第29話~呪い装備
うぃー、腰がイテェ・・・。
ぼちぼち逝きますか。
うーん、そろそろ八時になるな。予定では八時に、アップデートが終わる。
俺は昨日、F.E.O内で疲れ果ててログアウトした。そのまま寝ようかと思ったが、仕事があったのを忘れていたのだ。俺の家は蕎麦屋である。日中はゲームをして楽しむことが多い分、夜は次の日の仕込みと掃除を親父に代わりやっているのだ。俺は眠いのを我慢して、きちんと仕事をした。仕事を終えた俺は、風呂にも入らずオチたのさ。次の日、朝風呂でさっぱりした俺は何時頃にログインしようかと考えていた。その時、制服姿の芹菜が、
「あんちゃん、8時までログイン出来ないよ?アップデートだってさ。」
そう言って俺に頭を擦り付けてから、学校に登校した。まったく・・・猫みたいな奴だ。・・・にしても八時からか、なら丁度にログインしようか。
なんて、俺がくだらない回想をしている間に八時になった。さて・・・ログインだ。
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『いつもFree Emblem Onlineをお楽しみ下さり、真にありがとうございます。
0:00から8:00の時間帯に予定されていました簡易アップデートが、無事に完了したことをご報告させていただきます。
不具合の修正、動作の調整の他、以下の項目が追加されます。
・動画撮影機能
・メール機能
・P×Pバトルシステム
・強敵との再戦
・セーフティーポイントの設置
・メモリーストーンの設置
・チェーンイベントの追加
以上が簡易アップデートの内容になります。
詳しい詳細は、公式ホームページに記載されておりますので、そちらをご覧下さい。』
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そして目覚める俺。ここは・・・魔法ギルド内の仮眠室だったな。一応、自分にかけられた毛布を捲る。・・・添い寝はないな、冗談だったみたいだ。・・・冗談と言ってたからな、多少の残念感は拭えないが。俺も男、・・・ってわけです。とりあえずは挨拶か?
「昨日は情けない姿を見せたようで・・・。宿泊の件にも礼を言わせてもらう。」
昨日の出来事を引っ括めて、支部長に礼を言う。支部長はニヤリと笑って、
「いや、気にすることはないさ。ティル君と顔を繋ぐことが出来たし、だらしない姿も見れたし、私にはいいことずくめだったよ。・・・・・・うひひ!」
昨日の俺を思い浮かべているのだろう、・・・ある意味危険な女だ。危険といえば、変態ドM女はどうなったのか?と考えてしまう。・・・しょーもない。
「後これを登録してくれよ、私の連絡先さ。」
支部長から紙を渡された。なんですかいコレ?
「神の言葉で言うならメルアドってヤツだね、君と私とで連絡を取り合うのに必要だろ?」
あーメルアドね、丁度今回から追加されたヤツ。依頼のこととかで、直接言ってくる気だな?無理だったら昨日言った通り、しっかり断る気だから別にいいけど。まぁ俺にも利があるから、ちゃんと登録しますよっと。渡された紙を見ると、内容を見る前に光となって俺の中に入った。なんとなくギルドカードに変化があるのでは?と思い、ボックスからカードを取り出し見てみた。
【メール登録者】
ガッハ:魔法ギルドシアル支部・支部長
おぅ、支部長が登録されていた。肩書きも一緒だから誰だっけ?ということもないだろう。・・・にしても、支部長の名前はガッハか。男みたいだし、野蛮な感じの名前だな。支部長を見る。燃えるような赤の長髪で鋭い眼光、サークレットっぽいのを付けており不敵な笑みを浮かべている。ほぼ傭兵な見た目だ、美人ではあるんだけどね。うん、名前がとても似合っている。
「なんか失礼なことを考えてないかい?」
「名前が似合っているな・・・っと。」
「うひひ、そんなに私ってば美人かい?照れるね。」
俺と支部長はとりあえず笑い合い、用事はすんだってことで俺はギルドを出た。支部長は『やたらにメールはしないから安心してくれ。』と言っていたから、緊急連絡先が出来たってことで気にしないでおこう。ギルドを出る時に、受付嬢からもメルアドを渡される。事前に連絡をくれれば、混んでいてもすぐに対応出来るんだと。要するに予約ってことだな。受付嬢の名はメイさんね、覚えておこうか。
魔法ギルドの次は当然、生産ギルドなわけで。ギルドに入れば、目敏く俺を見付けたエイミーさんが手招きしている。五日ぶりにエイミーさんの顔を見た、元気そうで何より。
「お久し振りですティルさん!・・・っとと、カードの更新ですね!」
こちらから言う前に、俺がやることを察してくれる。流石はエイミーさん。更新しながら互いに近況報告をする。エイミーさんは変わりなく、バリバリ働いているとのこと。変わったのはギルド内にいる生産者の数、主に客人生産者の人数が増えたみたいだ。改めて見渡せば、確かにPC生産者と思われる奴らが多い。冒険者の方は王都に集中しているのに、なんでだろ?王都に行った方が、新しい素材とか依頼も多くて色々出来ると思うんだが。俺も人のことを言えないが、俺の場合はここで色々と突っ走っている。前線組が行ってない場所を巡っている。イベントも巻き込まれる。ここでも十分、楽しめている。まぁ賑やかなのはいいことだ。
「客人生産者の皆さんにしてみたら、ここが今のところの生産組最前線みたいですよ?新たな生産技術や新商品の開発、投擲薬の材料も集めやすいみたいですし。客人生産者上位の方々が、この支部を中心に活動しているのが一番の理由みたいですけど。」
ほう、上位がシアル支部を中心にね。それはいいことだ、互いに切磋琢磨するのは力になるからな。上位ってことはディジーさんが筆頭かな?色々と頑張って、みんなを引っ張っているみたいだし。師匠達にディジーさんの話をしたら、しきりに感心していたからな。うんうん頷いていると、
「因みに私が集めた情報によりますと、シアル支部を中心とする客人生産者の上位の方々は、ティルさんを筆頭にディジーさん、エシャルトンさん、宝来さん、岩餓鬼さん、ガドルフさん、アヴさんの7名ですね。それぞれ万能、防具関係、武器関係、料理関係で上位と認識されているみたいです。」
俺が筆頭だったみたいね、・・・・・・心当たりがありまくるからな。それよりもガドルフの名前が挙がるとは、アイツも頑張っているなぁ。一緒に頑張ったからな、自分のことのように嬉しい。とりあえずよくわからんが、俺を含めた七人がいるから盛り上がっているのか。近いほど、情報が手に入りやすいからな。実力を磨くにはいい場所ってことだろう。
「ティルさんは色々とやっているようですね!・・・その内クランを結成したりするんですか?」
紋章球を持っているからな。今は金がないし、色々やりたいから結成する気はないが、いずれは結成したいと思う。それをエイミーさんに言うと、
「結成の時は私も仲間に入れてくださいね?ギルドからの派遣職員として、お手伝い出来ますから!」
へぇ、そんなことが出来るんだ。そん時は声をかけるよと言うと、『はい!』と元気のいい返事が返ってきた。なんか知らんけど、クランメンバーを一人確保したことになるのかね?まぁそれはいいとして、今日は物作り。ボチボチやりますか。俺はエイミーさんを伴って、作業場へと向かった。
俺専用作業場前で、ディジーさんを発見した。おや?彼女の後ろに二人の男がいるな。誰だろうか?まぁあれだ、とりあえず声をかけてみる。
「あっティルさん!・・・うぇぇぇい!どうしたんですかその姿!?」
俺を見て驚く、そういえばボロボロだった。とりあえず事情というか、俺のやってきたことを話す。羽虫関係は隠しておこう。シークレットクエストは別にいいか、後は頑張ればクランが結成出来るってことを教える。紋章球も今はまだ秘密だな、加護が手に入ったら教えようかな?魔法ギルドで出しちゃったわけだが、殆どが冒険者でPC冒険者は少なかったし、大丈夫だろ。
「シークレッツ!?そんなものがあるんですか!しかもクランが作れると!」
仰け反って驚くディジーさん。森より危険と言われる湖での戦いに戦慄する彼女と見知らぬ二人の男。なんか知らんけど、彼女らには刺激が強かったみたいだ。落ち着いたところで聞いてみる。
「そんで俺に何か用か?・・・ついでに一緒にいる二人は?」
「そうでした!ティルさんにお願いがあったんでした!・・・二人の紹介もまだですね!?」
慌てるディジーさんを押し退けるように、二人が前に出る。
「初めまして、自分はエシャルトンと言います。よろしく!」
「俺は宝来、エシャルトンとはコンビで生産をしている。見知りおきを!」
「エシャルトンと宝来な?俺はティル、よろしく。・・・でディジーさんを含めて何か用か?」
簡単に自己紹介をして本題に。最近、総合ギルドから生産ギルドに上がってくるPC生産者が増えたらしい、知ってたけど。三人も賑わっていいことだと思っていたのだが、問題が発生した。共同作業場は今、生産者で溢れているらしい。人が多すぎて思うように作業が出来ず、それでいて色々と質問されて困っているらしい。自分達の実力では、個人的に作業場を借りることが出来ない。悩んだ結果、PC生産者で唯一個人作業場を使っている俺に、ダメ元で一緒に使わせてもらえないか聞きにきたとのこと。そういえば、この三人は上位組になるな。そりゃあそんな奴が近くにいたら、色々と聞きたくなるのが人か・・・。ふむ、一緒に使うねぇ。どうしようか?
作業場広いし、三人ぐらいならいいかな?とりあえずエイミーさんにも聞いてみたが、『ティルさんが良ければ、いいとは思いますよ?最終判断は支部長ですが。』と言ったので、
「別に構わんけど、作業場は俺かエイミーさんがいる時だけの使用な。素材とかが欲しけりゃ、相応の金をくれたら譲ってやる。俺の技術を見て盗むのは構わないが、勝手に広めないように。・・・その都度、俺かエイミーさんに話を通して許可が出たら、広めようが何しようが好きなようにしてくれ。」
俺がそう言うとエイミーさんは、『支部長に確認してきますね。』と言って戻っていった。それを見送ってから三人は、
「「「ありがとうございます!!」」」
と頭を下げて礼を言ってきた。まだ許可が出たわけじゃないんだけどね。まぁ俺も勉強になると思うし、色々と手伝ってもらうことがあるかもしれないし、損はないだろ。問題が起きてもそん時考えればいいし、何事も経験だな。
後にPC冒険者及びPC生産者達から、ギルド指定生産団『ティル組』と呼ばれることになる。ディジー、エシャルトン、宝来の他に数名がティルの元に集う。ギルドの依頼をこなしつつ、互いに協力しながら生産を続けるティル達は各ギルドから信頼され、『ティル組』として名を馳せる。ティルがクランを結成した際、ディジー達はそのままメンバーになり、ギルド昇進に向けて頑張ることに。そして、多方面に多大な影響を与えることになるのは、あまり遠くない未来の話である。
支部長からの了承で三人を作業場に案内する。
「ここがティルさんの作業場か!広いなぁ!」
「うぉ凄い!生産に関する道具が沢山ある!共同作業場とは違うな!」
「わーい!前は見学だけだったけど、今回から一緒に作業が出来るぞー!」
テンションアゲアゲの三人、そこまで喜ぶものなのだろうか?今更ながら、個人作業場を借りるにはどのような条件があるのか、エイミーさんに聞いてみた。
「基本はランクC以上で、ギルドからの推薦がないとダメですね。ティルさんの場合は前にも言いましたが、シアルの上級職人さん達の弟子で将来有望でしたから。その期待に応えて、投擲薬を作り上げたんですからティルさんは凄いのです!」
へー、そうなんだ。いい作業場な分、条件はわりと厳しいのね。本来なら俺以外で使用するのはダメなのだが、この三人は真面目に依頼をこなしているし、俺も了承しているから特別に許可が出たようだ。やっぱり真面目にこなすのがいいんだろうな。それに、俺と作業をこなすことで三人の腕が上がれば、なおのこといいみたいだ。ぶっちゃけ、事後承諾的な形での許可だけど、許可が出たんだから良しとしよう。
「とりあえず、俺はウルフシリーズの修繕か新調かを見てから作業をするから、好きに使ってくれて構わない。因みに防具作りだから、鍛冶場を使うならどうぞ。」
そう言うと、俺の意識は自分のウルフシリーズに移る。さて、どうするか。
俺は隅でいそいそと、ウサギシリーズに着替えている。そりゃあウルフシリーズを見るためですよ。着たまま修繕とか出来るハズないじゃん。因みにエイミーさんは素材整理、ディジーさんは素材を興味津々で見ており、エシャルトン&宝来は二人で鍛冶場にいる。各々で何かをやっている姿を見て、なんかいいなぁと思ってみたり。俺とエイミーさんとでやる時は、黙々と作業をやるっていうのが多かったからな。活気があるってのはやはりいい、俺もやる気になるってもんだ。着替え終わったし、やる気になったし、いっちょやりますか!
「おぉ・・・なんということか・・・。」
ウルフシリーズを見てみると、かなりズタボロで修繕は厳しいと判断するしかない。狼素材もないし、狩りに行くにもそんな気分じゃない。作ったばかりなのに・・・。がっくり項垂れる俺だが、すぐに立ち直る。他の素材で代用すれば、なんとかなるんじゃなかろうか?イカス装備だから廃棄は勿体無い。装備期間が短いとはいえ愛着もあるからな。俺はエイミーさんが整理している素材の山に向かい、糸に出来そうな素材を漁り始める。・・・・・・・・・あったのはウサギぐらいだった。蛙、闇魚人は糸化出来ないだろうし、後は・・・。お、大蜘蛛の糸があったな。・・・いや、修繕に使うには足りそうにない。うーむ、どうすべきか。
考えた結果、ウルフシリーズは素材が手に入り次第修繕とした。どうせだったら、屍狼より強力な獣系魔物の素材を手に入れたい。ウルフシリーズは後回しにするとして、新しい防具を作らなければならない。作るとしたら、やはり魚人シリーズってことになるのか?たぶんというか、確実に現段階で最強の物になるな。淵魚人と闇魚人の素材を目の前に広げる。どんな防具を作るか悩むな。ウルフシリーズのようなスーツタイプは無理だから、普通に軽装鎧にするか。
鎧は淵魚人の大きな骨を中心に、闇魚人の骨も所々に使用することにしよう。削った骨達は組み合わせて、鎧の土台にする。接続するのにスライムの核を溶かした物を使用。実は万能素材のスライムの核。溶かしたコイツに粉末状にした魔石を加えると、〔魔法の接着剤〕となるのだ。コイツは空気に触れて暫くすると、空気中の魔力を吸収して固まる特性がある。ただ固まるのではなく、素材と一部一体化して固まるのだ。故に性能の良い丈夫な物が作れる。この接着剤は、他のPC生産者は知らないだろうね。なんてったって、師匠直伝の物。上級職人しか知らないアイテムだからな。ディジーさん達がいるけど、まぁいいだろ。質問されたら、ヒントだけ教えるってことで。そう簡単に作れないだろうからな。
接着剤が固まるまで他の作業をしなくては、まぁすぐに固まるんだけど。淵魚人の皮と闇魚人の皮を合わせて合皮を作る。少しでも丈夫にするためだ、やはりここでも接着剤を使用する。何枚か作っていると、・・・鎧の土台の方は固まったみたいだ。接続部分を確認して問題ないと判断、出来た合皮を貼り付けながら合皮を作る作業をしていく。〔生産加速〕と〈細工〉のお陰で、細かい作業も手早く終わっていく。・・・で、皮の鎧一式が出来上がるが完成ではないのだよ。鎧一式にはまだ、仕上げが残っている。
鎧の合皮部分に、形を整えた淵魚人の鱗を隙間なく貼り付けていく。コイツの形を整えるのは苦労したよ。ウルフクローでもあまり傷付けることが出来なかったくらいだからね。時間をかけて削ったわけだ。・・・といっても、普通の人よりはるかに早いんだがね。アーツとかスキルとか称号の効果でさ。・・・とまぁ、そんなわけで鎧の方は出来た。次は鎧の下に着る服だな。
魚人の皮は全部使ってしまったからな、惜しみなく。これはあれだ、蛙の皮を使うしかない。折角だから、湖周辺の魔物素材で纏めようか。魚人は侵略魔物だが、湖でのクエストだったし括りに入るな!
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私はなんてツイているんだろうか!ダメ元でティルさんに頼んでみたら、『許可しよう。』と作業場の使用を許可してくれた。ティルさんの作業場で、ティルさんの作業を間近で見ることが出来る。生産仲間で友達のシャルとライも一緒だ。二人は生産者でありながらも、冒険者でもある。自分達で作った物を、自分達の目で性能を確かめたいと考えるタイプだ。ティルさんもどちらかというと、二人と同じタイプだと思うから、仲良くなれると思う。
まぁ二人のことはいいや、それよりもティルさんだよ!ティルさんは私の憧れだ、初めて会ったのは露店。纏う空気が凄まじく、顔もかなり怖い。そして背が高くて威圧感がハンパない。だけどティルさんの作った物は性能が良く、色々な物を売っていた。話してみればかなりいい人で、生産に関するスキル構成の一つを教えてくれた。お陰で大変だけど、色々なことが出来るようになったし、自分の想像する物を作れるようになった。生産仲間達も思い思いにスキル構成をして、オンリーワンな装備とかも出てきたりして盛り上がった。ティルさんの懐の広さに感動して、憧れるようになったわけなのよ。
それからだいぶ経って、私は生産ギルドシアル支部に行くことが出来た。そこでティルさんと再会し、作業を見学しながら色々と教えてもらった。教えてもらった情報は、好きにして構わないとまたしても太っ腹発言。掲示板に挙げてみたり、実践してみたけど、難易度が高くて成功せず。生産仲間達もお手上げだけど、やっぱり勉強になるとティルさんの人気は高い。殆どの生産者はティルさんを目標としている。私もそうだし、シャルとライもそうだ。
そして今、再びティルさんの作業を見ることが出来る。しかも、一緒に作業が出来るかもしれない。これから先、この作業場を使ってもいいみたい!夢のようだ!努力はいずれ報われるのだ!・・・フフフ、ノーンさんに自慢出来る。彼女の悔しがる顔が目に浮かぶ。とりあえず、この手で掴んだチャンス。ティルさんの優しさを裏切るのはもっての他、これからも腕を磨いていかなくちゃ!・・・・・・おっとぉ、ティルさんが防具を作ってるよ!これは後学の為に、間近で見学しなくては!ふふふ~ん♪
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チクチク縫い物をする俺、手早く正確にがモットーだ。アダン師匠に叩き込まれているからな、余裕だ余裕。何気なく横を見ると、ディジーさんがいた。目がキラキラしている。
「ティルさん縫うの早くて綺麗ですね!凄いです!」
素直に褒めてくる、なんか恥ずかしいな。途中、エシャルトンと宝来も交じり生産談義で盛り上がる。
その中で、〈連携〉の意外な効果に俺は驚いた。〈連携〉かぁ、俺もそういえば持ってるな。・・・その内、二人の作業を見せてもらうか。話ながらも俺は、蛙皮の服を縫い上げた。ふむ、いい出来だ。魚人鎧一式と合わせて、新装備が出来上がった。
〔ブラックサハギンメイルセット(特殊)〕淵魚人と闇魚人の素材を使った闇の軽装鎧一式。シアルフロッグの皮で仕立てられた服も付いている。呪われているが、製作者には一部意味がない。
ヘッド DEF+41 INT+3 LUK-5 / ボディ DEF+50 MED+5 LUK-5 / ズボン DEF+47 MED+2 LUK-5 / アーム DEF+42 MED+1 LUK-5 / ブーツ STR+20 DEF+38 LUK-5
(フルセット装備ボーナス:HP+50 STR+15 DEF+10)(特殊効果:装備解除不可・闇の波動弱・燃費増加・魔物誘引・光属性苦手・毒耐性)【闇属性】【製作者:ティル】
よっしゃ!闇属性のいい装備が出来た。くはははは!呪われてるっぽい。呪われてるけどなかなかの性能だ。
・・・・・・・・・・・・え?呪われてる?装備をよく確かめる。
(装備解除不可):装備後、解除が不可能になる。
(闇の波動弱):闇の波動が任意で発動可能になる。
(燃費増加):魔法・アーツの消費MPが1.5倍になる。満腹度が減りやすい。
(魔物誘引):魔物遭遇率が上がる。
(光属性苦手):光属性の魔法・アーツの消費MPが1.5倍になる。受ける光属性ダメージが1.5倍。光属性の物は使用不可。
(毒耐性):毒に対して耐性が付く。
装備解除不可、燃費増加、魔物誘引、光属性苦手・・・だとぅ!?呪われとる、呪われとるがな!頭を抱えてしゃがみ込む俺。そんな俺を見て心配するエイミーさん達。俺は、
「折角作った装備が呪われていた・・・・・・。」
三人は俺の作った魚人シリーズを見て固まっている。エイミーさんは、あちゃーって顔で俺の肩に手を置く。小言で『ドンマイです。』と慰めてくれる。おぉ、我が癒しよありがとう。エイミーさんに慰められて少し元気になった時、
「呪われてるけど、凄い性能ですよコレ!」
「呪われてるけど、特殊効果の数が凄い!」
「呪われてるけど、見たことのない素材だ!」
呪い呪い呪いってうるせーよチクショー!俺を追い込みたいのか!?ワイワイ騒ぐ三人。俺を慰めつつ、魚人シリーズを見て呟くエイミーさん。
「呪われているけどティルさん、説明に書かれている『製作者には一部意味がない』ってなんですかね?」
んー・・・意味がない?なんだそりゃ・・・?俺は改めて魚人シリーズを見る。・・・・・・確かにそうあるな、よく見ると(装備解除不可)が灰色になっている。よく見ないとわからないレベルで。何だコレ?とりあえず、四人にも聞いてみたが、灰色になってないと言っている。・・・俺だけなのか?何故?うーんと唸り、考えてみるがわからない。この装備は確実に、〈呪い〉のスキルが効果を発揮して出来た物。一応〈呪い〉を確認してみるか。
〈呪い〉:稀に生産した無・光属性以外の武器・防具・装飾品などに呪いを付与する。呪いの一部(装備解除不可)を無効にする。ただし、自身が製作した物に限る。闇魔法にバッドステータス付加が追加される。【特殊】
なんと・・・!?(装備解除不可)が無効だと!・・・ということは着脱いつでも可能ってわけか。だから灰色なのか?とりあえず四人に言ってみる。そして、
「「「「凄い!!」」」」
見事にハモった。しかしだ、着脱可能でも、他の呪いが健在なんだぞ?最悪じゃん、三つの呪い。ヘタに魔法・アーツが使えないんだぞ。〈光〉なんて消費MP三倍になるし、ライトブースターがやたらめったら使えなくなってしまった。折角買ったのに・・・。しかも腹が減りやすく、魔物に遭いやすくなる。コイツを装備したらDEFが一気に上がるが、他のことに制限がかけられる。しかし、折角苦労して倒した淵魚人の素材を使っているわけで、装備しないのは勿体無い。・・・そういえば、闇の波動って何さ?・・・・・・アーツみたいだな。どれどれ、
〔闇の波動・弱〕闇を纏うことにより戦闘能力を上げる。攻撃が闇属性になる。(全ステータス+25・闇属性付与・常時MP消費・常時威圧)
凄いね、こんなの発動させたらあっという間にMPが空になるよ。マジでどーしよーかな、魚人シリーズ。
腕を組んで考えているとエイミーさんが、
「ティルさんなら、魚人シリーズを使いこなせますよ!通常でも強いんですから!魔物が集まるっていうのも、逆に利用して素材をバンバン集めましょう!」
ふんす!と力を込めて激励してくれる。・・・そうだな、何を悩んでいるんだ俺は。いいじゃないか、呪い装備。俺は〈呪い〉持ちの男なんだし、着脱可能なんだし。コイツの呪いで素材をバンバン集める気概でいこう!・・・ユニーク、レアの遭遇率も上がるのかな?もしそうだったら、狼素材も集まりやすくなる。いやむしろ、草原以外にも狼がいるかもしれない。狼探しもいいかもしれない。ウルフシリーズをパワーアップさせる為に、呪いを使ってやるぜ!(魔物誘引)の検証も含めて!
「ありがとうエイミーさん、なんだかやる気が出てきた。素材集めと自己鍛練ってことで、コイツを使いこなしてみせる!・・・せたらいいな!」
微妙に弱気な俺、でもやってやる。何事も経験、楽しむようにしなくては。その内いいことあるさ、昨日レアアイテム手に入れたけど。
「そうと決まれば、今ある素材を使いきる勢いで生産してくれるわ!・・・エイミーさん、俺に続け!ついでだ、お前らもあそこにある素材を使ってもいいぞ。邪魔だからな!」
何故かハイテンションになった俺、エイミーさんもやる気十分。ディジーさんは『やったー!』と飛び跳ねて喜び、エシャルトンと宝来は俺の妙な気迫にビビりつつ、やる気を出す。そして・・・。
本当に殆どの素材を使い、物を作りまくった。スキル、アーツ、称号を最大限に利用した結果、
「どーすんだよコレ・・・。」
作りすぎてしまったわけだ。生産無双をした為に、作業場が武器・防具・装飾品・アイテムなどで狭くなってしまった。ディジーさん、エシャルトン、宝来は床にへばっている。スーパーなエイミーさんと俺は元気だが。
「ここにある以外に、アイテムボックスに色々仕舞い込んでいるんですよね?確か・・・。」
エイミーさんの言葉に俺はハッとする。そういえばそうだった、その内売ろうと思って溜め込んでいた。
「・・・明日は露店だな、在庫処分だ。」
「そうですね、売るしかないですよね。」
露店販売をすることに決めた俺は、作った物をボックスに仕舞っていく。お陰でボックスは一杯、何も入らない。まぁ明日、売り切るつもりで行くから空きが出来るだろう。仕舞う作業を終えた俺は、へばる三人に声を掛ける。
「ディジーさん達が作った物は、全部持っていってくれよ。邪魔になるから。」
そう言うと、エシャルトンが、
「・・・俺達が作った物って、ティルさんの素材で作った物なんだけど。」
「俺が使っていいって言ったわけだし、だから遠慮しなくていいさ。俺も横目で君らの作業見て、勉強になったし。情報代ってことで。」
「いやいや、俺達の方が勉強になったよ!」
・・・とまぁ色々あったけど、持っていってもらった。実際邪魔だったし、それでも三人は何度も俺に礼を言って帰っていった。
冒険は基本ソロで行くつもりだけど、生産は仲間とワイワイやりたい。逆に三人には礼を言いたいくらいだよ。思いの外、楽しく作業が出来たからな。エイミーさんと二人でやるのもいいけど、たまにはな。まぁあの三人はいい奴らだったからなのかもしれないが。これからもここにちょくちょく来るだろうが、歓迎しよう。俺が誘ったようなもんだしな。・・・どうせだったら、ガドルフも誘うか?また料理研究したいし。
呪い装備のせいでなんだかなぁーと思っていたけど、エイミーさんのお陰でやる気が出た。やりたいことがまた、色々出てきた。うーん、料理屋台をやりたいし、釣りもやりたい。今度は安全に。そういえば、ゴブ肉って家畜の餌や肥料になるって説明に書いてあったな。・・・どっかに牧場とか農場があるのかな?今度、探してみよう。そう考えながら、エイミーさんと別れて宿に帰った。
宿に帰ったら、シグルゥに怒られた。連絡もなしに外泊したからなぁ、宿暮らしだけど。
「心配させないでよぉ、ティル君。・・・あれ?何か持ってる?」
「ん・・・何?」
「・・・・・・いや、なんでもないよぉ。」
とりあえずシグルゥに謝り、俺は部屋に戻ってログアウトした。
――――――――――――
「まさかティル君が紋章球を手に入れるとはね・・・。」
私はティル君から発せられる魔力で、彼が紋章球を手に入れたことがわかった。
「客人冒険者の中に数名、魔を破る者がいると伝わっているけど・・・。紋章球を手に入れたティル君は、その可能性が高い。私の使命も・・・役目も達成出来るかな?」
まだわからないけど、可能性がある以上ティル君を見守り続けなくてはね。まぁ、この宿に来た時点で可能性はあったんだけど。さてさてどうなることやら、神のみぞ知るってヤツだよね・・・。
リアルでは一応働いてますよ、ティルの中の人。F.E.Oのせいで、勤務時間が短いですが。
ティルだってワイワイ生産をやりたいんです、たまには。
生産仲間誕生、今回は紹介みたいなもんですが。いずれ彼らとは合同の何かを作る予定です。
ついに自分用の呪い装備を手に入れたティル。自作だけど。
新たな狼を狩り、ウルフシリーズを直せるのか?
次回は、露店再び。
因みに、活動報告での従魔案と職業案もよろしくです。
そして最近、サブタイ話数だけじゃなく話名もあった方がいいのかなぁと、思い始めています。
では、シュワッチ!!




