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プロローグ
私の困惑した感情とは正反対で、あの時の風はそんなに強くなく緩やかだった、と思う。だけど確かに吹いていた。髪の毛が少しだけ後ろに引っ張られ、制服のスカートも静かに靡いていた。
長めの橋の下に、青色のような紫色のような花がたくさん咲いているのを見た。何度か通ったことのある橋だった。それなのにまるで初めて見るような感覚で、理由も分からないまま涙が溢れて、私は必死にしがみついた。
誰かに。
そうだ、私は自転車の後ろに乗っていたのだ。前にいるその誰かは、少し俯きながらも自転車のスピードをどんどん速めていった。
「…大丈夫」
その誰かはそう呟いた。私がその人の背中にしがみつく度に、私がその人の背中を涙で濡らす度に、そう呟いた。