閑話 ~ヴェネと猫チビ
今回は会話が多目です。
この話は、前線組が王都ルトマーに辿り着いて、数日後の話である。
おっす!僕はウォーレン、武器・防具職人のPC生産者さ!腕の方は、PCでも上の方だと思うよ。お陰様で、贔屓にしてくれるPCも多くいる。最近の目標は、オムツを作ることかな!作るにあたって、必要になるであろう〈調合〉と〈裁縫〉をGET!目標に向かって努力する僕は美しい!
因みに、もう一つ目標があるのさ!それは同じPC生産者・・・だと思うけど、ティルさんの域に近付くこと。ティルさんは、βテスターからの流れでやっている僕と違って、初心者で始めたPCの人。初心者なのに、生産上位と自負していた僕を含めたPC生産者を、フツーに抜かしていって現在の生産トップ!フツーは秘密にする重要な情報も、僕達に教えてくれるナイスガイな人なのだ!惜しむならば、凶悪な顔に圧倒的な存在感、リアルは族の頭かヤクザの若頭、絶対に一般人ではないと思うその容姿だ。・・・そんなティルさんの域に達する、もしくは近付くってのが目標さ!決して、ティルさんを悪く言っているわけじゃないよ!これ、重要!!
さっきも言ったけど、ティルさんを悪く言っているつもりはない。言っているつもりはないのに、何故か僕がティルさんの悪評を広めている。・・・そう、噂されるようになったのだ。ただ僕は、マフィアっぽい、企んでるっぽい、悪い笑みを浮かべてる、恐い人とつるんでる、・・・そんな感じのことを言っただけ。悪口なんてとんでもない!悪そうな感じがカッコいいじゃん!ちょい悪どころか、極悪。女の子を侍らせてるらしいし、生産ギルドを牛耳ってるらしいし、殺戮マシーンみたいだし、・・・ヤベー!超ヤクザ!!カッケー!!そんなわけで、僕はティルさんを目標にしているのだ!この童顔でチビな僕も、いずれはティルさんみたいな大人の・・・・・・ムフフ♪
そんな僕はピンチな状況。これほどティルさんに憧れ慕っているのに、ヴェネさんにこの身を狙われているのだ!ただただティルさんの話をして、極悪イケメンに憧れる仲間を増やそうとしただけなのに!世知辛さを感じるよ、世の中不条理だ!だが、そう簡単に捕まる僕ではない。僕は生産者だからね、逃げる為の装備は作ってあるのだよ!わははははは!ヴェネさん敗れたり!
僕の作ったこのマントがあれば、逃げ切れること間違いなしなのだ!
〔逃亡マント〕何で作ったのか、どうやって作ったのか分からない謎のマント。逃げることを前提に考えた凄いマントである。 DEF+2(特殊効果:〈隠密〉〈逃走〉の効果を与える・LV50以下装備不可・AGL80以下装備不可・DEX70以下装備不可)【ウォーレン専用】【製作者:ウォーレン】
逃げる為だけのマント、これを装備すればイケる。ヴェネさんに捕まることはない、・・・早速装備だ!
『装備することが出来ません。』
何だってぇぇぇぇぇっ!!何でさ!僕は慌ててマントをもう一度、じっくり見る。
・・・・・・・・・なんじゃこりゃぁぁぁぁぁっ!!LV50以上じゃないと装備出来ないの!?AGL80以上、DEX70以上!?ダメじゃん!僕装備出来ないよ!LV40以上足りないよ!?よく見ると僕専用だし!売ることも出来ないんですか!?今の僕には扱いきれないよ!どうすればいいんだ・・・!・・・・・・感じるな、考えろ!!
僕は必死に考えた。考えに考えた結果・・・、
バタンッ!!
「ガサ入れだ!覚悟しろ猫チビ!」
「イヤァァァァァッ!犯されるぅぅぅぅぅっ!!」
「爆裂シュート!」
ガンッ!
「あべしっ!!」
突然、乱入してきたヴェネさんに蹴られた。意外に優しく、ソフトな蹴りなんだと思う。でも悲しいかな、雑魚の僕には大ダメージだ。体力満タンが、一撃で瀕死に。
「さぁ行こうか猫チビ。ヴェネちゃん流のオシオキに!」
瀕死の僕は、呆気なく簀巻きに。ヴェネさんに担がれて、生産ギルド王都ルトマー支部から拐われた。・・・・・・・・・考えようによっては、美少女のヴェネさんに拐われるって萌えると思う。・・・ガクッ!
――――――――――――
私は今、私的A級戦犯である猫チビこと、ウォーレンを移送中なのである。所詮は猫チビ、女の私でも余裕で担げる。さっきまでモゾモゾ動いていたが、今は大人しい。気絶したか、諦めたか。あのまま動いていたら、ワンパンで黙らせるつもりでいたけど、・・・命拾いしたみたいだな。この猫チビは、私の愛するあんちゃんを悪く言う異端者なのだ。故に捕らえて、オシオキをする。・・・命までは取らない私の方に感謝してもらいたい。本当ならば、打ち首獄門。殺るのは簡単だが、殺ってしまっては私に得がない。・・・考えた結果、オシオキという名目で囮作戦を実行しようと思う。ククク・・・猫チビよ、私の・・・私達の糧になるがいいわ・・・!!
ズベシャッ!
「ふぎゃっ!」
ぁぁぁぁぁっ・・・!痛い痛い!顔からいったよ、盛大に顔から着地しちゃったよ!せっかくさっきまで、ちょっとシリアスにキメてたのに台無しだよ!誰だぁ~!私の道を阻むバカは足を引っかけたバカはぁ!・・・ガルルルルルッ!!
「お前、本当に拐ってきたのかよ・・・。犯罪者になる気か?」
「私のせいでヴェネが犯罪者に・・・。さぁ、自首しましょう。」
私を見下ろす二人、仲間のバルバロッサとクイナ。この二人が私の邪魔をするのか!なんという裏切り!仲間だと思っていたのに、信じていたのに・・・!
「・・・何するか!裏切り者めが!」
私は見下ろす二人を睨み付ける。・・・すると横から気配が!そっちを見ると・・・、
「ヴェネ?私の言いたいことは分かりますね・・・?」
我らが大隊長のJunがいた。その後ろにはザッシュとヴィエ、私のPTメンバーだ。苦笑いをしている二人、・・・・・・Junは優しい笑みを浮かべてる。ついでに青筋も・・・。ヤバイ・・・怒っていらっしゃる。Junは怒ると恐いのだ、あんちゃんの次ぐらいに。・・・さっきまでの高揚感というか、拐った達成感が一気に無くなった。こうなっては仕方ない、奥の手を出すしかない・・・!私は瞬時に起き上がり、Junに飛び掛かる。そのまま足にすがり付き・・・、
「ほんの出来心だったんだよ許しておくれよJun~!!」
謝り倒すしか方法はないのだ!私にはプライドなんかない、許してもらえるなら土下座もする潔さ!だから許しておくれJunよ。
「・・・・・・耳そぎ。」
優しい笑みのJunが、私の耳にチョップを繰り出した・・・。
「耳がぁ、耳がぁぁぁぁぁっ!!」
私は、耳を押さえてのたうち回る。耳そぎチョップは地味に痛い、しかも私は魔族なのである。耳は大きめで敏感なのだ!そんな私に耳そぎチョップとは・・・Jun、恐ろしい子!恐ろしいと言えば、このF.E.O世界もそうだ。敵との戦いで受ける攻撃は、さほど痛くはない。何かにぶつかった程度の痛さでしかない。たまーにもうちょい痛い時があるけど、予想範囲内のモノでしかない。だが、どうでもいいような痛みはリアルなのだ。足の小指をぶつけた時、その痛みはリアルとほぼ同じだった。悶絶モノなのである。くだらない痛みをなるべくリアルに・・・って、運営は性格悪いよね!そのリアルの痛みを、一日一回は体験する私の身になってほしい。・・・そんなわけで、ただいま悶絶中。うぅ~・・・痛いよぉ・・・!
悶絶から復活した私は、這いつくばって様子を窺う。・・・簀巻きにした猫チビが救出された、なんてことだ!私の計画が・・・。
「ウォーレン無事か?・・・意識がないな。・・・ヴィエ、ポーションでもかけてやれ。」
「はわわわわ・・・そそそそうですね!」
意識のない猫チビを確認すると、ザッシュはヴィエに回復を頼んだ。なんつー余計なことを!ヴィエはあわあわしながら、回復薬を取り出し、
「えいっ!」
の掛け声と共に、投擲ポーションらしき物を猫チビの顔にぶつけた。
「・・・・・・んがふぅっ!?げふぉっ!ごふぁぁぁっ!!」
猫チビが回復して意識を取り戻すも、顔面投擲薬でむせる。・・・そりゃまぁ、そうなるよね。顔に似合わずヴィエって酷い娘だ。みんな『ないわー・・・。』って顔でヴィエを見ており、ヴィエはあわあわしてる。・・・とりあえず、猫チビ誘拐作戦は失敗したみたい。しかし、私のオシオキで得作戦は必ず実行する!そんなわけで・・・、
「ヴェネちゃん復活!」
私は飛び上がって起き上がり、復活をアピールした。
・・・・・・私は正座中、お説教をされているのだ。猫チビが、悪評紛いのことを流したのは許された。猫チビ曰く、悪評を流したつもりはないみたい。だから今後は、流すつもりはなくても控えるようにと判決がなされたのだ。言い方には気を付けましょうってこと、・・・なんて生温い!せめて市中引き廻しぐらいはやらないと、私の心は満たされない!私がそれを主張しようとすると、
「因みに、この判決はティルの判断な。ウィスパーで聞いたら、『そんなくだらないことどうでもいいわ!・・・とりあえず、言い方に気を付ければいいんじゃないか?俺も口が悪い方だしな。』とか言っていたぞ。そんなわけで協議の結果、この判決な。」
バルがそう言ってきて、私は黙った。あんちゃんの判決なら、文句を言えるハズもないからね。あんちゃんは、優しいなぁ~♪・・・でも、私の作戦は実行するもんね!あんちゃんが許しても、私が許さないもんね!
猫チビ判決後、Jun達のありがたいお話をイチジカンぐらい聞かされた。落ち着きがないだとか、すぐケンカするだとか、行動が大袈裟だとか、犯罪者予備軍だとか、バカだとか、散々言われた。バカと言ったバルと、取っ組み合いのケンカになったけど。・・・まぁそんなどうでもいいことは置いといて、くだらない話は終わって解散したわけなんだけど・・・、
「猫チビ・・・お話があるんだけどなぁ~♪」
Jun達と別れる時に、小声で猫チビを引き止めた。猫チビの奴は、
「ひぅっ・・・!」
ビクッ!と固まった。べっつに取って食うわけじゃなし、そんなにビビらなくてもいいんだよ?
Jun達がいなくなってから、猫チビを路地裏に連れ込んだ。そこで私は、オシオキで得作戦の内容を猫チビに教える。猫チビは、
「僕は無罪を勝ち取ったのに、なんでオシオキされなきゃいけないのさ!嫌だ嫌だ、モンスターの餌にされるなんて!トラウマだよ?トラウマになっちゃうよ!?そんなことになったら、確実にチビるぞ大変なことになるぞ!主に僕が・・・!!」
わけの分からないことを喚き出した。なんだよー、囮ぐらいいいじゃんかよー。市中引き廻しの上、打ち首獄門じゃなくなったんだから、感謝の一つもしてもらいたいよ!ちょっと大平原に放置するだけじゃんか。モンスターが集まってきたら、ヴェネちゃん登場からの無双!レベルアップと素材でウハウハになる。完璧な作戦じゃん!それを嫌がるなんてとんでもない奴だ、私の血となり肉となることを光栄に思うべきだよ。
「僕にメリットがないよ!僕にも何かしらの恩恵をくれないと、囮になんかならないぞ!トラウマと死に戻りしか得られないなんて、ヤダヤダヤダヤダヤダ!!」
「いいから私に従いなさい!」
「ティルさんに言いつけるぞ!」
「・・・チッ!卑怯な!」
コノヤロー、足元見やがって!私が、あんちゃんに逆らえないと知っているな!バルあたりが教えたに違いない、余計なことを・・・!ぐぬぬ・・・こうなっては仕方ない、猫チビにもいい思いをさせるしかないね。
私は笑顔で猫チビに近付く。猫チビはかなり警戒しているみたい、・・・今回は何にもしないよ?猫チビの耳にそっと囁く。
「・・・しょうがないから、猫チビにもいい思いさせてあげるよ。」
「本当に?騙さない?」
騙せるハズないじゃん、これで騙したらコイツはあんちゃんにチクる。確実にチクる、そんな危なすぎることをするわけがない。ヴェネちゃんは、自分の身が可愛いのだ!
「猫チビが囮になって、倒せた敵の素材を半分あげよう。・・・後、猫チビって弱いよね?ついでにレベルも上げてやんよ。」
「・・・素材を半分かぁ。レベル上げもしてくれるの?僕って自分で言うのもなんだけど、戦闘センスが全然ないよ?草原で半殺しにされる可能性が高い男だけど、・・・イケる?」
雑魚だとは思っていたけど、とんでもない雑魚だなコイツ!草原で半殺しって相当だよ?狼に遭遇したら、私でもちょっとキツいけど。
「・・・スライムじゃないよね?」
「スライムには勝てるよ流石に!イシュタムじゃあるまいし!僕が負けるのはそれ以外だよ、・・・ホーンラビットに圧勝するのが目標さ!10戦2勝6敗2分けだからね!目を閉じれば思い出す死闘の数々・・・だね。」
なんちゅう雑魚だ!こんなんじゃレベル上げも出来ないんじゃない!?うーん・・・、
「猫チビさぁ・・・、さっきの話はナシってことでいい?フツーに囮として死のうか。」
「せめて全部ナシにしようよ!僕を解放してよ、ねぇ!囮も何もかもナシで・・・。」
「あんちゃんが許しても、私は許さないもんね!・・・因みに、あんちゃんにチクったら永続的にイジってやるんだから!」
「何ぉう・・・!だったら永続的にチクってやるぞ!二人で地獄に落ちることになるぞ!」
不毛な言い争いが,しばらく続くのであった。
よく分からない言い合いをして、なんとかお互いの言い分をまとめることが出来たヴェネちゃんはエライ!
「明日までに何とかしてよね猫チビ!逃走したら、プチっとしてやるんだからね!」
「約束破ったら酷いぞ!今更ナシは駄目だからな!」
まとまったこの作戦の内容はこうだ。まず、雑魚な猫チビは明日までに自分装備を作る。この装備は、守ることだけを考えた物に限る。それを装備した猫チビを縛る。自由に動ける状態だと、囮にならない可能性がある為と、オシオキだからである。縛られた猫チビを、私が担いで大平原に行く。モンスターが出そうな場所に、猫チビを放置する。後はタイミングを見て、猫チビを救出もしくは、全滅させる。この時、猫チビは死んでも可。なるべく死なないようにしてやる。運が良ければ、猫チビもレベルアップ。これは猫チビの装備にもよるけど、ラッキーアタックがあるかもだし。モンスターを大量に狩れればその内の何体かは倒せて、猫チビのLVも少しは上がるんじゃない?
こんな感じで狩りをするのだ!私の良心が痛まない見事な作戦である。ほぼデメリットしかない猫チビはアホだ。雑魚の猫チビが死に戻るのは確実、だって雑魚だから。なのに、この作戦を受け入れた。これにはワケがある。
「素材もあれだけど、担がれてる間にクンカクンカ匂いを嗅いでも、いいんだよね?セクハラとして訴えないんだよね?・・・絶対に約束は守ってよ、絶対だかんな!」
そう言って走り去った。凄い勢いだねぇ、ショボいのに。私の匂いを嗅ぐ程度で受け入れるなんてね、アホだねぇ。嗅ぐのなんてタダだからね、安いもんだよ。とりあえずは明日だね、明日が楽しみだなぁ。・・・一応、訓練場で汗流しとこ♪
――――――――――――
僕はヴェネさんから解放されて、一直線で生産ギルドへ向かっている。Junさん達にも感謝したいけど、それどころではないのだ!僕の全てを賭けて、自作最強防具を明日までに作らねば!作ることが出来れば、長い時間を楽しむことが出来るかもしれない。攻撃を堪え忍び、生きながらえることが出来たのなら、その都度・・・!
「ヴェネさんの匂いと感触を楽しむことが出来る!・・・イャッホーーーイッ!!」
テンション上がるよねぇ♪合法でそんなことが出来るんだもんね、テンションが上がらない奴がいたのなら、ソイツは男じゃないね!断言出来る!!
ヴェネさんは美人さんだからね!ピンクの外ハネな髪、そしてつり目、長い耳!170cmぐらいの長身にスレンダーではあるけれど、胸がわりとある!戦闘狂でガサツで怒りっぽくて野蛮ではあるけれど、女の子だから身だしなみもきちんとしている!中身は残念だけど、その他は抜群と言えるだろう!そんな彼女をクンカクンカ出来るのだ!危険な囮役ではあるけれど、それを上回るほどのご褒美である!それに装備を変えたヴェネさん、胸当てしてません!胸当てしてません!これ、テストに出る重要なポイントですよ!運が良ければ、ラッキースケベなことも・・・!うっは~・・・!!ヤバイヤバイヤバイヤバイ・・・!!興奮してきましたよ!今の僕は誰にも止められないもんね!一瞬の刹那でも、ティルさんを抜かすことが出来る気がする!・・・やぁ~ってやるぜぇ~!!
僕は生産ギルドに行くと、高いお金を払って個室へ。僕の道を止める者はいない、見せてやる!ウォーレンの本気を・・・!あたたたたたたたたたたたたたたた・・・!!!
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今日の作戦には、Junに内緒でバルとザーさんも連れてきた。猫チビは死んでも問題ないけど、なるべく生かして稼ぎたいしね。このことをJunとクイナに話したら、二人がかりでボコボコにされる。流石のヴェネちゃんも二人は厳しいし、二人の強さも仲間だから分かるし。P×Pバトルをしてるヒマはないからね。バルとザーさんはそこまで厳しくないし、楽しけりゃいいんじゃね?ってタイプ。やり過ぎたら怒るけど、大体はスルーしてくれる。今回も多少は渋ったけど、やり過ぎない為の監視ということで来てくれたのだ。
「お前も大概アレだけど、ウォーレンもアホだな。・・・ヴェネに魅力なんてあるかね?」
猫チビのクンカクンカに疑問を持つバル。失礼な、ヴェネちゃんほど魅力溢れる乙女はいないよ!
「俺とバルは、ヴェネが駄目な奴って分かっちゃいるが・・・。まぁ・・・可愛い方なんじゃないか?俺はごめんだけどな!」
ダハハハハ!と笑うザーさん。駄目ってどこがさ!誰もが羨むヴェネちゃんだよ!?行く先々で視線を独占するほどの美少女ですよ!・・・フッ、近くに居すぎて分からないってヤツですか。ある意味哀れ・・・ってヤツだね。
「「・・・・・・イラッとする顔すんなや!」」
何故か怒られた、・・・解せぬ。
待ち合わせの東門に来たけれど、猫チビはいなかった。
「あんにゃろめ・・・!逃げたか!!」
プンスコ怒る私に、
「普通に考えたら来ねぇだろ、高確率で死に戻るわけだし。今はとくにデメリットって言えるほどのデスペナはないが、これから先は分かんねぇし。変な称号もらう可能性もあるしな。出来る限り、死に戻りたかねぇよ。今後を考えてさ。」
何を言っているんだバルは。俺は頭脳担当ですってか?そんなの必要ないもんね。重要なのは、私が楽に出来るか出来ないかだもん。猫チビのことなんか知るか!私を振った落とし前を着けてやるんだから!
「・・・なぁ、このデカイ玉はなんだ?」
猫チビをどうするか考えていたら、ザーさんが何かを見付けたみたい。見てみると、ザーさんの言いようにデカイ玉がある。・・・何、これ?とりあえず蹴ってみる。
ガンッ!
「あうちっ!」
足が足が!滅茶苦茶固いんですけどこの玉!足を押さえて痛みに唸っていると・・・、
「あれ・・・?朝?」
丸い玉が猫チビに変わった。・・・・・・とりあえず、もう一度蹴った。更に足を痛めたけど。
丸い玉から猫チビに変わったわけだけど、山にいるアルマジロみたい。ていうか、丸くなれるんだ。
「僕の全力だよ、コレは!完全防御!・・・だけど、自力じゃ動くことが困難!運搬よろしく!」
運ばれること前提での装備、やるじゃん猫チビ!
「動きづらいのかよ・・・。完全に戦う気ないのな、囮になる気満々じゃないか。」
「ヴェネに運ばれたいんだろ・・・。何やら執念を感じるぞ、煩悩系の・・・。」
「さぁさぁヴェネさん!僕を運ぶのだ!」
こうまで求められるのは気分がいいね♪最近、私の扱いが雑になってたし。ヴェネちゃん的には、もっとかまって欲しいし、優しくされたいし、求められたいわけ。そう考えると、猫チビも可愛いとこあるね。この私にかまって欲しいなんて。ならば、全力で活用してあげようじゃないか!
「よっしゃ!任せなさい!」
両手を挙げて、急かす猫チビを肩に担ぐ。・・・装備のせいか、猫チビが重い!けど、私の固有の前には無力。余裕なのさ!
「さぁ、野郎共!ヴェネちゃんに続け!」
「・・・スンスン、・・・スンスン。思った通り、いい匂いだにゃー・・・♪」
猫チビを担いで走り出す私。バルとザーさんは変な目で私達を見つつ、後を追ってくる。さぁ、作戦は始まったのだ!見事な囮を演じきるのだぞ、猫チビ!
大平原にて、モンスターが出そうな所に猫チビを投げ捨てる。悲鳴が聞こえた気がするけど、私は気にしない。
「投げ捨てんなよ・・・。もう少し優しく出来ねぇの?」
「・・・?なんで優しくしなきゃいけないの?囮だし、オシオキでもあるのに。」
不思議そうに言葉を返す私。これはオシオキでもあるんだから、優しくする意味なんてない。・・・なのにバルは、残念な奴を見る目で私を見る。私は悪いことなんかしてないぞ!
「ウォーレンの奴、もぞもぞ動いているな。・・・アルマジロっていうか、ダンゴ虫にしか見えんな!」
ザーさんの言葉につられて、猫チビを見る。・・・あはははははは!カサカサしてて、ホントにダンゴ虫みたい。ちょーウケるんですけど♪バルとザーさんは、笑いを堪えてる。声を上げて笑うと、囮の意味がなくなっちゃうからね。ツライとこだよ。・・・なんて思っていると、モンスター登場!猫チビが慌てて丸くなる。あれは・・・ラージドックだっけ?とにかくデカイ犬。めっちゃ猫チビ転がされてる、ラージドック達も面白いのかじゃれまくっている。ボールで遊ぶ大型犬にしか見えませんな!
「・・・ウ、ウォーレンの奴は大丈夫かね?・・・スゲー・・・遊ばれてるけど・・・うっく・・・!」
バルは口許をヒクつかせながら、猫チビを心配する。・・・笑いたいのを我慢しているのが分かる。ザーさんもピクピクしている。・・・・・・改めて猫チビを見ると、
「にゃあにゃあ~・・・!もれるチビる死んでまぅ~!」
丸い玉から頭を出して、鼻水垂らして泣いていた。猫チビの防御は凄いみたいで、ラージドックの爪や牙を完全にシャットアウトしてるみたい。そうじゃなきゃ、猫チビは死に戻っているハズだ。なんていったって、雑魚だから!攻撃を防いでいるから、死に戻ることはない。しかし精神力はヤられる。生殺しみたいなものだ。いつ死に戻るか分からない状況だから、猫チビは泣いているのだろう。・・・私がこの状況を狙って猫チビを捨てたわけだけど、なんか可哀想になってきた。これは過剰なオシオキだったかな?・・・まぁ、それ以上に・・・、
「あはははははは!笑わせないでよね、猫チビ!」
笑える。
ひとしきり笑った後に、ラージドックを狩った。猫チビに気を取られていたのか、あっさり狩れたわけで。私のオシオキで得作戦は、成功と言えるだろう。猫チビも生きてるしね。このまま継続しても大丈夫だろう。回収した猫チビは震えている、玉から頭を出して。可哀想と思う前に、やっぱり笑える。バルとザーさんは笑うのを堪えて、猫チビを慰めている。それを見て私は、
「さぁ次いってみよぉ~♪」
と宣言すると、
「「お前は鬼か!!」」
とバルとザーさん。情けより、実を取るよ私は。猫チビはビビりながら・・・、
「・・・待って、鼻をかむから。・・・担いでくれるんだよね?」
と囮を承諾する。安心しなさい!担いであげるからさ!
「「それでいいのか、ウォーレン!!」」
信じられないといった目で、ウォーレンにツッこむ二人。魅力的過ぎる私が恐いね♪
何度か続けて戦ってきたけど、いい感じで成果を上げている。ダンゴ虫な猫チビが気になるのか、モンスターはほぼ猫チビに釘付けだ。そこを三人で奇襲すると、面白いぐらいに呆気なく狩ることが出来る。猫チビも慣れたのか、丸まって体当たりをかまして倒したりする。完全にアルマジロ化している猫チビに、私達は笑いを堪えきれない。
「「「わははははははは!!」」」
猫チビは猫チビで、
「むふふふふ・・・♪ヴェネさんを堪能して、レベルが上がって、素材が手に入る。・・・ふへへ、たまりませんな!」
なんか興奮している。よく分からないけど、みんなで得しているみたい。オシオキとかどーでもよくなってきたよ。とにかく、狩って狩って狩りまくろう!
ただ今、新しいことを実施中。
「ワン・タン・メン!」
私は斧を振りかぶって、丸まった猫チビを打ち出す。
「・・・!・・・・・・!!!」
草ムジナの集団に、猫チビが飛ばされて混乱が起きる。遠目で見て、猫チビはぐったりしている。・・・死んだ?
「「お前は悪魔か!?」」
ハモってツッこむ二人を無視して、
「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!」
斧を振り回して突っ込む私。いやぁ~楽しいね♪
狩りまくって満足した私は、バルとザーさんに帰ることを告げる。・・・猫チビはもういない。死に戻ったわけではなく、逃げ出したのだ。ボーリング作戦、ゴルフ作戦、ハンマー投げ作戦の結果、猫チビの心が折れたみたい。『もたない、流石にもたないよ・・・!わりに合わない・・・、回復薬も尽きた・・・!・・・即ち、それは死!?ひぃぃぃぃぃっ・・・!!』とか言って。最初は笑っていた二人も、『無いわー。』って顔で私を見ている。
「お前・・・やり過ぎだって分かってるか?」
「・・・・・・引くわー。」
「別に死に戻ったわけじゃないし、いいんじゃない?レベルも上がったし、素材も一杯だしさ♪」
成果は上々なんだから、別にいいじゃん。そうは思わない?
その後猫チビは、Junに慰められて山へ採掘に行ったみたい。Junも私のしたことに対するお詫びとして、猫チビについて行った。私はというと、
「うぅ・・・どうしてこんな目に・・・。」
「それは俺のセリフだ!・・・ヴェネに付き合うといつもこうだ・・・。」
「まぁ・・・俺らも笑ってたから、同罪ではあるがな。」
『私達は悪いことをしました。』と書かれた木の板を首から下げて、冒険者ギルド王都ルトマー支部の前で正座していた。
「それだけで済んだのですから、ウォーレンに感謝することです。」
クイナが蔑む目で、私達を見下ろしている。バルとザーさんも、私を止めずに加担したと一緒に正座している。うぅ・・・しばらくは正座でいなきゃいけない。足が痺れて、大変なことになるよ・・・。
正座からの解放後、ステータスチェックをしていたら、
〔晒し者〕悪いことをして、大勢の前でお仕置きされた者に与えられる不名誉な称号。NPCから白い眼で見られる。(NPCの感情度-補正)
・・・なんて称号が!
「「「ノォォォォォォォォォォォッ!!」」」
私達の悲鳴が、王都に響いたのであった。
【簡易ステータス】
名前:ヴェネール
種族:魔族
性別:女
LV:20
【ランク】
冒険者ギルド:ランクE
【スキル】
〈斧〉〈身体能力向上〉〈剣速〉〈必殺〉〈探索〉〈突撃〉〈大振り〉
【固有】
〈怪力〉〈気分屋〉
【称号】
女傑
切り開く者
忙しない者
暴れん坊
晒し者
【アーツ】
〈戦闘〉叩き斬り〈戦闘〉スイングアクス〈戦闘〉対空斧〈戦闘〉回転斬り
名前:ウォーレン
種族:獣人(猫)
性別:男
LV:14
【ランク】
生産ギルド:ランクF
【スキル】
〈採掘〉〈採取〉〈細工〉〈調合〉〈裁縫〉〈不屈〉
【固有】
〈鍛冶〉〈無我夢中〉
【称号】
イジメられっ子
暴走生産者
匂いフェチ
まん丸獣人
【アーツ】
〈戦闘〉体当たり
〈生産〉暴走生産
名前:バルバロッサ
種族:獣人(虎)
性別:男
LV:19
【ランク】
冒険者ギルド:ランクE
【スキル】
〈剣〉〈盾〉〈身体能力向上〉〈見切り〉〈脚力〉〈探索〉〈風〉
【固有】
〈鑑定〉〈苦労〉
【称号】
目利き冒険者
反撃者
苦労人
巻き込まれる者
晒し者
【アーツ】
〈戦闘〉カウンター〈戦闘〉シールドタックル〈戦闘〉跳断
〈補助〉エネミーオープン
【魔法】
〈風〉ウインドソード
名前:ザッシュ
種族:竜人
性別:男
LV:20
【ランク】
冒険者ギルド:ランクE
【スキル】
〈大剣〉〈盾〉〈防御〉〈不屈〉〈脚力〉〈気合〉〈土〉
【固有】
〈片手持ち〉〈不動〉
【称号】
守る者
切り開く者
堪える者
晒し者
【アーツ】
〈戦闘〉シールドバッシュ〈戦闘〉断剣
〈補助〉名乗り上げ〈補助〉身代わり
【魔法】
〈土〉アースシールド
ヴェネは暴れん坊です。何をやらかすか分からない奴です。自分中心に行動します。因みに、後半はティルの存在を忘れています。オシオキってなんのオシオキ?って感じです。一言で言うなら、バカですね。
ウォーレンもズレていますね。しかも、変態が入ってます。スキル効果で爆発的な生産が可能。全てを忘れますが・・・。因みに、今回の丸くなる装備をしたウォーレンは、ロッ○マンXの○・アルマージを思い浮かべてください。
・・・どうして、こんな話になったのか?作者にも謎です。
次話は本編か、閑話のどっちかです。




