先約の人
門前まで見送りに出、更には帰路の供まで付けてくれた董博に、李柳蝉は改めて礼を述べ、董家薬舗を後にする。
大金を懐に、未だかつて味わった事がないほどの緊張と共に城内を行く李柳蝉であったが、仕事の話などをしながら、無事に家へと辿り着いた。
董家の作男に礼をし、李柳蝉が家に入ると、
「柳蝉、何処に行ってたの!?心配したのよ!」
「うん。ごめんね、お祖母ちゃん」
と、二人の会話を聞きつけた李四娘が、さも面倒臭いといった様子で奥から現れる。
その姿を見るや、李柳蝉はキッと睨み付け、
「薬代と生活費で150貫って言ったわよね?その内、薬代はいくらなのよ?」
「は?払えもしないクセに、それを知って──」
「いいから答えなさいよ」
「……」
思い掛けない李柳蝉の気迫に李四娘は堪らず息を呑み、同時にまた、その強気な姿勢を訝しむが、ここに至った経緯を思えば、それも自然な反応と言っていい。
しかし「どうせ頼る宛てなど無いのだから」と高を括る李四娘は、精一杯の虚勢で一つ舌を鳴らすと、殊更に居丈高な様子で、
「薬代が100貫に、二人の生活費が年50貫だよ!それが何だってんだぃ!?」
全くもって董博の見立て通りだった。
フン、と鼻を鳴らして椅子へ腰掛ける李四娘の面前、卓の上へと、李柳蝉は懐から取り出した包み突き付ける。
「…?…っ!?なっ、何だぃ、この金は!」
「銀で100両あるわ。これで薬代の事をとやかく言われる筋合いは無くなったわね!?」
「柳蝉っ!?!?お前、そんな大金を何処で…!?」
李四娘の驚きも大層なものだったが、郭静の驚きはその比ではない。
「お祖母ちゃん、後で説明するから」
「でも──」
「大丈夫だから」
そう優しく諭し、李柳蝉はまた李四娘に険しい視線を向ける。
一方、李四娘はといえば、思惑が外れてギリギリと歯を鳴らし、得意気に舌と鼻とを鳴らしていた、先ほどまでの余裕は早、欠片もない。
「く、薬代を払ったからって、いい気になってんじゃないよ!残りの50貫も今すぐ払ってみな!」
「残りは毎月少しずつ払うわ」
「ヘッ、何だぃ驚かせやがって。払えないなら文句を言わずに今晩からでも──」
「死んでも嫌だ、って言ってんでしょうが!それに仕事ならもう見つけてきたわ」
「な、何!?」
いよいよ自分の目論見が瓦解し掛けている事を悟り、思わず立ち上がった李四娘と、変わらず険しい視線を送る李柳蝉。
今や立場は完全に逆転した。
「こ、ここの家主はアタシだよ!何を勝手な真似してんだぃ!アンタは黙ってアタシの言う事を聞いてりゃいいんだよっ!!」
「聞けないわ。文句があるなら、衙門でも何処でも訴えてみればいいじゃない。私を雇ってくれた人が言ってたわ。『自分の許しも得ずに家中の人間を働かせたら許さない』って」
「何を!?上等だよ、やってやろうじゃないか!何処のどいつだ、そんな洒落臭い事を言ってんのは!?」
「訴えてみれば分かるわ。行こ、お祖母ちゃん。部屋で話そ」
李柳蝉はまだ迷っている。
董博の言う通り、その姓名を出せば、おそらくこの場は収まる。しかし、そもそもが董博には全く関係のない話だ。
意固地になった李四娘が本当に訴え出れば、当然、董博も受けて立つのだろうが、全くの無関係であるからこそ、迷惑を掛けるのはやはり忍びない。
だが──
「待ちなっ!!何処の誰だって聞いてんだろうが!どうせいないんだろ、そんな奴は!?何処から金をチョロまかしてきたのか知らないが、そんなハッタリでアタシがビビると思ったら大間違いなんだよ!」
どうやらこのままでは丸く収まりそうにない。
室に入りしな、李柳蝉は振り返る。
「…董将士よ」
「…何?」
「開封に長く住んでるなら、姓名くらいは聞いた事あるでしょ?金梁橋の董将士よ。私を雇ってくれたのは」
もはや李四娘には鳴らす物すら無い。
よもやそんなビッグネームが飛び出すとは思ってもいなかった李四娘は、暫し目を白黒させ、口をパクパク開閉させると、
「ば、馬鹿な事、言ってんじゃないよ。ハッタリもいいところだ…」
「そう思いたいなら好きにすれば?」
「だ、大体、何であんたなんかが董将士と知り合って…況して、雇ってもらうなんて…」
「あんたに言う必要なんて無いわ」
そう言い捨て、李柳蝉は郭静と二人、室に入る。
「柳蝉、どういう事なの?」
座る間もなく問い掛ける郭静を落ち着かせ、寝台に並んで座った李柳蝉は、家を出てからの経緯を事細かに語った。
「そう、董将士がそこまで私達の事を…」
「うん。だから、有り難く甘えさせてもらったんだけど…お祖母ちゃん、怒ってる?」
顔色を窺うような李柳蝉に、郭静はフッと一つ息を吐いて首を振り、優しく微笑み掛ける。
「ううん。私だって義従妹(李四娘)の事は頭にきてたし、柳蝉に辛い思いをさせるくらいなら、誰でもいいから頼りたかったもの。さっきは突然の事で頭が真っ白になっちゃったけど、いつか私も柳蝉と同じ事を考えついたと思うわ。今回は有り難く甘えさせてもらいましょう」
「うん」
「でも、だからって甘えっ放しって訳にもいかないわよ?出来るだけ早く返す為にも、将士の仰るように、お金が掛からないここで我慢して暮らしましょう。私じゃ雇ってもらえるところなんて無いだろうけど、ここを手伝って少しでも足しにするから」
「うん、分かった」
互いに手を取り、互いに顔を見合わせ、新たな生活へを乗り切ろうと誓い合った二人であったが、不意に郭静は李柳蝉の両手を引き寄せる。
そのまま李柳蝉の身体を抱き締めると、郭静は声を殺して嗚咽を洩らし始めた。
「お、お祖母ちゃん!?どうしたの?」
「ごめんね、柳蝉。お前の為と思って開封に来たのに、却って苦労を掛ける事になって…」
「あ…」
「よく『遠くの親戚より近くの他人』(※1)なんて言うけど、本当にその通りね。心の底から思い知らされたわ。こんな事なら…一時の感情には目を瞑って、私も公子(鄭天寿の事)達と一緒にお前を説得──」
「お祖母ちゃん、言わないで」
李柳蝉は危うく怒鳴り散らしてしまうところだった。
今さら何を言っているのか。
あの時、何を見ていたのか、と。
確かにあの時、郭静は「一時の感情」に支配されていたのだろう。しかし、李柳蝉は違う。
散々に悩み、散々に迷い、想いを断ち切り、涙を振るい、苦労を経てここに至った。
それら全てを、たった一言「単なる気の迷い」で片付けられてしまえば、李柳蝉でなくとも腹は立つ。
しかし、それこそ今さらだ。
何を見ていたのかと問えば、答えは決まっている。一時の感情に囚われていた郭静は、何も見えていなかったのだ。
その郭静を今さら責めてみたところで、何が変わる訳でもない。
そう自分に言い聞かせ、李柳蝉は気持ちを鎮めると、
「私、あの時にはもう、青州を出るって決めてたんだから。お祖母ちゃんにまで反対されてたら、一人で旅をしなきゃならなかったんだよ?」
「そうかもしれないけど…」
尚も涙を流して郭静は李柳蝉に詫びる。
郭静の思うに任せ、その背を摩って宥めつつ、自分の意思で踏み出した世界を、前を向いて生きていこうと決意を新たにする李柳蝉であった。
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「ちわっすー」
「いらっしゃいませ」
「…お?」
数日後。
李柳蝉は董家の店先で男の客を迎えた。
見れば男は年の頃で24、5歳ほど、頭に藍の頭巾を被り、背は李柳蝉より僅かに高く、頬にはうっすら無精髭を晒しながら、衣服は上も下もパリっと真新しいものを纏っている。
首の上と下が妙にアンバランスなその装いは、見るからに「わざわざ装いを整えてきました」感が満載だ。
「小姐さん、見ない顔だな」
「あ、はい。縁あって、つい先日からこちらで働かせていただく事になりました、李と申します。今後ともお引き立てのほど、宜しくお願い申し上げます」
「あー…そりゃちょっと難しいかなー」
「…はい?」
あのね、柳蝉ちゃん。
気持ちは分かるよ?分かるんだけども、客相手の商売なんだから、もうちょっと返事とか気を遣ってもいいんじゃないかなー。
そんな李柳蝉に男は苦笑を交えて手を振ると、
「いやいや、別に変な意味じゃないよ。近々、旅に出ようと思っててね。おまけに当分、帰ってくる予定も無いもんだから。宜しくしてあげたいのは山々なんだけどさ」
「あ、ああ、そういう…」
「俺は姓を曹、名を正ってモンだ。将士と約束してるんだが、御在宅かぃ?」
「はい。お見えになられた事を伝えて参りますので、少々お待ち下さい」
この曹正という男は金梁橋の程近く、先祖代々続く小さな肉屋に生まれた。
幼い頃から鎗棒を扱うのが好きで、家業を手伝う傍ら師匠について鎗棒を学び、今では一流──とまでは言わずとも「なかなか」と評して差し支えない程度の腕前は誇っている。
「お待たせしました。御案内致します」
「ああ」
戻った李柳蝉の案内に、曹正はやや緊張した面持ちで続く。
「やあ、ようこそ。『曹刀鬼』」
「止めて下さいよ、将士。誰が呼び始めたのか知りませんが、そんな大層な男じゃありませんよ、俺は」
「はは、謙遜は要らんよ、小哥」
客間でにこやかに出迎えた董博と曹正は互いに礼を交わし、主客分かれて席に着くと、董博は李柳蝉に酒の用意を命じた。
「刀鬼」というのは曹正の綽名の事だ。
残念ながら、鎗棒の腕は未だ「なかなか」止まりの曹正だが、彼の真骨頂は鎗棒ではなく、刀を持った時にこそ発揮される。
それも刀剣の類いではない。本業で扱っている刀、つまり「包丁」だ。
本業なのだから当たり前、と言われればそれまでなのだが、とにかく牛でも豚でも羊でも、曹正の手に掛かれば捌けない獲物は無く、おまけに迅速かつ丁寧な包丁捌きは見る者全ての目を惹きつけ、その仕事ぶりを目にして感嘆の溜め息を洩らさなかった者は、未だかつて無い。
故に、人呼んで「操刀鬼」。
読んで字の如く「刀を操る鬼」である。
酒を運び入れた李柳蝉が下がると、二人は互いに相手の椀に酒を注ぐ。互いにそれを飲み干すと、曹正は居住まいを正し、
「将士。この度のお心遣い、衷心より厚く御礼申し上げます」
「何、そんな堅苦しい礼は要らんよ。礼なら前回、話が纏まった時に受けたろう?寧ろ礼なら小哥の師匠にするといい」
「ええ。明日、開封を発つ前に会う約束をしてるんで、その時に」
「そうか、明日にはもう発つのか。御高堂(※2)も心中はさぞ淋しかろうな」
「どうでしょうかねぇ。却って清々してるぐらいかもしれませんよ?」
「そんな事はないさ。古人も詩に『君は此に行日を卜い、高堂はその帰りを夢に見る』(※3)と詠んでるだろう?子の旅立ちを平然と見送れる親はいないよ」
曹正もそれなりの歳になり、独り立ちして店を持つ事となった。ここまでは至って普通の話だ。
しかし、そこは天下に隠れもない開封の事、城内を見渡してみれば、他に肉屋の少ない訳もなし、肉ではなくとも食材を扱う店なら腐るほどある。
そんなライバルひしめく環境の中、いかに名うての「操刀鬼」と言えど、独り立ちしたばかりで向こうを張っても、前途はなかなかに多難だ。それならいっそ心機一転、新天地へ飛び出してみよう、となった訳だが…
「さて、ではこれを…」
一頻りの会話の後、董博は卓の上に包みを置いた。
拝謝して受け取った曹正が包みを開けると、中からは目にも目映いばかりの金銀が現れる。
その量、ざっと数百両。
「確かに…有り難く拝借します」
「ああ、遠慮は要らんから存分に使ってくれればいいが…まだ足りんかね?」
「御冗談を…他の商家にまで声を掛けていただいて、もう十分すぎるほどの元手が集まりました。足りないどころか、全部使い切ったら樊楼(※4)みたいな肉屋が建っちまいますよ」
恐縮頻りの曹正に、董博は呵呵と笑う。
店を持つだけでも金が掛かる上、旅費の算段まで迫られた曹正であったが、家は生憎、代々続く肉屋であっても、手広くは商っておらず、当然、掃いて捨てるような蓄えも無い。
じゃあ、何でまた旅に出てまで──いやいや、それ以前に何でまた店を持とうと思ったのか、なんて冷淡なツッコミはこの際、御遠慮いただくとして、どうしたものかと頭を悩ませる曹正に、援助を申し出てくれたのが董博である。
ただ、共に金梁橋の近くで店を構え、董博が曹正の店を利用する事もあれば、鎗棒の鍛練に励む曹正が董博の店を利用する事もあり、古くから顔馴染みではあったものの、そこまで親密な関係とも言えず、本来なら董博が大金を用意してやる筋合いもなければ、他の商家に援助を募って骨を折る必要などもなかった。
そこにしゃしゃり出て…ゲフン、ありがたくも間を取り持ってくれたのが曹正の師匠だ。
「何くれとなく世話を焼いていただいただけでも有り難いところへ、こんな大金まで用立ててもらって…将士には一生、頭が上がりませんよ」
「いつでも上げてくれていい。というか、そもそも私に下げる必要は無い。それこそ、下げるなら林副師範にだろう?周りが援助してくれたのも、先に林副師範が一生懸命、頭を下げて回ってくれてたお陰だよ。私はただそこに軽く口添えしたまでの事だ」
林副師範の正体については、今さら説明の必要もあるまいが、曹正が林冲に…あ、言っちゃった…まあいっか…ともかく、曹正が林冲に鎗棒を学んでいたのは、単なる偶然ではない。
今は御街の近くに住む林冲であるが、生家は金梁橋に程近い場所に在り、曹正の家とは親同士に親交があった。
曹正の物心が付く前に林冲の一家は引っ越してしまったため、曹正と林冲が幼馴染みという事ではないのだが、その後も親同士の交流は続いていて、それなりの師について鎗棒を習っていた曹正が、更に腕を磨きたいと言い出したのを機に、父親が林冲の父を通して頼み込み、晴れて林冲に弟子入りする運びとなった、という訳だ。
「やっぱ、いざという時は役に立ちますよねぇ、師匠も。あとはあの、多少『ええカッコしい』な物言いが直れば申し分無いんですが」
「随分な言いようだな。私が二人の仲をとやかく言う筋合いも無いが、その『ええカッコしい』な副師範がいなければ、今頃どれほどの金が集まってたか分からんぞ?」
「それは分かってます。てか、将士は『ええカッコしい』を否定してあげて下さいよ。可哀想に」
「どの口が言ってる…」
呆れる董博に、今度は曹正が呵呵と笑う。
「あ、そうそう、そういえばさっき案内してくれた可愛らしいお嬢ちゃん、新しく雇ったんですね。どうしたんです、急に?知り合いの娘さんか何かですか?」
「いや、別にそういう訳じゃない。話すと長くなるが、元々女性を一人、雇おうと思ってたところで、たまたま縁があってな」
「そうですか…」
「ん?何だ、もしや一目で骨抜きにされて、今更、旅立つのが惜しくなったか?」
「いえいえ、そういう事じゃないんですけど…」
曹正も仕事柄、色々な酒家や妓楼との付き合いがあるし、もういい大人であるから、人並みに夜の街へ繰り出した事もある。しかし──
「容姿が整い過ぎてやいませんかね?」
「ん?そうか…?」
どれだけ記憶を辿ってみても、李柳蝉を越える美貌の持ち主に、曹正は思い当たる節がない。
「非が誰にあるかはともかくとして、あまりに過ぎた容姿を持った女は、昔話とかでも大抵、碌な目に遭わないでしょ?えーっと、そういえば確か大蘇学士(蘇軾)もそんなような詩を…?」
「『古より佳人は多く命薄し』(※5)か」
「それを思えば、張師範(張統)の気持ちも分からなくはない、っていうか。師匠は呆れてるみたいですけどね」
「ああ、副師範の許嫁の…」
「まあ、俺が心配する筋合いでも無いのかもしれませんが」
「…いや、小哥の言う通りかもしれんな。私も心に留めておこう」
確かに董博にも心当たりがある。
董博が聞く限り、李柳蝉が開封へ来て、まだ数日しか経っていない。その数日で、すでにそんな目に遭っている。
そう思って振り返れば、開封に至る経緯を話していた郭静が、青州を出る理由を話した際、僅かに言葉を濁らせたのも、或いは…
「さて…じゃあ、そろそろ行きます」
「ん?あ、ああ、そうか。達者でな」
「ええ。将士も御健勝で」
「商いは気負わず、無理せず、地道に続けるものだ。上手くいくもいかぬも時の運、という事もあるしな。一時の浮き沈みで、あまり一喜一憂せん事だ。機会があれば、また顔を見せに来なさい」
「はい、心に留めときます。てか、これだけの大金を預かって上手くいかなかったら、恥ずかしくておめおめ戻っちゃ来れませんけどね」
「全然、心に留めてないじゃないか…今、言ったばかりだろう?そんなに気負う必要は無い、と」
「はは、そうでした」
「失敗は誰にでもある。反省すべきところは反省すべきだが、だからといって深刻になり過ぎる必要は無い。罷り間違っても、商いに失敗して元手を失ったくらいで、命を捨てて償おうなどと考えるなよ?」
「はい、心に留めときます」
「…本当だな?」
「はい、今度こそは」
調子のいい曹正に、董博は呆れたような視線を投げ掛ける。
連れ立って客間を出た二人は、表に出たところで別れの礼を交わし、董博は一抹の不安を覚えつつ、人波に消える曹正の姿を見送った。
※1「遠くの親戚より近くの他人」
日本だけでなく、世界中に似たような諺があるようです。もちろん中国にもあるんですが、本文の頃に「よく言われてた」かどうかは定かではありません。似たような意味の言葉で、最も古い記録は元代のものらしいので。『水滸伝』では第24回に『遠親不如近鄰(隣)』とあります。「親」は「父母」ではなく「親類」「親戚」、「鄰(隣)」は「隣近所(の人)」で、直訳すると「遠い親類は(近い)隣人に如かず」。
※2「高堂」
相手の家や家人、特に父母を指して敬う言葉。
※3「君は此に行日を卜い~」
『三体詩(五言律詩 劉得仁「送友人下第歸覲」)』。原文は『君此卜行日 高堂應夢歸』(「應」「歸」は「応」「帰」の旧字)。訓読はほぼ本文の通り。題にあるように「君」は「友人」。「行日」は「旅立ちの日」。「貴方は旅立ちの日を決めようと吉日を占っているが、送り出す御家族(父母)は貴方の帰りを夢に見る(ほど待ちわびる)事だろう」。
※4「樊楼」
『水滸伝』にも何度か登場する酒楼。当時、開封に数え切れないほど存在した酒楼の中で、随一と謳われた名楼。ただし、実際の名称は「礬楼(或いは白礬楼)」らしいです。たまたま繁盛していた当時の経営者が「樊」という姓で、それが後世に伝わる内にごっちゃになり(或いは単に「礬」を「樊」と誤刻した事により)『水滸伝』では「樊楼」となった、とする説があるようです。
※5「古より佳人は多く命薄し」
蘇軾作『薄命佳人詩』。原文は『自古佳人多命薄』。訓読は本文の通り。意味は読んで字の如し。