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第35話 ~雨の深き森

雨が続いて涼しいですが、微妙にじめじめ。


洗濯物が乾かんのです。


川も大変なことに!



友人に、ツイッターやらフェイスブックやらを勧められますが、全く興味なし。


それがそんなにおかしなことなのだろうか?よく分からん、今日この頃。

今日も朝から雨、今日と明日降ったら雨が止む。ケロ子がそう言っていたから、間違いないだろう。んで今日の予定は、雨の中を冒険。ノーンさん達と森に行く約束をしている。面倒ではあるが、約束は約束。今回ばかりは行かなくてはならない。たぶん行かなかったら、ノーンさんが怒ると思う。昨日の別れ際、鼻歌まじりに帰っていったからな。ノーンさんもソロタイプの冒険者、ある程度の強さは必要だ。その強さを得る為、俺とのレベリングを提案してきた。ソロでこの先を行く、彼女の気持ちが分かる。その強さへの想いを裏切るわけにはいかない。そう考えて、俺に出来ることは一つ。彼女を死に戻りさせることなく、守りきって今回のレベリングを終えること。その準備をしなくてはならない、・・・といっても大体の準備は終わっているわけで。残っているのは、スキル・魔法の確認ぐらいか。




今回買ったスキルはいくつかある。まず最初に、森での活動に意味の無いスキル。〈農業〉〈農耕〉〈園芸〉〈畜産〉の四つ、農作業の為に買った。〈農耕〉は野菜を育てる為、〈園芸〉は花とかを育てる為、〈畜産〉は家畜の飼育の為、〈農業〉は先に挙げた三つのスキルの補助の為。農作業に対しての最強の布陣である、・・・たぶん。農作業をする時に、詳しいスキル説明をしよう。


次に、森での活動で役立ちそうなスキル。〈気配察知〉〈警戒〉の二つ、魔物の奇襲を防ぐ為のものだ。〈気配察知〉は、自分の周囲にいる魔物やNPCなどの存在を察知するスキルだ。LVが上がると、察知の範囲が比例して広がるらしい。現時点での能力は、自分を中心に20mぐらいかな?LV1の時点で5mぐらいと聞いていたのだが、なんか範囲が広い。色々と試してみた結果、〈喧嘩殺法〉が関係していた。この〈喧嘩殺法〉、複合スキルで〈気配察知〉も含まれているようだ。前は分からなかったが、今はどんなスキルが合わさっているのか分かる。これは〈俺流鑑定眼〉のお陰だろう。そんなわけで、20mぐらいの範囲を誇っている。


〈警戒〉は、敵意を感じ取るスキル。〈気配察知〉と合わせることで、何処に敵意ある魔物・NPCなどが存在するのか分かるのだ。これさえあれば、奇襲を防ぐことも出来る。迎え撃つことも待ち伏せることも出来るし、上手く立ち回って戦闘回避も可能になる。俺一人であるなら、別になくても何とかなる。しかし今回は、ノーンさんとディジーさんを守らなければならない。森での戦いは基本、奇襲だからな。奇襲さえ気を付ければ、何とかなるだろう。複数反応の場合は戦闘回避で。


最後に、戦闘では役に立たないスキル。役に立たないが役立つスキル、それは〈伐採〉。単純に、木材が欲しいから。木材って、色々と生産に使うからな。それに、街で売っているのは普通の木材。それ以外の木材が欲しいわけで、森は木材の宝庫だからな。聞くところによると、森の奥にある木は良質な木材になるらしい。俺はそれが欲しいわけ。今回のレベリングのついでに、良質の木材GETだぜ!ってわけ。ちゃんと生産ギルドにて、伐採の許可は得ている。許可無しで伐採すると、犯罪者として捕まっちゃうらしい。そんなわけで、レベリングの合間に伐採をする。素材は、あるにこしたことはないからな。




魔法は〈光〉と〈闇〉、二つの属性に対応するものを買った。〈光〉は、ライトヒール・フラッシュ・トーチの三つ。ライトヒールは光属性の回復魔法。光属性装備者には、一・五倍の効果があるみたいだ。反対に闇属性装備者には、〇・五倍しか効果を発揮しないようだ。その他の属性には、普通の回復量みたい。


フラッシュは、自分を中心にまばゆい光を放つ魔法。所謂いわゆる目潰しってヤツだな。まともに食らうと、一分間は何も見えないらしい。暗所や夜に行動する魔物に対して、目潰しと一緒にダメージを与えることが出来るみたい。森は奥に進むにつれ、暗くなるからな。案外効く奴がいるかもしれない。


トーチは、自分の頭上に光の玉を出現させ、辺りを照らす魔法だ。暗所や夜にて行動する時に役立つ。昼と同じように行動が出来るからな。デメリットは、魔物に発見されやすいってことか。まぁそれでも、暗闇で戦うよりは安全に戦える。上手く使えば、魔物の攻撃を自分に集中させることも出来るって聞いた。慣れてくると、任意の場所に設置が出来るみたいだし。使い方次第で色々と使える魔法のようだ。


〈闇〉で買ったのは、ダークヒール・ダークミスト・ダークブースターの三つ。ダークヒールは闇属性の回復。闇属性装備者には、一・五倍、光属性装備者には、〇・五倍、その他には普通に一倍。ライトヒールとは属性違いなだけで、効果は同じだ。行商人シリーズは光属性、魚人シリーズは闇属性だからな。そう考えて、ライトヒールとダークヒールを買ったのだ。ポーションとかの回復薬は沢山あるが、ヒール系の方が回復量が高い。俺のINTが高いからなんだろうが。回復量の高いミドルポーションがあるのだが、多く作れないからな。ポーションより素材を多く使う為、今は大量生産が出来ない。森で素材を大量採取する予定だ。街でも売っているんだけどねぇ~、同業者が多いから大量購入は出来ないんだよ。農業で薬草とか作れればいいんだけどね。


ダークミストは、闇属性の霧を発生させて視界を遮る魔法だ。目潰しをするのではなく、ただ視界阻害をするだけ。敵の命中率を下げる効果と共に、姿を隠すことが出来るわけで。光属性の相手に対しては、多少のダメージを与えることが出来る。そして闇属性の相手には、効果無効。使い方が多少、難しいが何とかなるだろう。気を付けるのは、俺とノーンさんが光属性装備者ってこと。即ち、ダメージを受けるということだ。それと俺達の視界も遮られる為、注意が必要である。まぁ〈気配察知〉と〈警戒〉があるから、気を抜かなければ大丈夫だろう。


ダークブースターは、魔法対象者に闇の力を与え、一時的にINTを上げる魔法だ。術者のINTに比例し、効果が上がるらしい。因みに、ヒール系もINTに比例する。・・・というか、全ての魔法が比例するんですけどね。とりあえず、ヒール系は術者のINTが高ければ回復量が上がる。そして、そこに対象者の属性が絡み、最終回復量が決まるのだ。ブースター系の場合は、術者のINTによって倍率が変わる。そこに対象者の属性が絡み、最終倍率が決まる。俺のINTで出された倍率は、闇属性装備者には一・二倍、光属性装備者には一・一倍、その他には一・一五倍。これくらいの倍率で、INTが上がるみたいだ。受付のメイさんに聞いたから、たぶん間違いない。ディーバ師匠の場合は、二倍らしい。師匠のINTは、かなり高いみたいだからな。俺もINTが上がれば、更に倍率が上がるだろう。


おっと、わりと重要なスキルを忘れていた。そのスキルは〈支援〉、支援的行動が成功しやすくなるスキルだ。回復・補助魔法は、自分以外にも効果を与えることが出来る。しかし、自分には命中率一〇〇%で効果を発揮するのだが、自分以外になると命中率が下がってしまうらしい。ディーバ師匠のような補助のエキスパートなら、どんな時でも一〇〇%らしいのだが。慣れない人は回復七〇%ぐらい、補助六〇%ぐらいとかなんとか。魔法ギルドの受付嬢であるメイさんが言っていたから、信憑性は高めだろう。そこで〈支援〉のスキルが役立つ。このスキルがあれば、一〇〇%成功するらしい。・・・回復・補助魔法に限ってだが。しかもこの〈支援〉、今回買ったスキルの中で一番の高額。・・・高い分、他にも効果がありそうな気がする。だが今回は、回復・補助の成功率の為に買った。いずれなんか分かるだろう。


因みに、今回買ったスキル・魔法の合計購入金額は三一〇万G。内訳うちわけは、トーチ・一〇万、〈農業〉〈気配察知〉フラッシュ・ダークミスト・一五万、〈警戒〉ライトヒール・ダークヒール・二〇万、〈農耕〉〈畜産〉〈園芸〉〈伐採〉・二五万、ダークブースター・三〇万、〈支援〉・五〇万。・・・大金使ったなぁ。




スキルチェックをして気付いたんだが、〈裁縫〉がLV50★になっている。〈裁縫〉の最高LVって50だったんだな。一応、確認してみようか。


『〈裁縫〉のLVがMAXになりました。〈裁縫〉を〈中裁縫〉〈洋裁〉〈和裁〉にランクアップさせることが出来ます。


SPを消費することで、特殊なランクアップをさせることが出来ます。


〈裁縫〉→〈中裁縫〉(消費SP:0)


〈裁縫〉→〈洋裁〉(消費SP:0)


〈裁縫〉→〈和裁〉(消費SP:0)


〈裁縫〉→???(消費SP:20)


どちらにするか決めましたら、カーソルを合わせてYESを選び決定して下さい。』


ふむ、普通のランクアップが三つあるのか。〈洋裁〉に〈和裁〉ねぇ、まんまの意味ではないんだろうな。西洋風と東洋風って感じなんかね?・・・まぁどちらにいっても、今までと同じように生産は出来るだろう。ランクアップなわけだしな、それとも特化になっちまうのか?うーむ、分からない。分かるのは〈中裁縫〉は、満遍まんべんなくってことだろう。特化も何もない、普通に技術が上がるぐらい。だけど、それもまたいいのかな?まぁそれはいいとして、俺のやることは決まっている。・・・・・・ポチッとな。


『SPを20消費し、〈裁縫〉を特殊ランクアップさせます。』


前回のランクアップは、〈鑑定〉が〈俺流鑑定眼〉になった。さて、〈裁縫〉はどうなるのかな?


『〈裁縫〉→〈テーラー〉に特殊ランクアップしました。』


・・・〈テーラー〉?それって紳士服の仕立屋じゃなかったっけ?どちらかというと、ジョブになるんじゃないの?とりあえず説明をば。


〈テーラー〉:裁縫にこだわりを散りばめる一流の技術、縫える物なら何でも仕立て上げる。より詳細に、イメージを製作物に反映することが出来る。


・・・・・・いいね、これ。流石は俺の魂玉、こだわる俺に相応しいスキルじゃないか。俺は無駄にこだわるタイプの人間だからな、よりイメージが反映されるってのがいい。これから、ますます防具作りが楽しくなりそうだ。これも掲示板に載せた方がいいかもな、〈裁縫〉は三つに分かれてランクアップしますよってね。〈鍛冶〉とかも、いくつかに分かれそうだな。武器特化とか、防具特化にさ。防具に関しては、〈テーラー〉が中心で他のスキルを交えつつ、より良い物が出来るようになるわけだ。いずれ作ろうというか、仕立て直そうと思う狼シリーズがパワーアップするってもんよ。




確認とランクアップを終えた俺は、レインコートを着て待ち合わせの場所へ。街の東門に行くと、レインコートを着た小柄な二人組が駆け寄ってきた。


「おはようございます、ティルさん。今日は、冒険日和の良い日ですわね。」


「おはよう、ティルさん。今日ほど、冒険に適した日はないよね!友達に頼んで薬もそこそこ持ってきたし、準備万端だよ!」


冒険日和で適した日って、・・・雨がザーザー降ってるんですけど。だがまぁ、それを指摘するのは野暮か。二人がやる気ならそれでいい、俺も気合を入れるとしようか。雨の深き森、そこに何が待っているのか。・・・楽しみであり、不安でもある。


俺達は東門から少し行った所にある、雑木林を分け入っていく。深き森は、この雑木林を進んでいくとあるのだ。あると言っても、この雑木林も深き森の一部なのだが。


「いきなり道無き道ですの!?ティルさんとご一緒出来ると舞い上がっていましたが、・・・ちょっと不安になってきましたわ。」


そりゃそうだ、ノーンさんにはちょいと格上のフィールドなのだから。ノーンさんが一人で来たのなら、この雑木林で死に戻ることになるだろう。ここにはゴブリンが、グループで徘徊している場所だからな。俺はスキルの力で、ゴブリン達を避けて移動している。スキルが無ければ、この時点で何回かは戦闘していたことだろう。レベリングだから戦わなければいけないが、ここは足場が少し悪いし障害物も多い。ここで戦っては、二人の内どちらかが死に戻る可能性がある。目標としては、誰一人死に戻ること無くの帰還だ。故に少し進んだ所にある、多少開けた場所で戦うのが吉だ。


数分後、最初の目的地に着いた。


「お、やっとひらけた場所に出れた!・・・それにしても、ここまでモンスターに会わなかったのは何でだろ?」


ディジーさんは小首を傾げている。ノーンさんもその意見に同意のようだ。そんな二人に俺は説明をした。ここまで安全に来ることが出来た理由を。そして、何故この場所に来たのかを。


「・・・とまぁそんなわけで、この場所で森の魔物と戦ってもらおうってわけだ。ここらへんにいるのはゴブ達だな。後は・・・、猪っぽいのがいたような気がする。」


そう言って、二人に戦闘準備をさせる。ノーンさんは、杖を両手持ちにし集中し始める。ディジーさんは、自分より少し長めの槍を持つ。


「ディジーさんは槍使いか。・・・ちゃんと扱えるのか?」


「一応は使えるよ。スキルはあるし、訓練場で初歩は習ってきたから。」


槍はリーチが長いからな、ダメージは受けにくいだろう。それに斬るより、突く方が簡単だろうからな。動作も少ないし、初心者向けだと思う。・・・俺的にだが。俺も槍を扱えるから、アドバイスが出来・・・ないな。俺のは特殊な使い方だし、ディジーさんには無理だろう。装備的にも、教えることは出来ない。教えることがあるのなら、俺を真似るのは駄目ってことかな。


戦闘準備が終わった二人を見て、


「ちょっとゴブさんを引っ張ってくる。数を減らして一匹だけな、周囲を警戒しつつ待っていてくれ。俺も警戒するが、何があるか分からんからな。」


ノーンさんは余裕のある顔で、ディジーさんは若干緊張気味に頷いた。それを確認した俺は、気配のある方へ向かう。・・・ある程度進むと、ゴブ達がキョロキョロと周囲を見回している。獲物を探しているのか、警戒しているのか分からんが丁度いい。それに三匹のグループってのがいい、一匹残すのが楽だからな。さて、一気に決めますか。ノーンさん達の糧にする為に、瞬殺させてもらうぞ。


――――――――――――


私達の準備が終えるのを確認したティルさんは、ゴブリンを探しに私達から離れていった。正直、物凄く不安だよぉ。戦闘なんて、草原のスライムとホーンラビットしか経験がない。そんな初心者な私が、遥か上の森にいるのだ。暇な時は、訓練場で槍の練習はしている。練習はしているけど、いきなり森だもんなぁ~。ノーンさんには負けられないってことで、一緒に来たんだけどまずったかな?戦闘を脳内シミュレーションしてみたけど、勝利のビジョンが見えないよ。むむむと唸ってみても、思い付きもしない。・・・とりあえずは、当てることだけ考えればいいのかなぁ。


・・・ふと横を見る。ノーンさんは、杖を構えて集中している。だけど、私と違って余裕がある。これが、冒険者と生産者の違いだろうか?死線を潜り抜けた冒険者と、引きこもり生産者の違い。うーん、違いが大きすぎる。未知の場所で、格上のモンスターがいる。そう考えるだけで、ガクブルだよ。おぉ・・・足が震えている、決して武者震いではない。私ビビってます、ビビりまくりだよぅ。


「軽く死に戻るだけでしてよ?ちょっと刺激があるだけですし、覚悟をお決めなさいな。」


「その死戻りが恐いんだよ!私には死に戻り経験なんてないもん!」


草原のモンスターとしか戦ったことが無いんだから。草原で余程のことが無い限り、死に戻ることなんて無いよ。噂じゃ、ライアンさんは数十回・・・死に戻っているみたいだけど。それはさておき、死戻ったことの無い私に覚悟なんて持てません!あぁ・・・今更ながら、後悔してきた。私ってバカだねぇ~・・・。


そわそわしていると、ガサガサッと聞こえたのと同時に、


「ゴブが一匹来るぞ。ノーンさんは魔法で先制、ディジーさんは無理をせずに槍で突け。」


ティルさんが登場と同時に、そう言ってきた。ティルさんは、私達の後ろに待機する。そしてノーンさんにダークブースターを、私にライトブースターをかけてくれた。


「ノーンさんに対しては、効果は下がるけどINTを上げる補助をかけた。ディジーさんには、LUKを上げる補助をな。・・・いいことあるんじゃない?」


いいことあるんじゃない?って、なんか適当だなぁ。ノーンさんにINT上昇は分かるけど、LUK上昇ってどうなのかな?どんな効果があるのか分からないけど、能力が上がったのは心強い。それにティルさんがいるし、なんとかなるかも。少し緊張が解けた、・・・と思った時に、


『ギャギャッ!』


と、一匹のゴブリンが飛び出してきた。


「うぎゃあああああっ!!」


ゴブリン、思いの外恐い思いの外恐い!緑の小鬼だよ、ゲームとかで見たまんまだよ。ふぉぉぉぉぉ・・・、足が震える。なんてビビっている私を余所に、


「ウォーターショット。」


冷静に魔法攻撃を繰り出すノーンさん。それをまともに食らったゴブリンは、前のめりに倒れるがすぐに起き上がる。・・・私でも分かるけど、怒っているみたい。やや錆びている剣を振り上げて、ノーンさんに襲い掛かる。だけどノーンさんは避ける素振りを見せずに、真正面からゴブリンに向かって、


「ウォーターランス。」


直撃を受けたゴブリンの胸には、大きな穴が開いた。そのままべチャリと地面に倒れるが、顔をこちらに向けて、


『ーーーー~~~~!!!』


甲高い奇声をあげてくる。・・・凄くウルサイ!ノーンさんも耳を塞いで、嫌な顔をしている。ティルさんは笑みを浮かべて、ウンウン頷いている。全然動じていないティルさん、流石だね。だけどウルサイから、


「ゴブリン喧しい!」


そう言って、私は槍をゴブリンの口の中に向けて突き出した。それがトドメになったのか、ゴブリンは静かになって、べチャリと顔も地面に落ちる。束の間の静寂、雨の音だけがしていた。


ノーンさんの魔法で瀕死だったから、私のヘッポコ攻撃で倒すことが出来た。・・・・・・なるほど!ノーンさんが魔法でダメージを与えて、私がトドメを刺す。この連携でレベリングをするってことだね!だけど、私だけトドメを刺しても意味がない。ノーンさんもトドメを刺したりしなくちゃ、レベルが上がらないからね!そこは注意しないといけない。なんとかなりそうな気がしてきた。この調子で頑張るぞ!そう決意して二人の方に振り向くと、


「ディジーさんは、わりと容赦がないな。・・・口の中に刺すとかって、有効打ではあるが恐ろしい。」


「ひぃっ!ディジー、恐ろしい娘!」


ティルさんはやるな!って感じで私を見ていて、ノーンさんは引いていた。


とにかく、ゴブリンは倒したわけでして。


「この調子で各個撃破すればいいんですね!私、頑張ります!」


「最初は、ディジーさんのレベリングからですわね。私と同レベルぐらいまで上げなくては。」


ノーンさんと同レベルって言っても、ノーンさんはどれくらいなんだろ?だけど、やるしかないよね!


「やる気があっていいな。・・・だがまぁ、各個撃破は無理だわな。」


クハハハハ!と笑うティルさん。無理ってなんで?・・・そう思った矢先、またまたガサガサッと・・・、


『『『『ギャギャギャッ!!』』』』


複数のゴブリンが現れた。


「「ひぃっ!!」」


私とノーンさんは、同時に悲鳴をあげた。


「ゴブは死の直前に奇声をあげる。するとどうだろう、ゴブが大量に現れるわけだ。ちゃんとトドメを刺さないと、無限増殖だわな。」


邪悪な笑みを浮かべるティルさん。この人、鬼だ!


「戦闘技術や駆け引きが学べる、いい相手がゴブだ。サポートはする、一気にレベリングだ。気を緩めるなよ・・・!」


そりゃあ一気にレベルは上がるよ!・・・生き残れたらだけど。やるしかない、自分で志願して付いてきたわけだし。ふぉーーーー・・・!


「やってやる、やってやるぞ!」


私は気合を入れ直して、槍を構えるのであった。


――――――――――――


『ギャッ・・・!』


俺は飛び掛かってきたゴブリンを、死なない程度に斬りつける。斬られたゴブリンは、地面でもがいている。そのゴブリンに、ディジーさんは槍を突き入れトドメを刺す。それを確認してから、背後のゴブリンにライトショットを放つ。その衝撃で、近くにいた仲間を巻き込み軽く吹っ飛ぶ。追撃にノーンさんが、駆け寄ってからのウォーターランスで二匹同時に倒す。・・・ふむ、いい感じじゃないか。俺も、恐いくらい手加減が出来ている。それに二人も、指示をしなくても動けている。どうなるかな?と考えていたが、心配しなくても十分だったようだ。何度かヤバイ場面もあったが、無事に乗り切った。俺がいなくても、ゴブリンの一グループぐらいなら、二人だけで倒せそうだ。補助魔法のお陰もあるだろうがな。さて・・・。


幾度となく襲ってきたゴブリンも打ち止めだ。さっきのグループは、奇声をあげられずに全滅したからな。これにて、ゴブリンの襲撃も終わりとなる。それが分かったのだろう、二人はフゥーッと息を吐く。


「死・・・死ぬかと思ったよぉ!・・・というか、何度か死にかけたけど。」


「そのお陰で、魔法の精度が上がりましたわ。複数のモンスターとの立ち回りも学べましたし、レベルも上がっていい感じですわね。」


槍で体を支えて、プルプルしているディジーさん。それに比べて、ノーンさんはまだまだ元気のようだ。ダテにソロをしていないな。それにディジーさんも頑張った。サポートをしたとはいえ、生き残ったわけだし。彼女的にも自信が付いて満足だろう。


「少し休憩したら、奥に行くぞ。・・・次は、大蜘蛛でも倒してみようか。」


「蜘蛛・・・ですの?・・・フフフ、望むところですわ。強くなる為ですもの、頑張らせていただきますわ。」


ふんす、と気合を入れるノーンさん。ディジーさんは、一瞬固まってからガックリ項垂れて、


「・・・やるしかないんだよね?はぁ~・・・因みに、蜘蛛ってデカイのかな?」


と聞いてきた。俺はうむ、と頷いて、


「デカイぞ、・・・2mぐらいあるんじゃない?」


と答えると、二人は顔を青くして、


「「ひぃっ!!」」


と悲鳴をあげて、抱き合った。・・・仲良くなったもんだな。




倒したゴブリンの素材を忘れずに回収し、休憩を終えた俺達は奥へ。警戒しつつも歩きながら、雑談をする。


「それにしても、ティルさんは凄い!色々とサポートをしてくれたから、今の私がいるんだね!」


槍をブンブン振り回しながら、歩くディジーさん。ゴブ達との戦いで、一気にレベルアップしたみたいだ。現在LV17、エシャルトン達よりLVが高くなったようだ。


「私もそう思いますわ。ティルさんのお陰で、私もレベルが26になりましたもの。前線組の方々と、同レベルぐらいになることが出来るなんて。」


ノーンさんも嬉しそうで何より。・・・それよりも、前線組はLV26前後か。俺に比べたらまだまだ下だが、それが普通なんだろうな。まぁヴェネ達なら、LV30ぐらいはいってそうだが。平均より上なのは、確実だと思うし。


「因みに、因みにだけどティルさん。レベルってどんくらいなの?それとも秘密なのかな?」


ディジーさんの質問に俺は悩む。教えても構わないが、正直に言っても大丈夫なのだろうか?・・・・・・俺の場合は、〈俺流〉のお陰で成長率が高いわけで。それにシークレットで強敵と戦い、一気にレベルアップしたからな。うーむ、教えても・・・いいかな。別に悪いことをしたわけでもなし。


「いつもの如く他言無用で。・・・俺はLV47、だな。」


「「・・・・・・・・・。」」


ポカーンとしている二人。やっぱり高すぎた?


そして、何事も無かったかのように進む俺達。辺りが徐々に、薄暗くなってきた。更に進むと、夜の森といった情景になる。そこまでは行かない予定ではあるが、どうなるかは分からない。この薄暗い場所で十分だ、蜘蛛出るし。・・・それに、雨の日って出るもんなのかね?蜘蛛。


「今更ですけど、ティルさんの足音が聞こえませんわね?特別なスキルか何かですの?」


雨で足下がぬかるんでいるのに、何も無いように歩き足音がしない。ノーンさんは、不思議に思ったようだ。言われてみればそうだな、足音がしない。・・・たぶん、〔雨賊〕の特殊効果のお陰だろうな。(雨天時地形無効)が発動しているんだろう。


「ジョブの特殊効果が発動しているみたいだ。足音が消えているのは、そのお陰かと・・・。」


「「・・・・・・・・・。」」


再びポカーン、間抜けな顔が可愛いと思ったのは秘密だ。


そんな感じで先に進んでいくと、気配を感じた。上からの気配、高確率で蜘蛛だな。


「頭上に気配がある。難しいかもしれないが、注意せよ。」


ビクゥッ!と強張ってから、視線を上に向ける二人。丁度、蜘蛛の奴が降下してきた。俺は軽く跳んで、二人は大袈裟に慌てて転がるように。俺達のいた場所に、蜘蛛が音も無く着地。俺が言えたことではないが、雨でも関係無く無音ですか。・・・やるな、蜘蛛。二人は無事か?


「ヒィヒィ・・・!蜘蛛、蜘蛛、蜘蛛・・・!!」


「蜘蛛デカッ!蜘蛛恐っ!蜘蛛ヤバイ・・・!!」


ノーンさんは、汚れることを気にせずに這いつくばって逃げている。望むところだーと言っていたが、実物を見て駄目だったっぽい。ディジーさんは、ヤバイよヤバイよと言いながらも戦闘態勢だ。・・・ディジーさんは大丈夫だとして、問題はノーンさんだな。あれじゃあ狙ってください、と言っているようなもんだ。案の定、蜘蛛の奴は頭をクリクリ動かして、ノーンさんを捕捉したっぽい。音も無く跳んで、木々の中に紛れていった。あの状態じゃ、次の攻撃は避けられないだろう。それに蜘蛛の奴は速い、次の攻撃まで時間が無いってことだ。俺はすぐに駆け出して、ノーンさんのすぐ上を目掛けて跳んだ。それと同時に、蜘蛛の奴もノーンさん目掛けて急降下。タイミングよく落ちてきてくれたお陰で、


「・・・シャラッ!」


俺の全力蹴りが、ノーンさんに覆い被さろうとしていた蜘蛛を、横から蹴り飛ばした。


蹴り飛ばされた蜘蛛は、その勢いのまま木に激突。ダメージが大きかったのか、引っくり返ったままもがいている。また襲われても面倒だから、トドメでもと思ったのだが、


「この!この!くのやろー!」


と、ディジーさんが槍で攻撃している。引っくり返って丸見えの腹部に、一心不乱に槍を突き刺している。蹴りと激突でのダメージがあったせいか、反撃出来ずにメッタ刺しだ。だが流石は蜘蛛、虫だけにしぶとい。それにディジーさんはLVが上がったとしても、非力の部類に入る生産者だ。トドメに至るまではいかないみたいだ。何度か刺したみたいだが、蜘蛛を倒すより先にディジーさんがへばる。それを感じたのか、蜘蛛も瀕死なのに無理矢理体勢を戻して、鋭い牙でディジーさんを噛み砕こうとする。ディジーさんは、ゲッとした顔で逃げようとしたが、疲れのせいで足がもつれて倒れる。倒れたディジーさんに蜘蛛の牙が・・・ってところで、俺の手槍が蜘蛛の横から体に突き刺さる。それがトドメになり、蜘蛛は力尽きた。


「・・・ギャ!!」


ディジーさんが、力尽きた蜘蛛の下敷きになったみたいだ。ヒィヒィ言いながら、這い出てきた。・・・すまん。


蜘蛛は倒したのだが対蜘蛛戦にて、ノーンさんは戦力外ってことが分かった。


「大蜘蛛を間近で見ましたが、私には無理ですわ・・・。この辺りから、大蜘蛛が出現するのでしょう?・・・恐ろしいですわ。」


プルプル震えるノーンさん。かなり苦手みたいだな、さて・・・どうしようか。


「ノーンさんを囮にして、さっきの戦法って駄目かなぁ。」


なんつーことを言うんだこの娘は。ノーンさんは顔を赤くして、


「却下ですっ!!」


とプンスコ怒り出した。そりゃあそうだろう、苦手な蜘蛛に襲われるのは嫌だろうさ。しかも、命の危険がある。それに、先程のようにタイミング良くいけるわけでもなし。うーん、蜘蛛狩りはなしかな?出てきたら、俺が瞬殺するようにすればいいか。・・・出来るかは、やってみないと分からないが。




そんなこんなで、俺達は先へ進む。強さを求めるからには、多少の無理も必要だ。無理のし過ぎは駄目だが、ある程度はな。蜘蛛が出てきた場合は、俺が相手をする。ゴブリンなどが出てきた場合は、サポートをしながら二人に戦わせる。今はそんな流れだ。不思議なことに、ゴブリンと蜘蛛しか見ていない。まぁ、楽でいいけど。二人も最初はどうなるかと思っていたが、今ではいい感じで連携が出来ている。ディジーさんが前衛で、ノーンさんが後衛だ。んで、今回の魔物はグリーンスライム、初めて見る魔物だ。何度か森に来ているが、こいつは見かけたことがない。とりあえず、鑑定眼を発動してみる。


【グリーンスライム】LV:19

HP:380/380 MP:100/100 STR:47 DEF:42 INT:40 AGL:43 DEX:23 MED:45 LUK:18

深き森に生息する緑色をしたスライム。普段は木の中・土の中などに隠れている為姿はないが、雨が降り森に水気が含まれると活発に動き出す。木属性の魔法を操り、回復・補助に長けている。通常のスライムよりも質の良い核を落とす。稀に、スライムハニーという甘い液体を落とす。雨の日しか現れない魔物の為、見付けたらラッキーである。


おー、鑑定眼ではステータスも見れるのか。LVが上がれば、相手のスキル・魔法・アーツなども見れるようになるかもな。それにしても、雨の日限定の魔物か。・・・スライムハニーってのが気になる、砂糖と蜂蜜以外の甘味。大いに興味ある、ファンタジー食材。これは絶対にGETだな、ちょっと燃えてきた。レアドロップみたいだが、今の俺ならそれらを手に入れやすくなっている。行商人シリーズの恩恵でな。


パンパンと手を叩き、二人に声をかける俺。


「そいつはグリーンスライム、雨の日限定の奴みたいだ。レア食材の為に、なるべく多く狩るぞ。雨の日限定なわけだから、乱獲しても問題ないだろう。」


それを聞いて二人は、


「蜘蛛でなければ余裕ですわ!汚名返上の為に、殺らせていただきます!」


「レア食材かー。私にはGET出来ないけど、ティルさんは大丈夫なんだよね?もし多く入手出来たら、1個頂戴な!」


気合十分で大変結構。プチプチ潰して、レア食材をいただく。良質の核も気になるぜ!

裁縫に力を入れた結果、〈テーラー〉に。何処にいる狼よ、毛皮を寄越せ!と思ってみたり。



軽く戦闘をこなしつつ、二人を鍛えているわけで。微妙に厳しいやり方ですが。しかも、ちょっと適当。


次回は、もう少し戦闘をきちんとするかもです。更なる食材を求めて。帰還後は、久々の料理かな?

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