Aルート
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【愚は自覚できない状態であり、賢は意志と行動の結果に過ぎない。いずれにしても、哀れなものだ】
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「……っ」
荒野で覚醒し、彼は舌打ちした。
朦朧とした頭を振って、意識を確立する。
「?」
彼にとり、見覚えの無い風景だった。
直前まで居た23区内某所とは、ほとんど共通点がない場所である。
「タカハシっ! ヤマザキっ!」
戦友の名を呼ぶも、人の気配すらない荒れ果てた風景。
「まさか4回目の核攻撃が!?」
彼は呟くも、すぐにその可能性を否定した。
4回目の核攻撃を受けていたら、さすがに生き残っていないだろうと「合理的」に判断した。
彼が少しでも実在する神の存在を知覚できていたら、合理性などという戯言を信仰することは無かっただろう。
この場がどこか分からぬまま彼は立ち上がり、そして荒野を歩き始めた。
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【可能性があると思い込むのは、人という存在の最も愚かで悲しい性質である】
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「どこなんだろうか……」
彼に独り言が増えてきた。
もう2分に1回は何かを呟いている。
1見するとただの荒野に過ぎないが、なんとなく彼は察し始めていた。
「ここは……見覚えはないが、何か……」
そこで呟きが途切れ、彼は釈然としない表情のまま歩を進める。
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【そして、人は……】
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彼が最初にここで覚醒してから星は何度瞬いたろうか。
既に彼はいない。
存在しない。
同時に、彼だった物質は今も実在する。
再生は滅びであり、滅びは再生であり、万物は流転し、また流転し続けるのだ。
何かを得たとしても、必ず失うのが宇宙の摂理である。
何かを失っても、必ず得るのが摂理である。
ただ摂理のみが、全てを照らし続ける
他に、有り続けるもの無し。
完。