表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

スナオ

作者: C-na

天野あまの 尚仁なおひと ♂ (18)

・本作の主人公。いじめられっ子。

もともと暗い性格というわけでもなかったが

高校に入り、道哉・俊助に出会ったことでどんどんと

暗く、沈んでいった。


天野あまの あずさ ♀ (16)

・尚仁の妹。家庭的で、尚仁や彰久の弁当は彼女御手製。

尚仁がいじめられているという事実を知らない。


天野あまの 彰久あきひさ ♂ (43)

・尚仁、梓の父。尚仁の過去に大きくかかわっており、

父子家庭になる経緯の中心人物でもある。

無口なタイプで、あまり多くを語らない。


川原かわはら 道哉みちや ♂ (18)

・尚仁をいじめている奴その1。家族がエリートという

プレッシャーなどのストレスが原因で今の様になった。

が、その性格と価値観は尚仁によって…


大山おおやま 俊助しゅんすけ ♂ (18)

・尚仁をいじめている奴その2。基本的になんにでも便乗する

といったタイプの性格で、いじめに加担するのもただの便乗であり、

道哉にターゲットにされないための回避行動程度であった。


工藤くどう 沙友さゆ ♀ (18)

・ナゾの多い女の子。ふらふらとした容姿が目立つが、

実際は何を考えているのが誰にもわからない。


萩原はぎわら 海鈴みすず ♀ (17)

・尚仁のクラスに転校してきた女の子。

静かな雰囲気が特徴ではあるが、

尚仁の現状を目の当たりにし、その雰囲気は少しずつ変わっていく…


先生 ♂

・出番一瞬


『』…マインド


尚仁 :

梓  :

彰久/先生:

道哉 :

俊助 :

沙友 :

海鈴 :

------------

-1節-

尚仁 『生きている意味を感じない毎日』



道哉 「俺メロンパンね。よろしく、ナオ君」


俊助 「んじゃ、俺ソーセージパン」


尚仁 「…わかったよ」


道哉 「わかりました、だろうが」


俊助 「いってらっしゃい」


尚仁 「…わかりました」



尚仁 『ただフラフラと決めた高校に入り、毎日つるみたくない奴らとつるむ毎日。

二年に上がった頃には気づけば悔しさなんて感情も消え、三年生にもなれば無心となっていた』


梓 「お兄ちゃん」


尚仁 「梓か。何?」


梓 「お弁当あるでしょ? 私が作ったの」


尚仁 「…まだ足りないからって思ってさ」


梓 「あ、そうだったんだ? もう、言ってよ。もう少し多く作ったのに」


尚仁 「…たまたまだよ、んじゃね」


梓 「そう…。授業頑張ってね」


(帰宅)

尚仁 「ただいま」


彰久 「こんな時間まで何をやってた」


尚仁 「まだ11時だろ、なんだよ」


彰久 「…なんだその態度は」


尚仁 「…こんな時間も何も別に遅くないだろって言ってるんだよ」


彰久 「…父親に向かってその口の利き方は何だ」


尚仁 「……俺はあんたは親父と思ったことなんて一度もないね」


彰久 「何だとッ!!」



梓 「お父さん? お兄ちゃん!? 何やってるの!?」


尚仁 「……俺に父親らしいこと何か一つでもしてくれたのかよ。俺は忘れないからな、

あんたが俺にした事を」


梓 「…お兄ちゃん?」


尚仁 「…俺の話だ、あっち行ってろ」


彰久 「…出ていけ」


尚仁 「……言われなくてもこっちから出て行ってやるよ」


梓 「…お父さん!」


彰久 「お前は黙ってなさい」




(外)

尚仁 『学校にいる時間も苦痛だ。だけど、家にいる方がもっと苦痛だった』



沙友 「こんな時間に何してんのかと思ったらナオ君じゃん」


尚仁 「…」


沙友 「ちょっと、無視することないんじゃない」


尚仁 「なんだよ」


沙友 「此処であったのも何かの縁じゃん? 話そうよ」


尚仁 「君、不良あいつら側だろ。工藤さん」


沙友 「…否定はしないけど、私は別にナオ君の事パシったりしないし。見てるだけだから」


尚仁 「見てれば同罪だろ、別に君を悪く言うつもりは無いけど」


沙友 「喫茶店行こ、誘ったの私だし私が出すからさー」


尚仁 「…わかった」





沙友 「…なんでいじめられてんの?」


尚仁 「…さぁね」


沙友 「…ふーん。悔しいとか思わないの?」


尚仁 「…それ、君に話して意味ある?」


沙友 「意味は無いけど、知りたいなぁって。見てて興味湧いてきてさ、ナオ君に」


尚仁 「どうして?」


沙友 「あいつらに目付けられていじめられた奴って大概辞めていくんだよね、学校。

でも、ナオ君は1年の夏ぐらいから今まで、んーとだから…2年? 2年間もしんどい思いしてるわけじゃん」


尚仁 「だったら何?」


沙友 「普通ならもたないじゃん。それで興味湧いたの」


尚仁 「…はぁ? 変わった奴だな」


沙友 「何が変わった奴なわけ?」


尚仁 「正直君はあいつらと同類のクソみたいなやつだって思ってたんだよ、少し違ったみたいだけど」


沙友 「ひどい言われようって感じ。でも否定できない、実際私はいつも見てるだけだしね」


尚仁 「…別にいいよ、今更この日常を変えたいなんて思わない。ほっといてくれ、じゃあね」


沙友 「…あ、ちょっとナオ君」


尚仁 「はぁ……。…なんだよ」


沙友 「これ、私の連絡先。困った事があったら言ってよ」


尚仁 「…は? 何言ってんの?」


沙友 「だから、ナオ君に興味あるって言ってんじゃん。いらないなら捨ててくれていいから」


尚仁 「……これ、何て読むんだ?」


沙友 「工藤 沙友、沙友って呼んで。隣の1組だから」


尚仁 「呼ぶ機会があればね」




尚仁 「…ネカフェでも行くか……」




(翌日)

道哉 「へぇ。どっから引っ越してきたの?」


海鈴 「湖中市から」


俊助 「結構遠くない?」


海鈴 「…後ろ」


道哉 「…ぉ? なんだ、沙友か。どした?」


沙友 「べーつに。その子は?」


俊助 「沙友ちゃんは知らないか。転校生の女の子、萩原海鈴ちゃんだってさ」


海鈴 「宜しくお願いします」


沙友 「よろしくね。…私達と真逆のタイプじゃん。今日はナオ君に絡まないんだ?」


道哉 「そもそもあいつ今日来てねぇし」


俊助 「今日は午前中しか無いから別にパシる理由も無いんだけどさ」


海鈴 「もう、いい?」


道哉 「あぁ」


沙友 「…海鈴ちゃんだっけ。本とか好きそうじゃん」


海鈴 「好き」


沙友 「私、勉強とかついてけなくてさ。勉強できそうだし、教えてくれない? 図書館行こうよ」


海鈴 「…私に教えられることなら。うん、行きたい」


沙友 「よーし、んじゃ行こ。案内したげる」



俊助 「連れてかれちゃったよ」


道哉 「絡むやつもいないし帰るかぁ~」


俊助 「だぁねぇ」





梓  「あの、すいません」


道哉 「ん?」


梓  「お兄ちゃん居ませんか?」


道哉 「誰? お兄ちゃんって」


梓 「あ、すいません…。天野尚仁です」


道哉 「ふーん……。今日は来てないけど? ってか妹さん? なんで君が知らないの?」


梓 「あっ…い、いえっ…ありがとうございます」


俊助 「面白そうねぇ」





尚仁 「ふぁぁっ……意外と寝れるもんだな……何時だろ…11時…か…学校…いいや…サボろう……」


(着信音)


尚仁 「…着信…? 誰だろ…?」


沙友 「もしもし?」


尚仁 「……その声、工藤さん?」


沙友 「お、でたでた」


尚仁 「何だよ」


沙友 「どう? 学校をサボった味の方は」


尚仁 「切るよ」


沙友 「わかったわかった、妹さんが心配してたよ。連絡ぐらいしてあげな」


尚仁 「…わかったよ。で、なんで俺の番号知ってるの?」


沙友 「道哉に聞いたらすんなり教えてくれたよ」


尚仁 「……ああそう。で、まだ何か用?」


沙友 「ほんとぷりぷりしてるね。カルシウム足りてる?」


尚仁 「…じゃあね。切るよ。……はぁ……どうしよう………もしもし、梓?」



梓 「あ、お兄ちゃん! 良かった、心配してたんだよ。帰ってきて、すぐお昼作るから」


尚仁 「いいよ、まだ帰らないから」


梓 「…え? じゃ、いつ帰ってくるの?」


尚仁 「…わからない。ごめん、しばらくそっとしておいて。学校も行かないから」


梓 「え、おにいちゃ-」

(電話切って)



尚仁 「貯めてたバイト代もそれなりある。どうしよう」




沙友 「…さっきの二人いるじゃん?」


海鈴 「さっきの二人?」


沙友 「川原道哉と大山俊助のこと。ほら、あんた絡まれてたじゃん」


海鈴 「ああ。うん、二人が何?」


沙友 「…関わらない方がいいよ、あの二人には」


海鈴 「関わらない方がいい?」


沙友 「ろくなことにならないから」




尚仁 「…お腹空いたな」


道哉 「あーれ、ナオ君じゃん。今日はどうしたの? 学校に来なくて心配したよ?」


尚仁 「…はぁ」


俊助 「友達に会ってため息は無くない?」


尚仁 「何?」


道哉 「何だよその目」


俊助 「嫌だなぁ。俺達ナオ君とはずっと友達でいたいんだけど」




-2節-

尚仁 「……どいてよ」


道哉 「あぁ?」


尚仁 「どいてって言ってるんだよ」


俊助 「……誰に口きいてるのかわかってんの?」


尚仁 「パシられたくないんだよ、二人に」


道哉 「へぇ、随分と生意気じゃん?」




沙友 「…あちゃあ」


道哉 「おお、沙友。どした?」


尚仁 「っぅ…げほっ…げほっ」


俊助 「ナオ君ボコしてたんだけど、二人もまざる?」


海鈴 「…酷い」


沙友 「…遠慮しとく。それぐらいにしておいてあげなよ」


道哉 「そうだな、帰ろうぜ」


俊助 「だぁね」




海鈴 「…大丈夫…!?」


尚仁 「……うん…ありがとう」


沙友 「また会ったね、ナオ君」


尚仁 「なんだよ…」


沙友 「なにが?」


尚仁 「結局君もあいつらと同じだろッ! 何かしてくれるわけでもない、変な時だけ話しかけてきて、興味がどうとか言ってからかいたかっただけだろ! もう俺に近づくなよ!!」


海鈴 「…え?」


尚仁 「君じゃない。工藤さん…君だよ」


沙友 「…ごめん。ナオ君」


海鈴 「あ…沙友ちゃん…!」


尚仁 「…ほっといたらいいんだよ…あんな奴…。君は?」


海鈴 「萩原海鈴」


尚仁 「萩原さんね。俺、天野尚仁。ごめん、迷惑かけて。じゃ……俺行くから」


海鈴 「えっ、行くって何処に? 天野君!…あっ…」





梓 「ただいま」


彰久「尚仁は?」


梓 「学校にも来てなかった、さっき電話したらしばらく帰らないって…」


彰久「…そうか」


梓 「お父さん、お兄ちゃんが言ってたこと…どういう意味なの…?」


彰久「…お前が知る必要はない」


梓 「それって…お母さんが亡くなったことと関係があるの」


彰久「……。」


梓 「…お…お父さん!」





(翌日)

俊助 「沙友ちゃんきてないんだね」


道哉 「別にいいじゃん、あいつ来たし。おはよ、ナオ君」


尚仁 「…おはよう」


俊助 「どしたのその怪我? 大丈夫?」


尚仁 「…」


道哉 「折角心配してるんだから何か言ってくれてもいいじゃん?」


海鈴 「…あの」


俊助 「あら、おはよう。海鈴ちゃん」


海鈴 「天野君を傷つけたのは…2人。私知ってるよ…」


尚仁 「萩原さん!」


海鈴 「どうして…? ねぇ…!」



道哉 「君が興味持つ必要無いよ、ナオ君にも。俺達にもね」


俊助 「…間違いない」


尚仁 「いいんだよ、萩原さん」


海鈴 「天野君もどうして…」


道哉 「本人もいいって言ってるじゃん、これ以上言及してどうすんの?」


俊助 「ナオ君がいらねーこと吹き込んだの? 海鈴ちゃん」


海鈴 「…えっ…ち…ちが-」


尚仁 「俺だよ」


道哉 「…ふーん…あとで喋ろうよ、ナオ君?」


海鈴 「天野君…?」



先生 「早く座れ、お前ら」


俊助 「良かったねぇ、ナオ君。…まあ俺達の中だもんねナオ君、変な事喋ったりしないでしょ?」


海鈴 「…天野君…」





(放課後)

俊助 「終り終り。明日からまた一日授業かぁ~。パシり甲斐があるね」


道哉 「…どこいったあいつ?」


俊助 「…あら、逃げちゃった?」


道哉 「…ケータイ置いてったみたいだけど? どうしたの海鈴ちゃん?」


海鈴 「…ダメ。これは天野君のケータイ」


道哉 「ああそう。んじゃ君にあげるよ、じゃあね」


俊助 「あんまりいらねーこと喋らない方がいいよ、ナオ君のためにはね?」


海鈴 「…!」



(廊下走って)

尚仁 「はっ…はっ……えっ…嘘っ! ケータイ教室に忘れた…!? くそっ…!」


梓 「…はぁ…お父さんとお兄ちゃん…どうしちゃったんだろ…きゃぁっ!?」


尚仁 「うぉぁぁっ!?」


梓 「ご、ごめんなさい! 私ぼーっとしてて…えっ、お兄ちゃん!?」


尚仁 「梓! ご、ごめん!」


梓 「ま、待ってお兄ちゃん! お兄…ちゃん……本当にどうしちゃったの…?」



俊助 「酷い兄ちゃんだねぇ、はいこれ。一枚落としてるよ」


梓 「あ…ありがとうございます」


道哉 「お兄さんいつ頃帰ってくるかわかる?」


梓 「え…えっと…わからないです…」


道哉 「君ら本当に兄妹? まあいいけど」


俊助 「兄ちゃんケータイ忘れてってるよ。教室にあずかってる子いるし行ってみたら?」


梓 「お兄ちゃんのケータイ…。あ、ありがとうございます」


俊助 「上がりこむようなことはしないから、帰ってくるまで待たせてもらってもいいかな?」


梓 「え…? あ…はい」


道哉 「ケータイ忘れてるんだからそりゃ戻ってくるでしょ。んじゃ、俺達先に行って待たせてもらうね」



(教室)

梓 「あ…あのー…」


海鈴 「!」


梓 「私の兄のケータイを…取りに来たんですが…」


海鈴 「こ…これ。あ、兄って…?」


梓 「すいません、ありがとうございます。 天野尚仁は私の兄です。それが…どうかしましたか…?」


海鈴 「天野君……えっと…」


(回)俊助 「あんまりいらねーこと喋らない方がいいよ、ナオ君のためにはね?」


梓 「?」


海鈴 「…なんでもない。そ…それじゃ…!」


梓 「あっ…はい…」





(公園)

尚仁 「はぁ……最悪だ……なにやってるんだよ…俺……家に帰るか……」



(天野家前)

梓 「さっきはありがとうございました。本当に外で大丈夫ですか?」


道哉 「うんうん。ありがとうね」


梓 「そ…それでは。連絡あればまたお伝えします」


道哉 「7時。もう晩飯時だってのにまだ帰ってこないのかぁ」


俊助 「妹がケータイ持ってるっていう事実までたどり着かねーと帰ってこないんじゃない?」


道哉 「確かになぁ、ミスだったか」



尚仁 「結局うちの前…!? 嘘だ…どうしてうちの前に………」



俊助 「もう帰る?」


道哉 「腹減ってねぇしまだまだ粘るつもりだけど?」



尚仁 「…はぁ……今夜も…うちは無し…か………」


(回)沙友 「これ、私の連絡先。困った事があったら言ってよ」


尚仁 「……いや…。まさか……。まさか………」




(沙友宅)

沙友 「………はぁ……(電話音)…公衆電話…? もしもし」


尚仁 「……もしもし……えっと……工藤…さん?」


沙友 「その情けない声はナオ君か。どうしたの? なんでまた公衆電話?」


尚仁 「……情けない…ね」


沙友 「…本気にしてる? 冗談だからあんまり気にしないでよ。まあ私も半分本気で言ったけどさ。学校休んだの心配してかけてきてくれた?」


尚仁 「……ごめん、やっぱりなんでもない」


沙友 「…昨日の事。まだ怒ってる? …そりゃ怒ってるか………ごめん、用があるからかけてくれたんだよね」


尚仁 「……うちに帰れなくて…どうしたら……いいかな…って」


沙友 「…えっ?」


尚仁 「…うちに帰れないんだ。あの二人が家の前に居て…ケータイも学校に忘れて」


沙友 「…ははっ。踏んだり蹴ったりだね、だから公衆電話だったんだ」


尚仁 「……笑い事じゃないよ」


沙友 「で、どうしたらいいの?」


尚仁 「…え?」


沙友 「え? って言われても。例えば、泊めてくれとか。匿ってくれ、だとか」


尚仁 「いや…別に俺はそこまで…」


沙友 「ナオ君のそういうとこ。好きだよ」


尚仁 「…からかってるの?」


沙友 「…からかって無いよ。うちに来なよ」


尚仁 「…えっ?」


沙友 「随分ウブな反応するね、かーわい。今どこにいるの?」


尚仁 「カラス公園の公衆電話…だけど…」


沙友 「…おっけー。着替えたらすぐ行く。15分くらいで着くと思う、あいつらに見つかんないように。じゃね」


尚仁 「え! ちょ、ちょっと!? き…切れた…」




-3節-(カラス公園)

尚仁 「…はぁ……あてにしてよかったのかな…」


沙友 「あてにして正解かどうかはナオ君が決めたらいいじゃん」


尚仁 「わっ! びっくりした…」


沙友 「やほ」


尚仁 「…どういう意味?」(少し怒り気味に)


沙友 「まぁその話はうちでしよ。道哉たち来たら面倒くさいじゃん」




(沙友宅)

沙友 「ここが私のうち。さ、入って」


尚仁 「…え…? 本当に入っていいの…?」


沙友 「ダメな人をわざわざ迎えに行くと思う? ほら、早く」


尚仁 「…お、お邪魔します」




沙友 「ナオ君、ご飯食べた?」


尚仁 「まだだけど…?」


沙友 「そ。じゃ、ちょうど良かったね。まぁ、そこにお座りよ」


尚仁 「あ…う…うん…」




(料理にとりかかる沙友)

沙友 「女の子の家来るの初めて?」


尚仁 「? どうしてわかるの?」


沙友 「うーん…反応が子供っていうか…未経験?」


尚仁 「未経験? 何が…?」


沙友 「はー。ほんと、ニブちんだね。童貞だって言ってんの」


尚仁 「なっ…ぎゃ、逆に18で経験済みの奴の方が少ないだろ!」


沙友 「ちょっとからかっただけじゃん。そう怒りなさんな」


尚仁 「…じゃ、工藤さんはどうなんだよ」


沙友 「…何が?」


尚仁 「その返しはずるいだろ…! 俺のこと、これだけからかったんだから」


沙友 「んー……。ナオ君から見たらどう思う? わりと興味あるな」


尚仁 「えっ。えっと………経験ありそう…?」


沙友 「…ふーん。なるほど」


尚仁 「えっ…答えはどうなんだよ」


沙友 「さぁね」


尚仁 「ちょっ、まてよ!」



沙友 「はーい、聞こえない聞こえない」




(料理ができて)

沙友 「ほい。完成」


尚仁 「オムライス…こ、これ…工藤さんが作ったんだよね…?」


沙友 「なーに、その顔。不良系女子は料理ができないとでも?」


尚仁 「そう言う意味じゃ…ないけど」


沙友 「まぁ、食べなよ。私もお腹空いたし」




尚仁 「…ご馳走様でした。凄く美味しかった。ありがとう」


沙友 「お粗末様。さて、話を聞こうじゃん」


尚仁 「別に話すことなんて…特にないよ」


沙友 「いっぱいあるじゃん。明日からどうするとか」


尚仁 「うーん…」


沙友 「じゃ、私が気になる事聞くよ。…この前…えーっと、だから…喫茶店行った日か。どうしてあんな時間に外出てたの?」


尚仁 「…親父と…もめたんだ」


沙友 「お父さんと、ねぇ」


尚仁 「親父だなんて思って無いよ、俺は」


沙友 「随分な反抗期だね」


尚仁 「…俺が7歳の時の話なんだ。親父と妹の梓と…俺と母さんで旅行に行ったんだ。でっかい船に乗せてもらってさ、すげぇ楽しかった…。でも…

でかい波が来て…転覆した。俺の意識が戻った時には…母さんが居なかった。母さんはどこ? 母さんはどこ?って親父に何度も聞いたんだよ。

だけど…親父は何も答えなかった」


沙友 「それが、お父さんと思わない理由?」


尚仁 「…いや。辛かったから答えてくれないんだって、思ってたんだ……そう、思ってた。5回目の命日…12歳の時。いつになったら教えてくれるんだって

親父にかみついたら…何度も殴られた。お前にはわからない、そう言って俺を殴ってきた…あんな奴…父親じゃないよ」


沙友 「なるほど。辛いね」


尚仁 「君はさ…ほんと軽いよね」


沙友 「…軽い?」


尚仁 「君に俺の何がわかるんだって言ってるんだよ!!」


沙友 「…私の胸倉掴んでどうする?」


尚仁 「あぁ!?」


沙友 「怒りに任せて私を襲う?」


尚仁 「…いい加減に-」


沙友 「わからないよ、わからないから辛いんだよ」


尚仁 「……」


沙友 「…離してよ、ナオ君」


尚仁 「……ごめん……俺……本当…ごめん」


沙友 「気にしないでよ、別になんとも思って無いから。私…さ。一人暮らしなんだよね」


尚仁 「……うん」


沙友 「…5歳の時にお父さんたちが離婚して…お母さんについて行ったんだ。13歳までは一緒に暮らしてたんだけど。

仕事って言ってアメリカに行っちゃったんだ」


尚仁 「…」


沙友 「…なんか言ってよ、ナオ君」


尚仁 「…え…うん」


沙友 「…なら私も行けばよかったって思うじゃん? 違うんだよね。私はお母さんが嫌いだったからついて行かなかった。

家政婦さんと一緒が良いって言ったの今でも覚えてるなぁ。…高校にあがったぐらいで私が家政婦さんを追い出しちゃってさ」


尚仁 「1人暮らし…」


沙友 「…うん。だから、ナオ君のその気持ちはわからない。だから辛いってこと」


尚仁 「…ありがとう」


沙友 「なんで私がお礼言われてんの?」


尚仁 「…え? なんとなく…かな」


沙友 「…へんなの。流石ナオ君。私の話は終わり。明日どうする?」


尚仁 「どうする…って何が…?」


沙友 「学校。行く? 行かない?」


尚仁 「…どう…しよう…」


沙友 「…サボる?」


尚仁 「サボるって…サボってどうするの…?」


沙友 「んじゃ、逆に聞くけど学校行ってどうするの?」


尚仁 「いや…たしかにそうだけど…」


沙友 「決まり、サボりね」


尚仁 「え、いや…ちょっと」


沙友 「付き合ってよ」


尚仁 「え…? い、いきなり…!?」


沙友 「なーんか勘違いしてる? でも、まんざらでもなさそう? 少しうれしいかも」


尚仁 「…付き合うって何するの…?」


沙友 「…デート?」


尚仁 「は…はぁ?」





道哉 「おっせー。流石に待ってらんねーな」


俊助 「んじゃ、帰りますかぁ?」


道哉 「だな、飯食って帰ろうぜ」


俊助 「りょ。明日来るかな? ナオ君」




梓 「結局、帰ってこなかったね」


彰久 「何をしているんだ? 尚仁は」


梓 「…私もわからない。昼間…会ったんだけど」


彰久 「そうか。……明日も学校だろう、早く寝なさい」


梓 「お父さん」


彰久 「…何だ」


梓 「…どうして…そんなにお兄ちゃんに冷たいの?」


彰久 「…お前には関係ない話だ」


梓 「関係あるよ…! 私は…私は…天野家の人間じゃないの!?」


彰久 「…そこに座りなさい」


梓 「…うん」


彰久 「…昂子こうこ…母さんが亡くなった日の事は覚えているな?」


梓 「…家族旅行に行って…船に乗って…転覆して…お母さんは…助からなかった…」


彰久 「…あぁ。だが…1つ。お前達…梓と尚仁が知らない事実がある」


梓 「…え?」


彰久 「救助にかけつけてくれた方々に梓はすぐに救出された。だが、尚仁は違った」


梓 「どういう…こと?」


彰久 「船の一部に母さんは挟まれてしまい、逃げられなかった。尚仁もな。

2人で助かろうとしては2人とも助からない、そう判断した昂子は尚仁を逃がすと決めた」


梓 「ま…待って…それじゃ…お…お母さんは…」


彰久 「…昂子は尚仁を助け…命を落とした。目の前で…沈んでいったんだ…船は…! 昂子を道連れに」


梓 「…お兄…ちゃん…は……それを…知らない…の…?」


彰久 「…尚仁は気を失っていた。梓、お前もな」


梓 「ど…どうして今まで話してくれなかったの!?」


彰久 「そして…5年後…尚仁が12歳の時に…父さんは…殴ってしまった…」


梓 「……お父さんが…お兄ちゃん…を…?」


彰久 「昂子を失って辛いのは父さんだけじゃない…もちろん梓、尚仁も…だ。だが…!

お前も尚仁も真実を知らなかった…一瞬だけ…芽生えた、父さんは。尚仁が憎い、と…思ってしまった…

それ以来だ…父さんと…尚仁に壁ができたのは」


梓 「……ぐすっ…ぅっ……」


彰久 「……すまなかった」




-4節-

尚仁 「ふぁ……う…ん……そういえば昨日…喋ってるうちに寝ちゃったのか…」


沙友 「おはよう、ナオ君」


尚仁 「え? あ…お、おはよう」


沙友 「朝ごはんできてるから、さっさと食べちゃって」


尚仁 「あ…うん…。ごめん」


沙友 「いいから早く食べた」


尚仁 「い、いただきます。あ、工藤さん」


沙友 「ん?」


尚仁 「早くって言うけど、どうしてそんなに急ぐんだ?」


沙友 「そりゃデートは早く行きたいでしょ?」


尚仁 「早い時間に出たら、登校中の他の生徒に見られちゃうよ」


沙友 「堂々とすりゃいいじゃん」




梓 「はぁ……進路とか控えてるのに…大丈夫なのかな…お兄ちゃん…」


海鈴 「危ない!」


梓 「!?」


海鈴 「…ぼーっとしてたら危ない」


梓 「…先輩。す…すいません…」


海鈴 「天野君がどうかしたの?」


梓 「…ここ3日…家に帰ってきてなくて…」


海鈴 「…そうなんだ…」


梓 「何か…お兄ちゃんの事で…知ってる事とかありませんか…?」


海鈴 「……な…何も」


梓 「…そう…ですか……。ありがとうございます。さ…先…行きますね…」


海鈴 「…。天野君……」




尚仁 「ど、堂々って何?」


沙友 「普通にしてればいいって言ってんじゃん」




海鈴 「…天野君…沙友ちゃん…? 何処に行くんだろう…?」




(学校)

道哉 「今日も来てねぇか」


俊助 「一体どこでなにやってるんだろうね」


道哉 「…さぁな。海鈴ちゃん、君は知らないの?」


海鈴 「…し…知らない」


俊助 「…だ、そうだよ」


道哉 「へぇ…そう…」




沙友 「…気になる? 家が」


尚仁 「えっ?」


沙友 「深刻な顔してるから言っただけ」


尚仁 「…うん…」


沙友 「…このままずっと家帰らないつもり?」


尚仁 「…わからない」


沙友 「じゃあ、話変えよっか。進路どうするの?」


尚仁 「……」


沙友 「…決まり。家に帰りなよ。今日は」


尚仁 「で…でも-」


沙友 「家出を否定はしないけど、家族に言っておきなよ」


尚仁 「……わかったよ」




俊助 「じゃあね、道哉クン」


道哉 「あぁ。じゃあな」



道哉 「ただいま………誰も…いないか」





尚仁 「ただいま」


梓 「お、お兄ちゃん…!おかえり…!」


尚仁 「…父さんは?」


梓 「…奥の部屋にいるけど…ちょ…ちょっと…」




尚仁 「父さん」


彰久 「入れ」


尚仁 「…俺、就職するから」


梓 「え…? ち…小さいころからゆ…夢があるって…」


尚仁 「調理師だろ。もういいよ…出たいんだよ……」


梓 「で…出たい…?」


尚仁 「この家から出たいって言ってるんだよッ!!!」


彰久 「尚仁」


尚仁 「あんたの話なんか聞きたくもない…! こんな家族が家族じゃないような家に居たくないんだよ!!」


彰久 「尚仁ッ!!」


尚仁 「あんたはいつもそうだ、俺を子として見てくれたことなんて一度もない…!母さんが死んだときから…!」


梓 「お兄ちゃん! それは-」


尚仁 「俺なんて居ない方が良かったんだろ! 違うかよ! 違わねぇだろ! 生まれて来なきゃ良かったよ、こんな家」


彰久 「!!」


尚仁 「ずぁっ……」(殴られた)


彰久 「…もう一度言ってみろ」


尚仁 「…あぁ…? 俺なんて最初から居なくてよかったんだって言ったんだよ……」


彰久 「…いなくて良い人間を誰が助ける?」


尚仁 「…どういう意味だよ…あんたが俺の事を-」


彰久 「昂子の話だ」


尚仁 「…え…?」


梓 「…お兄ちゃん。あのね……」



梓 『私は、お父さんから聞いた…あの事故の話を全てお兄ちゃんに話した』



尚仁 「なん…だよ…なんだよ…なんなんだよ!!」


彰久 「待て! 尚仁!」


尚仁 「…っ! くっ……ぐすっ……」(家飛び出して)



(回想)

先生 「これから1年間よろしく頼むぞ。高校は中学とは違う、覚えておけよ」


俊助 「俺1年1組の大山俊助!」


沙友 「よろしく」



道哉 「お前、いっつもぶっすーって顔してんな。高校入ってから友達できてねぇの?」


沙友 「どうだか」



沙友 『つるむ相手がつるむ相手。周りも私を避けている、そう知っていた。でも、彼は違った』



尚仁 「うぉっ!?」


沙友 「っ!(ぶつかって) ごめんなさい」


尚仁 「…いてて……大丈夫?」


沙友 「大丈夫」


尚仁 「半分、俺持つよ」


沙友 「え? どうして?」


尚仁 「…どうしてって……2人の方が早いし。ほら、急がないと4限目始まるよ」


沙友 「あ…待って!」

~~



沙友 「…何思い出してんだろ。覚えてるのかな、ナオ君」




(公園)

道哉 「……お前も一人か? …よしよし…あ…おい…やめろって…」(野良猫と戯れてらっしゃいます)


尚仁 「っ……ぅっ…あ…」


道哉 「誰かと思えばナオ君か。はぁ…今日はパシらねぇよ、逃げんな」


尚仁 「…ぅっ……く……」


道哉 「…おい、聞いてんのかよ。18にもなって鼻水出してんじゃねぇぞ、きったねぇ」


尚仁 「何…? ぐすっ…」


道哉 「…絡む気も起きねーよ。気分悪ぃ。よいしょっと…」


尚仁 「……ぅ…はぁ…ごめん………動物…っ…好きなの?」


道哉 「…あぁ」


尚仁 「…一人の時とかあるんだ」


道哉 「…そりゃあな。今は普通に喋ってっけど、俺達のパシリって忘れてねーよな?」


尚仁 「…そうだったね」


道哉 「…まぁいい。お前なんで学校辞めねーの?」


尚仁 「…俺にもわからない」


道哉 「ここまでいじめて辞めねーやつは初めてだ。素直にビビる」


尚仁 「意外と普通なんだね、道哉君」


道哉 「あ?」


尚仁 「…普段からずっとぴりぴりしてるのかと思ってたんだよ。そうじゃなくてびっくりした」


道哉 「…だからって警戒せずに近づいてくるか? 普通。すげぇな。お前」


尚仁 「…え?」


道哉 「…俺…家が凄い嫌いなんだ。んで…イライラして…いじめるやつ見つけて…当たり散らして…

3人ほど夏までにやめたっけな」


尚仁 「…4人目が俺だったんだ」


道哉 「…最初は辞めないから面白がってた。認めるさ、でも最近…すげぇなって思ったんだよ」


尚仁 「…俺が?」


道哉 「俺はお前ほど強くない。むしろ…弱ぇ」


尚仁 「…パシりの俺に話すの? それ」


道哉 「…どうでもよくなったんだよ。なにもかも」


尚仁 「…俺も」


道哉 「なぁ」


尚仁 「…?」


道哉 「一発殴ってくれねぇか。俺を」


尚仁 「…え?」


道哉 「…もうやめだ。今日のお前を見てスッキリした」


尚仁 「殴らないよ、俺は」


道哉 「…は?」


尚仁 「…そりゃ…思い返せば嫌な事ばっかだったよ。道哉君、俊助君といてね。

俺も家が嫌いで…形はどうであれ居場所があった…。心のどこかで感謝してるんだ」


道哉 「お前、馬鹿?」


尚仁 「馬鹿かもね」


道哉 「そうかよ…。なんか、素直になれた気がするわ。羨ましいよ、お前が。…じゃあな」


尚仁 「…ちょ、道哉君!」


道哉 「明日は来いよ、尚仁」




-5節-

尚仁 「…はぁ……どうしよう…」


海鈴 「天野君!?」


尚仁 「! 萩原さん!」


海鈴 「…大丈夫!?」


尚仁 「…え?」


海鈴 「川原君と大山君が天野君の事探してたから…心配で」


尚仁 「あぁ。それなんだけど…」




海鈴 「…そう…なんだ」


尚仁 「うん。俺もよくわからないとこあるけど…道哉君は…なんていうか…もう俺に絡むつもりは無い…のかな」


海鈴 「…私…凄く…怖くて…天野君がいじめられてるって知っても…誰にも言えなくて…」


尚仁 「…い、いいんだって…転校してきたばっかりなんだし…もう一つ言えば俺の問題なんだから…」


海鈴 「…ごめん…」


尚仁 「大丈夫だよ」


海鈴 「…ありがとう……天野君…どうして公園に?」


尚仁 「あぁ…ちょっとね。萩原さんは?」


海鈴 「お母さんにお使い頼まれたから…急がないと…じゃ…また明日!」


尚仁 「あ、うん! また明日…」




尚仁 「…工藤さんの家……いいや……帰ろう」



沙友 「…? ナオ君。やっぱり…家で寝る。昨日は…ありがとう。………何で私…がっかりしてるんだろう」


尚仁 「やっぱり家で寝る。昨日はありがとう」(編集するのでここ録音お願いします)




梓 「あ、お兄ちゃんおかえ……り…」


尚仁 「寝るよ」


梓 「あ…うん……」




(翌日)

俊助 「あーら、おはよ。ナオ君?」


尚仁 「おはよう、俊助君」


道哉 「来たな」


海鈴 「おはよう、天野君」


尚仁 「な…何?」


俊助 「道哉クンから聞いたよ。ごめんね、ナオ君」


尚仁 「…え?」


俊助 「ショージキな所、俺道哉クンにいじめられるのが嫌で便乗して一緒にいじめてたんだよね」


尚仁 「…いや…別にいいよ…。もう済んだことだし……ははっ」


道哉 「なにがおもしれーんだよ」


尚仁 「昨日までずっといじめられてきて…こうやって普通に話せてるのが凄くおかしくて」


俊助 「…こーゆーとこが器でかいんだろうね」


海鈴 「…ほんと…良かった」


道哉 「…悪かったよ。尚仁」




沙友 「……良かったじゃん、ナオ君」



海鈴 「そう言えば…もうちょっとしたら文化祭の準備期間だよ」


尚仁 「…え…そうなの?」


道哉 「お前来てなかったから知らねぇんだよ」


俊助 「来れなくしたの俺達だけどね」


海鈴 「あ…でも天野君は終わってない課題…テスト前からのやつ全部出てないから先にやれって先生が」


尚仁 「え…ほんとに?」


道哉 「さっさと終わらせろよ」


俊助 「道哉クン結局態度でかくない?」


海鈴 「私が教えてあげるから、なるべく早く終わらせよう…?」





(図書館)

尚仁 「ええと…これであってる…?」


海鈴 「うん。あってる。次、ここね」


尚仁 「うん…えーっと……こうか」


海鈴 「あ…凄い。ここもあってる…もしかして…頭良い?」


尚仁 「うーん…一応勉強はそれなりしてたけど…良いって程でもないと思うな」


海鈴 「…そうなんだ…。じゃ、次いこう」


尚仁 「うん…!」




(天野宅)

梓 「ただいま。あ、お兄ちゃん…先帰ってたんだ…」


尚仁 「おかえり。梓」


梓 「どうしたの?」


尚仁 「やらなきゃいけない課題があるから、夜食かなんか作っといてほしい」


梓 「…わかったけど…お父さんとちゃんと話はした?」


尚仁 「……してない」


梓 「…ちゃんと話してよ。絶対、おにぎりでいい?」


尚仁 「あぁ。ありがと」


梓 「あぁ…でも…今日私、友達の家に泊まりに行くから…明日からでいいかな…?」


尚仁 「…うん、それなら明日からでいいよ。楽しんで来いよな」


梓 「…なんか…変わった…? お兄ちゃん」


尚仁 「…別に。あ…梓」


梓 「…?」


尚仁 「…お前は、進路…どうするんだ…?」


梓 「大学に行きたかったけど……経済的にも無理だと思うし…就職にしようかなって…」


尚仁 「…そう…か」


梓 「それが…どうかしたの? あ、ちょっと!」




(夜)

尚仁 「お腹空いたな…なんか…食べるもの……あるかな……。? なんだかんだ、作ってくれたのか、梓。…よっし、頑張ろう」



彰久 「…頑張れ。尚仁」


尚仁 「…? 気のせいか」




(学校)

道哉 「ちゃんと終わらせたか?」


尚仁 「うんっ! ほら!」


俊助 「すご…まじで終わらせたんだ」


尚仁 「海鈴ちゃんのおか……あっ…」


海鈴 「きゅ…急に名前で呼ばないで…」


尚仁 「あ…ご…ごめん…」


道哉 「へぇ…俺も勉強教えてもらったらそうなるか?」


俊助 「いいじゃん」


道哉 「まぁいい。それ出して準備にかかろうぜ」


俊助 「だね、ナオ君買い出しに行ってきてよ」


尚仁 「あ、オッケー」


海鈴 「な、ナオ君。こ…これ…買ってきてほしい物の…メモ」


尚仁 「ありがとう。やっぱりその呼ばれ方がしっくりくるかも…。行ってくる」



沙友 「おー。忙しそうだね」


道哉 「沙友。暇なら手伝え」


俊助 「1組はもう終わったの?」


沙友 「終わっては無いけど。ナオ君はいないんだ?」


海鈴 「ナオ君なら買い出しに行ったよ?」


沙友 「そっか。ありがと、頑張ってね」


道哉 「あ、おい手伝えよ!」





尚仁 「梓!」


梓 「あ、お兄ちゃん。買い出し?」


尚仁 「そう。昨日は夜食、ありがと」


梓 「…? 私作ってないよ、作れないって言わなかったっけ…?」


尚仁 「え…? じゃあ…誰が…」


梓 「…お父さんじゃない?」


尚仁 「…そ…っか…。ありがとう…」


梓 「…お父さんと仲直りしてね」




(校舎)

尚仁 「よい…しょ…行くか」


沙友 「ナオ君」


尚仁 「工藤さん」


沙友 「買い出し?」


尚仁 「そうだけど…?」


沙友 「…私も行っていい? 暇でさ」


尚仁 「別に良いけど…?」


沙友 「そ。ありがと」




(外)

尚仁 「赤のペンキ…白のペンキ…えーっと」


沙友 「意外とあっけなかったね」


尚仁 「…何が?」


沙友 「あの二人との関係」


尚仁 「確かにそうかも」


沙友 「…海鈴ちゃんとは上手くいってる?」


尚仁 「…えっ…う…うーん…べつに…?」


沙友 「わかりやすすぎ。ほんとウソ下手くそだね」


尚仁 「…上手くいってるっていうか…凄く仲良くなれた…って感じかな」


沙友 「それ、上手くいってるって言うんじゃないの?」


尚仁 「あ……あは…は…」


沙友 「…アプローチしたら?」


尚仁 「…え?」


沙友 「その顔ほーんとかわいい」


尚仁 「またからかってる?」


沙友 「3割」


尚仁 「アプローチって一体なんだよ?」


沙友 「そりゃ二年一年だったら、時間かけて仲良くなればいいじゃん。でも、もうすぐ受験に就職でみんな忙しくなるじゃん」


尚仁 「…そりゃ…たしかに…そうだけど…」


沙友 「そうでもしないと、他の子が来ちゃうかも?」


尚仁 「え、他の人って?」


沙友 「さぁね。ほら、買い出し買い出し」


尚仁 「あ…うん」




(天野宅)

尚仁 「ただいま」


彰久 「…文化祭準備も大変だな」


尚仁 「……あぁ」


彰久 「遅くなるなら知らせるんだ」


尚仁 「あぁ」


彰久 「あまり夜更かしをしすぎるな」


尚仁 「……父さん」


彰久 「…?」


尚仁 「…夜食……おにぎり…美味かったよ」


彰久 「…そうか」


尚仁 「……あ…あと…!」


彰久 「あぁ」


尚仁 「やっぱり俺は就職でいい」


彰久 「…本当にそれでいいのか?」


尚仁 「あぁ。…梓は大学に行きたがってる。就職してあいつの為に出してやりたい」


彰久 「子供のお前がそこまで気にする必要はない」


尚仁 「…俺もあきらめたんじゃない。金貯めて…自分の金で通う。回り道をするだけだよ」


彰久 「………就職か。頑張れ、尚仁」


尚仁 「…へへっ。ありがとう、父さん」


彰久 「あぁ」




-6節-

尚仁 「梓」


梓 「?」


尚仁 「たまには一緒に登校するか」


梓 「! …うん」




尚仁 「なにニコニコしてるんだよ」


梓 「ううん。お兄ちゃん変わったなって」


尚仁 「最近そればっかりだぞ。まぁいいけど」


梓 「…萩原先輩とはどう?」


尚仁 「ぇっ、梓まで同じこと聞いてくるのか」


梓 「…文化祭終わって、みんな切なそうな感じだけど、お兄ちゃんだけ楽しそうだよ」


尚仁 「なんか俺がずれてるみたいに聞こえるんだけど」


梓 「そういう意味じゃないよ。文化祭準備期間を経て仲良くなったんだね、って」


尚仁 「…そう…かもなぁ…」




(学校)

道哉 「お、来た来た。尚仁、これお前んだ」


尚仁 「おはよう。どうしたの?」


海鈴 「文化祭の女装ナンバーワンの賞状」


尚仁 「んぇ…俺が…?」


俊助 「うちのクラスから出たのナオ君だけじゃん」


尚仁 「あ…ありがとう…衣装作ってくれたの海鈴ちゃんだよね…?」


海鈴 「作ったのは私だけど、提案してくれたのは沙友ちゃん」


道哉 「すげぇなあいつ…」


海鈴 「お礼なら沙友ちゃんに言ってあげて」


俊助 「って言っても今日休みでしょ?」


道哉 「風邪とかなんとか言ってたか?」


俊助 「明日から夏休みなのに渡すもんが渡せてないって先生困ってたよ」



(沙友宅)

尚仁 「…」

(インターホンが鳴り)


沙友 「ん…はいはい…………あれ、ナオ君」


尚仁 「風邪って聞いたけど…大丈夫?」


沙友 「わざわざ来てくれたんだ、優しいね」


尚仁 「はい、これ」


沙友 「ありがと」


尚仁 「じゃあね。お大事に」


沙友 「ま…待って」


尚仁 「…?」


沙友 「…少し…話さない?」


尚仁 「…でも、寝てた方がいいんじゃないかな」


沙友 「…ほんと、優しいよね。ナオ君、さっきまで寝てたから。ほら、あがって」




尚仁 「…どうして俺の顔ばっかりみてるの?」


沙友 「…特に意味はないかな」


尚仁 「…からかってる?」


沙友 「…少しね」


尚仁 「…工藤さんに一つ聞いてもいい?」


沙友 「…なに?」


尚仁 「…決して迷惑って意味じゃないんだよ。ただ、どうしてここまで俺に接してくれるのかなって」


沙友 「…どうして…か。なんでかな。興味があるから?」


尚仁 「いや…俺に聞かないでよ」


沙友 「……寂しい気持ちが無くなるんだよね、ナオ君と喋ってると」


尚仁 「喋ってると?」


沙友 「もしかして、私が寂しいと感じるわけがないなんて思ってたりした?」


尚仁 「…別にそんなことは思って無いけど」


沙友 「…落ち着く、ナオ君見てると」


尚仁 「なんか今日…変だよ?」


沙友 「…今日の私が変なら1年の春からずっと私は変なんだと思う」


尚仁 「…? え?」


沙友 「わからないか。ふふっ、大丈夫。なんでもないなんでもない」


尚仁 「まーたからかってる?」


沙友 「1割」


尚仁 「はぁ…。あんまり無理に起こしておくのも嫌だから帰るね」


沙友 「あ…うん…」



尚仁 「なにかあったら連絡して。工藤さんの頼みならすぐ来るから」


沙友 「ありがと。私ならってどういうこと? それこそ私の事からかってる?」


尚仁 「からかってる?って言わせたかったんだよね。2割程度かな。じゃあね、お大事に」



沙友 「……ナオ君のそういうとこ……ほんと…好きだよ」



(夏休み)

彰久 「おはよう、尚仁」


尚仁 「おはよう、梓は?」


彰久 「梓は部活だ。ずっと家にいると体がなまるぞ」


尚仁 「友達と少し遊んでくるよ。父さんは仕事?」


彰久 「あぁ。もうすぐな」


尚仁 「頑張って。じゃ、行ってくる」



俊助 「わざわざこんなくっそ暑い中外で遊ぶ必要なくない?」


道哉 「たまにはいいだろ、汗かいて」


尚仁 「ちょ…道哉君遠すぎ…よいっしょ! と…」


俊助 「平和だねぇ。そういや、沙友ちゃんってどうしてんの?」


道哉 「…もうちょっと早くこうなれたら良かったな。あいつか? どっかの喫茶店でバイトしてるって言って無かったか?」


尚仁 「そうなの? 早くこうなれたらって、それは2人の問題じゃない?」


俊助 「確かにね」


道哉 「理由も無しにいじめてたってのがほんとの理由かもな」


尚仁 「それ理由なしじゃないし」


俊助 「道哉クンもストレス溜まってたんでしょ」


道哉 「親父は医者、おふくろも医者。頭もプライドも高くてイライラしかしねー」


尚仁 「すごいね。道哉君の家エリートなんだ」


道哉 「聞こえはいいけどな。ストレス発散でいじめなんてとんだクソ野郎だろ」


俊助 「この前までと今とどっちの方がストレス発散?」


道哉 「後者で」


俊助 「だよね、楽しそうだよ道哉クン」



海鈴 「夏期講習終わった…長い」


道哉 「お、ジャストっぽい?」


尚仁 「お疲れさま、海鈴ちゃん」


海鈴 「あ…みんな。ありがとう」


俊助 「海鈴ちゃんもお昼食べに行かない?」


海鈴 「! 行きたい」


尚仁 「俺、一つよさげな店知ってるんだけど」


道哉 「んじゃそれで」




沙友 「いらっしゃいま…せ…ナオ君かって…おーおーそうそうたる顔ぶれ」


道哉 「お前ここで働いてたの?」


沙友 「そうだけど?」


尚仁 「4人で」


沙友 「お煙草の方はって、吸わないか。お席の方にご案内いたします」


俊助 「沙友ちゃんなんか元気ない?」


沙友 「え?」


俊助 「いや別に? そう感じただけ」


沙友 「気のせいだと思うけど?」


尚仁 「頑張ってね、工藤さん」


沙友 「…うん。ありがと」



海鈴 「みんな進路はどうするの?」


尚仁 「…俺は就職かな」


俊助 「同じく」


道哉 「…大学?」


俊助 「いや、俺に聞かれても」


尚仁 「道哉君大学なんだ」


道哉 「医者になりたいとは思わねぇけどな」


海鈴 「そうなんだ…なんか、寂しい」




沙友 「…進路…か」




沙友 「また来てね」


海鈴 「今日はありがとう」


道哉 「おう。勉強頑張れよ」


俊助 「道哉クンもでしょ」


尚仁 「じゃ、またね」



海鈴 「あの…ナオ君」


尚仁 「どうしたの?」


海鈴 「…あ、明日…映画見に行かない? トラップハイスクールっていう映画なんだけど…」


尚仁 「えっ…うん。いいよ、行こう」


海鈴 「ほんと! よかった。思い出…作りたいなって」


尚仁 「オッケー。10時に駅前でいいかな?」


海鈴 「…! うん!」


尚仁 「じゃ…じゃあ…また明日!」



梓 「はぁ…よりによって夕方から雨なんて…」


尚仁 「傘ぐらい持って行けよ、ほら。帰ろう」


梓 「お兄ちゃん楽しそうだねぇ?」


尚仁 「俺の事からかってるだろ」


梓 「べつに? 最近明るくなって嬉しいだけだよ」


尚仁 「ならいいけど。あ、明日出かけるから俺の昼飯は大丈夫だよ」


梓 「わかった。…それにしても雨凄い……傘忘れた人大変だろうね…」


尚仁 「工藤さん?」


梓 「どうしたの?」


尚仁 「俺の知り合い…いや…友達なんだ。おーい工藤さーん!」



沙友 「ん」


尚仁 「傘、持ってないの…?」


梓 「はい、これ。使って下さい」


尚仁 「2人で帰るから、よかったら使って」


沙友 「うん」


尚仁 「また風邪ひいちゃわないように。じゃあね、帰るぞ。梓」


梓 「あ、うん。さようなら」


沙友 「…ナオ君」


尚仁 「…? どうしたの?」


沙友 「…私、進路…迷っててさ…お母さんがアメリカに来いって…勉強しに来いって言ってるんだよね。どう…思う?」


尚仁 「ん…難しいな…工藤さんが何と迷ってるかはわからないけど…アメリカで勉強するって言っても、行かないって言っても俺は応援するよ」


沙友 「…そう。ありがとう…またね」


梓 「あ…あの…傘!」


尚仁 「…工藤…さん?」




-最終節-

海鈴 「ちょっと怖かったけど…面白かった…」


尚仁 「うん。だね」


海鈴 「…ナオ君?」


尚仁 「えっ? あ、うん! ごめんごめん! ちょっとぼーっとしてて」


海鈴 「大丈夫?」


尚仁 「うん! 次行こう!」



道哉 「かーっ! わかんね! んだこの問題!」



俊助 「面接練習きっつー!」



海鈴 「ここの問題は…えーっと…」



尚仁 「私の長所はがまんづよ……えっと…あーだめだ!」


彰久 「落ち着け、尚仁」



沙友 『自分の進路の為に奮闘した夏休み。私だけ…時間が止まっている気がした』



(2学期)

道哉 「よ、久しぶり」


俊助 「道哉クン痩せた?」


道哉 「そりゃ馬鹿が死ぬほど勉強してたからな」


海鈴 「無理はし過ぎないように…ね」


俊助 「ナオ君はどうだった? 夏休み」


尚仁 「えっ? あぁ、うん! 何?」


道哉 「ボサーっとしてんなよ? 早い奴は早速就職決まってくんだから」


尚仁 「あっはは…そうだね…」


海鈴 「ナオ君最近いっつもぼーっとしてるよ…? 大丈夫?」


道哉 「こりゃ、メロンパン買いに行かせる必要がありそうだな」


尚仁 「えぇっ…勘弁してよ」


俊助 「あと半年も無いよ、楽しんでいかないと」



沙友 「…痛っ!」


梓 「きゃあっ! ご…ごめんなさい!」


沙友 「…ナオ君の妹さん。いいよ、大丈夫。怪我無い?」


梓 「はい。私も大丈夫です…半分持ちますよ!」


(回)尚仁 「半分、俺持つよ」


沙友 「……大丈夫。一人でもてるから、ありがと」


梓 「は…はい……あ…ケータイ落として……あれ?」



尚仁 「なにしてるんだ? 梓」


梓 「あ…お兄ちゃん」


尚仁 「それ、工藤さんのケータイ?」


梓 「うん、さっきぶつかったときに落として行っちゃったみたいで…」


尚仁 「俺が返しとくよ、つぎ、体育でしょ?」


梓 「あ、うん! ありがとう!」



沙友 「これ、ここ置いときます。失礼しました。! ナオ君」


尚仁 「梓がぶつかったときに拾ったんだって」


沙友 「…ありがと」


尚仁 「ねぇ、工藤さん」


沙友 「…何?」


尚仁 「最近、元気ないよ?」


沙友 「見ての通りばりばり元気だと思うけど?」


尚仁 「道哉君たちにいじめられてた時は散々からかってきたのに」


沙友 「…そうだね。散々からかったね」


尚仁 「やっぱり、元気ないだろ」


沙友 「元気が無かったら…何?」


尚仁 「…俺にできる事ならなんでもするし、役に立ちたいから」


沙友 「…ふふ。優しすぎない?」


尚仁 「何が…?」


沙友 「…ナオ君には解決できないよ」


尚仁 「え…あ…ちょっと!」


沙友 「…だってナオ君に困ってるんだから」


尚仁 「…え…?」


沙友 「…じゃあね」



沙友 「……俊助。何?」


俊助 「…沙友ちゃんもわかりやすすぎない?」


沙友 「…どういう意味?」


俊助 「そういうとこ」


沙友 「…あっそ」



道哉 「なにずっと考え事してんだ?」


尚仁 「え…? うん……あのさ」


道哉 「何だよ?」


尚仁 「俺…工藤さんに悪いことしたのかな」


道哉 「はぁ?」


尚仁 「いや…なんていうか…上手く言葉にできないんだけど…」


道哉 「知らねーよ、知ってるのはお前ら2人、もしくは沙友だけじゃねぇの」


尚仁 「…そう…なのかな」


道哉 「水高祭までもう少しだぞ」


尚仁 「すいこうさい…? なんだっけそれ」


道哉 「お前本当に大丈夫か? 文化祭の親戚、うちの学校のメインイベントレベルだろ」


尚仁 「そういえば…そんなんだったっけ…」


道哉 「家庭の事情やらで就職を選ぶ奴がいるとはいえ、基本的にはうちは進学校だ。受験生頑張れ的な激励の行事で去年一昨年は準備側だったろ」


尚仁 「去年一昨年、パシられてた記憶しか無いんだけど…」


道哉 「だーからそいつは謝っただろ、もうなんもしねぇって。今年は俺達が主役だ」


尚仁 「俺達が…主役…」


道哉 「告白する最高の舞台だぞ?」



沙友 「…付き合ってよ、俊助」


俊助 「…やだね」


沙友 「…どうして?」


俊助 「確かに俺は沙友ちゃん、好きだよ? でもそれは友達ってこと」


沙友 「…」


俊助 「素直になればいいじゃん」


沙友 「無理」


俊助 「…俺も素直な事言おうか。俺、基本的には、何にでも便乗したがるタイプだけどそれには乗りたくないね。ただの埋め合わせじゃん」


沙友 「…ははっ…そうかも」


俊助 「どこが好きなわけ?」


沙友 「別にナオ君が好きなんて言って無いじゃん」


俊助 「俺、ナオ君の名前出してないけど」


沙友 「えっ……あ…」


俊助 「クソみたいなつるみ方だったけど2年も一緒に居りゃわかるよ、頑張ってね。んじゃ、俺バイトあるから」


沙友 「……」




彰久 「明日か、就職試験は」


尚仁 「おう」


梓 「頑張ってね」


尚仁 「水高祭の前に…最後の勝負だな!」


彰久 「水高祭…そういえば明後日がそうか」


梓 「受験生応援の意味があるのに、お兄ちゃんは終わってるけどね」


尚仁 「内定決まるかわからないから、次の試験の応援だとでも思ってくれよ」


彰久 「まさか落ちる気なんて言わないだろうな?」


尚仁 「当たり前だろ、真剣に頑張ってくるよ」




尚仁 「…メール…みんなありがと…」


海鈴 「明日、頑張ってね」


道哉 「落ちたらメロンパンな」


俊助 「寝過ごさないようにね」



尚仁 「工藤さんも…ありが…ん?」


沙友 「良かったら、今夜話せない? この前迎えに行った公園で待ってるね。無理だったら返信ください」


尚仁 「…どうしたんだ…? それに待ってるって…」



梓 「ちょ…ちょっとお兄ちゃん?」


尚仁 「ご、ごめん! ちょっと出てくる!」


彰久 「おい、尚仁!」


尚仁 「遅刻しないようにするから! 行ってきます…!」



沙友 「…11時…か……」


尚仁 「はぁっ…はぁっ…はぁっ……良かった…ごめん…メール気づかなくて…」


沙友 「…来てくれたんだ。ごめんね、明日就職試験だよね」


尚仁 「…いいんだよ、それは。どうしたの?」


沙友 「…私…ね。アメリカに行こうって、決めたんだ」


尚仁 「…そう…なんだ」


沙友 「明後日の夕方の6時に日本を出るから…水高祭でも会えないし、明日は就職試験でナオ君が出てこれない。だから、今夜どうしても話したくてさ」


尚仁 「…向こうでも…頑張って」


沙友 「最後まで、呼んでくれなかったね」


尚仁 「…え?」


沙友 「沙友って一度くらい聞いてみたかったかな」


尚仁 「…なんか…ごめん」


沙友 「ううん。気にしないで……ありがと」


尚仁 「……うん」


沙友 「就職試験、頑張ってね。じゃ、さよなら」


尚仁 「……さよ…なら」



(翌日)

彰久 「忘れ物は無いな?」


尚仁 「…おう! 行ってくる!」


梓 「頑張ってね! お兄ちゃん!」




海鈴 「そろそろ受けてる頃かな?」


道哉 「じゃね?」


俊助 「俺もついに来週試験ですよ」


道哉 「落ちろ」


俊助 「冗談キツいっす」


道哉 「ハハッ。みんな受かるといいなぁ」


海鈴 「…頑張って、ナオ君」



尚仁 「…私の…長所は……我慢強い……え…っと…えっと…」



梓 「! 帰ってきた!」


尚仁 「…ただいま」


彰久 「…どうだった?」


尚仁 「…わからない。でも…やれることは全部やったと思う」


彰久 「そうか。なら、大丈夫だ」


梓 「ご飯出来てるよ、さ。早く着替えて!」


彰久 「明日は水高祭なんだろう? 精一杯楽しむためにもさっさと食べて休め」


尚仁 「…明日…うん」


(回)沙友 「明後日の夕方の6時に日本を出るから」


梓 「聞いてる? お兄ちゃん」


尚仁 「…お、おう!」



(翌日)

尚仁 「おはよう」


道哉 「おっ! 昨日、どうだった?」


尚仁 「やれることはやったよ」


俊助 「なら期待していいんじゃない? そもそもナオ君俺達より優秀だし」


尚仁 「はは、やめてよ」


海鈴 「…水高祭。もう始まってるよ」


道哉 「4時からは水高ファイアーだってよ」


俊助 「なにそのネーミングセンス」


海鈴 「キャンプファイアーみたいな感じ?」


道哉 「そうじゃねぇ? 水高祭自体は夜の9時までだから、えーっと」


俊助 「…まぁ、告白のゴールデンタイムはそこだよねぇ?」


海鈴 「えっ」


尚仁 「……え?」


道哉 「ぼさっとしてんなよ尚仁。回って来いよ、海鈴ちゃんと」


俊助 「え? 俺達ムサくない?」


道哉 「沙友でも誘えばいいだろ」


尚仁 「え…?」


道哉 「なんだよ?」


俊助 「沙友ちゃんがいたか。賛成」


海鈴 「ナオ君?」


尚仁 「いや…ううん。行こう」




梓 「まてぇぇぇい!」


海鈴 「梓ちゃん…?」


梓 「われは獅子神様であるぞおおおおお!」


尚仁 「それ…獅子舞だろ…?」


梓 「これしかなかったんだよ……突っ込まないで! 食うたるぞおおお」


尚仁 「お前身長無いから向いてないよ」


梓 「役のはずれくじだったんだよ……」


海鈴 「ふふっ」


尚仁 「どうしたの?」


海鈴 「ううん、凄い楽しくて」


梓 「まだまだ出し物はありますから楽しんでいって下さいね!」




沙友 「4時…か…早く来すぎちゃったな…」



道哉 「ゆっくりしすぎだぞ、お前ら」


海鈴 「時間忘れて回っちゃって……あれ…沙友ちゃんは?」


俊助 「見当たらないんだよねぇ…今日休みなのかも」


尚仁 「…」


道哉 「お前知らねぇ? 尚仁」


尚仁 「えっ…いや…俺は…」



梓 「というわけで、水高祭のメインイベント水高ファイアーです! 3年生の先輩方…どうか入試に就職試験! 頑張ってください!」


海鈴 「…梓ちゃん、司会だったんだ」


俊助 「おっと、道哉クン。俺達はお邪魔だよ」


道哉 「あぁ? 人前でやれ」


俊助 「マジで言ってんの?」


道哉 「ここまでつるんできたんだ、俺は成就を見届ける」



海鈴 「……あの…ナオ君!」


尚仁 「…う…うん」


海鈴 「…私…ナオ君の事が…好き…です…よ…よかったら…私と…つ…付き合って…ほしい…な…って…どう…かな…」


尚仁 「お…俺は……」


(回)

沙友 「これ、私の連絡先。困った事があったら言ってよ」


沙友 「ナオ君のそういうとこ。好きだよ」


沙友 「ちょっとからかっただけじゃん。そう怒りなさんな」


沙友 「その顔ほーんとかわいい」


沙友 「…だってナオ君に困ってるんだから


尚仁 「…俺は……別に好きな子がいる」


道哉 「…は?」


海鈴 「……うん。やっぱり…そうだよね」


俊助 「…どういう事? ナオ君」


尚仁 「…ごめん…ごめん…海鈴ちゃん」


海鈴 「…ううん。大丈夫、素直に答えてくれて嬉しい…ありがとう」


道哉 「誰だよ? 別に好きな子って…おま、まさか」


尚仁 「うん…! 俊助君、自転車…貸して!」


俊助 「…はーぁ。そもそもどこ行く気よ? まぁ貸すけどさ」


尚仁 「…ごめん…行ってくる…!」


海鈴 「な、ナオ君!?」


道哉 「…あいつ、今日沙友が来てないって知ってたな」


海鈴 「…え?」



尚仁 「はぁっ…はぁっ……自転車でどれくらいだ…くそっ…!」


道哉 「あいつ、海鈴ちゃんと一緒で嘘ド下手くそだから」


俊助 「罪な男だよね、ナオ君」



梓 「お、お兄ちゃんもう帰るの!?」


尚仁 「ごめん、行かなきゃいけないんだ! ありがと!梓!」


梓 「あ、う…うん!」



沙友 「…5時55分…そろそろ…か……」



尚仁 「…はぁっ…げほっ…げほっ……はぁっ……くどう……沙友!!」


沙友 「…え?」


尚仁 「げほっ…はぁっ…はぁっ……待って……」


沙友 「ど…どうしてナオ君がここにいるの…!?」


尚仁 「言いたいことがあるから…!」


沙友 「……ぇ?」


尚仁 「行かないでよ…沙友」


沙友 「反則だよ…もう出るって言ってんのに…さよならって言ってんのに…名前で呼ばないでよ……行きたくなくなるじゃん…」


尚仁 「…行かなきゃいいだろ」


沙友 「何…それを言うためだけにここに来たの…? 馬鹿じゃない…? 海鈴ちゃんは?」


尚仁 「……俺が好きなのは君だよ、沙友」


沙友 「…何…言ってんの……わ…私の…事…からかってるの…?」


尚仁 「……からかってるよ。0割」


沙友 「…ナオ君のそういうとこ…ほんと…ほんと…大っ嫌い……」


尚仁 「…照れてるつもり?」


沙友 「別に…照れてないし…照れてなんてないから……」


尚仁 「……そう。飛行機出ちゃうよ」


沙友 「いいよ…もう…何百便でも遅れたらいいじゃん…」


尚仁 「…そっか。アメリカ…どうする?」


沙友 「行かない」


尚仁 「…良かった。帰ろう」


沙友 「…うん」


(ED)

道哉 「なんかタクシー止まってるぞ?」


海鈴 「え…?」


梓 「…あ! お兄ちゃん!」


尚仁 「ほーら、沙友」


沙友 「ちょ…引っ張らないでよ!」


俊助 「そういうこと。海鈴ちゃん、恋敵だよ」


海鈴 「ううん。大丈夫…沙友ちゃんどうして泣いてるの? もしかして…ナオ君?」


尚仁 「えっ?」


道哉 「…ほーう」


俊助 「こりゃメロンパン100個だね」


尚仁 「か…勘弁してくれよ…」


沙友 「…好きだよ、ナオ君」



道哉 「どうだった!」


尚仁 「内定…もらいました!!!」


俊助 「よっしゃあああああああ!」


沙友 「あんたの内定じゃないでしょ」


俊助 「それでも嬉しいもんは嬉しいだろ!」


尚仁 「ありがとう、みんな」


道哉 「つぎは俺達の番だな」


海鈴 「おめでとう、ナオ君」



彰久 「…昂子。尚仁は就職するそうだ、見守ってやってくれ」


梓 「お父さん、今度お墓参りに行こうよ…3人で」


彰久 「あぁ。そうだな」



道哉 「合格!」


俊助 「マジで言ってんの?」


道哉 「割とマジです」


尚仁 「おめでとう!」


沙友 「意外とやるじゃん?」


海鈴 「これでみんな進路決定?」


尚仁 「沙友はどうするの?」


沙友 「うーん。一年浪人して大学を受けようかなって」


尚仁 「そっか。応援するよ、沙友」


海鈴 「…うん」


俊助 「一応春からなにするか、みんな決まったわけだ」


道哉 「んじゃ飯だな、てなわけでナオ君」


尚仁 「え?」


道哉 「久々にパシられてくんね?」


尚仁 「いや…えぇ……ほ…本当に?」


沙友 「素直にいえば良いじゃん…」


尚仁 「えーっと…じゃ…うちにきてよ!」



道哉 「お邪魔しまーす」


沙友 「お邪魔しまーす」


俊助 「お邪魔しまーす」


海鈴 「お邪魔しまーす」




梓 「どうぞ! あがってください!」


尚仁 「父さん」


彰久 「何だ」


尚仁 「ありがとう」


彰久 「……友達を待たせるな」


尚仁 「……あぁ」



尚仁 「私の…長所は……素直に…素直になれる事です」


~おしまい~


















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ