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不可解な扉

「お風呂入ったよ。バスタオルの代わりってあるのかな?」


「うん、あるよ。タンスに入ってた」


 真結はそう言うと、タンスから新しいバスタオルを出して見せてくれた。


「良かった、一枚しかないかと思ったよ。その新しいのを使って」


「それじゃ、次は真結が入る」


 そう言って、真結は着替えを持って脱衣所の中に入っていった。


 俺が髪の毛をタオルで乾かしながら、持ってきた荷物の中からスウェットを取り出している時、リザリィが脱衣所の方へと歩いて行く。


「どうしたの? トイレ?」


「……若い女の裸をみたい」


「な、何をオッサンみたいな事言ってるの」


「ちょっとだけだから。真結ちゃんのセミヌードを……」


「リザリィ、酔ってる? 酔ってるよね!?」


 あわてて引き止めようとしたが、リザリィの力は女の子とは思えないほど強くて、全く怯む事はなかった。

 酔った勢いでリザリィは脱衣所の扉の所まで行き、少しだけ開けて中を覗いたが、もう真結は風呂に入ったらしくて誰も居なかった。


「惜しいわねぇ、もう少しで女子高生の脱衣シーンが見られたのに」


 扉を閉めた後、ムスッとしながらリザリィはそう言ったが、俺はふとした疑問を感じて、リザリィの腕を掴んだ。


「あら、ダーリン、二人きりになったら、その気になったのかしら? いいわよ、今夜は朝まで寝かせないから」


「……静かすぎない?」


 うふふ、とほろ酔い気分ですり寄ってきたリザリィも、俺の言葉を聞いて、その場に立ち止まる。

 脱衣所には誰も居なかった。という事は風呂場に入ったか、トイレに入ったかだが、どちらからも水の音が聞こえない。


「俺が入ってた時って、水の音は聞こえてた?」


「もちろん、聞こえてたわよ」


「今は……何も聞こえないよね?」


「……ちょっと、真結ちゃん! 何してるの!?」


 リザリィも不安を感じたらしく、扉をノックしながら真結の名前を呼んだ。

 中から真結の声が聞こえ、少しして扉が開くと、バスタオルを身体に巻いた彼女が顔を覗かせた。


「なになに? どうしたの?」


「真結ちゃん、今、トイレに行ってた?」


「ううん、先に洗面所で歯を磨いてた」


 扉が閉まっていた時は、全く聞こえなかった水の流れる音が今は聞こえている。

 リザリィと一緒に脱衣所の中をのぞくと、洗面所の水が流れているのが見えた。


「……さっきのぞいた時、誰も居なかったけど……」


「……の、のぞいたの?」


「お、俺はのぞいてないよ!?」


「リザリィが中を見た時は、誰も居なかったわよ? お風呂に入ったのかと思ったわ」


「まだ入ってないけど……」


「……なにこれ。どういう事?」


「真結、すまないけど、この扉、空けたままでも良いかな? のぞいたりしないから」


「うん……いいけど……」


 俺はすぐにその場を離れ、リザリィは真結が風呂の中に入る時に脱いだバスタオルを受け取った後、扉を開けたままリビングに戻ってきた。


「女子高生の裸は見れたけど、女として見ただけで、何にも面白く無かったわ。やっぱり隠れて見るってのがいいのよね」


「なんとなく、その気持ちは分かるけど、あんまりいい事じゃないと思う」


 今、風呂場からは真結が風呂に入っている音が聞こえていて、その音を聞いて俺とリザリィは何事もない事に安心ながら、テレビを見ていた。


 しかし、やはり異変は起きた。


 ふと、水の音が聞こえなくなったので、俺とリザリィは共に後ろを向いた。


 いつの間にか、脱衣所の扉が閉まっている。閉まる音さえ聞こえなかった。


「ま、真結ちゃん!? 真結ちゃん大丈夫!?」


 あわててリザリィが脱衣所へ行き扉を空けて中の様子を見ると、再び水の音が聞こえてきた。


 風呂場の中から真結の返事が聞こえ、リザリィは泣きそうな顔で俺の方を振り向く。


「なんかコワイ。なんなのこれ、超防音扉なの?」


「そのまま、閉めてみてよ……」


 リザリィがそっと扉を閉めるも、水の音が途絶える事はなかった。

 もう一度空けて、もう一度閉める。何も問題は無い。


「目を離したら駄目って事かな?」


「ぇぇええ? だからこういう説明がつかない事って嫌なのよ。地獄ってみんな怖がるけど、不可解とか奇妙とかは無いのよ?」


 俺とリザリィが首をひねっている間に、真結は風呂から上がり、頭にタオルを巻いてリビングに戻ってきた。


「何かあったの? 何回か呼ばれたけど」


「後で説明するよ……リザリィ、風呂に入っておいでよ」


「ダ、ダーリンって結構サディストなのね!? 今のこの状況で、リザリィに一人であの謎の空間にいけって言うの!?」


「何? 謎の空間?」


「説明はしづらいんだけど、あの扉が閉まると、お風呂に入っている音が聞こえなくなったりするんだ」


「ふぅん?」


 真結は髪の毛を拭きながら答えていたが、多分何もわかってはいない。

 単に相づちをうっただけだろう。


「きょ、今日はお風呂入るのやめようかしら」


「それは好きにしたらいいけど……お風呂に入ってる当人は、何も不思議な事はないんだよ?」


「そうなの、真結ちゃん? お風呂に入ってる時に不思議な事って起こらなかった?」


「あったよ」


「あったって言ってるわよ!?」


「だから、ひろくんとリザリィちゃんが真結の事を呼ぶから、何なのかなぁって」


「それ以外は?」


「なんにもないよ」


「わかったわ。お風呂、入ってくる。明日入れなかったら嫌だから。ちょっと二人とも扉の所まで来て。何かあったらコワイから」


 俺も真結も仕方が無いとリザリィに連れられて、脱衣所の所まで行き、中にリザリィが入るのを見送る。


 何も無い、大丈夫、とリザリィに言って、こちら側で扉を閉めた時だった。


「あっ……」


 その扉の隙間から、大きめのクモが這い出そうとして扉に挟まれた。



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