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規格外な紫丁香花

「よし、だいたい覚えた!」


 部屋の端にセットされた筐体から、絢音の声が響いた。操作は覚えたらしい。俺もいい加減お目付役に飽きて機体設計とかやっていたので、倦怠から目覚められてうれしい限りである。

 途中からはおかしな操作で自爆することもないだろうと、自分はログアウトして機体設計に興じていた。

「ずいぶんかかりましたねー。〈マルドゥック〉強襲型、支援型、空戦型、量産型等々この一日でバリエーションがすっごく増えましたよ……?」

「暇つぶしの機体設計にしては想像力に満ち満ちていたな……」

 おそらくこのうちの大半はARROWのサービス終了まで一度も使わないだろうけれど。デザインすることそれ自体を楽しんでいたといっても良い。

 やっぱりマルドゥックはそのままが一番だ。俺の長年の相棒であるし。


 昔々に見たマイナーアニメのロボットに、こいつは似ていた。勿論そのままでは使い物にならないので装備等々はイジってあるのだが――自身と若葉との相性よりも自分の好みを優先した機体だった。

 昔部屋に飾っていた〈マルドゥック〉によく似たプラモデルは、何かの拍子に無くしてしまったらしく、もう残ってはいない。


「さあ、勝負しよう! 巡、そっちの筐体に!」

「――絢音。逃げるわけじゃないけれど、もう五時間近く筐体の中にいるからやめた方がいい」

 昼に来て、もうすぐ夜だ。かなりの時間ここにいたことになる。どうしたって疲れはたまる。

「え?」

「気づいていなかったかもしれないけれど、かなり疲れがたまっているはずだ。帰り道に足腰立たなくなるぞ」

 そもそもARROWの筐体は独特な形をしているので、普段使わない筋肉を使うのだ。マニュピレイター等々の操作だって、結構筋肉を使う。

 男の俺でもキツい。ならば女性である綾音にとってはもっとつらいはずだ。それこそ、かなりの痛みがあることだろう。この体感アクションゲームは、若者の肥満率を改善させたとさえ言われているのだ……明確な根拠はないけれど。


「嫌だ」

「え?」


 思ったよりはっきりした声で、絢音は提案を断る。

 筐体の機密扉(風のもの)から出てきて、彼女はこちらを睥睨する。自分の予想とは違い、彼女はしっかりと自分の足で立っていた。俺の時は若葉に支えられたんだけどな。

「もう、これ以上どうしようもないことに思い悩みたくない」

 彼女の真意をできるだけ知りたくて、思考を巡らせる。

「……分かった。若葉、いけるか」

 そして、そう言っていた。バカ正直な彼女がそう言うんだ。本当に、辛いのだろう。彼女がいいのならば、俺が応じぬ理由はない。

「充電はたっぷりです」

 ならば、いつだって相手になってやろう。

「なら、良い。よし、一対一、フィールドの選択は俺がやる。もちろん、そちらに不利な選択はしない」


 公正な戦い方をするのならば、地上ステージで障害物が多くないところにするべきだった。宇宙やら海やらのステージもあるが、そんなところで戦闘すれば彼女は前にも進めなくなってしまうだろう。


「俺が勝ったら、何でも一つ言うことを聞いて貰う。俺が負けたら、若葉とのお出かけは自重する。それでいいんだな?」

「私は大丈夫。若葉は納得してる?」

「マスターの選択に従うだけです」

 緊張しているのか、少し堅い物言いになっていた。

「涼葉、行くよ」

「はい、マスター」




「マルドゥック、出撃する!」

「行きます!」


 ステージには『桜並木』を選ぶ。開けた場所であり、景色もきれいなのでそこそこ人気のステージだ。

 女性との対戦にはもってこいである。

 そこを駆け抜けていく藍色の愛機が俯瞰気味に移され、直後主観の画面にきりかわる。

 ムービーの終了と共に、膨大なデータが画面に表示された。

 戦闘、開始!



 敵機〈ライラック〉は戦闘が始まるなりビームライフルをこちらに向け、引き金を引く。

 だが、それは予想の範囲内。彼女はこういったことになると、とにかく早く終わらせようとする。だから初手での射撃は予想できていた。彼女の武装はライフルとサーベルのみ。奇しくもこちらとほぼ同じ。選択肢はそれしかない。

 対戦モードではないから彼女の声は聞こえないが、少しはあわててくれているだろうか?

 射撃を右前方に進路を変えながらスラスターで飛び上がり、回避。

「……っ」

 かなりの余裕を持ってよけたつもりが、相手のライフルが排出したエネルギーはすさまじく、極太の光線をすんでのところでよける形になった。斜線上の全てが灰になっているところを見ると、威力は申し分ないらしい。

「マスター、無茶な操縦は――」

 若葉がたしなめる。かなりの重力加速度が体の動きを制限する。疑似的なものであり、本来のもよりは軽減されているはずなのだが、アクロバットに近い進み方をすると負担はかなりのものとなる。

 しかし、それをしなければ速度の遅い〈マルドゥック〉に敵機との距離をつめることはできないのだ。

「ライフルを!」

 フットペダルを強く踏み込み、無理矢理空を飛びながら叫ぶ。

「はい!」

 若葉は言葉を途中で切り上げ、武器選択をライフルへと切り替える。ここで間違って〈AIH〉を使えば隙だらけになりやられかねない。

 再度の射撃。直後、〈ライラック〉が後退を始める。そしてそのまま連射を始める。

 ――連射速度が通常の比ではないな。武装が限られているのは、むしろ単に『少数精鋭』の形をとっているだけか。

「若葉、デコイ射出!」

 時期の後方からデコイ――相手のロックオンを外す機能のあるデコイが射出される。これをやられるとレーダーがあてにならなくなり、距離を積めやすくなるのだ。相手のレーダーの性能によっては無効化されかねないが、見た限りでは〈ライラック〉の索敵関係は最小限。惑わすことはできる。この距離では点程度にしか見えないだろうし、遠目に見れば殆ど分かるまい。

 ――が。ロックオンは揺らがない。ビームはこちらを狙いっぱなしだ。

「ビームライフルの性能が高すぎるのかもしれません!」

 特殊能力と言うしかないが、あのライフルは高性能のレーダーとして機能していると考えるしかない。

 強固なオートロックオン機能がその大本だろうか。それが索敵を不要にしている。

「目立った武装もなく、機体ポテンシャルを全て武器に回した結果だとでもいうのか――」

 ARROWはその性質上、武器も機体の一部としてカウントする。機体がシンプルだった分、ARROWの『ゲームバランス調整』で武器が異常なまでに強化されてしまったのかもしれない。

 さてはこいつ、武器の設計をオートでやったな。そうするとこういったアンバランスはよく起こる。

 ポテンシャルのほぼ全てを武器に回す――あまりにもピンキリな設定だ。

「こちらとお揃いですね」

 ……そうなんだよな、これが。馬鹿には出来ず、『相手にとって不足なし』と思っていた。

「舌をかむぞ」

 再び旋回。敵機の構造がしっかりと把握できるほどの距離にきた。

「若葉、外付けのブースターを!」

「はい!」

 外付けで付けてあるブースターを一気に点火。凄まじい加速。軽減されてなかったら終わりだろう。

 ――こちらには、二年の経験で考えられた考え抜かれた勝ちパターンがある。初心者との決定的な違いだ。

 だが、それにこだわりすぎるという欠点もある。


 二度ほど被弾し、機体の耐久力が削られる。だが、装甲は分厚い〈マルドゥック〉はこの程度では止まらない。

「この距離なら! 若葉!」


「AIH、行けます!」

 敵機が射程内に入り、『タメ』の分を考慮して距離を更に積める。

 機体の周りを緑色の粒子が駆け抜けていく。『タメ』をすると威力が少しあげられるのだ。その間他の武器を使えないという欠点があるが、元々この機体にはそれほど多く武器がないので問題がない。

「距離、400m!」

 着地。勢いを殺しきれずにスキーのような形で滑走しながら、敵機との距離を詰め続ける。

「消し飛べええええええええ!」


 発動モーションに入る。ここまでくれば、あとは2秒ほどで決着はつく。敵機の後退する速度を考えても、ギリギリ射程圏内を保てるはずだ。


 ――が、逆に敵機は後退をやめこちらにつっこんできた。


 は?


 次の瞬間、〈ライラック〉はビームサーベルを展開する。

 なんとまあ、とてもとても長い代物だった。

 え、なにそれ。ビームサーベルがそんなに伸びるのってありなの?

 直径にして、500m超はありそうだ。確かに、ビーム兵器が巨大化するようなことはロボットSFではよくあることだけれど……!



「間に合え!」


 こちらの『隙』が終わるのと、相手の切っ先が届いたその瞬間は、ほぼ同時だった。


 白い閃光に包まれた画面。直後のリザルト画面は――。

 思わせぶりすぎる終わり方ですが、ご勘弁。

 ライラックの武装はぶっ飛んだ性能をしています。マルドゥックは装甲や索敵、推進周りにも気を使っているので武器のポテンシャルだけ見ればライラックの方が上という設定です。

 初心者にありがちな残念機体です。


 あ、タイトルの『紫丁香花』はライラックの和名です。


 さて、どうなったのかは続きをどうぞ。


 全く関係ないですが、作者のモチベーション維持というかコンデンサへの充電のために、お気に入り登録をしてくれると嬉しいです。お願いします。

 そして、また別のアプローチをしているシリーズ他作品もお願いします。

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