表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/34

神罰

 ローパーが大木である自分の幹を、大きくゆさゆさと振り始めた。


 一体何をしているのかと、その場に居る皆が辺りの様子を伺っていたが、遙か上から何かが落ちてくるのを察して、すぐに身構えた。


 それは木の実だった。

 直径2メートルはある巨大な木の実が、遙か上空から落ちてくる。

 その木の実もまた、狂気の産物で、ただの木の実ではなかった。


 表面に無数の穴が空いた木の実は、俺達の頭上で爆発すると、茶色い粉と共に大量の虫をあたりにまき散らした。


「虫!?」


「む、虫……」


 縫香さんは素早く襟亜さんを連れて姿を消し、再び現れた時は半透明のまま、ため息をついた。

 虫は長い身体に無数の長い足を持ち、背中には黒い羽がついていた。

 ムカデとゴキブリを合わせた様な、酷く気持ち悪い生き物で、目の前でその虫を見た真結は気絶してしまっていた。


「虫の大群は斬れないな……襟亜を連れてくるのも難しい」


「なんとかなるよ。今、エア・エレメンタルを呼びだすから」


 硯ちゃんがそう言い、空中に水色の魔方陣を呼び出すと、そこから人の大きさ程度の竜巻を呼び出した。


「風の精霊さん。あの虫達を倒して!」


「はい、マスター」


 竜巻の姿をした風の精霊は、その身体に似て透き通る様な女性の声で答えると、ヒュオオオと風切り音をたてながら宙を舞い、虫達の群れの中へ飛び込んでいく。


 羽虫達は風の精霊に噛みつこうとするも、精霊の身体には噛みつく所など無く、風の渦に巻き込まれて外へと弾き飛ばされるだけだった。


 何百匹もの羽虫に囲まれた精霊は、空中で全方位に向けて放電を始め、周囲に飛んでいる虫達を雷撃で焼き殺し始めた。


 バチッ、バチッという高電圧の虫取り機が虫を殺す様な音が響き渡り、虫達は死ぬのを恐れて竜巻から距離をとろうとしていたが、逃げるよりも早く稲妻に焼き殺されていた。


 攻撃範囲に虫が居なくなった竜巻は、ゆっくりとローパーの幹へ近づいていく。

 ローパーは為す術無く、竜巻が近付いてくるのを見守るしかなかった。


 やがて竜巻が気絶している真結の前まで近付くと、そこで動きを止める。

 そこまでが彼女の仕事だった。

 風の渦の中に縫香さんと襟亜さんが姿を現し、風の精霊に突き飛ばしてもらって真結の方へと飛んだ。


「三!」


 三度目の斬りつけで、真結の下半身が埋まっている部分にV字の切れ目が走る。

 真結の身体を傷つけないようにくり抜かれた部分は、ごとり、と音をたてて幹から外れると、地面へと落下していった。


 空中で木の呪縛から解き放たれた真結の身体を縫香さんが受け止め、姿を消す。

 その後に俺達の所に姿を現した縫香さんは、真結を闇の足場の上に寝かせると、すぐにまた姿を消した。


「真結ちゃん、大丈夫?」


「……あ、リザリィちゃん……ひろくん、硯ちゃん」


 リザリィに頬をぷにぷにとつつかれて意識を取り戻した真結は、自分が助けられた事に気付いて、ふらふらとその場に立った。


「……みんな、ごめんね……ありがとう」


 真結を助けた襟亜さんは、空中で風の精霊にお姫様抱っこをされながら、ゆっくりと地面へと降りてきていた。


「ありがとう、あなたが女性なのがちょっと残念かしら」


「どういたしまして」


 風の精霊は慇懃に答えると、攻撃範囲に入ってきた虫を稲妻で撃ち抜きながら、襟亜さんと縫香さんの近くに立って二人を虫から守っていた。


「さぁ、帰るんだ。お前の世界へ。言う事を聞かないと、躾ではなく始末をしに怖い奴がやってくるぞ」


 ローパーは縫香さんの言った事が理解出来ないらしく、そわそわと辺りを見回していた。

 怖い奴とは何者なのか、躾ではなく、始末とは、どういう事なのか。


 混乱した狂気の子の視線は、めまぐるしくあちこちを見回し、そして、遙か後方の離れた所に俺達四人が立っているのを見つけた。


 彷徨っていた視線が俺達に固定された。

 その巨大な瞳孔が小さい点となり、瞳の奥に鮮やかな光が灯る。


 次の時、マッドローパーの目から七色の光が溢れ、放射された。

 即死と、石化と、発狂と、衰弱をもたらす混沌の光。

 縫香さんでさえ、喰らったらどうなるか分からないと言っていた。


「真結!?」


「真結ちゃん!?」


「馬鹿! 何やってんのよ!!」


 縫香さんと襟亜さんが振り向いて俺達の方を見た時、リザリィは足場だった闇の床を消し、俺達を黒い水の中へと突き飛ばした。


「リザリィちゃん!!」


 空中でリザリィの方を見た時、防御陣を張る間もなく極太の光の直撃を受け、その姿が消し飛ぶのが見えた。

 いや、消し飛んだかのように見えた。


(今……リザリィの影に何かが……)


「ごめんなさい! シールド張れなかった……」


 硯ちゃんがあわてて防御陣を張り、空中浮遊の魔法を自分と真結にかけ、二人で魔法の効かない俺の腕を掴んで、着地できる場所へゆっくりと降りていく。


(何だ? 今のは……リザリィはどうなったんだ?)


 傍目には、リザリィは七色の光線を受けて消し飛んだように見えた。

 だが、俺の目には一瞬、紺色の髪をした誰かがリザリィを連れて消えた様に見えた。

 縫香さんが襟亜さんを連れて消える時と同じ様に。


「……ごめんね、私……私の大切な人達を傷つける事は、許せないの」


 地上に降りた後、真結は怒りを堪えた表情で、大木の方を見て言った。

 ここまで怒りを露わにした真結を見るのは、始めてだった。


「ウサ子先輩、お願いします」


 真結が懐から取り出した曲玉を耳に当ててそう言った。


 程なく、天頂から光と炎の滝が滑り落ちてきて、漆黒の空間を明るく照らしだした。


 光と炎の直撃を受けた狂気の子は、落雷した大木のごとく、左右に切り裂かれて燃えていた。

 あっという間の出来事だった。


 神の慈悲故に痛みを感じさせる間もなく滅ぼしたのか、それとも無慈悲故に滅したのか。

 燃えている大木の炎の中からウサギの耳を頭部に生やした巫女服の天使が現れ、黄金の剣を鞘に戻していた。


 躾ではなく始末、と縫香さんは言った。

 縫香さん達に始末させず、ラビエルさんの手を借りたのは、真結がお婆さんの気持ちを知っていたからか、それとも天使として神の裁きを受けさせようと考えた為か。


 縫香さんが俺達三人の所へ姿を現すと、一気にラビエルさんの目前へと連れて行ってくれた。


「この化け物は天界の神によって裁かれるだろう。その魂は浄化され、神々の戦いの兵士として生まれ変わり、罪を償う事になる。これで良いか?」


「はい……ありがとうございます……真結が甘かったんです。リザリィちゃんが真結達を守って身代わりに……」


 暗い表情でそう言うと真結の頭に、ラビエルさんが優しく手を乗せた。


「あの悪魔娘なら上手く逃げたぞ。心配無い」


「そ、そうなんですか!?」


 ラビエルさんがにっこり微笑んでそう言うと、真結の顔から陰りが消え、信じられないと言った風に驚いていた。


(やっぱり、あの時、誰かがリザリィを助けたんだ……)


「しばらくは戻って来ぬじゃろう。地獄の貴族が護衛もつけずに人間界に来ていた方が珍しかっただけじゃ」


「そうなんだ、良かった……」


 怒りと哀しみに代わって、驚きと安堵が真結の心を包み、彼女は両手を胸に押し当ててリザリィが無事だった事を喜んでいた。


「結末はともかく、この一件は終わったよ。絵の外に戻ろうか」


 縫香さんがそう言って、虚空を見上げた。


 絵の出口は、天井半ばにあり、ここからではとても見つけにくかった。

 ラビエルさんが黄金の羽を広げて空へと跳び、硯ちゃんは風の精霊に抱かれてその後を追いかける。

 縫香さんは最初に襟亜さんと真結を連れて絵の外に運び、その最後に俺を連れてお疲れ様、と言葉をかけてから、絵の外に連れて行ってくれた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ