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何かがおかしい

 リザリィが布団を引っ張ってテレビ側にずらし、空いた所に真結がテーブルを置く。

 その上に夕食の入ったビニール袋を置き、中から三段重ねのお重を取りだした。


 ビニール袋の中には魔法瓶が入っていて、お茶かと思って蓋を開けたら、味噌汁が入っていた。

 真結がキッチンの方から取り皿とお椀、お箸を持って来て、テーブルの上に並べる。


「飲み物が無いわねぇ、やっぱり買ってくるわね」


 リザリィは腰をあげると、さっさと扉を出て飲み物を買いに行ってしまった。


「リザリィが自分から買い物に行くなんて思わなかったな」


「さっき、飲み物が欲しいって言ってたから、よっぽど欲しかったんだと思う」


「そうなんだ?」


「うん。リザリィちゃんが、くつろぐわよーて言って、おふとん敷いてテレビを見はじめた時に、飲み物がないわねぇって言ってたの」


「通りに出たらコンビニがあったよって言ったら、ちょっと行って買ってこようかしらって話になったの」


「それで、買いに行ったんだ? もしかして……自分の分だけ?」


「あはは、そうかもしれないね。その時は一緒に買いにいこ?」


「うん」


 リザリィが居ない間にと思い、布団を畳んで部屋の隅に置き、テーブルをもう少しずらして部屋の中央に持ってきた。

 これで皆が大体同じ距離からテレビを見る事が出来る。

 後はリザリィが戻ってくるまで待てばいい。


 俺と真結がのんびりテレビを見ながら待っていると、玄関の扉が閉まる音がした。


「おかえり、リザリィちゃん」


「ただいま、やっぱりちょっと変ねぇ……」


 リザリィはちゃんと俺と真結の分のお茶も買ってくれて、ついでに自分が飲むお酒とおつまみまで買ってきていた。

 俺はお酒を飲んだ事がないから、酒を飲む人の気持ちが分からないが、やっぱり機会があれば飲みたいものなのだろうか。


「変って何が?」


「買い物に行くのに面倒だったから、魔法で空を飛んじゃおうかなって思ったのよ。でも魔法が何にも使えないのよ」


「真結は今、魔法は使えないんだよね。リザリィちゃんは何か使える?」


「そうね、例えば、そこのコップをテレキネシスで取ってみるわね」


 リザリィがコップを見るも、何も起きない。手を伸ばしてみるが、やはり何も起こらない。


「全然だめ。でもアンチ・マジック・フィールドじゃないのよ」


「力場系の魔法は、窮屈だからすぐ分かるよね」


「そう。身体の中の魔力が押し込められる感じ。それは無いのよ。魔法を使おうとしても何も起こらないだけ」


「何かあるんだね」


「あるわねぇ。今のリザリィはただの悪魔系美少女でしかないわ」


 そう言いながらあぐらをかいて酒を飲み出す彼女は、なんだかとてもオヤジ臭かった。


 飲み物も揃ったし、ご飯を食べようという事になり、襟亜さんが作ってくれたお弁当をテーブルの上に並べる。

 三段のお重には、それぞれ肉料理、野菜料理、副菜が詰まっていて、まるでおせち料理の様だった。


「襟亜はねぇ、完璧主義過ぎるのよね。あそこまでなんでもきっちりやってたら、しんどくならないのかしら?」


「襟亜お姉ちゃんの家は躾がとても厳しかったみたいだから、あれで普通なんだって」


「魔界の名家って、どこもそうみたいねぇ。まぁ地獄でも、礼儀作法は厳しいけど、何でも完璧にやれとは言われないわ」


「そのおかげで、美味しいご飯が食べられるんだから、ありがたいよ」


 ある意味、うちの母さんの料理よりも豪華なこの夕食を、ここに居る間は食べられるのだと思うと、それはそれで良いかもしれないと思った。

 家の料理が嫌いな訳じゃないけど、襟亜さんの料理とはレベルが違いすぎる。

 それは母さん自身も言っていたし、町内会でも襟亜さんに料理教室の先生を頼んでいるとか言っていた。


「真結の家では、いつもこんなに美味しいご飯が食べられるの?」


「ううん。ここまで豪華じゃないよ。美味しいけど、いつもはもっと普通の料理だよ。交代で真結がご飯を作る日もあるし」


「真結ちゃんの手料理もいいわねぇ」


「真結も料理は上手だよね、お弁当、美味しかったよ」


「ありがとう。あの時はわりと頑張ったほうだった」


「お弁当……そんなイベントもあったわねぇ」


 今から思えばなつかしい話だった。

 まだあの頃は、俺も真結もリザリィも距離の取り方が分からずに、三人でパタパタとしているだけだった。


「リザリィはお弁当を職人さんに作らせてたね」


「美味しかったね。リザリィちゃんのお弁当」


「ホテルのシェフに作らせたのよ? 無理矢理、お金積んで!」


「そこは自慢する所じゃないから……」


 懐かしい話をしながら美味しいご飯を食べている時、ふと、真結が箸をとめて、窓の外の方を見た。


「どうしたの?」


「やっぱり、変だね」


 真結はテーブルの上に箸を置くと、次は床の上に耳を当てて下の階の音を聞いていた。


「リザリィのぱんつとか、見たくなった?」


「んー……ぱんつ履いてるね」


「履いてるわよ。縫香ぐらいよ履かないのは。ダーリンも見たいなら見ても良いのよ? リザリィのぱんつはいつでもダーリンのものよ」


「いや……別に……今、必要とはしてないから」


 女子の下着をのぞくつもりもないし、堂々と見せられてもこちらが恥ずかしい。

 正直に言うと、ちらっと見えてしまうのがいいんだが、そんな性癖を他人に知られたくはなかった。


「やっぱり、何も音が聞こえない」


「……そう言えば静かね。子供もいるし、旦那も帰ってきたのに、テレビの音もしないわね」


「この建物は木造だって聞いてる。木造の建物は歩いただけでも微かに足音が聞こえるんだよ。それなのに、鉄骨の建物みたいに静かなの」


「ふぅん。随分詳しいのね」


「うん。ホラー映画でそういうの、よくあるから」


「よくあるって?」


「不気味に静かっていうシチュエーチョン……ション」


「最後に噛まなければ、ちょっと怖かったわ」


 何かが普通ではない。

 そういう違和感は、今日一日だけでも、いくつか感じていた。


 先ほどの電気メーターもその一つだ。

 お婆さんの言う難しい人は、一階なのか二階なのか。

 真結は他の部屋の物音がしないと言い、その通り全く他の部屋の物音は聞こえてこない。


 もう一つ、気になっている事があった。

 あの101号室の年配の男性の事だった。



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