狂気
頭の中で霧が晴れてすべてが明確になった
あの島は人間なら誰でも一度はあこがれる夢を隠していたのだ
陳腐な言葉で言い表すなら永遠 誰にでも平等に降りつもる
時間を瓶に詰めて取っておけるなら誰だってそうするだろう
でもあの島の誰もが手に入れられるものではなかった
あの島では食物連鎖が異様なのだ
あの虫 島の住人はルビと呼んだ
毒々しいがある種の美しさを持った虫は死んで果実になる
それを食べて適合したものだけがその権利を得られる
権利を得るには、長い時間がかかるときもあるし あれの力を得て
凶暴になるものもいれば 体力を奪われて死んでしまうものもある
そしてそれは島の絶対の秘密だった
その点彼女は完璧だった 誰もが彼女の言うことに従ったのはそのためだ
彼女にはそれを操る力さえあった
自分たちが殺されなかったのはなぜだか彼女が自分を気に入ったせいだった
そして自分にもそれを進めた
もちろんよく考えれば異常な事態だということは分かる
あの時の自分は判断力を失っていた感覚的知覚について説明はいらないだろう
若いころの恋に付きまとう自分たちが一体になって 言葉を必要としない感じ
感情の周波数によって相手の何もかもとつながっているような感じ
そしてこの上なく美しい風景 優しい風が通り抜ける部屋で彼女は時折歌った
そして私はあれを食べた 断る理由はない 美しくとろりと発行した甘い果実を木のスプーンで
すくって全身がしびれ至福だった
あまやかな あまやかな 歌声 笑顔 頬を撫でる指と潮を含んだ海風
その時死んでいたらどんなに幸せだっただろう
だが異変はその夜起った