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水滸前伝  作者: 橋邑 鴻
第十三回  董双鎗 奇縁あるも機は熟せず 曹刀鬼 奇縁に依りて寓すること
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西流の先

(ぐう)

仮の住まい。故郷を離れ、異郷などに居を構える事。

 山東(さんとう)の水郷、梁山泊(りょうざんぱく)


 言わずと知れたこの湖沼は、鄆州(うんしゅう)南部と済州(さいしゅう)北部の広範な大地を湖底に没せしめている割に、周辺の流れをそれほど多くは受け入れていない。

 名も無き細流はまだしも、名を付けられた流れとなると、広済河(こうさいが)汶水(ぶんすい)ぐらいしかなかろうか。


「二筋」が面積相応か不相応かはさておきとして、その両者はいずれも他の河川にはない、ユニークな特徴を持ち合わせている。


 広済河の特徴を表すとすれば「貴」、即ち「貴重」だろう。


 梁山泊を介して繋がる広済河と済水(さいすい)は、名称こそ分かれているが、実態は一本の流路と言ってよく、途中に梁山泊が形成され、丁度「中」の字のようになっているだけだ。

 そしてその流路こそが、開封(かいほう)と山東を繋ぐ一大漕運路なのだから、済水や梁山泊と共に一翼を担う広済河は、この国に無くてはならない貴重な存在である。


 ただ、その中でも両者にとっての水源にあたる広済河の貴重性は、やはり突出していると言っていい。

 どれほど立派な水路であっても、水源を断たれてしまえば「水路」としては存在し得ない(※1)のだから。


 漕運用の水路は何も広済河だけでなく、或いは河川で言えば、この国の発展と文明に多大な影響を与えた四涜(しとく)(※2)もあり、この国の全ての河川と比べても、という事では決してないのだが、宋の経済を支え、山東の漕運を担う広済河よりも貴重と呼べる流れは、少なくとも山東には存在しない。


 対して汶水の特徴は「異」、即ち「稀罕(きかん)(※3)」の一言に尽きる。


 それも規模が違う。「山東の中では」などとケチ臭い話ではない。

 この広い大宋国土を見渡しても、汶水ほど珍しい流れを持つ河川には、そうそうお目に掛かれない。


 それほど汶水の特異性、稀罕(きかん)性は際立っている。



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 奉符(ほうふ)県を発った宋万は、汶水に沿って鄆州を目指していた。


 何度か通った事のあるこの道に、何度通っても宋万は慣れる事ができない。


 朝日を背にし、夕日に向かって流れを追う。


 宋の全土を津々浦々、とまでは言えずとも、どこぞの肉屋のお坊ちゃんなど屁でもないほどには旅慣れた宋万であるが、そんな経験はこの汶水以外でした事がない。


 宋万が世間知らずなのではない。

 この国で「川」と言えば、東へ流れるものなのだ。


 大きく俯瞰すれば「西に山地、東に大海」という地勢なのだから、それも当たり前と言えば当たり前の話なのだが、四涜は元より、名のある河川の大半は西から東へ流れ下っていて、詩歌や諺の類いでは、川を指して「東流」と表現する事もあるぐらいである。


 無論、全ての河川がそうだと言うのではない。

 本流が東西に延びていれば、当然、支流は南北に延びるし、山脈の嶺より西では、当然、流れが西へ下る。


 しかし、それは山から平野に流れ下る僅かな距離に限った話だ。山間を抜ければ、すぐに流れの向きを変え、支流となって本流に向かう。そして、本流との合流地点に近付くにつれ、更に流れを東へ東へと変えていく。


 汶水は違う。

 山東半島の付け根に(そび)える山々に源を発し、平原に流れ出たいくつもの支流は、しかし、その山々に行く手を阻まれ、僅かな蛇行と合流を繰り返しつつ、総じて泰山の南を一直線に西へ向かって梁山泊に注ぐ。


 広い目でみれば汶水は済水の支流にあたりはするが、とはいえ、その距離は150kmにならんとする距離である。この国でそんな西流(・・)は「ほぼ皆無」と言ってもいい。



【曹小哥(曹正)にこの話をしてたらぁ「そういう地形なんだからぁ、いちいち気にしてもぉしょうがねえだろぉ」ってぇ笑われたかなぁ~】



 曹正さんはそんなおっとりした喋り方じゃなかったけどねww


 ともあれ、仕方なかろうが何だろうが、汶水が珍しい流れを持つ事に変わりはなく、奉符を発ってこの2日、何となく浮わついたような、落ち着かないような心持ちで一人旅を続けていた宋万であったが、目指す目的地まではあと僅か。

 視線を先に送ってみれば、遠く正面から左手に掛けては巨大な反照が煌めき、その中にぽっかりと小高い山が浮かんでいた。


 湖が在るという事は、当然、周囲は湖面よりも高くなっている訳だが、汶水が梁山泊に接合している湖の北東付近──丁度、梁山の対岸になる辺りは南北よりも僅かに高く、東から伸びた台地のようになっていて、悠久の年月を掛けたものか、汶水は地を削り、谷川を成している。


 そのまま谷沿いに進み、ほどなく宋万は谷に架かる橋の袂に立った。


 済州の治所・巨野(きょや)県は、ほぼ梁山泊の南北の中心線上に置かれているが、鄆州の治所・須城(すじょう)県は、それより遥か東に位置しているため、互いの行き来は湖の西を回るより、東を回った方が圧倒的に近い。


 今、宋万が立っているのは、その東回りの街道が汶水と交差する場所。

 巷ではこの一帯を俗に李家道(りかどう)と呼び、つまりここが宋万の目的地だ。


 何と言っても両州の治所同士を最短距離で結ぶ街道であるから、旅人や隊商などが行き交い、人の通り自体は少なくない。曹正や李柳蝉達が北へ南へと歩を進めたのもこの道である。


 とはいえ、もはや日暮れ時──


 ≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪


 河畔橋頭(きょうとう)に佇むは、(これ)、仁王一尊(※4)、清静と万籟(ばんらい)欣賞(きんしょう)す(※5)。


 路辺の草叢に蟀蛩(そっきょう)窃々(せつせつ)、空に群鳥、哢々(ろうろう)と家路を急ぐ(※6)。


 涼風に湖濱(こひん)万蘆(ばんろ)(蘆原(あしはら))は簌々(そくそく)と揺れ、岸を(しば)打つ漣漪(れんき)潺々(せんせん)(※7)、道傍、散在の松柏に()(なみ)沙々(ささ)として、地罅(ちか)に汶水の淙々(そうそう)たるを()る(※8)。


 此刻(いま)、斜陽の李家道に蹄輪嘚轆(ていりんとくろく)は絶え(※9)、森羅の協奏、強いて遮る人声も無し。


 ≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪≫≪


 宋万が木陰から湖の方を覗いてみれば、街道を境に大地がなだらかに下っていて、その先、湖の畔に一軒の酒家(しゅか)(居酒屋)が店を構えている。


 僅かに安堵の表情を浮かべ、宋万は坂を下りて門を潜った。


「ぃらっしぇーい…デカァっ!!」


 応対に出た若い男が宋万の姿に声を上げる。


 まあ、宋万さんは楽勝で2m超えてるしねぇ。


 …と思いきや、実は男が驚いたのは、これまでにそんな巨体を見た事がなかったからではない。


「あぁ、いや、申し訳ねえ。知り合いにバカデケえ哥兒がいてさ。まさかその哥兒とガタイでタメ張れるような奴が…ん?」


 あんぐりしていた男は不意に表情を改め、腕を組み、左手を顎に当てて、何かを思い出そうと小首を傾げた。


 その答えが出るのを待たず、宋万が名乗ろうとして手を組むと、


「…あ!そういや、よく哥兒が『似たようなガタイの義兄弟がいる』って言ってたっけな…あーっと、確か…あ、旦那、もしかして姓は宋じゃね?」

「そうだよぉ~」

「おぉ、じゃ江湖(こうこ)(世間、渡世)で『雲裏金剛』って綽名(あだな)されてる…いや、旦那の話は哥兒からよく聞いてましたけど、正直、半信半疑だったもんで…旦那、マジで背ぇヤべーっすね?」

「そうかなぁ~?えっとぉ、ところでぇ帥哥は…」

「あぁ、申し遅れちまって。俺ぁ姓を(ちょう)、名を一字名で(えい)ってモンでさぁ。排行が一番目なもんで、周りからは『小乙(しょういつ)』(※10)って呼ばれてますけど」


 互いに拝礼を済ませ、張栄は宋万を席に座らせた。そして一度、奥へ入り、すぐに酒と簡単な肴を手に戻ると、宋万の椀に酒を注ぐ。


「それで、今日は()哥兒を訪ねに来たんすか?」

「そうそう~。杜弟は元気かぁ~?」

「えぇ、元気も元気っすよ。今はちょっと()に戻ってるんで、すぐに呼びますから、来るまでゆっくり()ってて下さい」


 そう言って張栄は空いた宋万の椀に再び酒を注ぐと、席を立って奥へ入っていった。


 肴をつまみながら宋万がちびちび酒を()っていると、突如、絹を切り裂くような甲高い音が室に響き渡る。何事か、と宋万は辺りを見回すが、その後、特にコレといって何が起きる訳でもない。


 気を取り直し、宋万が再び椀を(あお)っていると、しばらくして張栄が何事もなかったように戻ってきた。


「帥哥ぁ、さっきのは~?」

「あぁ、ありゃ合図っすよ」

「『合図ぅ』?」


 張栄によると、今の主が梁山の寨主に収まってから考え出されたのだと言う。


 元々この酒家は梁山に籠る賊が交代で営んでいて、江湖ではそれなりに知られた存在だった。


 何かしらの理由で梁山に逃げ込もうにも、そこは周囲をぐるりと湖に囲まれた山であるから、元々の高台などによって湖面にポツポツと形成された中洲のような場所もあるにはあるけれど、いずれにせよ徒歩や馬で梁山に辿り着く事はできない。

 中には舟を探して渡る者や、凄いところでは泳いで渡る強者などもいないではないが、当然、世の中そんな猛者達ばかりではないから、自力でどうにかできない者達はこの酒家を訪ね、山まで渡してもらっていたのだ。


 しかし、そうして小者が増え、良きにつけ悪しきにつけ、梁山が世の注目を集めるようになると、自然、招かざる客も増えていく。


 寨を平らげようとする官軍然り、併合しようと目論む他の勢力然りだが、そうして剥き出しの敵意を見せつけながらやって来る客なら話は簡単だ。

「いくらでもお越し下さい」という事ではないし、来たからといって喜ばしくも何ともないのは確かなのだが、招いていようがいなかろうが、来てしまった以上は寨を守るしかないのだから、地の利を活かして全力でお出迎えしてやればいい。


 だが、地の利というものは、あくまで外からの攻撃に対して威力を発揮するものだ。


 周囲をぐるりと湖に囲まれた梁山は、正に天然の要害と呼ぶに相応しい威容ではあるものの、歴史を振り返るまでもなく、堅牢を誇る城塞に拠りながら、内なる敵によって身を滅ぼした者の例は枚挙に(いとま)がない。


 寨への敵意は胸に秘め、入山を装って単身、湖を渡ろうとする者をどう防ぐか──


「んで、入山してえ奴はまずここで俺らに話を通して、俺らが信用出来ると思った奴だけ湖を渡す事になったんすよ。さっきみてえに、こっちから合図の鏑矢(かぶらや)を放つと、梁山側(むこう)から迎えの舟を寄越すんでさぁ」

「へぇ~」

「今、迎えの連中に旦那の事を伝えて、哥兒に知らせに行かせてますから」


 と、もう一人の若い給仕が奥から現れ、酒と肴を新たに運んできた。


 張栄から酒を注がれた宋万はそれを呷り、


「でもぉ、上に立つとぉ色々考えることがあって大変だなぁ~」

「なぁに、大層なのは御託だけっすよ。(もっと)もらしい理由を並べとかねえと、ヘタレがバレて体裁が(わり)いもんだから、ウチの大王(賊の首領、親分)サンがそれっぽいのを(こしら)えただけです。単なる建前、屁理屈ですよ」

「んん~?」

「冷やかし半分みてえな奴ぁ、どうせ口が洒落臭(しゃらくせ)えばっかで(ろく)すっぽ使いモンになりゃしねえし、腹に一物を抱えてるような奴なんざ(はな)っから論外だし、そういう奴らを酒家(ここ)で追っ払え、ってんなら分かるんすけどね…」


 張栄は手酌の酒を、さも面白くないといった顔で呷る。


「こんな御時世っすからね。ここにもよく『断られたら後がねえ、首を(くく)るしかねえ』みてえな、切羽詰まった訳アリが来るんすけど、そんな奴らまで(ふるい)に掛けろってんですよ?さすがに気の毒なんで、そういう奴らはなるべく渡してやっちゃあいるんすけど、ちぃっと気性が荒かったり、腕が立ちそうな奴を見りゃあ、すーぐ自分(てめえ)が座る椅子の心配を始めた挙げ句に、アホみてえな難癖付けて追ン出しちまう。じゃ、何の為に酒家(ここ)で見繕わせてんだ、って話っすよ」

「……」

「寨の為だの何だの、言う事だきゃあ一丁前っすけどね。てか、寨の事を思ってんなら、いざン時の為にそんな奴らほど居てもらえよ、って話じゃねえっすか。何の事ぁねえ、結局ぁ自分(てめえ)の事しか考えてねえんすよ」

「帥哥ぁ、自分のトコの寨主なんだからぁ、人前で悪く言うのは止めた方がいいぞぉ~」

「いや、椅子でも(タマ)でも、狙われんのが嫌なら、(はな)から主の椅子なんか座んなきゃいいんだから、座った以上はそれなりの覚悟を決めてるもんだと思うじゃないっすか。あんまりにもやる事なす事みみっちいもんすからね」

「言いたい事は分かるけどぉ、聞いてるこっちもぉあんまりいい気分はしないぞぉ~」

「あー…まあ、上を戴いてる身だからこその『もうちょっとしっかりしてくんなよ』ってグチっすよ。聞き流して下さい」


 会って早々の宋万にここまで零すくらいなのだから、相当溜まっているものがあったのだろう。

 一応は矛を収めた張栄であったが、手酌でちびちびと酒を呷るその表情は曇ったままだ。


 片や、やんわりと窘めた宋万の方も表情は冴えない。

 詰まるところ、理由は崔道成に対して憤った時と同じである。


 二龍山(にりゅうざん)の主に愛想を尽かしたてホヤホヤの宋万であるから、自分が戴いた者に人を統べる才がない、と知った時の落胆や幻滅といった感情は理解できるし、たまたまここを通り掛かり、縁も所縁もない寨の話として愚痴に付き合わされたというのなら、まだ同情もできるのだが、この地には宋万の義弟が身を寄せていて、更にその義弟は自ら進んで寨主を戴いた、と聞いている。


 張栄が今の寨主を戴いた経緯は、無論、宋万の知るところではない。

 義弟と違い、張栄は望んで今の寨主を戴いたのではないのかもしれないし、ただ一人、寨主のみを貶しているだけのつもりだったかもしれないが、組織の長に対する侮辱は、その長を推し、担いでいる者に対する侮辱と同じであって、つまりは面と向かって義弟を貶された訳だから、張栄の「つもり」がどうであっても、いくら気持ちは理解できるといっても、宋万だって面白くはない。


 微妙な空気となってしまい、二人はポツリポツリと会話を交わしながら酒を酌み交わす。


 そんな状態がしばらく続き、窓の外が宵闇に包まれる頃、岸に寄せるさざ波の音に交ざり、水面を掻き分けて進む舟の音が届いた。


 酒家のすぐ側まで漕ぎ寄せると、窓から入ってくるのは数人の話し声。その中に、宋万は久方ぶりの懐かしい声を聞いた。


 舟を下り、続くのは階段か石畳か、靴と触れ合う乾いた音、店の奥で戸が開き、慌てた様子で床を踏み鳴らして誰かが近付いてくる。


「よお、宋哥(宋万)!よく会いに来てくれたなー!」

「杜弟ぃ、久しぶりぃ~」

「あん時、別れてぶりだから…もう10年ぐれえは経っちまったか。元気にしてたか?」

「元気だよぉ~。杜弟も無事で何よりだったなぁ~」


 満面の笑みで飛び込んできた男のまたデカい事。


 立ち上がり、満面の笑みで迎えた宋万と比べても、ほとんど背丈には差がない。


 拝礼を交わし、宋万の肩を抱いて再会を喜ぶ男の振る舞いは、一見、粗野にも見えながら、その心胆の豪放磊落なるが見事に表れていて、どこか憎めない人の好さが全身から滲み出ていた。


 歳は宋万より一つ下、江湖で「摸着天(もちゃくてん)」と綽名(あだな)されている。


「摸」は「触る」「撫でる」「探る」などを表すが、触るにしろ、撫でるにしろ、探るにしろ、何よりもまず手が届かなければ、それらは為しようがない。


 つまり「摸着天」とは、その体躯を称して「天に手が届くほどの男」である。


 名は一字名で(せん)

 即ち、姓名を杜遷という。

※1「水源を絶たれてしまえば~」

後年、黄河の氾濫によって梁山泊の形成、維持に多大な影響を与えていた広済河が断流し、流出する湖水の補充をほぼ汶水のみに頼るようになると、湖面を保てなくなった梁山泊は急速に面積を縮小させ、最終的に消滅してしまう。本文で後述しているように、流出部(済水)から最も遠い位置で梁山泊に接続していた広済河と違い、流出部に近い位置で接続していた汶水の流れが、湖全体へ行き渡らずに済水へ流出してしまった事、また人為的な干拓による農地転用など、消滅の要因は様々あるが、直接的かつ最大の要因は「広済河の断流」として間違いない。現在の汶水(大汶河)は元々梁山泊があった位置の北寄りに形成された東平湖に接続している。

※2「四涜」

「涜」は「溝」。四本の大河。長江、黄河、淮水、済水。

※3「稀罕」

「稀」も「罕」も「珍しい」。滅多にお目に掛かれないほど珍しい事。ちなみに「異」にも「他と違っている=珍しい」という意味がある。

※4「河畔橋頭に佇むは~」

「仁王」は仏寺の門などに置かれる左右一対の護法神で、別名「金剛(・・)力士」。「尊」は仏像などを数える単位。「仁王一尊=金剛(像)一体」で、つまり「宋万一人」の意。「橋頭」は橋と陸が繋がっている場所。橋の袂。

※5「清静と万籟を欣賞す」

「万籟」は「あらゆる物音」。「欣賞」は「(景色、音楽、演劇などを)愛でる、観賞する」。

※6「路辺の草叢に蟀蛩窃々~」

「蟀」はコオロギ。「蛩」はキリギリス。「窃々」は「微か、密やか」、転じて「ヒソヒソ」。「哢」は「さえずる」。

※7「涼風に湖濱の万蘆は簌々と揺れ~」

「湖濱」は「湖の岸辺」。「漣漪」は「さざ波」。「簌々」「潺々」は擬音を表す。「簌々=サワサワ、ザワザワ」「潺々=パシャパシャ、チャプチャプ」。

※8「道傍、散在の松柏に寄す濤の沙々として~」

「濤」は「風と音」の比喩。松の梢に吹く風(とその音)を「松濤(しょうとう)」と言う。「罅」は「ヒビ」の意で「地のヒビ割れ=谷間」。「沙々」「淙々」は擬音を表す。「沙々=カサカサ、ガサガサ」「淙々=サラサラ」。

※9「此刻、斜陽の李家道に蹄輪嘚轆は絶え」

「蹄輪嘚轆」は造語。「嘚轆」は擬音を表す。「嘚」が「馬の蹄の音(嘚々=パカパカ)」。「轆」は「車輪の音(轆々=ゴトゴト、ゴロゴロ)」。「蹄輪嘚轆は絶え」は「蹄(馬)も車輪(荷車や馬車)も(それらが発する音も)ない」。

※10「小乙」

排行が一番目の男性に対する呼称。「大郎」と同義ですが、こちらは特に若い男性に対して使用する呼称のようです。「若い」がどのくらいの年代を指すのかは不明ですが。

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