若人は寒風に身を晒す(四)
テンは二回戦も危なげなく制し、ヤスも揃って準々決勝の三回戦に進んだ。しかしシムは二回戦で敗けた。立て看板の対戦表を確かめるまでもなく、当人が再びミアイの元を訪れてそう語ったのである。
試合数の多い予選から二回戦までが終了すると長めの小休止が入る。丁度昼時に当たるため、観客たちは食事をして冷えきった身体を温めていた。広場と領主館を繋ぐ森の通路や観客席の後ろには食べ物の屋台が出ており、そのどれにも長蛇の列ができている。食べ易い串焼きや塊を炙って少しずつ外側を削いだ薄切り肉、川魚を焼いた物などがあった。
特に人気があるのは領主からの振る舞いの一つ、温かい煮込みだ。石を組んだ即席の炉に乗せた大鍋の臓物煮は数日前から入念に、そして大量に用意されるが、いつもきれいに無くなってしまう。主な付け合せはやはり振る舞いの焼いた根菜類だった。
「ちぐじょぉ~、ぐやじい……」
シムは家畜の肉を噛み千切りながら愚痴を零している。羹の椀に口を付けるミアイと同席するのはシムだけではなく、もちろんカクとタカもいた。先ほど大きく損ねた機嫌を上向きにすべく、屋台の串焼きを手土産に持って来たのだ。
ミアイたちは当然ながら振る舞いも確保されているので、足りない分はどこかの屋台で買うつもりでいた。しかし、配給の手伝いが終わる頃には休憩時間もかなり過ぎており、ある物で済ませようと幕屋に戻ると、充分な量の昼食が待っていたのである。
タカに慰められながら自棄食いするシムを横目に、カクがスカッシュをミアイに渡す。縦に割ってから薄切りにし、断面に干した香草と塩を振って焼いた物だ。細長い縞模様のそれは皮まで柔らかくとても美味だった。筋っぽい物もあるがこれは当たりだったようで、外はこんがりと香ばしく中はほっこりと甘い。少々膨れ面だったミアイも表情を緩ませた。
「ちょっと味見したら旨くてな。きっと気に入ると思ったぜ」
得意げにもう一切れ渡されると、肩を竦めてカクに苦笑する。腹立たしいほど爽やかな笑顔が返って来たが、好物の誘惑に空っぽの胃袋は完敗した。ナナイも串から外した肉や野菜を受け取っている。スカッシュを齧りながら煮込みを啜っていたミアイは、ふと食事の手を止めた。
「テンとヤスは食事しない……のよね?」
「こっからキツくなるのに食べる訳ないじゃん。腹にイイのをもらったら中身が全部出ちゃうよ」
「え……? 二人はいつも少しだけ食べてるぞ」
「んん~、まあ、どうせ終わった後に食うから平気さ。明日は狩り番だし、しっかり食ってぐっすり寝るだろ」
次の不機嫌担当を引き受けたシムと、のんびりしたタカの態度は正反対だった。早く食べろとカクがせっつく。ミアイとしても折角の好意を無駄にしたくはない。火桶の炭で暖を取っていても身体は冷えていた。こってりした熱い臓物煮を食べているうちに手足がほかほかして来る。
食事もそこそこに試合に挑むテンはどんな気持ちなのだろうか。予選すら勝てないミアイには、緊張と重圧を想像する事しかできない。泣き言を吐き出してすっきりしたらしいシムは、食後の焼きリンゴもぺろりと平らげた。
「忙しくならない事を〈自然〉に祈ってるぜ。治療師さんたち」
気取って片目を瞑るカクと、あちこちに返して回る金串や皿を抱えたタカ。野次る気満々のシムがいなくなると、救護の幕屋は寒々しく感じた。
「この後も……、暇だと良いわね」
友人の言葉にミアイは黙って頷いた。
お目通しありがとうございます。紅月 実でございます。
皆様は『スカッシュ』という野菜をご存知でしょうか?
ウィンタースカッシュなどと総称されていますが、日本ではあまり聞かないような気がします。
ちなみに不勉強の紅月は今回冬野菜を調べていて初めてこの単語を知りましたが、何のこたぁない、カボチャのコトです(ぁ)。
海の向こうでは冬場に色も形も様々なカボチャがお目見えするようです。
日本のカボチャはホクホクしていて甘いイメージですが、種類が違うので味も異なるみたいですね。
ウィンタースカッシュに分類される中に金糸瓜なんかもありますね。
半割りにして種んとこ取ってがっつり茹でたらスプーンの出番。
ざかざか削ると繊維状の身が削れるユカイなアレです(笑)。
味が薄いんで削ったミにパスタソース掛けたり、マヨネーズで和えてサラダにしたり。
カボチャ好きのミアイが今回食べてるのはデリカータという、長さが2~30センチくらいで細長いスイカ模様のスカッシュです。
焼くと甘みが際立つので、ベイクドサラダは美味しいとか。
ウィンタースカッシュの中では一番日本のカボチャに近い味わいらしいので、ぜひ食してみたい!
ハーブソルトとチーズ乗せただけのお手軽グラタンもいいなあ(ジュル)。




