると「何のこっちゃ?」ってなっちゃう事とか結構出てきちゃうから。


 ?:まあ、それはそうよね。


 少:単語や語句なんかは「前書き」や「後書き」を利用してるけど、あんまり長文をつらつらと書く訳にもいかないしね。「??」だって『水滸伝』を知ってる人だけじゃなくて、色んな人達に楽しんで読んでもらえた方が嬉しいでしょ?


 ?:それはもちろん!


 少:だから章ごとに「閑話休題」を置いて、固有名詞とか『水滸伝』にまつわる言葉なんかを知ってもらおうって事。意味や背景が分かんないまま読んでもらうより、知った上で読んでもらった方が、より楽しんでもらえると思うしね。


 ?:なるほど。で、最初はこの小説のモチーフになってる『水滸伝』のお話、って事ね。


 少:そゆコト。


 ?:『水滸伝』って、あたし達がいる世界を描いた中国の小説よね。


 少:そう。『三國志演義』や『西遊記』『金瓶梅』と共に「中国四大奇書」と呼ばれてんね。


 ?:「奇書」ね。要は「面白い本」って事ね。


 少:そうそう。「奇」には「珍しい」とか「稀な」って意味もあるけど、そこから転じて「(珍しいほど)優れている」とか「(稀なほど)面白い」って意味もあるからね。


 ?:そんなに有名なの?あたし読んだ事ないけど。


 少:そりゃそうだよ。『水滸伝』の物語上の舞台は宋(北宋)の時代だけど、実際に本としての『水滸伝』が書かれたのは、それから400年近く経った(みん)の時代って言われてるからね。この小説だって宋(北宋)が舞台になってんだから、まだ本としての『水滸伝』なんて影も形もないよ。


 ?:それの何処が『そりゃそうだよ』なのよ?あたしが読んだ事ないのはともかくとして、それじゃそっちだって読めないじゃない。


 少:メタいからじゃね?


 ?:身も蓋もない!


 少:ついでに言うと『水滸伝』だけじゃなくて『三國志演義』なんかもその頃の作じゃないかって言われてるね。


 ?:ふーん。何かあやふやね。


 少:まあ、これを読んでもらってるのは21世紀だしね。はっきり「当時の本」って分かるのは殆ど残ってないんだよ。ただ、残ってないってだけで、実際はもう少し早い時期に本として完成してた可能性が、全くないって訳でもないんだけど。


 ?:何で明なの?


 少:それまで書物といえば、歴史書とか詩文って決まってたんだけど、明の頃になると『水滸伝』や『三國志演義』といった、通俗小説を本にする人達が現れたみたいでね。で、現存する最古の本がこの頃の物って訳。楔子の第3話で俺が『三國』の話をした時に「本…は無いにしても」って言ってんのはそういう意味だよ。まだそういった小説の類いを本にする、って習慣がなかった時代のお話だからね。


 ?:ふーん。「楔子の第3話」とか普通に言われても、登場してないあたしには何の事だかさっぱりですけどね。


 少:あ、いや…ゲフン。で、まあ『水滸伝』の話に戻ると、簡単なあらすじは「龍虎山に封じられてた妖魔達が、解き放たれた後で人間として生まれ変わり、あっちこっちで大暴れして、最終的に梁山泊(りょうざんぱく)に集結する」みたいな感じ?


 ?:ねえ、あたし読んだ事ないけどさ、いくら何でも端折(はしょ)り過ぎじゃない?


 少:いや、そりゃ詳しく書けば、いくらでも書けるんだけどさ…


 ?:それはそうかもだけど。っていうか、この「水滸前伝」って『水滸伝』より前の話じゃなかったの?「妖魔達が解き放たれて」って…


 少:…うん。まあ、この「水滸前伝」の楔子のお話だね。


 ?:ねえ、大丈夫?何ていうか…構成とか設定的に。


 少:仕方ないんだよ、ストーリーの根幹に関わる部分だから。ここを描かないと「妖魔を宿した者達」のお話なのに、じゃあその妖魔達は何処から来たの?ってなっちゃう。


 ?:そんなモンかしらね。早くも不安だわ。で、集まってどうしたの?


 少:「70回本」はここで終わりだね。


 ?:「70回本」?


 少:『水滸伝』は発売されると、もの凄く人気が出てね。色んなバージョンがあるんだよ。大まかに分けて「100回本」「120回本」「70回本」の三種類がメジャーなトコかな。「回」ってのは、要するに現代の小説で言う「章」の事で、つまり「70回本」だと「第70章」まであるって事だね。ちなみに「水滸前伝」もそのスタイルを踏襲して、次話から「第○章」じゃなくて「第○回」ってタイトルが付けられるっぽいよ。


 ?:…パクったのね?


 少:言い方!あくまで章回表記だけだから!


 ?:っていうか、その「梁山泊」ってトコに集まって終わりなの?


 少:一番最初に書かれたのは「100回本」でね。その後、人気が出て、第90回と第91回の間に20回分の物語を差し込んだ「120回本」が作られたとされてるね。ところが、更にその後「『水滸伝』でホントに面白いのは、妖魔を宿した者達が色んな災難に見舞われながら梁山泊に集まるトコまでだろ」って事で、妖魔を宿した108人全員が梁山泊に集まった回より後ろの部分をバッサリ切り落として「70回本」を作っちゃった強者が現れたんだ。


 ?:第70回で全員集まったんだ?


 少:実は集まったのは第70回なんだけど、第71回に集まった人達の名前が一人ずつ紹介される場面があって、そこまでが「70回本」の内容だね。


 ?:じゃ「71回本」じゃない。


 少:でも「71回本」じゃキリが悪いからか、元の第1回を「楔子」、つまりプロローグにして、第2回を第1回に、第3回を第2回にって感じで、第70回で完結させてるんだ。


 ?:「楔子」ね。日本じゃ馴染みのない言葉だと思ってたのよねー。ふーん、なるほどなるほど。


 少:うん、まあ…


 ?:…で?「100回本」と「120回本」の方は?


 少:あー、うん、えっと「100回本」は梁山泊に集まった好漢達が、討伐隊としてやって来た官軍を撃退した後、朝廷の招安に応じて投降し、今度は宋の正規軍として、宋に侵攻してきた隣国の(りょう)を撃退したり、江南(長江の南)で起きた反乱を鎮圧するってストーリーだね。「120回本」はさっきも言った通り、遼国征伐と江南の反乱鎮圧の間に、二つの反乱勢力を鎮圧する20回分の話を割り込ませた物だよ。


 ?:「招安」?


 少:「招安」ってのは山賊や盗賊のような重罪人を、罪を赦した上で国家の人材として迎え入れる事だね。梁山泊勢は何度も官軍を撃退して、朝廷も打つ手がなくなっちゃうんだよ。といって、勢力が増え続ける梁山泊勢を放置する訳にもいかないから、それならいっそこれまでの罪を不問にして、宋の正規軍に迎えちゃえ、ってなった訳。


 ?:っていうか、何で討伐?ただ集まったってだけでしょ?


 少:集まるまでの過程がね。謂れのない罪を着せられて人を殺しちゃったり、逆にそういう人を助ける為に人を殺しちゃったり、誰かの仇を討つ為に人を殺しちゃったり、あとはまあ成り行きで人を──


 ?:ちょ、ちょっと待って!何か想像してたより、だいぶ斜め上の答えが返ってきた。


 少:ま、聖人君子の集まりじゃないのは確かだね。『水滸伝』のストーリー自体、読む人によって感想は様々だろうけど、少なくとも「勧善懲悪モノじゃない」ってトコだけは一致すんじゃないかな。


 ?:えっと…108人だっけ?108人全員そんな感じ?


 少:もちろん、そんな人達ばっかじゃないよ。中にはお医者さんとか鍛冶職人とか、変わったトコだと獣医さんなんかもいるね。


 ?:っていうか、梁山泊には108人しかいないのに官軍が負けたの?よっぽど軍勢をケチったのね。


 少:いやいや、そういう訳じゃないよ。108人は親分ってか頭領みたいな存在で、実際にはその下に数千から数万人の子分ってか手下達がいたんだよ。


 ?:ああ、そういう事。で、何で108人が集まった後より、集まる前の方が面白いの?


 少:それは前半の方が、個々の人物の個性が描かれてるからじゃないかな。『水滸伝』って小説そのもののあらすじは「108人が梁山泊に集まって朝廷に投降し、官軍となって活躍する」みたいな感じだけど、その108人が集まる過程の部分が、108人の個々のエピソードを繋げて描かれてるんだ。全員が集まった後や招安を受けた後は、集団としての戦闘シーンなんかがメインになっちゃって、個々の好漢の活躍はあんまり描かれなくなっちゃうからね。


 ?:でも、それって読んだ人の主観でしょ?


 少:そだね。もちろん『水滸伝』の「どの回が好きか」なんて人それぞれなんだけどさ。ま、少なくとも「70回本」の作者には「こんなモン『水滸伝』にゃ要らねえわ!」なんつって、話をブッタ切られちゃうくらいには不評だったって事だね。ちなみに「70回本」を生み出した強者は、(きん)聖嘆(せいたん)って人らしいね。


 ?:ふーん。オリジナルの…「100回本」?の作者は何て人?


 少:作者は()耐庵(たいあん)とか()貫中(かんちゅう)とか、その二人の共著とか言われてるね。


 ?:羅貫中って…


 少:そう。『三國志演義』の作者と言われてる人だね。


 ?:だよねぇ。でも、何で曖昧なの?本になってるんだから作者の名前くらい分かるでしょ?「70回本」だって分かってるんだし。


 少:『水滸伝』が発売された初期の頃、その本を所有してた何人かが「この本は誰それが書きました」みたいな記録を残してて、それに二人の名前が残ってるらしいね。どっちかっていうと施耐庵を挙げてる事の方が多いみたい。


 ?:そういう事か。でも、施耐庵先生か羅貫中先生か分かんないけど凄いわね。全体のストーリーはもちろんでしょうけど、108人のエピソードなんかも全部考えたんでしょ?


 少:ストーリーはそうかもしんないけど、実は個々の人物のエピソードは作者のオリジナルじゃないのも多いんだ。


 ?:どゆコト?


 少:宋から元、明と時代が移る間に「本」って形じゃなくて、舞台の演目とかの形で色々な豪傑の話が出来上がってったんだ。日本で言うと、例えば「講談」とか「浪曲」みたいなイメージかな?『水滸伝』の登場人物とエピソードは、そうしたものの中から取り入れられてる場合も多いんだよ。


 ?:…パクったのね。


 少:だから、言い方!…って、まあちょっと否定出来ない部分はあるね。


 ?:じゃあ、ホントに凄いのはそういった講談の作者って事に──


 少:それは違うよ。確かに『水滸伝』の人気が出たのは、元々のエピソードが面白いって事もあったんだろうけど、それを一つの物語に纏めるとなると、どのネタを取り入れて、どういう順番で繋げるかとか、かなりセンスが要るでしょ?それにエピソードも全部が全部、余所から持ってきた訳じゃなくて『水滸伝』のオリジナルもあるみたいだし。何より『水滸伝』の面白さは、その文章の素晴らしさにあるって言われてるからね。


 ?:そっか。でもさ、第70回で全員が集まったんでしょ?それまでに108人全員分のエピソードを収めるって大変じゃない?一人で1回使っちゃったら、全然収まり切んないじゃん。


 少:そう。だから描かれてる文量に凄く差があるんだ。一人で何回にも亘って描かれてる人物もいれば、登場した時にちょっとした紹介がされて、すぐ梁山泊に合流しちゃう人物もいたりしてね。


 ?:あー、何となく分かってきた。


 少:そ。つまり『水滸伝』が好きなこっちの作者が、そういう活躍が少ない人達にもスポットライトを当てようと思って書き始めたのが、この「水滸前伝」って事だね。


 ?:で、108人全員を均等に活躍させる訳ね?


 少:さすがに「均等」とまでは…108人もいると、どうしても全体に占める文量の割合が多い少ないは出ちゃうね。『水滸伝』で殆ど活躍しない人に文量を割く代わりに、この小説じゃ『水滸伝』より活躍が少なくなっちゃう人とかもいるっぽいし。


 ?:でも大丈夫?後日談とかはよく聞くけど、元々ある物語の「前の話」ってあんまり聞かないわよ?大体、勝手にエピソードとか作ったりしたら、話が繋がんなくなっちゃうじゃん。


 少:まだ『水滸伝』を読んだ事がない人もいるだろうし、ネタバレになるからあんま詳しくは話さないけど、実は続編を書くのは『水滸伝』の内容的にちょっと難しいんだよね。一応、続編として『水滸後伝』って小説が有るにはあるんだけどさ。


 ?:で、前の話ならいいの?


 少:まあ、そこは作者の腕次第って事で。


 ?:うわぁ、期待薄…


 少:止めれ。結構、色々調べたり『水滸伝』も最初から読み返したりして、話の筋や人間関係が矛盾しないよう、一生懸命ない頭を捻ったみたいだから。


 ?:それくらい当然でしょ。


 少:…ま、そりゃそっかww


 ?:でも、文才が頼りない作者の小説より『水滸伝』の方を読んでみたいわね。


 少:あ、そうそう、これだけは言っとかなきゃなんないんだった。『水滸伝』は確かに人気があって面白い小説だけど、あくまで小説だからね。


 ?:は?意味分かんない、どゆコト?


 少:さっき『水滸伝』に講談なんかのネタが取り入れられてるって話をしたよね。


 ?:うん。


 少:そういったエピソードの中には、とても不快な物が少なからずあって、またそういうのを取り入れた以上、前後との整合性を取る為に、物語全体に残酷な描写や、読んでて不快に感じると思われる表現が入ってるんだ。


 ?:…あたし、読まない方がいい?


 少:少なくとも、そういった表現や描写がある事を分かった上で読んだ方がいいね。


 ?:そういえば、この「水滸前伝」もR15だったわね。


 少:『水滸伝』をモチーフにしてる以上、その世界観を壊す訳にはいかないって事だね。


 ?:でも、それと講談の話はどう関係があるの?


 少:つまり、講談ってのは講談師なんかが舞台に立って、直接観客に話し掛けるスタイルでしょ?で、登場人物は一癖も二癖もあるような人間ばっかで、ストーリーも人が死ぬシーンが結構ある、と。そういうシーンで、ただ「誰それを殺しました」ってだけじゃインパクトに欠けるから、殊更にエグい表現をして、話にインパクトを付けたんだろうね。


 ?:で、それをそのまま『水滸伝』の中に取り入れてる、と。


 少:そう。いい例えか分かんないけどさ、ホラー系とかサスペンス系の映画とかでも、わざわざそんなエグい演出にしなくたって話の筋は分かるのに、観客を驚かせたり怖がらせようとして、敢えてドギツい演出を入れてたりするでしょ?そういうのに似てるかな。


 ?:まあ、確かにあるわね。


 少:ホラーとかサスペンスなら、観る方だってある意味それを期待して観るんだろうけど、ただの古典小説のつもりで『水滸伝』を読んで、そういったシーンが出てきたら驚くよね。


 ?:それはそうね。


 少:『水滸伝』は古典小説であると同時に、そういった大衆演芸的な演出も含まれてるんだ。けど、さっきも言ったように小説はあくまで小説だから、決して『水滸伝』に描かれてるような内容が、実際の宋代で日常的に行われてたって訳じゃないからね。


 ?:要するに、娯楽というか「読み物」として楽しんで下さいね、って事ね。


 少:そうそう。もし、この「水滸前伝」を読んで『水滸伝』にも興味を持ってくれた人が、実際に読んで『水滸伝』が嫌いになりましたじゃ、作者も不本意だからね。


 ?:ちなみに、この「水滸前伝」は?


 少:作者も悩んだらしいけど、そこまでエグい表現はしないんじゃない?だからこそのR15だろうね。


 ?:そう。ちょっと安心したわ。


 少:『水滸伝』の紹介はこんなトコかな。うまく紹介出来たか分かんないけど。


 ?:閑話休題で少しでも「水滸前伝」を楽しんでもらえたらいいわね。


 少:だね。でわでわ、引き続き「水滸前伝」をお楽しみ下さい。


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