下山
監寺を背負った宋万と共に曹正が広場まで戻ると、倒れていた手下の数が減っていた。
鄧虎を追って、一時的に二人の姿が見えなくなったのを「これ幸い」と、動ける者は逃げ出してしまったようだ。
ただ鳥達のさえずりと風鳴りだけが響く広場は、正に「死屍累々」という言葉が当てはまるような趣きである。
「なあ、宋哥兒(宋万)」
「何だぁ、曹小哥ぁ(曹正)」
互いに歳を明かし、宋万の方が7つほど年長だった事から、意気投合した相手をいつまでも「帥哥」と呼び続けるのも余所余所しい、と二人は「哥兒」「小哥」と親しげに呼び合うようになっている。
そこには、つい先ほど演じた激しい打ち合いなどなかったかのように、蟠りは微塵も感じられないが、それはさておき──
「上に『一の関』と『二の関』があるんだよな?もしかして…」
「そお~、ここに『三の関』を造ってるんだよぉ~」
「やっぱりか。俺はてっきり、ここに造ってんのが新たな『一の関』になるから、上を『二の関』って呼んでんのかと思ってたよ…てかさ、たかが賊の寨に関を三つって、いくら何でもやり過ぎじゃね?それともこーゆーモンなの?」
「どうかなぁ~」
「ケッ、ビビったんだろ?」
宋万の背から監寺が返した。
その左足には宋万の手により、僧衣を破いた布切れで簡易的な添え木がなされている。
「『ビビった』?」
「青州にゃ賊の巣窟として名の知れた三山がある。その内の清風山が、先だって禁軍に制圧されたからな。『明日は我が身か』と居ても立ってもいらんなくなったんだろ」
「ふーん。ま、この辺りの住人にとっちゃ『三』が『二』に減っただけでも喜ばしい事じゃねえか」
ハッ、と監寺は一つ鼻で嗤うと、
「分かっちゃいねえなぁ、京師(都、開封府)で何不自由なく育ったお坊ちゃんは。お気楽なモンだ」
「あぁ?」
「特に名の知れた寨が三つ、ってだけなんだよ。腐った朝廷に愛想を尽かして山へ籠ってる奴なんざ、この辺りにゃいくらでもいるわ。寨の一つや二つが潰されたからって、それで何が変わるってんだ、馬鹿馬鹿しい」
「あんたがその『いくらでも』の一人だからって、聞こえのいい御託を並べてんじゃねえよ」
「何が御託だ、テメエが世間知らずなだけだろうが。現に制圧された矢先の清風山ですら、もうナントカって野郎が頭ンなって寨を構えてんだよ」
「はぁ!?マジかよ!?!?」
マジですww
曹正が確かめるような視線を宋万に向けると、
「ああ~、おいらもそう聞いたぞぉ~」
「一人消えりゃあ、すぐまた代わりが現れる。その繰り返しじゃねえか。それの何処が『喜ばしい』んだよ、下らねえ」
「チッ、偉そうに…哥兒、やっぱコイツうっちゃってこうぜ」
「ダメだよぉ、もう山を下りるまでは背負ってくって言っちゃったんだからぁ~」
「はぁ、義理堅いねぇ。まぁ、背負ってく哥兒がいいんなら、俺がとやかく言う事でもねえんだけどさ」
溜め息と共に曹正が歩き出し、宋万がそれを追う。
「小哥ぁ、いいのかぁ~?」
「ん?何が??」
曹正が振り返ると、宋万は何やら地に向かって目配せをしている。その足元には物言わぬ手下達。
「…?…あ」
一瞬、宋万の言わんとしている事を酌み取れず、怪訝な顔を浮かべた曹正であったが、すぐに気付いた。
懐を探らなくていいのか、と言うのだ。
「おい、金剛。テメエもまた、随分と情け容赦ねえ事を考えやがんな。『世話ンなった仲間がやられてんのを黙って見てらんねえ』が聞いて呆れるわ」
「先にぃ不義を為したのは向こうでしょお~?それにぃこのまま放っといたってぇ、どうせ鄧虎の懐に入っちゃうんだしぃ、それじゃあ癪だからぁ~」
「まあ、癪には障るってのは同感だが」
そんな二人のやり取りを余所に、暫し考え込んでいた曹正は、やがて思い立ったように手下達の懐を漁り始める。
これから旅人を襲って荷を奪おうというのに、わざわざ金を持ち歩く必要もないのだから、曹正も大して期待はしていなかったのだが、それでも一人だけ、何かの用で懐に入れたものをそのままにしておいたものか、2~3両ほどの小粒銀とバラの銅銭の入った小袋を持っている者がいた。それ以外に集まったのは、ほんの僅かな小粒銀と銅銭が少々。
「これでテメエも立派な『いくらでも』の一人だな。ヘッ、様ぁねえわ」
「んっ」
監寺の嫌味を相手にする事もなく、曹正は手に入れた銀子と銅銭の全てを宋万に差し出した。
「えっと…違うよぉ~。おいらが欲しいから言ったんじゃなくてぇ、小哥の路銀に使いなよって意味でぇ──」
「俺は間に合ってるよ。鄧虎が道にバラ撒いてったのを拾えたからな。哥兒だって碌に手持ちは無いんだろ?山を下りれば何かと必要になるんだから使いなよ」
「でもぉ…」
「いいから」
そう言って曹正は強引に宋万の懐へ小袋をねじ込んだ。
「さて、俺の懐には一銭たりとも入っちゃいねえ。哥兒はそもそも銭を奪ってすらいねえ。これで何処ぞの監寺サンから、破落戸呼ばわりされる筋合いもなけりゃあ、不義モンだの薄情モンだの、変な噂を流される理由もねえって訳だ」
「何だ、その屁理屈は。だが、まあ『黙ってろ』ってんなら考えてやらん事もねえ。おい、金剛。その銭、丸々俺に寄越せ。そしたらお前らの事ぁ黙っててやらぁ」
「ダメだよぉ、小哥の心付けなんだからぁ~」
「ざけんな!俺はこれから医者に診てもらったり何だりで金が要るんだよ!」
「じゃあ、薬代くらいは出してあげるからぁ、それで水に流してよぉ~。あんまり変な噂を流されたらぁ、小哥もおいらも黙ってないぞぉ~」
「ああ!?」
「これから江湖を渡り歩いていくのにぃ、旅の商人一人を相手にぃコテンパンにやられたなんて噂が広まったらぁ、監寺だって肩身が狭いでしょ~?」
「テメエが裏切ったからだろうが!」
「監寺がやられたのはおいらが裏切る前だぞぉ~」
「ぬぐ…」
どこぞの押司のように、武の腕前はソコソコでも、武以外の要素によって江湖で一目置かれる事は普通にある。
とはいえ、己が人様から称えられるような性根をお持ちでない事くらい、監寺は百も承知であるし、その上に尚「商人にさえ及ばない武の持ち主」などと噂が広まってしまえば、江湖での面目は丸潰れもいいところだ。せめてそれが根も葉もない話であれば、まだ名誉挽回の機会もあるのだろうが、根も葉もある事実なのだから致命的である。
見掛けによらず──かどうかはさておき、機転の利いた宋万の一言でやり込められてしまった監寺の姿に溜飲を下げつつ、曹正は宋万を伴って広場を後にした。
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広場を抜け、山道を下る間も、曹正と宋万の会話が止む事はない。
「しかし、何だってまた仏僧が、追剝ぎなんて物騒な生業に精を出してんだよ?」
いえ、これは別にダジャレとか、そういった事ではなく…
「ん~、おいらも最近ここに来たばっかりだからぁ、詳しい事は分からないけどぉ、ここの寨主は鄧虎って言ってぇ、元々は首座を務めてたのにぃ、欲に負けて寺を乗っ取ったのがぁそもそもの切っ掛けらしいぞぉ~。今は見る影も無いけどぉ、鄧虎が江湖で『棕胡龍』(※1)って綽名されてるのぉ、噂ぐらいは聞いた事ないかぁ~?」
「いやぁ、生まれてこの方、開封から出た事なかったしなぁ。山東に賊が出てるって話は聞いた事あったけど、姓名や綽名までとなると、全部が全部はちょっと…」
「そうかぁ~」
宋万は何やら気まずげに口籠る。
そして、チラと背負った男の顔を見ると、
「崔監寺もぉ僧号を道成って言ってぇ、綽名も持ってるくらいの有名人なんだぞぉ~。『生鉄仏』って──」
「おい、金剛この野郎。テメエ今、俺を憐れみやがったな!?『鄧虎を知らねえくらいじゃ、コイツの事なんか尚更、知らねえだろうなー』じゃねえわ。そう思ったんなら黙ってろ!」
「背負ってもらって、気まで遣ってもらってるクセに何て言い種だ。贅沢言ってんじゃねえよ」
「うるせえ!じゃあ、何か?テメエは俺の噂を聞いた事あるって──」
「ある訳ねえだろうが。親玉も知らねえのに、手下の事なんか知るかよ」
「ホレ見た事か!テメエの所為だぞ、金剛。要らん恥、掻かせやがって!」
「哥兒、だから言ったろ?こんな奴うっちゃっときゃ良かったんだって」
「う~ん…」
「おいっ、丸め込まれそうになってんじゃねえ!せめて人里までは責任持って連れてけ!」
足は折れても威勢だけは一丁前の崔道成に、宋万は困ったような、曹正は辟易としたような顔を浮かべて歩を進める。
その後も何くれとなく会話を続け、谷を抜け、道の左右に木々が現れ始めると、ほどなく曹正の目に雨宿りをした岫が映った。
「あん時ここで引き返してりゃあ、こんな目に遭わなくて済んだのに…」
「『あん時』ぃ~?」
「…ああ、いや、さっきの広場へ行く前に、そこの岫で雨宿りしたんだよ。朝方、雨が降ってたろ?」
「ああ~、それはツイてなかったなぁ~」
「全くだ…」
今さらボヤいてみたところで、何が変わる訳でもない事くらい、曹正とて百も承知ではあるのだが。
と、ふと胸によぎった疑問が曹正の口を衝いた。
「そういや、哥兒は何が切っ掛けでここに来たんだ?自分から膝を折ったのか?」
「ああ~、おいらもぉここに来たのは小哥と同じでぇ、道に迷ったからだよぉ~」
「へぇー、そうなんだ…って、それで何であんな奴に手ぇ貸す事にしたんだよ。ああいう背徳漢っつーか、道義を軽んじるような輩は嫌いなんだろ?」
「おいらその時ぃ腹ペコでしょうがなかったんだけどぉ、そしたら飯を食わせてくれたからぁ~」
「そんだけ!?」
「飯は大事だぞぉ~。それにぃ、受けた恩は返さなきゃいけないしぃ~」
「そりゃまあ、そうだろうけどさ」
「…鄧虎だって最初からあんなんじゃなかったんだよ」
宋万の背で、崔道成はさも面白くないといった風に顔を顰めた。
「『あんなんじゃねえ』奴が、何で寺を乗っ取る必要があんだよ」
「ハッ、一口に『坊主』っつったって、まともな奴もいりゃあ生臭だっているわ」
「生臭代表が何言ってやがる」
「うるせえ。とにかく、前の生臭ジジイに比べりゃ、鄧虎の方が遥かにマシ──いや、マシどころか、義気と気概に溢れて、人を束ねるに十分値する器だったんだがな」
「で、上に立った途端、欲に塗れた本性を見せつけられて幻滅しちゃいました、ってか?あんたに人を見る目が無かった、ってだけの話じゃねえか」
「チッ、だからあんな得体の知れねえ道士なんて相手にしなきゃ良かったんだ…」
「道士?」
再び視線を投げ掛ける曹正に、宋万は首を振る。
曹正が訝しむのも無理はない。
仏教は輪廻を肯定し、現世の行状が来世の境遇に影響を及ぼす、という考え方が根底にある。簡単に言うと「前世で徳を積み忘れたから、前々々世くらいからやり直します」とか「もう現世は諦めて来世に懸けるわ」的なアレだ。
最終的には厳しい修行により、その輪廻の輪から抜ける事を目標とするが、いずれにせよ、現世で功徳を積むのも、苦行を課すのも、輪廻の概念によるものであるから、つまりは教義の主眼が死後の世界に置かれていると言っていい。
対して、道教は修行を通じた秘術の会得や、内丹(※2)による自己の養生を志し、究極的には自らを神仙の域にまで高めんとする目標を持つが、それは不老長寿を得た末に辿り着く境地とされているから、掻い摘んでしまえば現世に主眼を置いた教義と言える。
無論、どちらが正しく、どちらが誤っているという事ではない。
どちらが勝っていて、どちらが劣っているという事でもない。
ただ、富なり名声なり権力なりという、現世のためのモノを備えた権力者達からすると、道教の方が分かり易く、受け入れ易くは見えるようだ。
ところが、道教が権力者達に受け入れられるようになると、本来は無為や物質的な無欲を旨とする教義をねじ曲げて、現世で豪奢と悦楽を存分に享受するよう権力者を唆し、そのお零れに与ろうとする不埒な俗物が現れる。と同時に、そうして手に入れた地位と、お零れを手に入れる権利を守ろうと、俗物達が他の教義を排斥し、弾圧するよう権力者達を嗾けたりもする。
事実、この国では度々そうした事が行われ、とりわけ仏教は史上、幾度となく、時の政権による大規模な迫害を経験してきた(※3)。
最も新しい後周・世宗の廃仏からはかれこれ150年ほどが経ち、今は仏教の排斥が起きている訳でも、取り立てて道教と仏教が対立している訳でもないが、とはいえ道教と仏教では教義の根幹からして違う訳だし、あえて道侶(道士と僧侶)が互いの寺院を訪ねる必要もなければ、互いの寺院がわざわざ道侶を招くような御時世でもない(※4)。
「宋万は知らねえよ。寨に加わる少し前の話だからな。その道士が来てからだ、鄧虎の野郎がおかしくなり始めたのは。急に大した器でもねえ奴の息子を首座に据えて、権力に固執し始めたり」
「へえ~、そうだったんだぁ~。おいらが来た時にはもう鄧首座が就いてたからなぁ~」
「てか、賊の親玉に座ったくらいで『権力に固執』も何もねえわ。大仰な物言いしやがって」
「そう見えたんだからしょうがねえだろうが。それに言う事なす事、やたら俗っぽくなったっつーか、薄汚くなったっつーか…挙げ句、最近じゃ趙官家(今上帝・徽宗を始めとする帝室)を倒すだの何だの言い出す始末で──」
「あー、うるせえ。いいよ、もう。そいつが変節したんだか何だか知らねえけどよ。あんたも元は坊主なんだから、諌めるなり何なりすりゃあ良かったじゃねえか。どうせ親玉のするに任せて、あんただって好き勝手やってたんだろ?今更、自分だけいいように言ってんじゃねえよ」
曹正の正論に、チッと一つ舌を鳴らした崔道成は、そのまま不貞腐れたように黙りこくってしまった。
曹正が一夜を明かした辺りを過ぎ、しばらく進むと十字路に出る。昨日、曹正はこの十字路をまっすぐ進んで山頂に向かった。
「コレ、右と左は何処に通じてんの?」
「んん~?正面の道はいいのかぁ~?」
「俺は正面から来たから。淄州に繋がってんだろ?」
「そうそう。右はおいらまだ行った事ないけどぉ、青州の清風鎮って鎮でぇ、左に進めば兗州に出るぞぉ~」
「近いのは?」
「兗州だなぁ~」
「じゃ、左で」
見上げれば、ここ2日の間、欠片も青空を見せていない上空は早、明るさを失い始めていた。木々に挟まれた山道は尚、薄暗い。
道を折れても山を抜けそうな気配は訪れず、何とか日のある内に人里へ下りたいと気が逸る曹正は、先を急ぎはするものの、さりとて崔道成を背負って歩みの遅い宋万を置き去りにするわけにもいかず、宋万を気遣い、歩みに合わせて進む内にも、みるみる辺りは暗くなっていく。
いよいよ普通に歩くのも難渋し始めたところで、
「なあ、哥兒。コレ、城なり鎮なり、歩ける内に辿り着けそうか?」
「う~ん、ちょっと難しいかなぁ~」
「うへぇ、まぁた野宿かよ…」
「しょうがないよぉ~」
「しょうがなかねえわ、こっちは怪我人なんだよ!簡単に諦めんじゃねえ!」
宋万の背から再び崔道成が毒づいた。
「『諦めんじゃねえ』も何も、こんな山ン中で足元が見えなきゃ、歩きようがねえじゃねえか」
「急げ!」
「あのなぁ。暗がりで哥兒が足を挫いたらどうすんだよ!俺はアンタを背負って山道歩くつもりなんて更々ねえからな!」
「飯は!?水は!?」
「知るか!アンタの親玉に根こそぎ掻っ払われたお陰で、食いモンなんざ欠片も残っちゃいねえわ!水なら口を湿らす程度には分けてやるよ」
「飲ませろや!」
「ざけんな。どうせ俺の瓢箪、一口で丸々飲み干しちまおうって魂胆だろうが」
「チッ、クソ。バレた…」
「分からいでか!」
ギャーギャーと言い合う二人を宥めつつ、宋万も野宿の覚悟を決めて崔道成を地に下ろし、宵闇の中、曹正と二人して目を凝らせば、周囲には僅かながらも草木の実が生っている。
搔き集めた実を三人で分け合い、やれやれと人心地はついたものの、丸2日、山中を彷徨っていた曹正は元より、人一人を背負って歩き続けた宋万にも途端に疲れが押し寄せ、その後もグズグズと駄々を捏ねる崔道成を適当に遇いつつ、二人は早めに眠りに就いた。
※1「棕胡龍」
造語。「胡」は「鬍」の意で「ひげ」、「棕」は植物の「棕櫚」を指す。また、その樹皮のような色合いを指して、中国では「棕色」と表すが、簡単に言うと日本での「茶色」或いは「茶褐色」。「(茶)褐色の鬍を生やした龍」。
※2「内丹」
「丹」は「丹薬」。不老長寿に至るための丹薬を、人体が持つ「気」や「気功」的なモノを練って体内で精製する、という考え方。丹薬を外に求める(所謂「不老長寿の薬」的な)考え方は「外丹」。
※3「仏教は史上、幾度となく~」
特に規模と影響の大きかったものは、本文の後周・世宗によるものの他に、北魏・太武帝によるもの、北周・武帝によるもの、唐・武宗によるものがあり、それぞれの廟号から「三武一宗の廃仏(法難)」と呼ばれる。この内、後周以外については廃仏運動の陰に道士の暗躍があったとされる。また、北周による廃仏の際は、仏教と共に道教も弾圧の憂き目を見ている。
※4「道侶が互いの寺院を~」
世情等の影響により、成立以降、道教の教義は緩やかな変遷を見るが、その過程で仏教的な要素が少なからず取り入れられていた事もあり、作中当時、両者が全くの断絶状態だった、という事はないと思われる。ただ『水滸伝』の第89回には、道士が仏寺への訪問を憚る様子が描かれていて、少なくとも本としての『水滸伝』が成立する明の頃までは、両者の交流がそれほど盛んではなかった、と推察する事もできる。