第30話~露店 その2
従魔案に職業案、ご意見ありがとうございます。
近々、途中経過を纏めたいと思います。
無論、まだまだ募集しますんでよろしく。
只今の作者は、暑さで死にそうです。わけが分からなくなっています。
ヘルプミー( ;∀;)
「いらっしゃ~い!初心者さん必見、ウサギ一式8,000Gだよ!」
「鉄製の武器はいらんかね!3,000Gからの販売だよ!」
「薬はここだよ~!冒険の必需品、ポーション、マナポーション、投擲薬をセットで売るよ~!」
「ノーシュ山の素材が揃っているよ!そこの生産者っぽいお姉さん!トカゲ皮を買わないかい?勉強するよ!」
色々な露店がひしめき合う、シアルの街メインストリートは活気に満ちていた。露店商が声を上げれば人が集まり、物が売れて金が飛び交う。
NPCもPC関係なく賑わうメインストリートではあるが、その一角にただならぬ雰囲気の露店があった。並べられた商品は、武器、防具、装飾品、アイテム各種と品数豊富だ。武器に至っては、剣、短剣、大剣、騎士剣、槍、斧など剣類に偏っているが、多くの種類を取り揃えている。これほど豊富な品揃えであるのに、この露店には客がいない。周りは活気に満ちているのに、この露店を中心に客もいなけりゃ同業者もいないのだ。そしてその中心にいるのが、体育座りでボケッとしているティルであった。
早朝から露店を出して早二時間、前回同様客が来ない。少しは俺の顔も認知されたかと思っていたが、そうでもなかったようだ。そこそこ有名になっても俺は俺ってか、忘れていた俺の顔が本領発揮。悲しいもんだ・・・。
ティルは自分の顔がまたしても、この悲劇を起こしていると思っているが、今回は違う。ティルの装備が原因なのだ。現在の装備は、昨日作った魚人シリーズである。黒い兜、黒い軽装鎧に黒い服。全身黒ずくめの禍々しい姿。兜から覗く赤い瞳は全てを射抜き、溢れる禍々しい気配は人に恐怖を与える。完全に悪、悪にしか見えない出で立ちである。体育座りであるが、それが尚のこと不気味さを醸し出す。こんな奴が店番をしているのだ。誰も近寄らないのは必然と言えよう。
一応、ティルは有名人である。普段は恐れられるが、店となると人が集まる筈なのだ。彼の作る物は高性能、前回の露店で知られている。そして、顔も知られている。なのに人が近付かない、何故か?・・・答えは簡単である。兜で顔がよく見えず、ティルであると誰も気付かないだけなのだ。兜を外せば人は集まるということに、気付かないティルは落胆する。この大量の商品をどう捌けばいいのかと。腕を組んで『うーん・・・。』と呻き出す始末、更に人が避けるという悪循環に気付かないのであった。
露店を出してから四時間。やはりというかなんというか・・・、客が一人も来ない。流石のティルも不貞腐れる。
「人を見た目で判断するとは、世の中くだらんな。・・・羽虫なんかが剣の神なんだもんな、世の中終わっている。・・・あ、俺も見た目で判断しているか?・・・いや、性格も含めて羽虫が剣の神・・・ブツブツ。」
何やら色々とディスり始めてしまう。ブツブツと文句を呟いていると・・・
ぐぅ~~~・・・
腹が鳴った。即ち、腹が減ったということだ。ただ座ってブツブツ言っているだけなのに、どうしようもない空腹感。F.E.Oを始めてから、経験したことのない空腹感。なんなんだこれは・・・、多少のことなら我慢出来るがこれは無理だ。腹が減ってどうしようもない、これが(燃費増加)の効果なのか。恐るべし(燃費増加)、流石は呪いよ。・・・っと感心している暇はない。どうせ客はいない、だったら飯を食って腹を満たそう。俺はボックスからおにぎりを出して頬張った。
・・・・・・美味い!空腹は最高のスパイスとよく言うが、それだけではない。おにぎりその物が美味いのだ。ここに来る前に、シグルゥんとこの調理場を借りて握ってきた。(燃費増加)効果で、満腹度が減りやすいとあったからな。腹が減りやすいと解釈して、握ったわけだ。〔無法の料理人〕効果で、料理の持ち運びが可能と知ったからな。とりあえず、おにぎりを握ってよかったと言えるだろう。
・・・でこのおにぎりだが、ご飯の固さが程好く、具であるシアルマスも逸品。一口頬張ると、口の中で米がほどけ、塩焼きにされたシアルマスとの相性も良く、口内で美味さが爆発する。一気におにぎりを食べ尽くしてしまった。・・・自画自賛になるが、美味すぎだろこのおにぎり。やはりあれか?シアルマスが美味いのか?流石はレア魚・シアルマス、料理人が欲しがる筈だわ。
そしてありがとう、依頼を出してくれた料理人よ。お陰様で魚の捌き方も覚えたし、美味いおにぎりも食べれた。しかもだ、魚を捌いたお陰なのかは知らんけど、〈短剣〉〈解体〉も手に入れた。〈短剣〉は包丁がその括りで、料理を作る度に使っていたから覚えたんだろう。〈解体〉も魚を何匹か捌いたから覚えたっぽい。いやぁ、ありがたいことだね。・・・っと、腹が満たされていないからおにぎりを追加で食べよう。食べたら尚のこと腹が減った、美味すぎるのも考えものだな!
――――――――――――
「今日も良い天気ですわね、何か良いことがありそう。」
雲一つない青空を見て、今日も良い一日が始まりそうな予感。私ノーンは、青空の下で今日の予定を考える。
・・・・・・そうですわね、今日はメインストリートで露店巡りとしましょう。ええ、ええ、それが良いですわ。愛用の杖である〔慈愛の光杖〕は、ティルさんが私の為に、私だけに作ってくれた杖。とても凄い力を秘めていて、装備をしたら〈光〉を入手しました。驚きましたけど、それ以上に驚いたのがこの杖の報酬はいらないと、ティルさんが言ったことです。『冒険に付き合ってくれたらいいよ。』と言っていましたが、全然誘われません・・・がっかりしてますわ、毎日・・・。
それはまぁ、置いておくとしてです。杖は良いのですけど、防具の方が少々・・・というか、DEFが物足りなくて買い換えようかと。ですので今日は、露店巡りですわ。素晴らしい防具に出会える予感がしますの。思い立ったらすぐ行動!・・・ですわ。
なんと言いますか・・・。今のところ、収穫なしですわ。売られている品は、なかなかに良い物が色々とありました。ですがティルさんが作った杖と見比べると、どうにも・・・。ティルさんと比べるのは酷なんでしょうけど、比べちゃいますわよね?誰だって。この杖と比べても見劣りしない物はないかしら?
そのように考えながら歩いていますと、
「あっちはヤバイから行かない方がいい。黒ずくめの男が露店をやっているが、気配がただ者ではない。何かしらのイベントキャラかも知れない、戦闘系の。」
「黒ずくめって、あの薬で子供を作る組織の仲間かなんかか?ヤバくね!?ロリが増えんぞマジ。」
「ロリショタ増加は歓迎だが、自分がなるかもって思うとヤバイよな。・・・近付かないでおこう。」
という会話が聞こえました。黒ずくめの男が店主の露店、とても気になりますわ。子供にされたとしても、私はチビッ子体型なのであまり変わらないと思いますし、・・・不本意ですけど。そのようなわけで、その露店に行ってみましょう。
近付いてみてわかる、圧倒的な存在感。別に殺意を飛ばしているわけではなく、ただそこにいるだけで異質と分かってしまいます。物を売っているようですが、近付けませんわよね。皆さん、遠巻きで様子見するのが精一杯のようです。そんな私も、その中の一人なんですけれど。一体何者なのでしょうか?人を害するような方ではなさそうですが・・・。
「おい・・・アイツなんか取り出したぞ。・・・・・・あれは!?」
「おにぎりだ、おにぎりを出しやがった!奴は何者だ!!」
「・・・・・・食べたわよ!それも美味しそうに・・・!一体、何だっていうのよ!!」
突如としておにぎりを取り出し、食べ始めた黒ずくめの男を見て周りの方々は小パニック。私も驚いていますわ。だって・・・料理の持ち運びは不可、なんですもの。そんな私達の常識を嘲笑うかのように、その男はおにぎりをもう一つ食べ始めました。
なんてことでしょう、この男は私達の常識を超えた存在のようです。NPCキャラクターなのでしょうか?PCでこのような人は、見たことがありませんわ。このような・・・明らかに高性能の黒ずくめ装備、多種類にも及ぶ品揃え、料理の持ち運びが出来る、圧倒的な存在感、様々な視線に晒されても気にすることなく食事をする剛胆さ・・・、このような方がPCでいる筈がありませんわ!
・・・・・・・・・・・・あら?一人だけ心当たりがありますわね。まさかティルさんではないですわよね?ティルさんであれば、納得してしまいますわ。なんせ規格外なんですもの、これぐらいは普通なんでしょう。一般的には、普通・・・ではないのですが。なんだかティルさんなのでは?と、疑問に思っただけですのに。・・・ティルさんだろうと確信する私がいます。ティルさんであれば、素晴らしい防具が手に入ることは確実。
なら、やるべきことは一つですわね。皆さんが近付かずにいるために、空白となっているエリアに入っていく私。そんな私を見て、周囲の皆さんが息を飲む。そして、ざわめき出す。
「オイオイオイオイ・・・!あの娘スゲー根性しているな!」
「何が起きる?」
「もし、ヤバイことになったなら・・・あの娘を助けられるように、構えとけよお前ら!」
ただ近付いて話しかけるだけですのに、周囲の雰囲気が剣呑に。・・・ティルさん、やっぱり貴方は恐怖の対象なんですのね?私には、とてもカッコいい方にしか見えないのですが。周囲が剣呑な雰囲気だというのに、当の彼は関係ないとおにぎりを食べています。・・・・・・ティルさんだという前提で動いている私ですが、この人絶対にティルさんですわ。近くで見て確信しましたわ。私はおにぎりを食べる彼の前に立ち、
「ティルさん、お久しぶりですわね?」
そう、声をかけた。
――――――――――――
おにぎりを食べていると声をかけられた。やっと客が来たか・・・。そう思いおにぎりから視線を外し、
「おう、いらっしゃ・・・ってノーンさんじゃないか。・・・久しぶりだな。」
目の前にいたのはノーンさんだった。杖を作った時ぶりぐらいか?なんにせよ、今回初のお客さんになるわけだ。出来る限り望まれる物を提供しよう。その物があれば、の話だが。勿論今回は金を取るぞ。
「よかった・・・、やっぱりティルさんでしたのね。」
商売のことを考え始めたら、ノーンさんがそう言ってきた。・・・やっぱりって、俺は俺なんだが。と怪訝に思っていると、
「兜でお顔が見えませんし、纏う雰囲気が尋常ではありませんもの。正直、誰もティルさんだとは思っていませんわよ?」
・・・・・・マジか、全然気付かなかったんだけど。改めて自分の姿を見てみる。黒い兜に黒い軽装鎧、そして黒い服。全身黒ずくめですな、顔も殆んど隠れているし。ノーンさんの言うように、他人から見れば黒ずくめの男。俺であることが分かる要素がない。・・・そう考えると、ノーンさん凄いな!俺であると見抜いてここにいるんだから。俺は密かに感動した。彼女には特に良い物を売ろうと思った。
・・・で、軽く世間話をしながら、ノーンさんに欲しい物を聞いてみた。
「DEFが気になりまして、新しいローブが欲しいんですの。何か良いローブってあります?」
ノーンさんはローブが欲しいのか、・・・ローブね。
「・・・あるよ。」
俺はゴソゴソと、後ろに置いてある箱の中を漁る。そして、二つのローブを取り出す。
〔ケロケロローブ〕シアルフロッグの皮で仕立てられたローブ。内側にはホーンラビットの毛皮が使用されており、着心地はかなり良い。 DEF+32 INT+5 MED+3 (特殊効果:水耐性微弱上昇・毒耐性)【製作者:ティル】
〔ケロケロライトローブ〕シアルフロッグの皮で仕立てられた光属性のローブ。内側にはホーンラビットの毛皮が使用されており、着心地はかなり良い。 DEF+30 INT+8 MED+5 LUK+10 (特殊効果:水耐性微弱上昇・光耐性微弱上昇・毒耐性)【光属性】【製作者:ティル】
〔ケロケロローブ〕は普通に作ったヤツで、〔ケロケロライトローブ〕が〈光〉を〈付与〉して作ったヤツだ。〈光〉と〈付与〉のLVが上がったからだろうか、気合いを入れることなく普通に〈付与〉したらなかなかの性能になった。まぁどちらも良いローブだと思うよ、俺以外入手不可素材で作ったヤツだからな。他にも湖シリーズはあるが、ローブはこの二つのみ。後は森シリーズのローブか、こっちも良い出来ではあるが湖シリーズに劣るわけで。二つ出したのは値段と性能が違うのは当然として、単純に好みと財布に相談ってことで出した。さて、ノーンさんはどうする?
「私の装備している山トカゲのローブとの差が大きいですわね、3倍は違いますわ。・・・シアルフロッグ?聞いたことがありませんけれど・・・。」
「ソイツはシアル西の湖にいる蛙だ、倒しまくって皮が余りまくっているんだよ。そのローブは在庫がまだある、値段はローブの中でも高い方だ。」
「湖に行きましたの!?未踏の地と聞いておりましたがすでに・・・。後でメモリーストーンをチェックしなくては。」
仰け反って驚くノーンさん、やはり湖一番乗りか。自慢する気はあまりないが、一番乗りとは嬉しいね。メモリーストーンってのが気になるから、俺も後で調べてみよう。二つのローブを見比べて、考え込むノーンさん。もう少し安めの森シリーズのローブもあるよと言ったが、蛙ローブに視線が固定している。
「・・・・・・更に高性能の蛙ローブがあるけど。」
「一応、見せてくださいまし。」
即答ですか、・・・では。
〔ケロケロダークローブ+5〕シアルフロッグの皮で丁寧に仕立てられた闇属性のローブ。内側にはホーンラビットの毛皮が使用されており、着心地はかなり良い。蛙の顔に似せたフードが付けられており、可愛らしさも際立つ為に女性にオススメ。 DEF+38 INT+5 MED+10 (特殊効果:水耐性微弱上昇・闇耐性微弱上昇・魅了付加(特殊)・毒耐性)【闇属性】【製作者:ティル】
大量生産した物とは違い、このローブは集中して作った。集中して丁寧に作ったのだが、普通の生産者よりは作るのが早い。何度も言うが〔生産加速〕のお陰だな。・・・で、ローブを普通に作るのもなんだから、女性が着たら可愛くなるんじゃね?っていうのを作ってみた。色は黒だが、十分可愛く作れたと思う。このフードを被れば、更に可愛くなる。特にチビッ子タイプの女性に着せたら、愛らしすぎて数人の男は悶え死ぬんじゃなかろうか?これを作る際に、思い浮かべたのがディーバ師匠だし。
特徴として、魅了付加(特殊)だろうな。これを発動させるには条件がある。
一つ、美少女及び美幼女であること。美女でも可、たぶんだが。
一つ、フードをしっかり被ること。被ってこそのフード付ローブである。
一つ、笑顔が素敵なこと。笑顔が最も可愛らしさを際立たせる為。
一つ、とにかく似合うこと。このローブが似合わなければ意味がない。
この四つを満たす者が、魅了付加(特殊)を発動させることが出来るのだ。因みにこの魅了、掛かってしまうとヤバイみたいだ。敵味方問わずに同士討ちするらしい。なったことがないし、なった奴を見たことがないからわからんが。まぁ、状況によって違うんだろう。
現段階最高のローブをノーンさんに渡す。ノーンさんはじっくり見て、
「流石はティルさん、凄いローブですわね。・・・この魅了付加(特殊)ってなんですの?」
そういえばノーンさん、〈鑑定〉持ってないんだっけ?〈鑑定〉がないと、効果説明が見れないからな。装備すれば見れるけど。とりあえず説明すると、
「魅了はバッドステータスなんですのね?掛かってみないと分からないみたいですが・・・。それよりも美少女に美幼女・・・、変わった発動条件なんですのね?・・・ティルさんは美幼女好き?」
「・・・・・・好き、なのかなぁ?単純に、ディーバ師匠を思い浮かべて作ったんだが。まぁ、嫌いではないよ。それよりも、何故に美幼女に反応するんだ?せめて美少女だろ。」
「そう・・・ですの。」
男なら好きだろうな、女でもイケメンとかが好きだろうし。
「フード付ローブが欲しいんですけど、〈闇〉持ちではないのでこちらのローブをくださいまし。おいくらかしら?」
ライトローブの方ね、うーん・・・いくらぐらいがいいだろうか。10万ぐらいか・・・?とりあえず、ノーンさんにいくら持っているか聞いてみた。周りには聞かれたくないのか、耳元に口を寄せて、
「約30万Gですわ。無理をしないで、節約しながら頑張って貯めましたの。」
ふむふむ成る程・・・。ノーンさんは基本的にソロで、シアルの街と王都ルトマーを行き来しているようだ。主な狩場は、ノーシュ山とグランベル大平原とのこと。素材売って、依頼受けて、コツコツ貯めて30万。普通の冒険者は、金を貯めるのが大変なんだな。ぶっちゃけ、30万なんかすぐ貯まるぞ。俺の場合だが。うーん・・・、やっぱり無難に10万ぐらいでいいかな?ノーンさんだし。
「10万、・・・でどうだろうか?」
「はっきり言いまして、安すぎる気が・・・。でも、私としてはありがたいですわね。」
10万じゃ安いのか?よくわからんが、とりあえず10万でノーンさんに売る。でもなんだか悪いということで、グランベル大平原の魔物素材を全部、俺にくれた。・・・ノーンさん、いい娘やで。
因みにローブの値段だが、最近出回っている物で一番高いローブは、深き森に生息している大蜘蛛素材のローブだ。出回っていると言っても、せいぜい三着。深き森で狩りが出来る冒険者は、今のところ三人のみ。その一人のティルは自身が生産者故に素材は売らないが、後の二人は知り合いの生産者に売っている。しかし、その二人も命懸けで大蜘蛛を狩っているため、思うように素材が集まらずに三着しか出回らない。
性能はDEF+18 AGL+1 DEX+1。この性能でもローブとしてはかなりの物で、最高のDEFを誇っているのだ。そして値段だが、一着約20万。三着しかない希少性と、最高のDEFを考えての値段である。普通に出回っている物が大体10万前後、それを考えると破格といえる。それでもその三着はあっという間に売れたのだが。
それをふまえて、ティルのローブのことである。現在最高といわれるローブの約二倍の性能、それが10万である。掲示板を見ないから相場が分からないのもある、・・・が10万はノーンさんの言うとおり安すぎなのだ。生産者として名が売れているティルのローブで、実力もギルドが期待する程の腕。ザッシュ達に売った大盾も未だ現役で、これを超える盾は生産されていない。そして公言したとおりあれ以来、露店を開いていない。深き森以上の素材で作られている。性能と希少価値、ギルドが認める安心感。
それらをふまえて値段を付けるなら、〔ケロケロローブ〕25万〔ケロケロライトローブ〕35万〔ケロケロダークローブ+5〕50万。あくまで、現在の相場で付けるならの値段である。湖素材が出回るようになったら、10万~20万は下がるだろう。それでも高いのは性能が良いからだ。並の生産者が作っても、高くて20万ぐらいか?そこそこの性能でこの値段になるだろう。
自給自足で、情報に疎いが故の値段付けをするティルだが、買いに来る客やJunさん達の指摘を受けて、そこそこの適正価格で売るようになる。それでも安いのだが。
「これを機に、客が来てくれればいいんだが・・・。まだ遠巻きで見ているな、物騒な気配がアイツらから感じる。」
ノーンさんにローブを渡しつつ、周りを見てそう呟く。何故か武器に手を添えている。・・・あれか?P×Pバトル追加で気が高ぶっているのか?どのみち物騒だ、これじゃあ客が来ない。まさか・・・!アイツらみたいなのが多いから、客が来ないのか!?他の生産者で露店をしている奴は、ラフな格好。俺は魚人シリーズ。血の気の多い冒険者と同じように見えるのかもしれない。商品は囮で、話し掛けたらP×Pバトルを吹っ掛けられるとか。・・・それは由々しき事態だ。ああいう奴らのせいで、俺までそのような目で見られるのは我慢ならん。俺はただの露店商、俺の道を阻む奴らはそのP×Pバトルで葬ってくれる。
・・・と、考えて行動しようとしたが、
「ティルさん、だからその姿ではダメだと言いましたわよね?せめて兜を外してくださいまし。」
・・・・・・・・・そういえば、そんなことを言ってたな。うーん、冷静になると俺ってば怪しい奴じゃん。ノーンさんも最初は分からなかったと言ってたし。とりあえず兜を外しますか。
兜を外して視界良好、これで状況が変わるかね?
「ティルさんのお顔をきちんと見れて、安心しましたわ。・・・街中で行動する時は、兜を外すことをオススメしますわ。」
俺の顔を見て、妙にニコニコするノーンさん。俺だと分かっていても、黒ずくめの怪しい男だったからなぁ。まぁそれはさておき、物騒な奴らはどうなった。視線を向けると、
「ぬぉぉぉぉぉ・・・プレッシャーが・・・!」
「兜を外しても、いや・・・外した方が怖い。」
「・・・・・・あの人は!・・・メーデー!メーデー!至急、連絡を・・・!!」
「所持金はいくらある・・・!」
「・・・俺にもツキが廻って来やがった!」
恐れる奴らと歓喜する奴らに別れた。先程とは違う目付きで俺を見ている。これは・・・あの時と似た空気。なら、俺がしなくてはいけないことは・・・、
「俺の作った物を買いたい奴は並べ!早い者勝ちだからな!喧嘩厳禁だぞ!」
そう大声を出すと、
「「「「「うぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」
凄い勢いでこちらに走ってきた。その光景を見て、俺はノーンさんの言うとおり、街中では兜を外して行動しようと思った。
・・・約四時間後、殆んどの物が売れた。値段を言っては『安すぎる!』と言われ、俺が言った値段に上乗せして金を払っていく冒険者。上乗せしたいが金のない冒険者は、素材を置いていく。在庫処分をする筈が、素材を多く手に入れた。まぁ見たことのない素材があるから、俺としては嬉しいが。
それにしても、冒険者というかPC冒険者なんだが・・・。みんなバカ正直なんだな。安いのを指摘して上乗せするなんて、普通はラッキーってなことで上乗せしないと思うんだが。まぁ信用第一で好感は持てるがな。一応、そういう冒険者とはメルアド交換して、そこそこの融通をしようと考えている。いい奴と付き合いたいじゃん。
まぁラッキーって感覚で買った奴もいるが、それはそれで構わない。俺がその値段で売ったんだから。当然、それだけの関係になるわけだが。
「あぁ・・・もう売り切れですか。・・・残念。」
「出遅れた・・・。クソゥ・・・!」
「ティルさぁん、・・・何もないんスか?」
全て売れて、腹が減ったからおにぎりを食べていた。手伝ってくれたノーンさんにもあげた。そしたら、遅れて三人の冒険者が現れた。名前は覚えていないが、初めての露店販売の時に買ってくれた三人だ。息を切らしているな、そこまでして俺の作った物が欲しかったのか・・・。ありがたいものだ。・・・うーん、売る物ねぇ。
「売れないと思って出さなかったんだが、呪い装備だったら数点あるけど?」
売ろうと思ったんだが売れないだろうなと思い、売りに出さなかった呪い装備があった。いやぁ、いらないんじゃないの?
「「「一応、見せてください!」」」
・・・呪われるよ?
呪い装備の一つを懸けて、ジャンケンをし始めた。これがそんなに欲しいのかね?俺は自分の手で作り出した槍を見る。
〔闇呪の槍〕闇の魔宝石を装飾に使った為に、闇に魅入られた魔槍の一種。 HP+30 MP-50 STR+30 DEF-20 INT+10 MED+5 LUK-20 (特殊効果:装備解除不可・敵闇耐性下降・光耐性下降)【闇属性】【製作者:ティル】
デメリットの方が高いと思うんだかなぁ。・・・あれかな、(敵闇耐性下降)と(闇属性)がメリットなんか?初撃で闇耐性を下げて、次撃からダメージ増加にでもなるのかね?どれくらい増加するかはわからんけど。STR+30も高い方なのかな?俺の作った武器はSTR+25前後、少し高いくらいだ。そう考えると多少のデメリットなんか霞むかも・・・。でも(装備解除不可)だからなぁ、そこらへんはどうするのか。まぁそこらへんはどうでもいいか、欲しいんだったら売るだけだしな。どうなっても俺は知らん!
「あざーっス!!」
俺は〔闇呪の槍〕を15万で売った。俺の横でノーンさんが、『また安く・・・。』と呟いていた。呪い装備だからいいじゃん、と思うのは俺だけだろうか?買えなかった二人はしょんぼりしている。なんか可哀想だな。
「・・・まぁ元気出せ、おにぎり200Gで売ってやるから。」
ただではやらん。おにぎりに驚きながらも買う敗北者達。『美味い!!』と一心不乱に食べる姿に、俺は満足する。槍を買えた勝利者は、指をくわえて見てるだけ。勝利者に慈悲はいらんだろ。
そんなこんなで、今日の露店販売は終わりだな。
「ありがとなノーンさん、助かった。」
彼女のお陰で大きな混乱もなく、販売を終えることが出来た。本当にノーンさんはいい娘だ。
「いえ・・・その・・・、ティルさんのお力になれて嬉しいですわ・・・。」
モジモジと、はにかみ笑顔のノーンさん。うん、可愛いもんだ。・・・お、そうだ。
「そういえば杖の方はどうだ?問題ないか?」
ノーンさん専用の杖を俺は作った。作ってからだいぶ経つが、調子はどうだろうか?ちょいと気になった。当時の傑作ではあったが、使い続ければ壊れていくもの。不具合があっては目も当てられん、場合によっては手直しせねば。
「ティルさんに製作していただいた杖は、それはもう素晴らしいの一言ですわ!大事に使えば使うほど性能が上がっているような、・・・というか少しだけ上がっていますの!なんだかティルさんに守っていただいているような気がして・・・。」
何やらノーンさんが饒舌に語り出した。杖に問題はないようだ。それよりも、性能が上がっている?意志のようなものを感じたから、新しく生まれ変わらせたのだが。・・・なんか気になるな、見せてもらおうか。
「ノーンさん、杖を見せてもらっていいか?そこまで褒められる杖は、現在どれほどのものか気になる。」
「どうぞご覧くださいな。本当に素晴らしい逸品ですわよ?」
・・・と、ノーンさんに杖を渡される。
ピリッ!
なんだ?自作の杖なのに渡された瞬間、少し不快に感じた。・・・・・・何故?・・・まぁいい、鑑定すれば理由が分かるだろう。俺は目に力を入れて〈鑑定〉を発動させる。そして杖を見てみる、どれどれ・・・。
ジュ・・・!!
「ぎぃにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
杖を〈鑑定〉したら、目が・・・目がっ!
「目がぁっ・・・!目ぇがぁぁぁぁぁっ!!」
俺は目を押さえて、のたうち回る。突然のことに、ノーンさんと冒険者達が動揺する。
「ティルさん!どうなさったんですの!?」
「何が起きたんだ!?」
「わかんねぇけど、とりあえずポーションだ!ポーションをティルさんの目に!」
「何はともあれ、おにぎりがンマイ!!」
そして、誰かが俺にポーションをぶっかけてくれたみたいだ。痛みが少しずつ、引いていく。・・・・・・一応、ミドルポーションも使っておくか。目が見えない故に、手探りでボックスから取り出し顔にかける。・・・・・・お陰様で、目が見えるようになったよ。
俺が回復したのを確認してから、
「それにしてもどうなさったんですの?私の杖を見た瞬間に・・・。」
杖の効果でダメージを負ったっていうことを言いたくない。高確率で杖の効果だと思う。そして、俺の呪い装備効果。この二つがコラボって俺にダメージを、目を潰したんだ・・・!元凶の杖は確かこんな感じ。
〔慈愛の光杖+2〕光の魔宝石が杖の台座に鎮座する光の杖。所持者の想いによって、力を増す。 HP+12 MP+22 STR+9 INT+22 MED+13 LUK+10 (特殊効果:光属性微弱上昇・回復量上昇・破魔弱・闇属性特攻微弱)【光属性】【ノーン専用】【製作者:ティル】
・・・たぶんだが、(破魔弱)と(闇属性特攻微弱)ってのがヤバいヤツだ。効果の方は大体予想出来る。(破魔弱)が不死系や呪いに対して、追加ダメージを与えるもの。(闇属性特攻微弱)がそのまま、闇属性に与えるダメージを増加させるものなんだろう。そして俺の(光属性苦手)効果が加わったわけだ。
光属性、対闇属性、破魔、呪いのスクエアアタックが俺の目を潰したのだ。・・・くはははは、俺は人間なのだろうか?装備のせいだと分かっていても、ちょっと落ち込む。・・・が、俺の作った杖は成長するってのが分かった。まぁ、この杖だけだと思うが。
「・・・俺にもよくわからん、まぁ俺のことはいい。ノーンさん、この杖はいいぞ。この調子で大切にしてくれ。」
「それはもう当然ですわ!大切に、大切に使わせていただきます!」
そういうわけでこの後は、ノーンさんとその他冒険者達と雑談をしてから別れた。治療してくれた冒険者にきちんと礼も言ったし、情報交換もした。ノーンさん達に言われたことは、『掲示板をたまには見ましょう。』とのこと。・・・そうだなぁ、見てみるかな。湖の情報を軽く挙げようか、生産関係の情報でも挙げようか。うーむ、宿に帰ってから考えよう。・・・本当はもっとなんかしたかったけど、さっきのでやる気がなくなったからな。今日は早めに宿へ戻ろう。
【ステータス】
名前:ティル
種族:人間
性別:男
LV:44(+5)
HP:420/600(+80)|420/650〔+50〕
MP:400/420(+110)
STR:171(+28)/261〔+90〕
DEF:147(+30)/378〔+231〕
INT:102(+25)/105〔+3〕
AGL:140(+29)/144〔+4〕
DEX:194(+50)
MED:125(+36)/133〔+8〕
LUK:150(+50)/125〔-25〕
【SP】:215(+25)
【ランク】
冒険者ギルド:ランクE+
生産ギルド:ランクD
魔法ギルド:ランクE NEW!
【スキル】
〈鍛冶〉LV45(+7)〈裁縫〉LV45(+12)〈装飾〉LV30(+5)〈細工〉LV30(+13)〈織物〉LV19(+7)〈調合〉LV42(+5)〈木工〉LV18(+6)〈付与〉LV24(+8)〈鑑定〉LV50(+5)★〈刻印〉LV2 NEW!
【控えスキル】
〈喧嘩殺法〉LV54(+7)〈投擲〉LV33(+3)〈光〉LV37(+12)〈闇〉LV31(+7)〈不屈〉LV35(+7)〈槍〉LV17(+2)〈連携〉LV15(+6)〈脚力〉LV14(+4)〈乱戦〉LV12(+2)〈釣り〉LV18〈採取〉LV37(+2)〈採掘〉LV9〈素登り〉LV12〈運搬〉LV16(+2)〈食事〉LV19(+4)〈料理〉LV29(+5)〈短剣〉LV6 NEW!〈解体〉LV4 NEW!
【固有スキル】
〈俺流〉LV43(+3)〈呪い〉LV12(+2)
【称号】
職人達の弟子
ユニークを狩りし者
見習い商人→商人冒険者 UP!
切り裂き魔
俊英
無法の料理人
邪笑の冒険者
スキル収集家
職人冒険者
魔を釣る者
ニヴィアンの友 NEW!
邪の敵対者 NEW!
【PC冒険者からの二つ名】
三巨頭
【装備】
ウルフクロー〔STR+43〕
ブラックサハギンメイルセット(特殊)〔HP+50・STR+35・DEF+228・INT+3・MED+8・LUK-25〕
草原狼の首飾り〔STR+12・DEF+3・AGL+4〕
【アーツ】
〈戦闘〉地ならし〈戦闘〉ぶん投げ〈戦闘〉身代わりの盾〈戦闘〉飛槍蹴
〈生産〉糸化〈生産〉生産加速
【魔法】
〈光〉ライトアロー〈光〉ライトショット〈光〉ライトウォール〈光〉ライトランス〈光〉ライトブースター
〈闇〉ダークアロー〈闇〉ダークショット〈闇〉ダークウォール〈闇〉ダークランス
【アイテムボックス】
ティルの紋章球・シアルマスのおにぎり×3・ミドルポーション×3・etc
【所持金】
5,256,370G
ティルもPC冒険者もいつも通り平常運転。次は何しようか、牧場・農場を探すか、料理をするか、職業を獲得するか、どうしますかねぇ~。
登場キャラクターのティルの挿絵を魚人シリーズに変えました。
次は掲示板ですね。今回はティルも出てきます。活動報告にて、募集した噂話をいくつか使わせていただく予定です。随時募集中なんで投げ込んでください。




