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第34話 ~風邪と鈍感男《挿絵有り》

溜まっている感想は投稿後に。


暑さが通り過ぎて、最近は寒い。


寒暖差で体調を崩しそうだよ。

『Free Emblem Onlineをお楽しみ下さっている皆様へ、本日はイベントの告知がございます。


イベントタイトルは「無人島~炎の7日間」となります。


詳しいイベント内容につきましては随時公式ホームページにて発表させていただきます。


それでは、イベント開始までもうしばらくお待ち下さい。』


――――――――――――


今日も元気に活動だと、F.E.Oの世界に立つ俺。立つと言っても、ベッドの中なんですけどね。まぁそれはいいとして、ベッドからから這い出て屈伸する。軽く体操をしながら、さっきの告知を思い出す。


「めちゃめちゃ簡潔な告知だったなぁ・・・。」


イベントタイトルしか告知しないってどうよ?もっと色々と情報を載せた方がいいんじゃない?と素直に思った。・・・が【SP】の情報を載せない運営のことだ、自分で調べなさいってことなんだろうな。一応、ホームページで発表と告知しているし。詳しく知りたきゃホームページにいけってことだろう。始まる前に駆け引きがされている、と思うのは俺だけか?




レインコートを着て、生産ギルドへ向かう。ケロ子の宣言通り今日も雨、後二日は雨になるんだよな。雨を気にせず走り回っているのは、PC冒険者とか生産者だろう。NPCは静かにしているのが多いと言ってたし。雨だからといって、ジッとしているのは勿体無いからな。少しでも先に進む努力をしないと、あっという間に置いていかれる。だから動くしかないんだよ、他の奴らはな。・・・ん、俺?俺は周りを気にしないさ。やりたいことをやるだけ、置いていかれても気にしない。現に王都とかの前線に行ってないしね。・・・・・・なのに、俺のやること成すこと最前線並。王都方面から、シアルに戻ってくるPCが増えてきたみたいだ。俺が原因・・・なんだろうな。


いつものように、色々考えながら歩く俺。そんな俺の足にすがり付いてくる男がいた。突然だった為に、危うくコケるところだった。またズブ濡れになるところだったぞ。


「誰だ・・・!いきなり危ないじゃないか!」


すがり付く男を見下ろして、軽く怒鳴る俺。男はこちらに顔を向けて、


「ディルざぁぁん・・・!おででずぅ、グーバァーでず・・・!」


鼻水垂らして青い顔、泣いているのか雨のせいなのか分からないが、ヒドイ顔のクーパーがいた。・・・どうしたんだ?コイツ。そして、どうして俺だと分かったんだ?まず最初に、疑問が浮かんだ俺だった。


とりあえず、雨の中はあれなんで近くの店に入った。丁度よくカフェっぽいようだから、飲み物を二つ注文した。俺はレインコートを脱ぎ、クーパーは店員からタオルをもらい体を拭いている。イケメンのクーパーだが、鼻水をすすりながら体を拭いている様子は、残念な奴にしか見えない。・・・体を拭き終えたクーパーは、俺の対面に座る。それを見計らったように、店員が温かい飲み物を持ってくる。・・・さて、飲み物がきて落ち着いたわけだが、何があったんだか。


話を聞くと一昨日おとといの日、俺と取引をした時に風邪を引いたらしい。寝る、所謂いわゆるログアウトをすれば治ると思っていたのだが、悪化したみたいだ。その為に、昨日は何も出来ずに終わったとのこと。そして今日も同じく風邪のままで、何をすればいいのか分からない。治さないと冒険が出来ないし、具合悪いままも嫌だ。このままでは、F.E.Oを楽しむことが出来ない。よく回らない頭で考えた結果、有名人の俺ならなんとかしてくれるんじゃないか?ってことで、俺の下に来たらしい。・・・有名人かどうかは分からんけど、俺は医者ではないぞ?風邪の治し方なんか知らないし。・・・薬のレシピがあれば、作れるかも知れないけど。


クーパーがティルを見付けたことについては、〈捜索〉というスキルと勘らしい。〈捜索〉というのは、フレンド登録をした者が何処にいるのか、大体の場所を教えてくれるらしい。その指示に従って雨の中を彷徨うろついていたら、レインコートを着た人物を見付けたとのこと。辺りを見回しても、レインコートを着る人は一人もいない。聞いた話では、NPCは雨の日に活動することはあまりない。それを考えると、この人物はPCである可能性が高い。PCでレインコートを着るような人を思い浮かべると、知ってる中で思い浮かぶのはティルだけ。その結果、ティルと勘で当たりを付けてすがり付く。そして今に至ると・・・。頭が回らないと言ってるわりに、回ってるなぁと思う。火事場の馬鹿力的な感じか?


それにしても〈捜索〉ね、・・・人探しには持ってこいのスキルだな。・・・とは言ったものの、フレンド登録をした奴だけってのが不便だな。スキルLVを上げれば、やれることが多くなりそうだ。いや、単純に扱いきれていないだけかも。普通に考えて、フレンドだけしか探せないのは変だ。大方、クーパーが明確に考えることが出来るのがフレンドだったのだろう。もう少し想像力があれば、目的になるNPC・魔物・建物などが探せると思うが・・・。まぁクーパーなりの成長があるだろ、俺の鑑定眼みたいにな。


スキル思案はこれくらいにして、風邪・・・ねぇ。やはりというか、体調を崩すんじゃないかと思っていたが。クーパーを見ると辛そうだ、楽しむ為に来たのに風邪を引くって・・・。碌でもないな、風邪。俺もよくズブ濡れになるが健康そのもの、ステータスが関係するのか?うーむ、分からん。とりあえず分かるのは、長時間雨に打たれると風邪を引くってことか。・・・クーパーが風邪を引いたってことは、同じような奴が何人かいるってことだよな。なんとも哀れな・・・。


俺からクーパーに言えることは一つ、


「俺を頼ってくれるのはまぁ、嬉しいが・・・。解毒・解麻痺の薬は作れるが、風邪薬の作り方は分からない。」


「おぉ・・・ディルざんならなんどが出来るがど思っでだんでずが・・・。」


鼻水垂らして鼻声で、ガックリ項垂れるクーパー。NPC道具屋に風邪薬は無かったのかと聞くと、


「ぞでが、売っでながっだ・・・!」


とのこと。うーん、何故だろうか?医者はどうだと聞いたが、何処にいるのか分からないと。・・・〈捜索〉、使えないのかね?と思ったが口にしない。使えないと思っているから、ここにいるわけだし。テーブルに突っ伏すクーパーに、考え込む俺。どうしたものかと思ったら、


「あの・・・お客様、先ほどのお話を聞かせていただいたのですが・・・。」


飲み物を持ってきた店員さんが、恐る恐る声を掛けてきた。




店員が俺達の話を聞いていたらしく、盗み聞きをした形になってすみませんと言ってきた。俺は気にしなくていいと返し、クーパーは反応なし。突っ伏したままだ。


「それで店員さん、何か用かね?」


と言ったが、たぶん風邪に関する情報を教えてくれるのだろう。俺達の話を聞いていたみたいだし。


「お客様は風邪のことでお困りのご様子。それにお客様は、客人冒険者様ですよね?風邪についての情報をご存知では無いようでしたので・・・。」


ほらきた風邪情報。クーパーもピクッと反応しているし。


店員さんの話だと、道具屋にて風邪薬の通常販売はしていないらしい。何故かというと、風邪を引く人など殆どいないからだそうだ。雨の日は出歩かない、出歩く時は必ず防水対策をとる。ということが、シアルの街というかグランベル王国で徹底されているみたいだ。その結果、風邪を引く人がほぼいないと。いないということは、薬を作ったり仕入れたりしても売れない。そんなわけで、商人や生産者は風邪薬を仕入れない作らない、というのがグランベル王国の常識みたい。それでも風邪を引く人は、薬のレシピを持っている生産者に依頼して、手に入れているとのこと。・・・だから、店に行っても売ってなかったわけね。クーパーなんか、鼻水垂らして目を点にしているわ。


ならすることは一つ、


「店員さんは薬を作れる人に、心当たりはあるかい?」


聞くことが一番だよな。


生憎あいにく、私は風邪を引いたことがありませんので・・・。」


引かなきゃ知るはずもないわな。さてどうしようかと思っていたら、調理場にいた姉さんが教えてくれた。シアルの街で作れる人物は一〇人、その中に見知った名前があった。まぁ当然といっちゃあ当然か。上級職人はダテじゃないぜ、ディーバ師匠。


・・・で、ディーバ師匠の店にて、


「にょほほほほほ!風邪を引いた奴なんて久しぶりじゃの!」


バカ笑い、クーパー半泣き。とりあえず、風邪薬を要求する俺。しかし師匠は、


「ここ十数年作っとらんから、材料なんかないわぃ!」


それを聞いたクーパーが倒れた。それは盛大に・・・。俺はすぐに駆け寄り、助け起こす。


「・・・ディルざぁん、俺ばもぅ・・・ダメでず。今日は・・・がえでぃばず・・・。・・・へへっ・・・おで、何じでんだぉ・・・。」


そう言ってクーパーは帰っていった。・・・・・・その後ろ姿を見て思う。風邪ってバッドステータスだよな?あそこまで酷いものなのか?毒とか麻痺とかよりも?なんて考える。実際どうなんだろ・・・。




因みに、風邪はバッドステータスである。風邪になるとステータスが下降する。そして倦怠感を感じるようになる。鼻水が垂れて鼻声になる。というのが、風邪の主な症状だ。クーパーほど酷くなることはまずない。たぶんではあるがクーパーの場合、先ほど挙げた症状に彼自身の心がプラスされた結果、重症化・・・いや、重症になったような錯覚に陥っていると思われる。病は気からというが、正にそれである。


バッドステータスには、ネガティブというものもある。全ての行動に-補正が付く、最悪のモノだ。毒状態でネガティブを併発すると、HPの減少が加速する。麻痺の場合は、拘束時間が延長される。それに、やること成すこと失敗続き。碌でもないバッドステータスだ。治すには、ハッピーフルーツを食べれば良いと言われている。クーパーは、このネガティブになりかけているのだ。




・・・・・・考えるよりも行動か、クーパーを助けてやらないと。俺も風邪になる時がくるかもしれないからな。自身の為に、ついでに人助けといきますか。


「そんなわけでディーバ師匠、風邪薬のレシピをくれ。」


「どんなわけかはさっきので分かったわぃ。秘伝でも何でもない故、持っていくがよいぞぃ。」


なんとも簡単にレシピを手に入れた。・・・まぁ確かに、NPCはほぼ風邪を引かないみたいだし、貴重でも何でもないんだろう。むしろPCが風邪を引くわけだから、こっちはこっちでやった方がいいってことなんだろうな。師匠を含めてNPC生産者は、無駄な手間が省けると思っているだろうし。


「無駄を無くすために、ティルを中心に客人連中に広めるがよいぞぃ。・・・助かるのぉ、面倒なのは嫌じゃし。」


俺の予想は当たったわけだが、思っていても口に出すなよ・・・。


その後は、師匠を突っついたり、引っ張ったり、振り回したりして遊んだ。師匠もいい歳なのにめちゃめちゃはしゃいで、あっという間に沈んだ。はしゃぎ疲れて寝た、ということだ。師匠が寝る為に、奥へ消えたのを確認してから店を出た。忘れずに『クローズ』と下げ札を変える。昼も待たずに閉店、まぁ雨だし客はほぼいないだろうからいいか。雨が止んだら羽虫の所へ行くぞ、と声を掛けたしな。気合を入れて水中薬を作ると言っていたし、師匠の本気がどんなものか楽しみである。




寄り道をしつつ、生産ギルドに着いた俺。エイミーさんを見付けて彼女の下へ、彼女も俺を見付けてニコニコ笑顔だ。・・・うーん、癒される。流石は俺の癒し担当、そう思いながら彼女の受け持つ受付に。


「やぁエイミーさん、ギルドカードの更新を頼むよ。」


「お任せくださいティルさん!」


エイミーさんは俺のカードを更新しながら、『おー!』とか『うひょうっ!』とか言いながら作業をする。コロコロ変わる顔を見ていると、俺もにやけるってもんだ。・・・あからさまには笑わないぞ、ビビられるのがオチだからな。・・・フィオラさんと扱いが違うって?そりゃあ違うだろうさ。フィオラさんは親しい受付嬢、エイミーさんはパートナー。この違いは大きいぞ、うん。


エイミーさんの反応を楽しんでいると、


「更新が終了しました!ランクアップまで後、少しですよティルさん!」


そう言って、笑顔でカードを返してくる。ランクアップというと、・・・次はランクCか。後どれくらいか?と聞いてみたところ、


「次のランクアップまで、生産スキルLV30以上が5つありますのでこれはクリア。生産総数は只今912、後588で条件の1,500になります。依頼達成数は8、後7で条件の15になりますね!」


ランクアップまで生産数は約六〇〇、依頼は七か・・・。全然、後少しじゃないじゃん。スゲー遠いんですけど。


「今、遠いじゃんと思いましたね?ティルさんは規格外でギルド期待の俊英、しかも上級職人の弟子です。多少の優遇はあります。ですが・・・!」


エイミーさん曰く、生産スキルLV30が五つ、これが一番キツイのだという。LV30にするまでにどれほどの時間を必要とするか、それが五つもある。通常、ここで根を上げる生産者も多くいるという。だがティルはこれをクリアした。


「・・・ということは、後は依頼をこなしつつ、生産しまくればいいだけです!余裕ですよ、余裕!」


いや・・・うん、それは分かっているよエイミーさん。でも遠いことには変わりないよ、依頼もあるし。だがまぁ、エイミーさんがそう言うなら頑張りますか。


さて、今日も元気に生産を・・・、


「ちょっと待ってくださいティルさん!」


エイミーさんに呼び止められた。まだ何かあるのかね?


「投擲薬のティルさんへの取り分が貯まりましたので・・・。」


あー・・・そういえば、そんなことあったな。忘れていたよ、・・・どんぐらいもらえるんだろ。


「なかなかの大金ですので、こちらでの受け渡しはアレなんですよ。ですので・・・こっちです、こっち。」


ん~・・・?大金?受付じゃダメなの?契約してからまだ一週間ぐらいしか経ってないけど。とりあえず付いていくか。二〇〇万ぐらいもらえるのかな?


付いていったら、そこは支部長室であった。対面するのは、ナイスミドルのおっさん。初めてギルドに来た時、俺にサムズアップしたあのナイスミドルだ。支部長だったんかい。


「こうやって話をするのは初めてだねティル君。私はシアル支部支部長のザハークだ、よろしく。」


そう言って、手を差し出してくる。・・・握手ってことだよな?俺はその手を握り返し、


「生産の出来る冒険者のティルだ、よろしく。」


そう名乗った。それを聞いてザハークは、


「腕の良い生産者であるのに、冒険者と名乗るか。・・・だから、投擲薬を作れたのだろうな。」


ほがらかに笑う。簡潔に自己紹介を終えた俺達、さて本題は?っと。


取り分の受け渡しの筈なのだが・・・、


「冒険者ギルドのフィオラも、少しは愛想があると可愛いげがあるのだが。魔法ギルドのメイは、幼さがあるもののなかなかに良い娘。それでティル君は、どの娘が一番いいかね?・・・いや、聞くまでもないか。ウチのエイミーが一番、そうなんだろ?エイミーの奴も、ティルさんティルさんと馬鹿の一つ覚えのように・・・。」


目の前のおっさんが、女の子の話ばかりしているのだ。どんだけ好きなんだよ女の子・・・。ゲンナリしつつも、耳を傾けてしまう俺は男なわけで。


「それにしても君はモテるよな。エイミーは君にベッタリだし、フィオラも君には優しい。それに客人で最近、頭角を現しつつあるディジーも君のことで一杯みたいだし。冒険者の客人も、君を訪ねて何人か来たな。主に女の子・・・、モテる男は死んだ方が良いと思わないか?」


さっきまでほがらかに語っていたザハークの目は、嫉妬の炎にまみれている。モテるとかって、意識したことない。・・・嫉妬されても知らんがな、それよりも金は?


とりあえず、ザハークの嫉妬話をスルーする俺。変な奴が多いなぁ、NPC。羽虫にケロ子、師匠達にシグルゥ、ガッハにこのザハーク。・・・中に運営の誰かが入っていたりして。


「・・・とまぁそんなわけで、女の子の紹介を頼むよ。私もモテたいし、チヤホヤされたいからね。ハハハハハ!」


・・・なんか終わったっぽいな。女の子を紹介と言われてもねぇ、紹介出来るような娘なんざいないよ。長かった前置きも終わり、やっと取り分の話になった。・・・何?守銭奴だって?・・・知るかい!もらえる物はもらわないとダメだろうが。さてさて、いくらもらえるかな・・・?


俺にカードを差し出すザハーク。・・・なんだコレ?


「このカードはGカードと言ってね、魔導具なんだよ。一回使い捨てでね、アイテムボックスに入れることで金に変わるのさ。君名義だからキチンと金に変わると思う、確認してくれないか?」


へぇ、そんな魔導具があるのか。言われた通り、アイテムボックスに入れる。すると俺の体が一瞬光り、そして収まる。


「うん、問題ないようだ。正真正銘ティル君のようだな、金の方も忘れずに確認してくれ。」


俺の魔力か何かに反応したんかね?まぁそれはいい、いくら入ったかね?






13,256,000G






合計がそんぐらいだと、八〇〇万が取り分か。・・・・・・大金だな!臨時収入ありがたやありがたや。


「その金額が、登録してから9日間の取り分だな。今度からなるべく、一週間ぐらいの間隔で金を取りに来てくれたらありがたい。それにしてもティル君は凄いな、定期的にうん百万からうん千万の金が入るんだから。」


定期的に大金が手に入るのか、それは凄い。・・・・・・・・・・・・は?うん百万からうん千万の金が俺に入るの?なんで?


ザハークは呆れながら教えてくれた。俺が提供した投擲薬レシピは、全世界に広まった。販売が許可される前に、その情報はありとあらゆる場所を駆けめぐる。その能力に冒険者達は歓喜し、販売を心待ちにした。商人・生産者達もその価値に目を付け、生産体制を整えた。そして、販売が解禁された日。その日、準備された投擲薬は世界各地で飛ぶように売れる。情報通りの性能に、冒険者達は投擲薬を買いまくる。作ったら作っただけ売れる世界的ヒット商品になった為、莫大な金が動く。売上金の一割だとしても、塵も積もれば山となる。世界中から売上金の一割が集まり、九日分で八〇〇万G。商人・生産者の更新状況や手続きにもよるが、多額の金が俺に集まるってわけだ。各地の支部から随時送られてくる金を、Gカードに纏めてから俺に渡すってーのがこれから続く。大量の袋を渡されることがないから、楽でいいけど。


「そんなわけで、うん百万からうん千万になるわけだ。運送状況にもよるから、渡す度に金額が変わるからな。」


とにかく、世界的ヒット商品になるから多額の取り分になるんだな?


「スゲー金持ちじゃん俺。・・・・・・金の使い道、どーすっかなぁー・・・。」


「羨ましすぎる悩みだな、ティル君。今度、綺麗なお姉さんの店を奢ってくれ。」


金ももらったし、ここに長居は無用。この支部長、際限なくタカってきそうだし。その内な、と言って俺は支部長室から出た。エイミーさんに声を掛けて、風邪薬を作らなきゃな。




エイミーさんを連れて作業場の方へ行くと、何やら言い争う声が。なんて迷惑な・・・、どこのバカだろうと思っていたのだが、


「ティルさんは私と生産するの!お礼もしなくちゃいけないんだから!」


「何をおっしゃっていますの!?ティルさんは私の用事に付き合ってもらいますのよ!」


どこのバカどころか知り合いだった。俺の作業場の前で何やってるの?あの娘達。俺の後ろから、エイミーさんも状況を窺っている。そして、状況が把握出来たのかプンスコ怒りだし、


「何をやっているんですか貴女達!そんな所で騒ぐのは迷惑行為ですよ!」


と飛び出していった。騒ぎを止めにいったエイミーさんの後ろ姿を見ながら、ディジーさんとノーンさん・・・二人となんか約束していたっけ?と考えていた。


エイミーさんが止めに入り、俺がいることに気付いた二人は大人しくなった。とりあえずここではアレだから、作業場に入るように言う。大人しくなった二人だが、どういうわけか睨み合っている。この二人の間に何があったんだ?面識もないんじゃないの?と思っていると、


「何故言い争っていたんですか?ティルさんの作業場の前で。あんな所で言い争われたら、ティルさんに悪評が立つかもしれないんですよ。」


と、エイミーさんが二人に言った。エイミーさんの言うように、なんで言い争っていたのだろう。俺の作業場の前ってことは、俺が関係しているのか?関係しているとしても、心当たりが全くないんですけど。


・・・聞くところによると、俺に用があって作業場に来た二人なのだが、入口で二人は鉢合わせた。俺は知らなかったんだけど、二人は顔見知りだったらしい。目的というか、目標が同じみたいでライバルみたいなものなんだと。目標って何さ?と聞くと、モゴモゴして教えてくれなかった。あえて言うなら、エイミーさんポジションがどーのと言い始めた。ギルド職員になりたいのかな?よくもまぁ、面倒っぽい職を目指すもんだ。そんなわけで鉢合わせた二人は、互いに目的は同じだと瞬時に理解。自慢話を絡めての牽制をしたところ、互いにムキになって言い争いに発展したとのこと。俺がどーのって言い争っていたみたいだが、巻き込まないでほしいと思う。エイミーさんポジションを狙うなら、俺じゃなくてエイミーさんをどーのと言い争うべきだ。全く・・・困った二人だな。


理由は分かった、後は三人で色々と話せばいい。エイミーさんと話し、ギルド職員になる道を模索する。二人にとって有意義な一日になることだろう。・・・エイミーさんに手伝ってもらおうかと思っていたが、目標を目指し頑張ろうとする二人の為に、彼女のことは諦めよう。風邪薬は一人で作れると思うしな、丁度よく材料もあったし。・・・材料を見る限り、ディーバ師匠の店にない筈がないと思った。宣言通り面倒だからって、俺に預けたんだなあの人。癒し草にハーブ、森の雫だもん。わりと簡単に手に入る物だ、森に行けばあるからな。文句を言っても仕方がないか、風邪を引くのは俺達ぐらいみたいだし。さて、ボチボチ作りますか。


・・・・・・作ろうと思ったんだけど、


「ティルさん!作業場を使わせてもらっているお礼がしたいんです!」


「ティルさん!前々から約束しているではありませんか、いい加減冒険に連れて行ってくださいまし!」


俺の手をグイグイ引っ張る二人。二人の力があまり無いからか、全然痛くはないんだけど・・・。


挿絵(By みてみん)


「なんで俺・・・?」


困惑しかないわ、エイミーさんに用があるんじゃないの?


「ティルさん!生産ですか生産ですね私手伝います!お礼も兼ねて!」


「ティルさん!生産は後でも出来ますわよね!私のレベリングに付き合ってくださいまし!」


俺は今から風邪薬を作る使命が・・・、


「手を離しなさいよ!ティルさん困ってるでしょーが!」


「そちらが離しなさいな!ティルさんの邪魔でしてよ!」


風邪引く哀れな子羊達が・・・、


「ペッタンドリル娘はお呼びじゃないですぅ!!」


「んま!なんてことを言いますの・・・!貴女なんて小汚い灰かぶりのクセに・・・!」


「汚いゆーな!自肌じゃボケ!」


「ゴキブリ・・・!!」


う~・・・・・・、


「ガルルルルルッ・・・!」


「フーーーーーッ・・・!」


・・・・・・・・・イラッ、


「・・・じゃかぁしぃわボケッ!」


苛立った俺はそう言って、二人を振りほどく。俺の力が強いため、小柄な二人は仲良く引っくり返る。


「「キャン・・・!!」」


俺は引っくり返った二人を見下ろして、


「俺を挟んでピーピー言い争うのは止めてもらえませんかね?ウルサイんだよね・・・マジで。」


口角を引きつりつつも、優しい声音でお願いする。そんな俺に二人は、


「「・・・ごめんなさい。」」


綺麗な土下座で謝ってきた。


二人はエイミーさんではなく、俺に用事というかお願い?があったみたいだ。エイミーさんポジションになりたいんじゃなかったのかね?・・・まぁいいや。


「俺は今から風邪薬を作らねばならない。これは最優先事項だ、変更はない。」


何故、風邪薬を作るのかを説明すると、


「私達PCには、必要不可欠な薬なんですね。・・・因みにレシピを教えてもらえたり?」


俺は頷く、ディジーさんは嬉しそうだ。まぁ試しに俺が作ってみてからだがな。しかし、ディジーさんは〈調合〉持っているのか?持っていなければ、薬を作ることが出来ないけど。聞いてみると、自分じゃなくて友人に教えたいらしい。俺には劣るけど、腕のいい奴がいるみたい。知り合いから知り合いで広めるのは時間が掛かる。どうせなら、掲示板に載せた方が広がるだろう。面倒だからその仕事は、ディジーさんに頼むとしようか。


ノーンさんのレベリング、冒険がしたいんだよな?雨降っているけど、それでも冒険に行きたいのか?


「冒険したいって言っていたと思うけど、雨降ってるぞ?説明したが、風邪を引く可能性が出てくるが・・・。ノーンさんは、それでもしたいのか?」


ノーンさんはコクコク頷いて、


「ティルさんから買わせていただいたローブがありますもの、雨程度なら弾きますから問題ありませんわ。それにティルさん、全然誘ってくださらないんですもの・・・。自ら動かないとダメかな?と思いまして・・・。」


・・・確かにそうだな。その内誘うよって言ってはいたが、誘っちゃいない。一緒に冒険するのを楽しみにしていたが、一向に誘われないからしびれを切らしたんだな。うーん・・・、口約束とはいえ俺が悪いな。風邪薬を作ったら、暇だからレベリングに付き合うか。


「雨でもいいんなら行くか、今回は付き合うよ。薬作ってからでいいか?」


ノーンさんは顔を輝かせて、激しく頷く。そんな俺達を見てディジーさんが、


「ハイハイ!私も行きたい!」


飛び跳ねてアピールしてくる。・・・ディジーさんて、戦えるの?


ある程度は戦えるみたいだから、ディジーさんも連れていくことにした。風邪薬を作ったら、レインコートを二着作るかな。二人の為に・・・、あげずに貸し出しにするけど。あげてもいいんだけど、それをやり過ぎるとそれはそれで問題になりそうだし。しかし・・・雨の中、敵ってどうなんだろうね。湖に行く道は蛙しかいないけど、他の所はどうなんだろう?うーむ、気になってきた。とりあえず、今回行くのは森だな。雨は木々で多少は遮られると思うし、無理をしなけりゃ大丈夫だろう。ディジーさんは分からんが、ノーンさんはなかなかの強さだからな。雨だし水気が多いから、得意の水魔法も少しは強くなりそうだし。・・・そうだな、金はある。スキル・魔法を買うのもいいかもしれない、あるにこしたことはないだろう。何がいいかな・・・・・・・・・っと、また悪い癖が。やる前に考え込むなっての、俺。とりあえず、薬を作ろうか。


結果を言うと、〔風邪薬〕は出来た。簡単に説明すると、癒し草とハーブをナイフで細かく刻む。すり鉢に入れて、そこに森の雫を少し入れてから丁寧にする。癒し草とハーブの原形が無くなったところへ、残りの雫を入れる。軽く混ぜてから、鍋に移して火にかける。火にかけて一〇分後、ポーションの器に移して冷めるのを待つ。すると鮮やかな緑色をした風邪薬が出来るのだ。


〔風邪薬〕風邪を治す飲み薬。効果は抜群で、一口飲めば一気に完治する。だが味は最悪で、とんでもなく苦い。別な意味で苦しむことに・・・。(効果:風邪回復)【製作者:ティル】


・・・とまぁ、こんな感じの薬。どんだけ苦いのか興味はあるが、俺は風邪を引いていないからな。クーパーで試すとしようか。とりあえず、この薬を五つ作っといた。何があるか分からないからな。クーパーで試して、効果があれば掲示板に。俺の見立てでは、〈調合〉LV15以上あれば作れそうだ。


〔風邪薬〕を作った俺は、そのままレインコート作りに。・・・とは言っても、作っているのはディジーさん。大量にある蛙皮を渡して、作らせているのだ。上から目線になるが、予定を変えてでもディジーさんの腕を見たいと思ったわけで。他にも理由はあるが・・・、


「うひぃ~・・・、蛙皮の加工が難しい。縫うのも大変だよぉ~・・・!」


泣き言を言いながら、必死にレインコートを作る。因みに、ノーンさんの分は俺が作った。ディジーさんは自分の分だ。


「・・・そこ、縫い目がずれてる。出来上がりが歪むぞ。」


俺は頑張る彼女に、容赦なく指摘する。ディジーさんは、『うぎぃ・・・!』とか言ってやり直している。俺達が作業をしている間、エイミーさんはいつも通り整理整頓に精を出す。ノーンさんも見よう見まねで手伝っている。うーん、ディジーさん以外平和だな。


やっとディジーさんが、レインコートを作り上げた。最後の仕上げは俺が引き継ぎ、完成に至ったわけだ。最後の仕上げは接着剤、これは秘密だから覗き厳禁で塗り込んだ。これを塗らないと、完全防水にならないからな。ディジーさんはへばっているし、だいぶ時間が経ったし、今日は冒険なしだな。そのことを二人に言って、明日にしようと提案。二人は了承して解散となった。二人が帰った後、


「今日のことでディジーさんは、更に腕を上げましたね。依頼も達成し、彼女が何かをすればティルさんの糧にもなる。・・・お得ですねぇ~♪」


エイミーさんはニコニコ笑顔だ。・・・俺がディジーさんに作らせた理由は、依頼を達成する為。生産者指導の依頼で、ギルド所属の生産者を指導し、腕を上げること。そんな内容だ。腕が上がればギルドの得に、そして俺には達成と情報、エイミーさんは自分の評価が上がる。・・・良いことずくめじゃないか。情報といっても大したことなく、腕の差を確認する為。ロドさん達に聞いたんだが、生産の腕も値段に絡むみたいだし。一応、ディジーさんにもそのことを話した。彼女はそのことに納得し、逆にお礼を言ってきた。差を見せつけられた方が、目標が出来てやる気が出ると。ついでに腕も上がって言うことなし!とのこと。後、作業場を使わせてもらっているお礼で何処で手に入れたのか、素材と金を置いていった。その中には、エシャルトンと宝来からの物も含まれる。律儀なもんだね、ありがたく受け取りますが。俺は、スキル屋と魔法ギルドに寄ってから帰るとエイミーさんに言って、ギルドを出た。


因みに、帰る途中でクーパーを呼び出し、〔風邪薬〕を渡した。クーパーは喜び、一気に飲み干した後に悲鳴を上げて倒れた。・・・説明通り、凄まじく苦かったみたいだ。復活したクーパーがお礼と恨み言を言ってきた。・・・治ったんだから、いいじゃん。

ゲーム内で風邪を引く。どんな罰ゲーム?って感じですかね。リアルと似たり寄ったり、甘く見ないように。


ティルさん、金持ちに。


金の使い道案。


一つ、スキルとか魔法とか買い漁る。


一つ、無駄に凄い馬車を買う。魔改造していき、最終的にはモン○ンのアレになる。


一つ、開拓村まで貯めておき、そこで大量に消費する。目指せ大農家!


他に何かあるかな?




鈍感男は気付かない。今回は、恋愛関係のプロローグって感じかね?どうなることやら。


恋愛関係のイベントとか、スキルとかあった方が面白いかな?うーむ、恋人システムはありかなしか。迷うぜぃ。

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