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凍雲に舞う  作者: 紅月 実
第三話 若人は寒風に身を晒す
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若人は寒風に身を晒す(二)

 広場へ行くついで・・・に立ち寄ったシムとヤスを始めとする面々は、幕屋の隅に居座って女子の部の大詰めを観戦していった。組衆でも贔屓はできないと断るミアイと、それに喰い下がるシムとカク。そうして説得に手間取っているうちに試合が始まってしまい、声高に応援しようとしたシムとカクに「せめて静かにしてよ!」と叫んだのが運の尽きだった。

 「後悔先に立たず」とはよく言ったものだ。ミアイがはっとして口を押さえた時には、時間稼ぎに成功した二人が敷物に陣取っていた。にんまりと示し合わせるのが憎らしく、半泣きで睨みつけてもどこ吹く風だ。遠慮して立ち去ろうとしたタカとヤスを呼び止めたのは、南寮から選手に付き添って来たナタリアだった。男四人をまとめて衝立の奥に押し込め、更に「騒がないなら今回だけ内緒で」との一言も忘れない。


 恐縮して謝っていたミアイもナタリアと共に椅子代わりの低い寝台に腰を下ろすと、すぐに白熱した試合に見入る。本戦は二本、準決勝からは三本先取で勝ちだ。技量は元より精神力や駆け引きなども必要になる。

 決勝はタニヤとマイネの対決となった。体術の腕はマイネの方が僅かに勝っているようだった。しかし、タニヤは常に冷静で怒涛の連続攻撃に耐え、マイネの焦りを着実に捉えた。

 健闘を讃える拍手が贈られる中、優勝したタニアと二位のマイネ。そして惜しくも、準決勝で彼女らに敗れた二人も含めた四人の女衆がテスの前に跪いた。表彰は男子の部と共に行うので今は言葉を掛けるのみとなる。穏やかな表情の青年は彼女たち一人一人を労った後に寛いで待てと締め括った。


 ナタリアが救護の幕屋へいざなうと彼女たちも大人しく従う。治療師としての地位はミアイと同じでも経験豊富な先達で、年齢もこの場の誰よりも上である。寝台の前に衝立を置き、陰で一人ずつ診察する間、ミアイとナナイはその手伝いだ。

 勿論、ぬくぬくとしていたシムたちはとうに消えている。ずっと誰かが幕屋テントを訪れるのではと冷や冷やしていたが、ナタリアに迷惑を掛けずに済んで良かったとミアイが思っていたのは言うまでもない。

 別の衝立で視界を遮った場所を作り、湯に浸して絞った布を皆に配る。汗や土埃をきれいに拭うとさっぱりしたようだ。診察を終えた彼女たちには勝者の特権として本部の一隅、領主の天幕横に席が用意されていた。


「誰も酷い怪我をしなくて良かったわ。子守りありがとう」

 幸運にも今の段階では骨折などは無かったが、用意しておいた大量の湿布薬を使い切るほど、彼女たちの身体は青痣だらけだった。〈祝福〉で強化された肉体といっても所詮は生身。そのくらいで済めば御の字だろう。

 早速石の鉢に数種類の薬草を入れてり棒で潰す。ナタリアは膝に抱いた息子をあやしながら、二人の作業を監督していた。そうこうするうちに瞬く間に時間ときは過ぎ、審判の一人がナタリアを呼びに来た。この後広場の救護を監督し、上位四人が出揃ってから再び館前に戻る事になっている。


 ナタリアを見送った二人の耳に鐘の音が届く。村の入り口にあるやぐらに設置された鐘を使って広場の試合を告げているのだ。長い一音の繰り返しは一回戦一枠目、くじでは十三番と十四番の対戦を示していた。枠の数だけ続けて鳴らし、それを五回繰り返す。

 鐘の合図が終わると続けて太鼓が音を響かせた。こちらも一回戦一枠の報せだが、領主館前の合図は太鼓を使うので区別が付く。いよいよ始まる男子の本戦を、ミアイとナナイは緊張した面持ちで迎えた。

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