プロローグ
幼い頃、誰もが勇者に憧れる。絵本に書かれた物語、勇者の物語。頼れる仲間と共に彼は魔王を倒すのだ。山も、海も、砂漠も、雪山も、多くの試練を乗り越えて。
これは、誰もが知っている物語の誰も知らないその後のお伽話。
世界は一つの国によって統一されている。遥か昔に初代国王アルフレートによって築かれたその国には、かつて争いあう国があった。魔王と呼ばれた、人ではなく魔物を統べる王ディンメルグが収める国。かの国は世界を蹂躙し続け、人々の平和を脅かした。
だがそこに一人の少年が立ち上がり、多くの仲間と共に魔王を殺した。そうして人々は魔王を討った少年を勇者として讃え、世界は統一される。人々の間に平和の時代が訪れたのだ。
「はあっ...これで終わりか。」
かつて勇者となった少年は、小さな、とある村へと帰り、今や青年となった。
「ほう、薪割りか。我も手伝おう。」
そこは殆ど人が住んでいない不毛の地。
「別にいい。今日の分は終わったからな。」
かつてそこには、彼の故郷があった。
「相変わらず釣れないものだな、勇者よ。」
魔王討伐の報酬だと与えられた、否、押し付けられたこの土地に住む者は、領主である元勇者と、
「いいから狩りにでも行ってこい。今晩の飯が無くて困るのは君だぞ、魔王。」
勇者に討たれた筈の、元魔王だけである。