表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/14

日向

 長くなりそうですがゆっくりよんでください


 展開が遅いですが だんだん早くなる予定です

  ①日向


自分で言うのもおかしいけれど私は洞察力のある子供だったと思う


そして、それはたいていは裏目に出た

 

これから書くのはそのことで変わってしまった自分あるいは何人かの


人生でそれがいいことだったのか悪いことなのかわからないが


書くことによって少しはその重荷が下りればいいと思ったしどうせ


他人は本気にしないだろう

 

人は自分の目で見たことしか信用しない


でも見ているものがみんな同じものなのか確かめるすべはない


  霊感とかそういうことではなく目の病気や心の病気


そして悪意や先入観そんなことで物事は簡単に変わると思うが自分で見たことは


絶対的で誰もそれを疑わない

 

人間同士の信頼関係には感情だけではなくこういう気が付かない視覚のぶれが


大きくかかわっていると思っているが 自分が見たことはあまりにも常軌を


逸している

 

でもあれは確かに起ったことで 今でもあの湿った空気やほこりっぽい


匂いそしてがさがさと動いていた葉の音

 

今でも夢に見るし昨日のことのように思い出せる


② 咲


私の名前は咲 3つ年上の姉は日向


挿絵(By みてみん)



私はもうすぐ中学校の二年生になる

 

私たちは大学までエスカレーター式の学校に行っている


私は今大きな紙袋をもって歩いている中身は食べ物


れを叔父さんに届けるのだ

 

私は叔父さんが大好き 世の中で一番好きな人しれない


叔父さんはいつも面白い話をしてくれるし世の中のことをいろいろ知っている

 

両親がいろいろいうのは正しいと思えないことや理不尽だと思うことばかりなのに叔父さんが言うことは


わかりやすく押しつけがましくもなく頭にするする入ってくる それはきっと正しいことだから・・・・

 

それに世界中に行っていて楽しい話をしてくれる


今は 椅子に座ったきりだけど若々しくてハンサムだそういう話をしてくれる時は


瞳にうっすらと静かな生気がともり私は映画を見ているような気分になる


だからこの役目はとても嬉しい

 

そんな叔父さんを姉は怖いと言う


「 何が怖いの?」私は心底不思議に思って聞いた


「あなたは何とも思わないの あんなくらい部屋に座ったきりでもうもう何年も


   私は姉の言っていることがよくわからなくなる 


「 いくら家から出なくても叔父さんは大人なのだしなんと言ってもお金持ちで家


だって自分で建てたんだから問題ないでしょう」そう叔父さんには何の問題もない


 

話し合いは堂々巡りになるのでやめた


姉ただ臆病なのだ


ただそれだけのこと 


でも姉は学校では人気者でいつも彼氏がいた


 たいてい目立って体が大きくて正義感が強いか、不良ぶった男の子の両極端


要するに保護者が欲しいのだ でもそのおかげで私はくだらないいじめにも会わなかったし


しつこく付きまとってくる男の子を追い払ってもらったこともある

 

それにこの被害妄想の一番の特典は叔父さんの家に食料を届けにいくのが私の役目になったのが嬉しい

 

叔父さんの家はつる草だらけになってしまって気を付けないとどこがドアかわからない

 

そういえば叔父さんが年を取らないことさえ姉は怖がる


「私は 見るたびぞっとする 昔と一つも変わらないんだから何一つ変わらない姿で座っているのよ」


「それはいいことじゃないの」私が言うと「お父さんより年上なのよ」と言う


そこで私は笑いそうになってしまって黙った

 

お父さんとは違うまるで違う  お酒も飲まないしあんなに遅く帰ってこない


それからそんな議論もやめた

 

姉も言わなくなった


私と姉もまるで違うのだ

 

ガサガサ、ツタの絡まった扉を開ける建物もツタでいっぱい 建物の横の小道のも


植物が屋根を作って蛇行している

 

都心なのでビルがいっぱいだが、ここは誰も気づかないし入ってこられないだろう 

 

秘密基地 秘密のお城 


<i262864|19>


奥には 南京錠のかかったドアがある


ドアを開けて真っ暗な階段を下りる時はいつもドキドキする

 

昔 叔父さんがよくしゃべっていた子供のころ

 

面白いと言っていたレベッカという映画を思い出す


白黒だし長くってよくわからなかったけど覚えているのは階段と肖像画と


それから船の中でレベッカは夫に突き飛ばされて頭を打って死んでしまったということレベッカが


いつまでも笑っているのでおかしいと思った夫がさわったら死んでいた 

 

レベッカは悪い人だったらしけど綺麗でお菓子みたいなかわいらしい服を着て笑っ


たまま海に沈んでしまった

 

子供なりになんて素敵なんだろうと思った


姉は馬鹿にしたように「あれは 怖い話なのよ」なんて言っていたけど

 

子供の時見たイメージが美しく膨らんでしまってもう一度見る気にならない

 

レベッカはきっとまだ海の中で笑っているかも そう思っていたほうが楽しい


暗い階段を下りておいてあるマッチを擦る


古ぼけたランプを持つとまた胸がドキドキした


何かやわらかいものが足に当たってカサコソ小さな足音を立てる

 

「パフ」小さなこえでよぶと 暗がりから 「にゃあああん」と声がした


パフは勝手に住み着いてしまった猫だがこげ茶と黒で背中だけ粉砂糖


をふりかけたみたいに白くなっている

 

叔父さんがパウダーと呼んでいたが呼びにくいのでパフになった


とてもしなやかに動くここはひんやりとして暗くって海の底みたいに


静かだが パフだけが太陽の匂いがする

 

パフの為に持ってきたキャットフードもあるので歓迎してくれるのだ


パフと私だけが自由に外と中を行き来できる


この頃両親はいつも出かけていて 咲も帰りが遅い



「叔父さん どうだった」 「変わらない」


 咲は甘いものばかり食べているのに痩せて背ばかり大きくなった


髪も肌もサラサラしている


でも一番気になるのはまだ14才なのに喜怒哀楽がない 怒りっぽくなったり


急にはしゃいだりそんな感情的な部分がない


この年に独特の不安定さや危うさがない代わりに


つまらないことで笑い転げたり泣いたりするような


明るさもない 暗さもない


限りなく無味乾燥な感じがする


私の視線に気づいて咲が顔あげた


「なんで 叔父さんがそんなに怖いの」何度目かの質問


特に理由はつけられない 完全に直観的なものなので説明できないので


 「特にないんだけど」と言ったあと


叔父さんからもらったお土産から出てきた 虫の話をした


  とりあえずきっかけはそのことで、そのあと叔父さんは急に変わってしまった


咲は珍しく熱心に話を聞いた うなづいたり笑ったりもした


「それは 別に毒なんてないわよ」


「でもあんな色の虫初めてみたのよ」


「南国やジャングルでは何もかも派手になるのよ スズメの代わりがセキセイインコの国だってあるし そ


んな理由だったの」咲がぱっと花が咲いたように明るく笑った


そんな顔を見るのは久しぶりでちょっと嬉しかった


「でも 叔父さんが歩いているの見たかったなあ いいなあ」やっぱり叔父さんのことしか頭にないらしい


「 叔父さんまだ座ったきりなの でもなんで急にツタだらけになったのなんで電気をつけないで真っ暗な中


にいるの」私は聞いた


「ツタは生命力が強いのよ それで怖くなったの 植物は何もしないしただ生きているだけなのに・・・・」


「そういうわけじゃないけど」咲は考えこむような顔でいる



 咲は言ってそれきり黙って食器を洗い「ごちそうさま」と言って


自分の部屋に入ってしまった


一人になって咲は思った


 虫というのはルビのことね  あれは本当は虫ではないのに


でも秘密 これはおじさんと私とパフだけの


 あれがどんなに綺麗に変わるか見せてあげたいけど大騒ぎされたらいやだもの


咲はベットに寝転んで真っ赤に輝く宝石たちを思った


 あれの美しさがわからないなんてなんて不幸なのかしら


姉のことを少し気の毒に思った



③ 叔父さん


今日はいくらか気分がいい


 静かでまったく人気がない こういう朝にはどうしても昔を思い出してしまう


クジャクの豪奢な羽のように色彩が広がり欠局あの浜辺に流れ着く


 あのころはたくさんの願いがあり私はそれをかなえるため努力した


商社に入りエリートと呼ばれたが 


 自分がなりたいのはエリートではなかった


 いろいろなところに行き 世界のすべてを見たかった 


それだけが望みだったが今は間違っていたとわかる


 見てはいけないものが触れてはいけないものが世界にはあるというのが


よくわかる  でももう遅い 


  遅すぎるがまだしなくてはならないことがある 


色々な国の空気は覚えている 


 人間というのは最後に残るのは触感なのか


顔を打ったいろいろな空気は覚えている 冷たい風 暖かく優しい風 


 あの島のムッとする気配


インドネシアは1万3000以上の島で成り立っている


 あれは休暇だったのか時間が余ったのか


タフで貪欲で若かった自分はいけるところまで行きたいと思った


 語学には堪能だったが日本より細かい島で成り立っているこの国は方言がひどく


て島ごとに言葉が通じなくなるのでガイドを雇った


 ほりの深い哲学的な容貌で髪は真っ白だったがまだ四十代だったっと思う


 名前はイムと言った


笑うとクシャとしわが寄って人の好い顔になった


 彼のことをあまり考えたくない 最後に聞いた声を


思い出すと今でも震えがくる 時には涙ぐんでしまう


 本当に気の毒なことをしたと思う

 


もとは日本人のガイドだったようでかなり流暢な日本語をしゃべった


 現地で買った地図には聞いたことのないような島がたくさん載っていた


毎晩それを見ながらわくわくした


 もちろん危険な個所もある


今のようにテロはなかったが毒のある動物


 信じられないような大きなトカゲや鰐 植物 人間のように大きなウミガメ


 海の中に生える低木は水中の横に根を張り水中で繁殖する


たいていは鋭い棘を持っている


 ボートはつけられないし泳いでいくこともできない


もちろん人も住めない


 そんな島もたくさんあった


  色々な植物は繁殖力が強い  


大きな動物や色とりどりの鳥たちに気を取られてそんなものに気が付かなかった 


植物と動物の間にあるもの


 がさがさと音がして我に返った やつらが目を覚ましている


金縛りになるような耐え難い憎しみを込めてこちらを見ている


すがすがしい海風それが急に腐臭に変わったような気がした


 これは本当に起っていることなのだろうか


ぼんやりと赤い種を見ながら考える


  赤く赤く視界が赤くなる


 こいつらは最初はただの虫だったはずだ


死んでから本領を発揮しているのだ


 最近は硬直しているようにずっと椅子に座っているようになった


両手は死者のように胸の前で組む


 そして自制心


 それだけが私にできる防御だ


 人生というのは一般的に言って思ったようにはいかないということは


よく聞いた


 でもこれは恐ろしい冗談としか思えない


これは罰なのか 若者特有の残酷さの為にしてしまったことの 


 それにしても長すぎる 時間が止まってしまったように感じる



 あるとき船で小さな島へ通りかかった


海の一部はバターを溶かしたように薄く黄色に見えた


 海の中に白く尖った木が生えているとイムは言った


だが反対側に回ると信じられないほど透き通った美しい浜になっていた


 地図を見たが載っていない島でイムもこんなきれいな海は見たことがないと


言ったほどだ


 たぶん無人島だろうとイムは言った


その時かすかな音が聞こえたガムランの音だった


あの音さえ聞こえなければもっと人生は単純になっていただろうか


  叔父さんの家から帰ってぼんやり座っていると


 姉が帰ってきた


「何でもないわ ご飯をたべていて」日向は咲を見た


色が白く髪はサラサラで美しいがどう見ても体に合わない


擦り切れたみすぼらしいパジャマを着ている


 「ねえ、パパとママはどうして帰ってこないのかしら?」


不意に咲が言ったとき涙が出そうになった


 自分は理由を知っているが


 なんといっても咲は14歳だ


 世話をしてくれる人のいない咲は自然に料理が上手になったが


一人の時は甘いジャンクフードみたいなものばかり食べている


着ている最後に母親が買ってくれた 


 パジャマは小さくなってしまってどう見てもサイズがあわない


 学校の成績がいいのも裏目に出ている気がする


成績さえ良ければ両親は何も言わないからだ


不意に自分がどんなに無神経であったか、勝手だったか悟って涙が出そうになった


「どうしたの」先が聞いた


「ねえ、洋服を買いに行きましょうよ」


「それならほしいものがある」


 「本当に?」

少し安心した、欲しいものがあるって聞いて 若い娘が欲しいものがないなんて


おかしいもの


 「なんでも言って」


「ありがとう 大好きよ」咲が見たこともないようないたずらっぽい笑顔を見せ


て笑った


 ほんのつかの間私たちは心が通じ合ったと感じた


「おねえさんスマホって持ってる?」咲が不意に言った


「あの ネットとかで買えるみたいなんだけど」おずおずと咲が言った


咲が欲しがっていたのはバレエの衣装だった


聞けばクラスでバレエを習っている子がいてその子が見ていたカタログで見たのだそうだ


「素敵」思わず咲は言ってしまったらしい


言われたほうもびっくりして振り返った


 咲は顔が赤くなるのを感じながら「ごめんなさい あんまり綺麗だったんで・・・」とうつむいていった


「そう」言われたほうも面食らったように言って


「でもこれは 脇役の衣装なのよ」付け加えた


「そっちの 短いのより断然上品だと思うけど・・・・」咲はまだ赤くなりながら言った


その子も気がよくなったようで椅子をすすめていろいろな衣装を見せてくれた


「バレエの衣装が欲しいの?」日向は驚いていった


咲はうつむいて


「ほんとは 習ってみたかったの でも10歳までじゃなきゃダメだって」


そういえば 咲の周りはみんな習い事をしている


叔父さんのところにばかり行くのも咲だけが自由すぎるのだ


「 そうね 買いましょう」と言うと咲がぱっと顔をあげて言った


「いいの」 「その代り その格好で表を歩いちゃだめよ」というと「まさか」といって笑った


つられて自分も笑った そのほかにもいろいろ必要だ


笑いながら日向は両親と話をしなければと思っていた


⑤母親


ママは もうあまりうごかない


時々おもいだしたようにもぞもぞ動いて何か言いたげにしている


「大丈夫」と言ってあげる


小さい時はあんなに優しかったのにいつから私に興味を失ってしまったの


   私は今も大好きよ ママ


  だからずっと一緒にいたい


パパは初めての恋人だといったのに いつから変わってしまったの


隣でもぞもぞ動いて私をにらみつける男


安っぽくて醜悪で 本当は蹴り殺してやりたかったんだけど靴が汚れるのでやめた


代わりに指の先だけ思い切り踏んづけてやった


心は突如として攻撃に出る


もっと何かしてやろうと思ったとき 「にゃあああ」と声がしてパフが入って来た


その声とともに心の重みが消えた


今日はピカピカに磨いたような晴天で 叔父さんのために 昨日一日かかっ


て スープを煮てきたし パフの好きなささみも軟らかく煮てきた


 もうわかっているらしくパフは長いしっぽをゆらゆらさせて私を見ている


   それだけで幸せな気分になった 


焼きたてのパンもある果物も買ってきたし きっとキラキラした一日になるだろう



 ⑥アユーラ


 また光彩が広がって私は海岸にいる


砂浜には波の後だけがある  奥のほうにジャングルのような林がある


 この世のものとは思えない美しい光景


  「奥にいってみるか」と聞くとイムは考え深げな顔になって「用心したほうがいい」銃を装備しながら


と言った


 その時 またガムランの音がした この上なく優しい音


 誘われるように私たちは歩いて行った


 奥のほうには木でできた小屋があり 腰巻を付けた人々がいた


 彼らは友好的だった 例によって言葉はあまり通じなかった


   イムが持ってきた塩漬けのハムやパンを渡すととてもよろこんで歓迎してくれた


 そして私は出会ってしまった


 漆黒の豊かな髪はうねり、大きな目でまっすぐに僕をみながら


  ふっくらとした口元には欲望と勝利感がないまぜになった笑みが浮かんでいる


 混乱した頭の中でその姿が発光する


  死者は歌い問いかける


  (愛してる?) 恐怖を感じるとともに心が熱くなる

 

(ああ、本当に)  

  

(真実の愛に終わりはないわ)言いながら突如自虐的な笑い声をもらす


 それから はっとして目を覚ます 心臓がドキドキと売っている


  それでも私は彼女を愛し崇拝する  たぶんこれからも・・・・・


 ⑤ 父親


  父親が帰ってくるのが遅い


 帰ってくるまで姉が起きている


  帰ってくると 姉は下に降りて言って怒鳴りあう声がする


毎晩なので寝不足気味だ


  ある日あまり怒鳴りあいがひどいので下に降りて言って様子をうかがった


 突然 父親の声が怒鳴り声が聞こえた


 「捜索願なんか出せるわけがないだろう お母さんは男と逃げたんだ」


 何やら姉の叫ぶ声がして慌てて二階に引っ込んだ


 部屋のドアがバタンと閉まる


  「おねいさん」声をかけると姉が泣きながら私を抱きしめた


 「ごめんなさいね 聞いてしまったの?」


  「ええ」 


   でもそんなことはずっと前から知ってる


 姉をなだめてから下に降り降りて言った


 父親は お酒を飲みながらじろりと私を見た


  昔は 叔父さんによく似てハンサムだったのだけどすっかり太って


 顔もたるんでしまった 

  

 これが私の父なのかしら


 私は息を吸っていった


 「おねいさんには言わないでほしいんだけど」

  

  「なんだ」父は不機嫌そうに答える


 「お母さんのいるところを知ってるわ」


  というとむくんだ目が見開かれた


 しばらくたって父と私は夜道を歩いている


  なんでか気分が高揚してウキウキしてくる


 父と歩くのなんて何年ぶりだろう


 それでもってたぶん最後になるだろうけど 最近はいろんなことが気分がいい

 

 ぐっすり眠っておなかがすいて目が覚めたりそんなことの嬉しさを忘れていた


  父親が不思議そうな眼で私を見ている


 叔父さんの家に着くと「ここなのか」と仰天したように言った


  「そうよ 部屋がたくさんあるでしょう その中に隠れてるの」


  ツタの中をガサガサ歩いていく


   父親の中では違和感が広がっていく


  娘の顔は生気にあふれ 何かの喜びにあふれているように見える


   この子は散り際の桜のように弱弱しくはかなげな娘ではなかったか


  見知らぬ娘はツタの絡まったドアを開け自分を振り返った


 その顔は奔放で蓮っ葉に見える


  陰鬱な気分が強くなったが 「すぐ明かりをつけるわ」と咲がひそひそと


 言い自分の手を引いた


  現実感がまるでなくなってしまっていた


 かろうじてあったのは妻にたいする増悪だけだった


  その増悪に背中を押され二人で部屋に入った 


それから赤く光る何か問題はツタに絡まった黒ずんだものそれが人間だったことだ


それも長い間 見慣れた連れ添った妻だった


 よく見なければわからなかっただろう鼻はかけ顔はほとんど植物におおわれ見えない


 片方の目からは草が伸びていた


 隣にいる男も同じような状態だった でも本当に恐ろしかったのは二人がかすか


だが動いていることだった


 (まだ生きてる)思ったとき強烈な吐き気が襲ってきた


 が吐いている暇はなかった


  「大丈夫よ もう死んでるわ」振り返ると娘がキラキラした目で自分を見ていた

 

 全身が歓喜に燃え上がっているよう見える


  それから小さな小鳥が止まり木に移るようにぴょんと優雅に天井の近くまで飛び上がった


 と思ったらずっしりとした重みが頭頂部にかかり何かが折れるような音がして


 胸に重みを感じ 自分の体が吹き飛ぶのをかんじ壁に押し付けられるのを感じた


 それから何もわからなくなった


 咲は息も切らしていなかった


  「さよなら」とだけ言って扉を閉めた


 ⑥ 叔父さんと女神


 なんで

どうして俺なんだ という暇もなく私たちは抱き合っていた


 抱き合い ひっきりなしに笑いキスをして目の前にはひかりの弧が何度も飛び


交って至福の証明のように見えた


 彼女の岩でできた住居にはひっきりなしに果物や花が届けられ彼女はこの島の


女王なのだとおもいこんでしまった


 イムがやってくるまで・・・


 そのころ咲は バレエの衣装に着替えて鏡の前でポーズを取っていた


  こんなにもはっきり自分を自覚し満足するのは初めてかもしれない


 自分の腕に首に満足した


 初めて私は完璧な存在だと思えた


  今まで どんなににぎやかで華やかなところに行ってもなぜか疎外感を感じ た


 なんでだかわからないそんな必要はなかったのに「なああん」と足元で


 パフが鳴いた いけない 食事の時間を忘れていた


   餌を容器に移すとパフは満足げに喉を鳴らして食べた


 それから 叔父さんにも食事をもっていかないとトレイをもってへやにはいる


と 叔父さんは眠っていた


 顔にもあれができてしまったので 少し顔が歪んで見えるでも表情は穏やかだ


 トレイをおいて顔を膝に着けた


 「咲か」と言って叔父さんが私を見た


 「そうよ ご飯を食べましょう ご飯を食べたら体をふきましょうか?」


 「でもあれが増えてしまったよ」


 「私はきれいだと思うわ 全然気にしない」


 「おまえはなんでそんな恰好をしているんだ」叔父さんが言った


 学校での話をすると笑って「今からでも遅くないだろう」っと言った


 「いいえ 踊りには興味がないの この服だけ欲しかったのどう」


たづねると叔父さんは 笑うのをやめてぼんやりとした目になっって言った


 「ああ 女王のようにみえるよ」


 



 



 


 




 


 


 









 


 


 





 


 

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ