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水滸前伝  作者: 橋邑 鴻
第十三回  董双鎗 奇縁あるも機は熟せず 曹刀鬼 奇縁に依りて寓すること
134/139

「員外」としてではなく

 とある宿の一室に、腕を枕にうつ伏せで寝台で横たわる男が一人。


「玉玲、足を揉んでくれ」


 息も絶え絶えに、とまでは言わずとも、顔を(しか)めて程玉玲に声を掛ける男は、名を万里(ばんり)。彼女の父である。


 程万里が息も絶え絶えだったのは、泰山に登った一昨日の話だ。


 朝日を浴びて意気も揚々、荷を背に負って「杖など要らん」とばかりに徒手で宿を発ち、程万里の身を案じた程玉玲から「さすがにそれは…」と無理やり押し付けられた、哨棒(しょうぼう)(旅人が持つ棒)を渋々受け取って城を出たところまでは良かったのだが、勇ましかったのもここまでの話。


 そろそろ日も暮れようかという頃合いに(ようよ)う戻ってきたかと思えば、もう朝の威勢など見る影もなく、哨棒に身体を預けて足を引きずり、程玉玲の気遣いがなかったら、或いは途中で力尽きていたのではないかと思えるほど精も根も尽き果てて、正に息も絶え絶えといった様子で宿まで辿り着いた。


 昨日は疲労と筋肉痛で、娘の手を借りなければ厠にも行けない体たらくっぷりを晒しつつ、1日の大半を寝台の上で過ごし、一晩明けて多少は動けるようになったものの、今日も今日とて程玉玲に何くれとなく世話を焼かせて過ごしている。


 昼食を終え、程万里がダメージの残る足を程玉玲にマッサージさせていると、


「お客様、少し宜しいでしょうか」


 室の外から声が掛かった。


 未だ立ち上がるにも難儀する程万里に代わり、程玉玲が応対のために戸の側へ歩み寄る。


「何でしょうか?」

「ああ、お嬢様でいらっしゃいますね」

「はい」

「実はお父上にお話がございまして。開けても宜しいですか?」

「あ…えっと、父は今、体調を崩して臥せっておりまして。少しお待ち下さい」


 玉玲ちゃんはええコやなぁ。

「泰山に登った所為で昨日からくたばってます」は、いくらホントの事だからって、さすがに体裁悪いもんねぇ。


 程玉玲はチラと程万里を振り返り、肯首を確認して戸を開けた。


 宿の作男は室に入って寝台の側まで進み、拝礼と共に見舞いと非礼の詫びを述べると、


「実は、お客様に目通りを願いたいという方がお見えになられておりまして。お通ししても宜しいでしょうか」

「え?」


 側で聞いていた程玉玲は、思わず声を上げた。

 無論、その相手に心当たりがあるからだ。


「…(わし)に?」


 そして、未だ寝台の上で横たわる程万里には無論、心当たりがない。


「何処の誰かは知らんが、儂を誰かと勘違いしてるんじゃないのか?旅先の宿にまで訪ねてくる知り合いに、思い当たる節は無いぞ」


 身体を起こしもせず、程万里は顔だけを向けて声を返す。


「いえ、勘違いという事は…『どうでも会わぬ』と仰られるのでしたら、お引き取りいただく事も出来ますが…」

「そうだな、そうしてくれ」

「差し出がましい事を申すようですが、お会いになられた方が宜しいかと」

「…?何故だ?」

「お相手が鄆州の兵馬都監閣下でいらっしゃいますので」

「…え!?」

「な、何!?『誰』だと!?!?…い、()つつ」


 今度は父娘(おやこ)揃って声を上げた。


 無論、程玉玲の驚きは、想像していたものと全く違う肩書きが返ってきた事によるものだが、想像すらしていなかった程万里の驚愕は娘の比ではない。身体中にガタがきている事も忘れ、思わず寝台の上で飛び起きてしまったほどである。


 作男は程玉玲と共に慌てて程万里の身体を支え、寝台の縁に腰を掛けさせると、


「お相手は在鄆州禁軍兵馬──」

「い、いや、それは分かったが…訳が分からんぞ!?そもそも何故、鄆州の都監閣下が、任地でもないこの兗州に居るのだ?」

「確か『兗鄆両禁軍の交流を兼ねた視察』というお話でしたが」

「そうか。しかし、益々分からんな。その都監閣下が何故、無位無官の儂を(おとな)う必要がある。『(かた)り』ではないのか?」

「いえ、それはございません」

「何故、言い切れる?」

宿(ここ)は禁軍詰め所の近くでございましょう?直接、声を交わしたのは今日が初めてですが、馴染みの将兵さん方に『ほら、あのお人が鄆州の…』と教えていただいた事がございますので」

「ん、んん…」


 腕を組み、考え込んでしまった程万里の横で、何とか平静を保つ表情とは裏腹に、それ以上の困惑に襲われているのは程玉玲。


 この宿を訪れるとすれば董平しか考えられないが、作男は紛う事なき禁軍の兵馬都監だと言うし、しかし、その董平は「員外」という呼び掛けをただの一度も否定しなかったし、いや、それより何より、もし今、表で待っているのが董平だとしたら、自分のような小娘が禁軍の兵馬都監に対し、何と馴れ馴れしい口を利いてしまったのか──と軽いパニックに陥ってしまっていた。


「ともかく、お見えになられたのが鄆州の都監閣下に相違ないとなれば、無下に追い返す訳にもいかん。丁重にお通ししてくれ」


 承った作男が退室すると、程万里は程玉玲の手を借りて卓の前へ行き、ざっと衣服を整えて待ち受ける。


 程万里は困惑と共に、程玉玲は混乱と共に、と両者が両者なりに思考を巡らせていると、ほどなく作男が戻ってきた。


 その背後には、果たして程玉玲の思い描いていた男の姿が…


 官服の上に羽織った長衫(ちょうさん)の裾を(なび)かせ、まっすぐ程万里を見据えて歩く姿は何とも凛々しく、酒家での姿しか知らない程玉玲は、一瞬、別人と見間違えてしまったほどだ。


「おくつろぎのところをお邪魔して申し訳ありません。まずは約束も無く押し掛けた非礼をお詫び申し上げると共に、突然の訪問を快く容れて下さった寛大な御心に感謝申し上げます」

「ああ、いえ、それは構いませんが…」

「鄆州兵馬都監、董平にございます」

「御丁寧な挨拶、痛み入ります。私は姓を程、名を二字名で万里と申します。これ(・・)は娘の玉玲にございます」


 初対面の相手に対し、娘を「これ」と紹介する程万里の神経に、あからさまな嫌悪を表してしまいそうになったところを何とか堪え、董平は程玉玲に優しい笑みを投げ掛ける。


「…玉玲にございます」

「こんにちは」


 董平との話はあの場限りの事、と父に伝えていなかった程玉玲は「またお会いしましたね」とは言えず、さりとて「初めまして」とも言いづらく、ただ名だけを告げた。


 そこに若干の違和感を覚えた程万里であったが、何はともあれ作男に三人分の茶を頼むと、董平を促し、三人揃って席に着く。


「私の記憶違いであればお詫び申し上げますが…確か、私は未だ都監閣下との知己を得た事がなかったと存じますが」

「ええ。太公(たいこう)(※1)とは初めてお目に掛かります」

「では、本日はいかなる御用向きでお見えになられたのでしょうか。閣下の(おとな)いを受ける理由が思い当たらないのですが」

「回りくどい物言いをしても仕方がありませんから、単刀直入に申し上げます」


 董平の顔には緊張も逡巡もない。


御令愛(ごれいあい)(※2)を手前の正室として迎えるお許しをいただきたい」

「…は!?!?」

「…っ!!」



【い、いきなり現れて何を言っとるんだ、この男は!?!?気は確かか!?全く縁も所縁も無い──】



「無い」訳がない。

 正真正銘、縁も所縁もなければ、そもそもこうして訪ねる事すらできないのだから。縁談の申し込みもへったくれもない。


 となれば、可能性は二つ。


 偶然、見掛けた程玉玲を見初め、後を()けてこの宿を突き止め、恥も外聞も投げ捨てて乗り込んできたか。


 或いは──


「閣下、そういえば…先ほど『私とは(・・・)初対面』と申されましたな?」

「ええ。御令愛とは何度かお話をさせていただきましたから。差し当たっては一昨日でしょうか」

「一昨日?何を馬鹿な…一昨日、娘は一日中、宿に籠っておった筈です。まさか、私の留守を幸いと勝手に上がり込んで(よしみ)を通じた、などと仰るおつもりではありますまいな?」

「まさか…御令愛との縁を温めさせていただいたのは、岱廟に程近い酒家での話です」

「酒家!?」


 縁も所縁もないはずは、文字通りただの「はず」だった。


 それを悟った程万里は険しい視線を程玉玲に向け、


「お前はっ…儂は必死の思いで山頂を目指していたというに!」

「ご、ごめんなさい」

「あれほど『宿で身を清め、大人しくしてろ』と──」

「太公、お待ち下さい。御令愛は太公を見送り、真っ直ぐ宿に戻ろうとされていましたよ。そこを『是非に』と無理に引き留めたのは手前です」

「それは『力ずくで』という意味ではないのでしょう?」

「無論です」

「兵馬都監の要職にありながら、天下の往来で娘を(たぶら)かす貴方も貴方だが、たかだか甘い言葉の一つや二つを掛けられたくらいで、見知らぬ男にホイホイと──」

「御令愛とはそれが初対面ではありませんよ」

「は!?!?」


 そこへ丁度、作男が茶を運んできた。


 董平は(いき)りたつ程万里を宥めるよう茶を勧めると、


「御令愛と初めてお会いしたのはその前日です。通りを急いでいた御令愛が馬車に轢かれそうになったので、たまたま目の前に居た手前がお助け致しました」

「轢かれ…!?」


 うん、コレは…アレです。

 都監はあくまで話をちょっと盛られただけです。


 盛っただけなので嘘ではありません。

 ありませんったらありません。


「…本当なのか?」


 程万里の問いに、空気を読んだ程玉玲はコクりと静かに頷いた。


 ええコや…


「何故そんな大事を黙ってた!?お前が一人で宿へ戻った時の話であろう?言えば、その場で儂からも礼を申せたものを。要らん恥を掻かせおって!」


 俺が親なら「言った、言わない」の前に、まずは怪我の有無を心配するところなんだが…と、つくづく自分とは合わない程万里の感性に、董平が心中、苛立ちを禁じ得ないでいると、その程万里は痛み堪えて椅子から立ち上がり、意図を察した程玉玲も手を貸すために後を追う。


「都監閣下、この度は娘の危ういところをお救いいただき、心から感謝を申し上げます。知らぬ事とはいえ、数々の無礼を申しました事、何卒お許し下さい」

「ああ、いえ。礼ならその場で御令愛から受けましたから。お気になさらず」


 立ち上がって二人の拝礼を受けた董平に促され、三人は再び席に着いた。 


 もしかしたら、もしかするのではないか──


 椅子に腰を下ろす程玉玲の胸中に、そんな思いがよぎる。


 お気楽な員外だと思っていた董平の正体が、実は一州の兵馬都監だった、という事実には驚かされたが、員外だろうと兵馬都監だろうと、程玉玲の予想する父の答えは変わらない。


「否」だ。


 一般論として、地位を当て込んですり寄られた権力者が、すり寄ってきた相手を己の権限でねじ込めるのは、自分よりも下位のポストと相場が決まっている。

 なればこそ、権力の恩恵に与ろうという者は、より強大な権力を持つ者にすり寄る訳だ。


 通判として世渡りに勤しんできた父の下に育ち、表面的ながらも文武諸官のヒエラルキーを知る程玉玲からすれば、員外よりは遥かにマシとはいえ、父が兵馬都監の肩書きに惹かれるとは思えない。


 しかし、父が「恩を受けた」と感じている今ならば──


 董平が話を盛った理由がそれを意図しての事か、程玉玲には分からない。

 自分の意思で配偶者を選ぶ、などという概念自体を持たない程玉玲に、今この場で自分の想いを父にぶつけるつもりは露ほどもない。


 ただ、そんな「もしかしたら」という一縷の可能性を胸に、固唾を呑んで二人の様子を窺う。が──



【全く出来の悪い娘だ。何処かで聞いた姓名()だと思えば、巷で「双鎗将」と綽名(あだな)されとる男ではないか。厄介な男を(たぶら)かしおって!どうせ釣るなら兵馬都監などとケチ臭い事を言わず、目玉が飛び出るほどの大物を釣り上げてこい。一も二もなく、くれてやったというに。断る方の身にもなってみろ】



 やはり程万里の思考は「否」一択だった。


「それで、太公…お認めいただけますか?」

「ん、んん…」



【しかし…今は兵馬都監といえど、広く世に知られておるぐらいなのだから、それなりの手練れには違いあるまい。とすると、今後、辺境にでも配されれば、更なる出世を遂げる可能性も無きにしも非ず、か?ここで素気無く追い返し、縁を断つのは造作も無いが、万が一そんな事にでもなれば、悔やんでも悔やみ切れん。正に「逃がした魚は大きい」という──】



「太公」

「あ、ああ…いや、そうお急かし下さるな」



【全く、これだから武官は性に合わん!大体、いきなり「一人娘を寄越せ」と迫られて、そう簡単に答えを出せる訳がなかろうが…まあいい。ここは思わせ振りな返答で、(よしみ)を残しておいた方が得策だろう。あまり無下に扱って逆恨みでもされては(かな)わん】



 随分とまあ、小狡いと言うか何と言うか…


 ともあれ、腹を決めた程万里は居住まいを正し、


「都監閣下の眼鏡に(かな)ったとなれば、我が家にとっても娘にとっても、これほどの栄誉はございません。なれど、妻にも先立たれてしまいましたし、この上、一人娘を連れていかれてしまっては、老いさらばえた私の世話をしてくれる者がいなくなってしまいます」


 何とも支離滅裂な屁理屈に、董平は眉根をピクりと吊り上げた。


 商いなり田畑なり、代々続く家を守ってきた市井の者の言葉であればまだ分かる。

 跡を継ぐ者がいない中で、任地がコロコロ変わる武官に一人娘を差し出してしまっては、先祖代々続いてきた家が自分の代で絶えてしまうから、婿に入り、家を守ってくれる者でなければ、娘との結婚は認められない、という理屈なら、それは確かにそうだろう。


 しかし、自分の出世のために「大物相手なら喜んで一人娘をくれてやる」と、娘の嫁入り先を舌舐めずりして選り好んでいる男が何を言っているのか、という話だ。


 無論、それは程万里に「自分の野心も、自分がこの地へ来ている目的も、董平は知らない」という前提あっての言葉だが、程玉玲からそれを聞き及んでいる董平にしてみれば、面と向かって喧嘩を売られたようなものである。


 それでも「ここでそれを買ったら全てが水の泡になる」と、どうにか苛立ちを眉だけの動きに止めた董平は、


「これは異な事を申される。御令愛との縁談をお認めいただければ、太公は我が義父(ちち)となられるのです。子として義父(ちち)に孝を尽くすは当然の事、太公に手前の屋敷へお移りいただき、手前と御令愛が朝な夕なと誠心誠意お仕えすれば、何の不安がございましょうか」


 一度や二度、言葉を交わしただけで、こうして乗り込んでくるほど程玉玲に御執心の董平であるから、この程度の難色を示したくらいで諦める訳がない、と予想していた程万里にとっては、全く予想通りの反応だった。


 片や、董平の言葉は嘘である。

 いや、百歩譲って同居までは我慢できても、あまりに物の考え方が違い過ぎる程万里に、董平は(はな)から「誠心誠意お仕えできる」と思っていない。


 とはいえ、先に喧嘩を吹っ掛けてきたのは相手なのだから、と董平の顔に後ろ暗さのようなものは微塵もない。


「それとも太公の目には、手前が王節度(せつど)(※3)のような、人面獣心の如き性根の持ち主に映っておいでですか?」

「『人面獣心』とはまた辛辣な…私は管見(かんけん)(※4)にして存じ上げないが、その王節度とはどのようなお方です?」


 先頃、招安(しょうあん)(※5)を受けた賊の首領で、節度使に任じられた男。

 名を文徳。


 董平が王文徳を「人面獣心」と殊更に蔑むのは「招安に応じた」からではない。


 官にも民にも出世原理主義者や権威至上主義者が蔓延(はびこ)る御時世であるから、謂われなき罪を被って山野に潜み、朝廷から「賊」と見られている忠臣や義士は枚挙に(いとま)がない。


 そうした者達が身を(やつ)すに至った経緯を調べ、謂われなき罪を免じ、有為の士として国家の人材に迎え入れるのであれば、招安する側、される側のいずれにも利がある話だ。


 しかし、中には首を捻らずにはいられないような招安もある。

 王文徳の一件は正にその例に他ならない。


 そもそも、耳に入る王文徳の噂を聞くにつけ、節度使に据えてまで招き入れるべき人材とは、董平には思えない。

 そしてその噂こそが、王文徳に対する董平の評価を「人面獣心」たらしめている。


 人の噂が宛てにならない事くらい董平は百も承知であるし、未だ直接の面識がなく、王文徳本人に確かめた訳でもないから、噂の真偽は董平にも分からない。

 捕縛なり鎮圧なり、賊の(ねぐら)に兵を送れば、金も糧も消費する。官軍であれ賊軍であれ、その戦闘で失われた命は二度と戻らない。それも分かる。


 分かるのだが、それを分かった上で尚、招安という手段で王文徳の懐柔に走った朝廷の意図が、董平には全く理解できない。


 節度使となった今も尚、王文徳の姓名()は、もはや代名詞か枕詞か何かのように、彼が官に追われる切っ掛けとなった行状を冠して人々の口に上る。


 曰く──


『継父殺しの王文徳』(※6)

※1「太公」

他人の父親に対する敬称。或いは単に年配の男性に対する敬称。

※2「(御)令愛」

他人の娘に対する敬称。(御)令媛。(御)息女。程玉玲の事。

※3「王節度」

本文で後述しているように「節度」は官職である「節度使」の略。唐代に創設された当初の節度使は、地方で軍民両面に強大な権限を与えられていたが、その強大すぎる権限が後の五代十国時代を招いた反省から、宋においては徐々に実権を削られ、本文の頃には名誉職のような状態となっていた。「王」は人物の姓。節度使として『水滸伝』に登場する王文徳(※6)。

※4「管見」

(管を通して物事を見るように)見聞、見識が狭い事。また「自分の知識や見識」を(へりくだ)る表現。

※5「招安」

罪人(特に謀叛や殺人などを起こした重罪人)の罪を赦した上で、国家の人材として用いる事。

※6「継父殺しの王文徳」

『水滸伝』の第78回には、董平が王文徳に向かって継父殺しを罵る場面がある。ただし「王文徳の継父殺し」に該当する具体的なエピソードは、本編を通して欠片も見当たらない。おそらく『水滸伝』成立の過程において、当初、作中に取り入れられていた「王文徳の継父殺し」に類する逸話を、何らかの理由で割愛したにも拘らず、当該部分の台詞を訂正し忘れたか、或いは(パロディ的な趣向で)あえて「王文徳」という姓名の人物を登場させ、その台詞をねじ込んだかの、いずれかと思われる。仮に後者の場合、一定数以上の読み手が「ああ、あの王文徳ね」と連想できなければ作者の狙いが成立しないため、よほど「王文徳の継父殺し」は(少なくとも本としての『水滸伝』が成立した時点では)広く巷間に知られていた、と推察する事もできる。

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