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眠れない夜

「お願い、リザリィを真ん中にして!」


 リザリィの頼みを断る理由もなく、窓際には真結、押し入れ側に俺が寝て、真ん中にリザリィが寝た。

 俺が押し入れ側になったのは、そこがエアコンの冷風が降りてくる所なので、真結の身体を気遣っての事だった。


「寂しい時はリザリィのお布団に入って来ていいのよ」


 リザリィはそう言って、俺を誘ってきたが、答えたのは真結だった。


「うん。そうするね」


 それは天然ではなく、対抗心からじゃないかと俺は心の中で思った。


 真結は、あまりに表には出さないようにしているが、それなりにリザリィにもライバル心を燃やしている。

 俺にはそんなつもりはないのだが、万が一にでも過ちは起こるかもしれない、と思っている様だった。


「恋の進展は期待出来なさそうねぇ……」


 リザリィ自身も、俺にちょっかいを出すと真結がそれなりに割り込んでくるのは分かっていた。その上で、真結と俺の双方を振り回したいのだろう。


「恋よりも、今はホラーの方が大変だよ」


「……寝て起きたら朝よ。ホラーは朝に弱いものよ」


 そんなお約束は聞いた事が無いけど、夜の方が怖いのは確かだった。


 真結は布団に入ると、すぐにすやすやと寝息をたてていた。

 どこでも眠れるタイプなのだろう、ちょっと羨ましかった。


 目を開けると、闇の中に木の天井が見える。

 見慣れない風景。木板に刻まれた年輪は所々穴が空いていて、それが目の様にも見えて怖い。

 物音は何も聞こえない。街の音も聞こえない。

 自宅でも車の通る音が聞こえるのに、ここは静かだ。静かすぎる。


 いや、唯一聞こえる物音がある。何故気付かなかったのか。

 エアコンと室外機の音だ。


 ゴゥン、ゴゥンという低いモーター音は、地の底から響いてくる振動音にも聞こえる。

 エアコンの内部で回転するファンが、シューという空気音を鳴らして冷風を吐き出しているが、その音は時々止まり、ゴフゥゥゥというため息にも似た音を出す。


 一度気になると、耳触りな音で、なかなか寝付けなくなってしまった。


 真結とリザリィはどちらも寝ているらしく、二人の寝息が聞こえる。

 真結の寝息は静かだったが、リザリィの寝息はピスピスという小動物のような可愛らしい音を時々出していた。

 それらの寝息の音は耳障りではなく、そちらに意識を傾ければクーラーの音は聞こえない。


 だが、無意識に眠りにつこうとすると、遠くから邪魔なモーター音が聞こえてくる。


(なんだか、神経を逆撫でされている様な気分だ……)


 布団を頭から被るも、薄手の掛け布団では雑音は防ぎきれない。

 耳栓を持ってきた方が良かった。

 明日は辛そうだ。俺だけ寝坊するかもしれない。


 そんな事を考えている時だった。

 突然、ことん、と俺の意識は眠りの中に落ちた。



 何時間寝たのか。

 俺達三人は殆ど同時に夜中に目を醒ました。


「暑い……」


 いつの間にかクーラーが止まっている。

 リザリィがリモコンを操作してみるが、クーラーの電源は入らない。


「電池が切れたのかな……」


「電池なら、コンビニに行くしかないね……」


「窓を閉めてたら暑いわ。空気を入れ換えましょ」


 窓はガラス戸になっていて、空けるとバルコニーに出られる。

 バルコニーと言っても数十センチの狭い物で、なんとか洗濯物を数枚干せる

ぐらいの広さだった。


 月明かりの中、リザリィが窓際に行き、ガラス戸を開ける。

 生暖かい空気が部屋の中に流れ込んできたが、決して涼しくはなかった。


 少しでも暑さを凌ごうとリザリィがバルコニーにを乗り出した時。


「!?」


 何かが、リザリィの目の前を落ちていった。

 それは生白い球体で、長く黒い毛が生えていた様に見えた。

 女性の生首だったかもしれない。


「リザリィ、大丈夫? じゃないか……」


 真結が虫を見た時と同じく、リザリィはへなへなとその場に崩れ落ちると、気を失ってしまっていた。


 俺と真結はすぐにベランダから身を乗り出して、上下を確認してみたが、何かが落ちた形跡はなかった。

 何かが落ちた様に見えたのは、気のせいだったのだろうか?


 ふと、隣に目をやると、202の部屋の窓が見えた。

 その窓は真っ黒な闇色で、まるで部屋の中が黒い水で満たされている様に見えた。

 そして室外機がブルブルと震えるのと連動して、窓が小刻みに震えていた。


(何だ……?)


 目を凝らして202の窓を見てみるが、光量が少なくてよく見えない。

 懐中電灯でもあれば、いったいどうなっているのか見えるのだが。


「あっ、ひろくん、クーラーがついたよ」


 後ろで真結がそう言った時、ベランダにあった室外機が突然、ヴヴヴヴと唸り音をたてて動き始めた。

 接触不良か何かで、直ったのだろうか?


「良かった……明日にでも、故障してるかどうか、電気屋さんに見て貰えるといいんだけど」


「うん。また硯ちゃんに無理言ってお願いしちゃおうかな」


「さすがに、この暑さでクーラーが効かないのは辛いよ。せめて扇風機が欲しい」


「ふぁぁ……何か、落ちたみたいだけど、何も無かったんだよね?」


「うん。何だったのかな」


「真結はもう一度寝ます……あのね、真結は二度寝すると、なかなか起きられないから、寝坊しても許してね」


「そうなんだ。わかったよ。俺も、明日は早起きする自信無いし」


 なかなか寝付けなかった上に、暑さで夜中に起きる事になっては、睡眠不足は必至だった。

 リザリィは気を失ったまま、寝てしまったみたいで、俺と真結は彼女をちゃんとふとんに寝かせた後、自分達も布団に入り、すぐに眠りに落ちた。



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